2019年1月19日(土曜)、第35期鳳凰決定戦の日が来た。
この日、東京は冷えたが晴れだ。雨より、晴れがいいのだ。皆、電車をつないで来るから、雨の日は傘を差しても濡れて大変である。気分よく卓に着くためには、やっぱり晴れの日がいい。
対戦者は現・鳳凰の前原雄大。挑戦者はHIRO柴田・勝又健志・吉田直の3名である。一番早く会場入りしたのは、柴田のようだ。卓上でツモ捨てを繰り返し、イメージトレーニングをしていた。これは、指先をほぐす効果もある。
次に見たのは勝又。彼は、清々しい笑顔で挨拶をしていた。彼の透き通った顔を見て、気合も仕上がりも十分と見た。すると、奥からぬーっと現れたのが普段着の前原だった。彼は、会場入りしてから着替えるのだ。
一番遅く入ったのが、吉田である。まだ、足を引きづっている。彼は昨年、事故で足を痛めた。その様は痛々しかったが、こうして挑戦権を得たのは、不幸中の幸いか。彼が見せた予選最終日の涙は、記憶に新しい。この一戦に賭ける思いが伝わる。

1回戦東1局。ドラ
出親は前原で、順に勝又・柴田・吉田の並び。
13巡目、テンパイ一番乗りは南家の勝又だった。












ツモ
ここで、初牌のドラの
を切る。しかしヤミテン。まだ様子見だから、危険は冒さない。これに合わせて、柴田も
を切る。
字牌を絞り、オリ気味に打っていた柴田の手はこうだ。













残念ながら
は、2枚出て枯れている。14巡目、吉田の手はこうだ。












ツモ
ドラ切りから、勝又のテンパイは見えている。しかし、勝又の打点とマチは分らない。
も
も初物。オリか迷ったが、
を切る。
これに柴田がポンの声。









ポン


は枯れているし、
は1枚残り。苦しいが、アガリできれば跳満の大きい手だ。次に吉田が
を掴んでオリ。このとき、柴田の河はこうだった。
柴田の河















初牌の
も、ピンズも切れない。このとき、前原の手がこうなった。












ツモ
取りあえず
切り。ドラは枯れているが、欲しいのは
だ。この
が、受けが広がった柴田から出る。









ポン

ツモ
前原のポンテンが入る。誰もドラ2とは思わない。









ポン


引けば3,900オールだ、でかいぞ。
結局、
は勝又が掴んで回る。しかし、勝又はもう1枚
を引きこみテンパイ復活。勝又の最終形はこうだ。













吉田は、流局間際に形式テンパイ。柴田の1人ノーテンだ。流局したが、見ごたえのある1局だった。

東1局1本場。ドラ
1人ノーテンの、柴田が怒った。8巡目のリーチだ。








そして、手牌はこうだ。













無筋のタンキ待ちだが、4者の河見ると、
が1枚切れていい待ちに映る。
しかし13巡目、前原が追いかけリーチをかけた。












リーチ
が、結果は流局。
東1局3本場。ドラ
勝又の早い仕掛け。6巡目でこのテンパイ。






チー

チー


すぐに前原が追いつく。












ツモ
普通なら
切りのヤミテンで、サバキに出る場面。しかし、
が場に3枚出ている。なので、前原は
切りでツモリ三暗刻に受ける。ドラが
で、初牌だからヤミテンが正しい応手だ。リーチ後に
を掴んで勝又に打って、跳満ではかなわない。しかし、勝又は
のツモ切り。前原はがっかり。これは麻雀ではよくある出来事だ。私も、前原と同じ構えに取る。
16巡目、ドラを重ねた吉田にテンパイが入る。












ツモ
を切ってリーチだ。
は、吉田の勝又への勝負牌。
次の前原のツモが
で、ツモ切る。これが勝又に放銃。積み場と合わせて4,500点。リーチ棒が3本あって、勝又には美味しいアガリである。
しかし、
切りは意外な放銃だった。アガリ逃しが3度あった前原には、止められた牌である。
東2局は勝又のアガリ。ドラ






ポン

ポン

ツモ
勝又が手なりで打って、4,000点オールだ。好い流れだ。
後は、小場で進んだ。
南1局は前原の親番。この時点で、4者の持ち点はこうだ。
前原・25,700
勝又・50,700
柴田・21,600
吉田・22,000
勝又が断然有利だ。このまま進んで勝又のトップが決まるかに見えたが、そうは簡単に問屋が卸さない。前原は、この親で4本積んだ。アガリは小さかったが、それでも4本である。親が落ちた段階で、持ち点はこうだ。
前原・38,200
勝又・46,300
柴田・19,200
吉田・16,300
そして、南2局。勝又の親に加点のチャンス到来。
この手が5巡目の仕上がり。当然リーチだ。












ツモ
ドラ





安目で5,800、高目の
なら11,600点だ。
が2枚、
が3枚残っている。一発で引くかと思ったが、違った。
だった。なかなかツモれない。これに勝負と出たのが吉田である。













