
王位戦は魚谷侑未が優勝、日本オープン、女流日本シリーズに続き3冠で幕を閉じた。そして人々の興味は「女流桜花で4冠なるか」に移っていた。
魚谷が女流桜花を制すと、仲田加南と並ぶ3度目の戴冠となる。そちらの方にも注目である。
最強とも言える挑戦者を迎える仲田はこれを制すれば「3連覇」となる。こちらも魚谷含む3名と並んでいる連覇記録の更新となる。
予選1位通過を決めたのは石田亜沙己であった。前年に続く決勝進出で、周りも本人も「今年こそ」の思いは強かろう。
そんな石田であったが、この決勝の舞台に戻って来る事は、決して簡単な事では無かった。プレーオフ前の最終節南3局まで敗退(残留)のピンチを迎えていた。そこで、






ポン

ポン

ツモ
ドラ
この珍しい混老頭を決めて、プレーオフに滑り込み、プレーオフでは、その余勢を駆って1位通過の位置まで駆け抜けた。ギリギリまで追い込まれるということを経験した石田。決勝ではそれが生きることになるであろう。
今期、第1節、首位スタートを決めたのは中野妙子であった。そのポイント80.0P。Aリーグ1年目の中野にとって、ある意味重しになっていたのかもしれない。決勝を目指し戦う中で、周りとの経験値の差は嫌と言うほど感じたであろう。一時はポイントを減らし、まさかの降級がちらついた事もあったであろうが、中野は踏みとどまり、決勝の椅子を掴み取った。
各自の思いを卓に乗せ、長いようで短い半荘12回が幕を開けた。
1回戦、起家から 仲田、中野、魚谷、石田
東1局、始まりは九種九牌であった。途中流局が起こると、次の山がセットされるまで、しばしの静寂が訪れる。経験豊富な3者にとってはなんていう事も無い時間かも知れないが、中野にとっては、落ち着くことが出来る時間を得れたのは大きかったかもしれない。
東1局1本場、魚谷が淀みのない手順で先制リーチ。












ドラ
は1枚切れ、
は魚谷から全て見えており、
は1枚切れ。ドラが見えていない事が唯一の不安点であるが、完璧を求めるとどこか綻びが出るもの。親の仲田の機先を制するには十分である。
一方の仲田。親番でドラ2の好手牌。












ツモ
こちらの持つ仲田のイメージではノータイムで
をツモ切る・・はずだが、仲田の選択は現物の打
。「私守備型なんで・・」そう聞くたびに「またまたw」と思っていたが、これを見るとなるほどと思わされる。決勝戦は12回戦制。仲田からすれば、短いようで長いということなのだろう。
この局は魚谷の700・1,300で決着。4つ目の頂へ第1歩を刻んだ。
東2局、魚谷がここも先手で仕掛けていき、13巡目にこのテンパイ。









チー

ドラ
テンパイ打牌は
、それまで1枚もソーズを切っておらず、ソーズが余った形。
それを受けて親の中野もテンパイ。












ツモ
切ればテンパイ。それは誰でも解る。しかし、その
はドラ。魚谷は下家で既に余っている。普段の中野であれば、いや、中野で無くても、
辺りに手を懸けそうな場面。それでも中野は
を河に置いた。技術で敵わなくとも、心で負けないように。
中野の覚悟が実る時が来た。南1局、
を2鳴きし、1シャンテン。






ポン

ポン

ドラ
はテンパイ取らずからのトイツ落としの途中の牌。親の仲田の手番。様子を伺うかのように
を置く。












打
ドラ
上家であり、直前の
手出しがテンパイしていないように見える。この
が動かれるようであればヤミテン続行で守備的に、しかし、動かれなければ・・
「リーチ」
仲田は次巡の
をツモ切り、リーチを敢行。自分の手は打点があり、相手はまだ(多分)1シャンテン。待ちは色が被っている。仲田とすれば、勝負に値する状況が出来上がったという事であろう。
中野も引かない。

と打ち出す。その全ては無スジ。そして打
の時に
を引き入れ追いついた。






ポン

ポン

ドラ
追いついたと言っても、他家からは出るはずもない、ドラ単騎。仲田の待ちは分からないが、ここで被せてくる以上、少なくとも好形。もしかしたら、ドラトイツ以上かも・・
しかし、そんな負の思考はすぐに消え去った。仲田の次のツモはドラの、そして、中野の待ち牌である、
であった。
これが勢いを生むきっかけとなったか、次の南2局、親番でこの手に仕上げる。












ドラ
でも7,700あるが、果敢にリーチ。6,000オールを引きに行く。魚谷から追いかけリーチを受けるも
をツモり6,000オール。大きく抜け出した。
次局の1本場、今度はドラ3枚の1シャンテン。












