残寒の候、麻雀ファンの皆様はいかがお過ごしでしょうか。
日本プロ麻雀連盟 静岡支部 32期生の足立純哉です。
ちょうど2年前だったと思う。春先とはいえ、未だ寒さの残る中、私は緊張の面持ちで日本プロ麻雀連盟の合格通知を片手にある場所へ電話を掛けていた。
「望月さんはいらっしゃいますか?」
電話の先は望月支部長が経営する麻雀荘ルックアップである。
私は開口一番、静岡プロリーグに参加したい旨を伝えた。
プロテスト第三次試験にて対局中に手役のアドバイスを受けたことはあるが、きちんと話すのはこれが初めてだった。
第一印象としては、良い兄貴的な存在であり、この印象は今でも変わらない。
また、連盟チャンネルをご視聴頂いている皆様には伝える必要は無いかもしれないが、鳳凰戦の実況等で活躍している静岡支部員もいる。
彼らを見て分かる通り、静岡支部は麻雀に対して熱く、且つアットホームな支部であり、私はその支部の一員として、静岡プロリーグに参加していることを誇りに思っている。
さて、大激戦の静岡プロリーグ最終節を終え、決勝戦にコマを進めた決勝進出者を紹介したい。
第1位通過 平岡 理恵 16期生 四段
所属リーグ:女流桜花Bリーグ
主な戦績:第1・3期プロクイーン準優勝、第11回静岡リーグ優勝、第12期静岡プロリーグ準優勝
雀風:メンゼン高打点タイプ
第2位通過 鷲見 隼人 28期生 三段
所属リーグ:鳳凰戦D1リーグ
主な戦績:第13回静岡リーグ優勝、第8・9期静岡プロリーグ準優勝
雀風:オーソドックスバランスタイプ
第3位通過 平野 敬悟 30期生 二段
所属リーグ:鳳凰戦C3リーグ
主な戦績:第23回静岡リーグ4位、第26回静岡リーグ5位、第28回静岡リーグ3位
雀風:クレバーバランスタイプ
第4位通過 鈴木 秀幸 23期生 四段
所属リーグ:鳳凰戦C1リーグ
主な戦績:第23期新人王戦3位、第35期王位戦4位、第41期王位戦3位、その他
雀風:駆け引き局面打開タイプ
1回戦(起家から鷲見・鈴木・平野・平岡)
対局開始前のインタビューにて、放送対局初めての鷲見と平野はやはり緊張しているように見えた。
それに対し、放送対局には慣れていて驚異的な爆発力を見せる平岡と周りとの間合いを計ることに長けている鈴木がどのようなバランスで戦うのかが注目となる。
「1日の局面を左右したドラ」
東4局 1本場 親 平岡
11巡目、平野からリーチが入る。
平野手牌
ツモ 打 ドラ
河にはソーズが安く、場況良しと見たリーチである。
14巡目、鷲見が追いつく。
平野手牌
ツモ 打
はリーチ者の平野の中スジであり、2枚切れの待ちヤミテンとする。
直ぐに平岡の放銃となり、6,400の出アガリとなる。
平岡としては、ツモ切り前に若干の間があった為、鷲見の打にテンパイ気配を感じていたように思え、止められた牌ではなかったか。
「打点と丁寧さのバランス」
南1局 1本場 親 鷲見
5巡目、鈴木に高打点のヤミテンが入る。
鈴木手牌
ツモ 打 ドラ
14巡目、鷲見に分岐点が訪れる。
鷲見手牌
ポン ツモ
河には2枚切れでほぼ安全牌だが、が直前に打たれたこともあり、のトイツ落しで11,600の1シャンテンに構える方が多いのではないだろうか。
鷲見の選択は、ツモ切り。6,400放銃を回避した。
後日、鷲見に聞いてみたが、東4局 1本場の6,400の出アガリがなければ、打点を追って、切りとしていた可能性が高いとのこと。
鈴木のテンパイ気配と手役をきちんと読み切れての素晴らしい選択となった。
「トップ取りの意識と勝負勘」
南2局 2本場 親 鈴木
鈴木が主導権を取りに積極的に仕掛けていく。
鈴木手牌
ポン ポン ドラ
9巡目、平野に選択が迫られる。
平野手牌
ツモ
親の鈴木が役牌2つポンしている状況で、生牌の役牌を2枚勝負しなければならないという局面だが、平野の選択はツモ切りで勝負に出る。
この選択がうまく出て、打点は安いながらも、厄介な鈴木の親を終わらせることに成功した。
平野手牌
ツモ
南3局 親 平野
4巡目、南2局 2本場での攻めを祝福するかのように、親の平野に打点十分の手が入る。
平野手牌
ポン ドラ
あっさりとドラをツモり、3,900オールにて1人浮きとなる。