ツモ
ドラ
ここで、中野は、
が2枚切れな事、下家の魚谷がソーズのホンイツ気配であることを受けて、丁寧にマンズのカンチャンを払っていく。そして残した
が生きる。9巡目にこのテンパイ。












ツモ
手応えしか感じないリーチを打つ。これには他家、成すすべなく4,000は4,100オール。まだまだ先は長い。が、「もしかしたら・・」と思わせるには十分のアガリであった。

1回戦終了
中野+45.2P 魚谷▲3.8P 石田▲13.9P 仲田▲27.5P
2回戦 起家から 石田、中野、仲田、魚谷
新しい半荘になっても中野の勢いは衰えないのか、10巡目にこのテンパイ。









ポン

ドラ
マンズのホンイツ濃厚な河だが、ここに魚谷、親の石田が決死のテンパイ打牌。
魚谷












ツモ
打
石田












ツモ
打
魚谷は石田の打
も見て次の
で打
とするが、(
は石田の現物)石田が
をツモり、得意の手役を決めた。4,000オール。まだ2回戦とはいえ、これ以上離される訳にはいかない。
東2局2本場、ここまで、なかなか打点のあるテンパイが組めなかった魚谷にようやく手が入る。












ドラ
欲を言えば、
を重ねて、山にあると読んでいた、
か
で待ちたいとこであったが、贅沢は言っていられない。ドラ単騎でリーチ。仲田、石田はオリ気配。親の中野が追いつく。













無スジを打たずに追いつけた事と、魚谷の河に
があるので、ヤミテンを選択。
と
を入れ替え、次に掴んだのが、魚谷の当り牌である、ドラの
。
魚谷のリーチまでの捨て牌は






こうで
以外は手出し。特徴が無いと言えば無いが、第一打の
と、
は2枚切れたとこで打たれた牌で、
は1枚切れ。ここに少しの違和感。とは言え、こちらは卓外から冷静に見ているわけで、戦っている最中に気づけるかはまた別。中野が
と入れ替えた
は無スジであり、ここから先の脇からのアガリが期待しにくくなってしまった事を考えると、この
はいかにも間が悪い。止めるならここだが・・
それでも中野は
を打ち出した。先ほどの打
もそうであるが、これが中野の覚悟であろう。
魚谷が満貫を決めれば、仲田も黙っていられない。東4局1本場、魚谷のリーチ宣言牌であるドラの
を仕掛けテンパイ。






ポン

暗カン


ドラ
魚谷は













ここから打
のリーチ。ここも山読みを入れての
待ち。ドラ単騎で流局、親連荘を待つ手もあったが、3,200オールを引きに行った。
結果は仲田の3,000・6,000。ある意味、起こしてしまったのかもしれない。ただ、魚谷は近年の対局において、「安全に勝てる勝負など存在しない」と考えているように見えるフシもあり、この結果を受け入れる事は難しいことではないであろう。
南4局、4,000オールスタートの石田だったが、オーラスを迎えて29,600持ちと僅かに原点を割る展開になってしまった。手数の少なさを高打点の手役でカバーするのが持ち味だが、ここまでは決まり手が少なく苦しいか。オーラス5,200をアガれ、浮くことが出来た事で好転することは出来るだろうか。

2回戦終了
仲田+26.8P 石田+8.8P 魚谷▲4.1P 中野▲31.5P
トータル
中野+13.7P 仲田▲0.7P 石田▲5.1P 魚谷▲7.9P
3回戦 起家から 魚谷、中野、石田、仲田
1回戦の中野トップ、仲田ラスの形が、2回戦は仲田トップ、中野ラスで、得点の上下差は一気に縮まった。
東2局8巡目、石田の手牌












ツモ
ドラ
三色テンパイ。石田なら
切りヤミテンか。しかし、下家の仲田は既に2フーロ。更には直前に
が2枚立て続けに切られたばかり。さすがにこれはと、
切りリーチとする。
が1枚切れなのもそうさせた材料であろう。懸命な選択と思う。しかし、次のツモに
があるとはなんとも牌山の悪戯か。結果は5,200をアガるのだが、石田の心に雲がかかるに十分であったように思う。
比較的大きな動きの無い半荘であったが、得点的に決めてとなったのは南1局の仲田のアガリか。巡目が深くなりつつあった11巡目にテンパイ。












ツモ
ドラ
想定ではマンズを埋めての3面張リーチであったろうが、仲田から
が4枚見え、
が3枚見えであったことが、テンパイを取らせた理由であろう。打
とし、ペン
のテンパイとした。
が顔を見せぬまま13巡目、手牌に変化が訪れる。ドラの
が飛び込んできた。こうなれば迷う事は何もない。ただリーチを打つだけである。親の魚谷は1シャンテンで粘っていたが、それでも仲田に届くことは無く、仲田の2,000・4,000が決まった。
南4局、魚谷が
を1鳴き。












ドラ
この時魚谷は18,800持ち。確かに仕掛けて行っても、7,700くらいは狙える。ただメンゼンでならば、薄いが跳満まで見えない訳ではない。
ではなぜ?答えは親の仲田にあった。仲田は早々と3巡目に
を

でチー。ホンイツ模様の捨て牌を作り出していた。
ここから先、ファン牌は場に打たれづらくなることが想像でき、自分の武器が潰される。一方の仲田は場のスピードを落として時間を作り、テンパイ、アガリを狙っていける。それならば、自分のスピードを上げて、仲田の望む、遅い展開にはさせないという意思の表れであろう。
このシリーズ、仲田と魚谷はお互いを意識したような仕掛けをぶつけにいくようなことが多かったと思う。ここは魚谷が500・1,000と仲田の親を潰し、ラスを受け入れるアガリを決めた。

3回戦終了
仲田+24.0P 中野▲2.2P 石田▲4.6P 魚谷▲17.2P
トータル
仲田+23.3P 中野+11.5P 石田▲9.7P 魚谷▲25.1P
4回戦 起家から 石田、中野、仲田、魚谷
東1局、起家石田の配牌。













ドラ
この配牌を得た石田は何を思ったのだろうか。ホンイツ、チンイツ、もしかして四暗刻、悪くてもタンヤオ・・それが5巡目には仲田、魚谷の仕掛け、中野のリーチに囲まれてしまった。
それでも丁寧に打ちまわして11巡目にはカン
で追いつく。しかし、アガリに結びつく前に
を掴まされる。












ツモ
東1局でもあり押してもいいように思えた。その反面、ドラは見えてなく、放銃につながった場合は5,200や7,700と言われても不思議はない。
石田は全員の現物である
を抜いた。このままノーテンで終われば受け入れる準備も出来ていたであろう。だが、次のツモが
であったこと、打てる牌が無くなってしまったことまでは想定出来ていただろうか。
をツモった手に落胆が見えたのは私だけであろうか。
が通って
が3枚見えのワンチャンス・・石田が必死に導き出した打牌であろう。祈りにも近い気持ちで打ち出した
に声を掛けたのは中野であった。












リーチ ロン
5,200。だが石田にとっては失った得点以上のダメージであったであろう。
東2局、魚谷が放ったドラの
を石田が仕掛けた。









ポン

ドラ
ポンテンの7,700。これを決めれば、さっきの失点は取り返せる。アガれれば・・
ドラを打ち出した魚谷は次巡、
手出しでリーチ。石田が魚谷の現物
をツモ切ると親の中野が2フーロ目。こちらはソーズのホンイツ。
を掴む石田。リーチにも親にも通っていない・・手が止まる石田。本能では切りたくない。でも・・
身体が拒否していても頭が打とうとする。だから、頭で通る理由を探す。
が目に入る。1、2、3・・またワンチャンス。意を決して放った
を魚谷は捉えた。












リーチ ロン
ドラ
「そうだよね・・」石田がこう思っていたかはわからないが、石田の目は手役よりも暗刻の
に向けられていたのではないだろうか。
このアガリをきっかけに仲田を追いかけて行きたい魚谷。東4局中野から3,900。












リーチ ロン
ドラ
さあ、ここからという時だが、1本場、ここは中野が3,900のお返し。






チー

ポン

ドラ
調子に乗り切れない。南1局、仲田は魚谷が仕掛けを入れているところに、自風の
を鳴いて応戦。












ポン
打
ドラ
この手が伸びて






チー

ポン

ドラ
このテンパイ。魚谷にもテンパイが入っていた。









チー

ドラ
魚谷は北家、ダブルバックの形。ここに
を掴み、仲田に8,000の放銃。魚谷もこの放銃は見直して悔いていた。
南4局、魚谷の親には徹底して足を使う仲田。2巡目に












ドラ
ここから
をチー。この仕掛けが噛み合いアガリを生む。






ポン

チー

ツモ
2,000・4,000。仲田3連勝。ラススタートからも貫禄のトータルトップで初日を締めた。

4回戦終了
仲田+28.1P 中野+12.6P 石田▲15.0P 魚谷▲25.7P
トータル
仲田+51.4P 中野+24.1P 石田▲24.7P 魚谷▲50.8P
データからは初日マイナスした者の巻き返しは難しいという。だが、諦めない限り、その確率がゼロになることは無い。仲田の独走か、中野の追撃か、石田の反撃か、魚谷の爆発か。思い思いの1週間を過ごし、またここに戻ってくることになる。