「跳満ベースの男?」
南4局 2本場 親 平岡
13巡目、29,200点持ちの鷲見からリーチが掛かる。
鷲見手牌
ツモ 打 ドラ
このリーチは他家にはどう見えたのだろうか。仮に、私が対局していたら役無し両面リーチが本命に見えるかもしれない。平野とは2万点差でトップを取るのは難しく、またラス目の親番の平岡からの攻め返しが想定される為、ヤミテンにする方がほとんどではないだろうか。
鷲見の選択はリーチ。そして、直ぐに高め4ツモで、3,000・6,000の最高打点に仕上げた。
1回戦成績
平野+24.0P 鷲見+15.8P 鈴木▲10.4P 平岡▲29.4P
2回戦(起家から平野・平岡・鷲見・鈴木)
1回戦では、映像対局初の2名が浮きとなり、鈴木と平岡がマイナスとなった。
鈴木は2回戦以降、どのような引出しを見せて他家にプレッシャーを掛けてくるのか。
また、1回戦4位スタートの平岡は得意のメンゼン高打点がどこで決められるかが注目のポイントとなる。
「いきなり魅せる魅惑のサウスポー」
東1局 親 平野
5巡目、親番の平野が早くもテンパイを入れる。
平野手牌
ツモ 打 ドラ
平野の選択はヤミテン。ドラ引き、ピンフ・タンヤオ・イーペーコーの変化と、もう1手でピンフ・一気通貫の6,000オールまで見える。
8巡目、平岡に打点十分のテンパイが入れ、リーチを掛ける。
平岡手牌
ツモ 打
平野が平岡のリーチ後、直ぐ引いた牌は役有り変化となる。
最悪なタイミングでの役有り変化となり、で平岡へ12,000の放銃となる。
東2局 親 平岡
前局のアガリもあり、平岡以外の3者としては、この親番は流したい局面だったが、先手を取ったのは平岡。
平岡手牌
ツモ 打 ドラ
ヤマには薄いだったが、ラス牌のを引き当て、2,600オールのツモアガリ。
2局で20,000点を稼ぐ打点力は流石である。
「的確な場況読み」
東2局 1本場 親 平岡
7巡目、鈴木がテンパイを入れる。
鈴木手牌
ツモ 打 ドラ
直前にが打たれ、単騎選択に迷う場面だったが、ノータイムで打リーチ。
ヤマに2枚残りのを正解し、ホンイツ模様の平野の手牌にが1枚あることも当て、結果は本日2度目の3,000・6,000ツモアガリ。
鈴木の的確な場況読みが光った1局となる。
南場に入ると、比較的静かな局進行となるが、平岡が打点は無いものの、着実にアガリを重ねる。他3者としては、これまで空気のようだった平岡を目覚めさせてしまった嫌な感触があったのかもしれない。
2回戦成績
平岡+27.5P 鈴木+14.0P 鷲見▲14.9P 平野▲26.6P
2回戦終了時成績
鈴木+3.6P 鷲見+0.9P 平岡▲1.9P 平野▲2.6P
3回戦(起家から平岡・鷲見・平野・鈴木)
2回戦では、1回戦と真逆の点棒状況となり、トップとラスの差が僅か6.2Pの均衡状態となった。4回戦に向け、これまで通りトップを狙うのか、それとも優勝を狙える位置を最低限キープするのか、対局者により選択が分かれる半荘となる。
「目覚めた魅惑のサウスポー」
東1局 2本場 親 平岡
東1局から親番の平岡が走る。1,300オール、1人テンパイで、2本場に以下配牌。
平岡配牌
ドラ
2巡目ツモ、3巡目ツモと引き、同巡に鷲見から打たれたをポン。
平岡手牌
ポン
タンヤオ好形2シャンテンだった平野から、直ぐにが打たれ、7,700の出アガリとなる。
3回戦も目覚めた平岡のペースで進み、南場に突入する。
「跳満ベースの男? 再臨」
南3局 親 平野
5巡目、鷲見が静岡支部を代表する素晴らしい選択を見せる。
鷲見手牌
ツモ 打 ドラ
ここから2シャンテン戻しの打とする。タンピン系と345の三色同順を見た手役派の一打。
その後、と引き、最高形でのリーチを打つ。
鷲見手牌
ツモ 打
そして、ヤマに4枚残りのを直ぐにツモり、3,000・6,000。4度目の跳満アガリとなる。
「優勝を目指した形式テンパイ」
南4局 親 鈴木
11巡目、鈴木が以下牌姿より仕掛ける。
鈴木手牌
ドラ
平岡が打ったをポンし、打。形式テンパイの1シャンテンとする。
12巡目、平野からリーチが入る。
平野手牌
ツモ 打
本来であれば、勝負すべき手牌ではないが、平野にツモアガリが発生した時点で、鈴木の原点が割れると予想し、勝負を選択。粘りの形式テンパイを入れる。
点数としては、僅か1,500点の加点だが、鈴木の粘り強さを見ることが出来た。
「もはや二代目跳満ベースの男!」
南4局 1本場 親 鈴木
前局の粘りを活かしたい鈴木だったが、静岡支部の二代目跳満ベースの男が立ち塞がる。
13巡目、鷲見に大物手のテンパイが入る。
鷲見手牌
ツモ 打 ドラ
13巡目にも関わらず、高めのはヤマに3枚残り。次巡をあっさりとツモアガリ、5度目の3,000・6,000となる。
鈴木には辛い原点割れとなる。しかも、結果論ではあるが、前局形式テンパイを採らなければ、鷲見のツモ・ピンフ、400・700のアガリが発生し、原点割れとはならなかったのである。麻雀の非情な面が垣間見えた1局となった。
3回戦成績
鷲見+24.0P 平岡+15.9P 鈴木▲5.6P 平野▲34.3P
3回戦終了時成績
鷲見+24.9P 平岡+14.0P 鈴木▲2.0P 平野▲36.9P
4回戦(起家から平岡・鈴木・平野・鷲見)
規定により、起家からトータル2位・3位・4位・1位の並び順となる。
2位の平岡は、自身が原点から浮いて鷲見を沈ませること、若しくは鷲見が浮いていたとしても、素点で7,000点差を付けることができれば、ほぼ条件クリアとなる。
3位の鈴木は、鷲見・平岡を沈めて、40,000点程度のトップが目標か。
4位の平野は、現実的には70,000点程、素点を稼ぐ必要がある。
「先手を取った鈴木」
東2局 親 鈴木
6巡目、平岡から先制リーチが入る。
平岡手牌
ツモ 打 ドラ
12巡目、鈴木が上手く平岡の当たり牌を使い切り追い付く。
鈴木手牌
チー 打
結果は、鈴木のツモアガリ。2,000オールで鷲見にほぼ追い付いた。
「平岡の冷静な選択」
東2局 1本場 親 鈴木
6巡目、鈴木は次に仕掛けを入れてくる。
鈴木手牌
ポン 打 ドラ
15巡目、平野がテンパイを入れ、リーチを掛ける。
平野手牌
ツモ 打
鈴木は1シャンテンながらも、平野のリーチに無筋をぶつけていく。
現状4位の平野のリーチだけに打点がある程度高いと推測すると押し難い部分があるが、自身の素点の上積みを図る。
17巡目、親の鈴木の上家である平岡の手が止まる。
平岡手牌
ツモ
リーチを掛けている平野の現物はであるが、下家の鈴木はチャンタ・ジュンチャン系の捨て牌であり、打牌選択が難しい場面。
平岡の選択は、鈴木の現物且つ平野のスジである。実際、を選択した場合には、鈴木にテンパイが入る為、鈴木の親の連荘を防いだ素晴らしい選択となった。
「軍配を分ける鈴木対平岡のリーチ対決」
南2局 親 鈴木
9巡目、鈴木が先手を取り、リーチを掛ける。
鈴木手牌
ツモ 打 ドラ
10巡目、平岡も勝負所と判断し、無筋を押して追い付く。
平岡手牌
ツモ 打
勝負の行方は、平岡に軍配が挙がる。六をツモり、2,000・4,000でトップ目に立つ。
この時点で、鷲見は沈みの3着の為、平岡がトータルでもトップ目となる。
「平野の最後の粘り」
南3局 親 平野
最後の親番を向え、何とか連荘したい平野だが、他家と比べるとシャンテン数が追い付いていない厳しい状況。
9巡目、平岡にテンパイが入る。
平岡手牌
ツモ 打 ドラ
12巡目、鷲見もテンパイを入れる。
鷲見手牌
ツモ 打
両者ともオリない平野の親番であり、リーチは掛けずヤミテンとする。
12巡目、さらには鈴木もテンパイ。
鈴木手牌
ツモ 打
親番が残っていない鈴木は打点を求め、リーチを掛ける。
16巡目、平野は当然の如くロン牌を掴まされる。
平野手牌
暗カン ツモ 打
次巡、ツモ。最高8,000オールまで見える為、マンズを勝負する選択もあったが、比較的通り易いピンズを選択。打として、最後のツモでを引き、ドラの切り。
何とかテンパイを入れた。
南3局 1本場 親 平野
11巡目、鈴木がプレッシャーを掛けにかなり厳しい手牌であるものの、2フーロを入れる。
鈴木手牌
ポン ポン 打
13巡目、平野がテンパイし、リーチを掛ける。
平野手牌
ツモ 打 ドラ
このリーチ宣言牌のを鷲見が仕掛ける。
鷲見手牌
チー 打
は平野の現物であり、清一色・ドラ1の跳満1シャンテンに採る。
平野の待ちであるはヤマに残り1枚という厳しい状況だったが、ラス牌のを鷲見が食い取ってしまい放銃。平野の4,800のアガリとなった。
南3局 2本場 親 平野
平野配牌
ドラ
ソーズのホンイツをメインに進めていくが、ツモが伸びているとは言い辛い。
14巡目、平野に選択の局面が訪れる。
平野手牌
ツモ 打
平野の選択はテンパイへの有効枚数を考慮し、2枚切れのを選択。
この選択が正解となり、と引き入れ、アガリとはならなかったものの、テンパイを入れることができた。
南3局 3本場 親 平野
3巡目、鈴木に勝負手が入る。
鈴木手牌
ツモ 打 ドラ
平岡より打たれたをポン。タンヤオ・トイトイ・ドラ2に構える。
2シャンテン戻しとなるが、後が無い平野からはポンできるとの考えである。
鈴木の想定通り、平野からが打たれ、9巡目にテンパイが入る。
鈴木手牌
ポン ポン ツモ 打
さらには、平野から打たれたを大明カンし、跳満ツモを狙うもツモれず、ラス牌のが平野の元にいく。
19巡目、平野に執念のテンパイが入る。
平野手牌
ツモ 打
ツモ番が無い為にリーチは掛けられなかったが、ホウテイで鈴木から5,800の出アガリとなる。
「最高打点を目指した鷲見の手順」
南3局 4本場 親 平野 ドラ
長かった平野の親番に終止符が打たれてしまった。
4巡目、鷲見にテンパイが入るが、想定外の1シャンテン戻し。
鷲見手牌
ツモ 打
鷲見は親番が残っている為、シンプルに切りリーチの選択かと思いきや、最高打点と平岡の原点を少しでも割るべく、打の選択。
敗着になり兼ねない選択だったが、次巡のツモはまさかの。
打リーチとして、最高打点のツモ。2,000・4,000のアガリとなる。
「大逆転劇は起こせるか!?」
南4局 親 鷲見
いよいよ第13期静岡プロリーグの優勝者を決めるオーラスのスタートとなった。
各者の条件は以下の通りである。
平岡:アガれば、優勝決定
鈴木:三倍満ツモ以上。ただし、リーチ棒がでれば、倍満ツモ
平野:役満ツモ
鷲見:親番の為、連荘を目指す。目標は、2,000オールツモで次局ノーテン終局可能。さらには、3,900オール以上で、次局平岡に跳満ツモ条件を課せられる。
常識的には、平岡と鷲見の一騎打ちになると考えられる。
ただ、現実はそうではなかった。
僅か6巡目にして、これまで脅威の粘りを見せていた平野が条件を満たすテンパイを入れる。
平野手牌
ツモ 打 ドラ
ただ、無情にもテンパイ時には既に純カラ。平岡よりが出るも、条件を満たせず、スルーせざるを得なかった。
9巡目、鷲見が追い付き、リーチを掛ける。
鷲見手牌
ツモ 打
勝利の女神が微笑むかのようにシャンポンながら、ヤマには3枚残り。
を力強くツモり、4,000オールの大きなアガリとなった。
「大逆転劇は起こせた!?」
南4局 1本場 親 鷲見
平岡の条件は、跳満ツモ若しくは鷲見からの8,000直撃となった。
平岡配牌
ドラ
決して良いとは言えない配牌。跳満ツモを狙いにいくなら、ホンイツ・七対子、リーチ・ツモ・ダブ・ドラ2、リーチ・ツモ・・ドラ3といったところか。
5巡目、平岡に選択すべき局面が訪れる。
平岡手牌
ツモ 打
平岡は、メンツ手と牌の伸びによっては七対子に戻れる選択を採る。
その後のツモは、。ホンイツ・七対子に標準を絞り、トイツ選択をミスしなければ、以下牌姿でのテンパイとなっていた。
そして、ハイテイは・・・ まさかの!
4,000・8,000のアガリとなっており、再逆転での優勝となっていた。
4回戦成績
平野+17.3P 鷲見+12.2P 平岡▲6.4P 鈴木▲23.1P
トータル成績
1位 鷲見+37.1P 2位 平岡+7.6P 3位 平野▲19.6P 4位 鈴木▲25.1P
4回戦の戦いを終え、第13期静岡プロリーグの優勝は鷲見が勝ち取った。
鷲見は、大きな体格とは裏腹に元々塾の数学の先生であり、それを表すような繊細で丁寧な麻雀を打つ。その反面、静岡支部らしい打点力を持ち合わせた選手でもある。
静岡プロリーグの優勝者には各タイトル戦のシード権等が与えられる。
今後の鷲見の活躍には是非ご期待頂きたい!