ツモ
切りのリーチだ。








両者ともロン牌は、4枚生きている。さあ、勝つのはどっちだ―。2巡後、
を引いたのは吉田だった。これで3,000・6,000点。勝又には、痛い親のかぶりだ。
南3局は前原の1,300・2,600点のツモ。これで前原がトップに立つ。
南4局は、柴田が意地を見せた。












ドラ
この手をリーチで、吉田から
を打ち取る。これで、4者の成績はこれだ。
前原+18,4P
勝又+11,0P
柴田▲11,7P
吉田▲17,7P
2回戦。出親は吉田で順に勝又、前原、柴田の並び。
東場は、小場で回って勝又が有利の展開。南場に入って急に荒れだした。
南1局は、吉田の親番。












ツモ
ドラ



これが、3巡目のリーチだ。
は河に1枚出ているから、絶好の狙い目だ。
打った者が不幸である。
は柴田に1枚あるが、オリで出る気配なし。しかし、7巡目にラス牌を吉田が引いて6,000点オールだ。これは大きいアガリだ。
この時点で4者の持ち点がこうだ。
吉田・48,000
勝又・28,900
前原・22,400
柴田・20,700
1本場は前原が500・1,000点のツモアガリ。
南2局は、吉田がリーチツモで500・1,000点のツモ。
南3局は、親の前原が吉田から3,900点のアガリ。吉田と柴田のリーチは不発。
1本場は、前原が1,300点のツモアガリ。
2本場は、吉田が満貫で決めた。












ドラ
を打ったのは、本日不調の柴田だった。
南4局は、トップの吉田の1人ノーテン。でも、トップだからいいのだ。
1本場は、吉田が1,000点で勝又からアガって幕。
トップは前回ラスの吉田。浮きの2着は前原で、3着が勝又。柴田がラスだった。
2回戦終了時の総合成績はこうなった。
前原+27,7P
吉田+10,8P
勝又 +1,6P
柴田▲40,1P
3回戦。出親は前原で順に勝又、柴田、吉田の並び。
東3局までロンとツモで、小場で流れた。トップ目は前原で、4,000点の浮き。他者3人は、その分沈みだが大した差はない。
東4局。ドラ
4巡目の柴田の手牌がこうだ。













ここから、柴田が仕掛けた。オタ風からの
の仕掛けは、少し強引に映る。しかし、これまでの失点が大きいから、風を変えたかったのかもしれない。
8巡目でこの仕上がり。



ポン

チー

ポン


は2枚出ているから、掴めば出る可能性はある。
だが、10巡目に前原が追いつく。












ツモ
放銃覚悟の
切り。しかし、この
を動いたのは親の吉田だった。吉田もポンテン。









ポン


しかし、
は空テン。
は3枚残りだ。場はソーズが安く、ツモ切られる可能性大である。18巡目、その
を前原が引いた。3,000・6,000点。大きなアガリだ。前原の生命力は、この後だ。

南1局。ドラ
これが、親の前原の配牌。














配牌で親満確定の手だ。まず、
を切る。すると、次のツモが
である。で、
を切ると次のツモが
だ。それなら、
切りである。そして、
と
のツモである。












ツモ
ズルイよね、こんなツモ!
ヤミテンで親の倍満。ツモなら16,000点オールだ。しかも、前原は即リーチだ。






ドラは
だから、筋でもおいそれと出る牌ではない。引きがいいから、押さえ込みのリーチをかけたのだ。鳴かれて、牌を流されてはかなわない。前局、跳満ツモの運の後押しもある。やっぱり、ここはリーチだ。
この時点で
が1枚、
が2枚生きていた。だが、なかなかツモれない。
この大一番は、8巡目にテンパイを入れた吉田がかわして500・1,000点のツモだった。ああ、くわばらクワバラである。
南2局は、親の勝又が頑張った。3本積んで浮きに回ったが、残念。
3本場で吉田のリーチに、高めの
で振り込んだ。
吉田の手












ドラ
これで勝又は、ぴったり配給原点。
南3局。今度は親番の柴田が頑張った。
まず、3,900点を吉田から打ち取る。そして、次がこれ。
柴田












ツモ
ドラ
ヤミテンで引いて4,000と100点オールだ。
これで柴田の持ち点は、29,900点まで復帰した。
しかし、追撃もここまで。残り2局は、前原がさばいて1人浮きのトップだ。2着は柴田で、3着が勝又。ラスが吉田だが、沈みは小さい。
そして、3回戦までの総合成績がこれだ。
前原+52,5P
吉田 ▲3,6P
勝又 ▲7,0P
柴田▲41,9P
4回戦。出親は勝又で、順に柴田・前原・吉田の並び。
東1局は、10巡目の親の勝又のリーチを柴田が蹴る。
を打ったのは、テンパイの吉田だ。












ドラ
勝又は、リーチのみだが連荘狙い。
は柴田の目から5枚見えていたのでヤミテン。リーチ棒込みで4,900点はまずまずの収入だ。
東2局。
柴田の親番。ここから柴田の快進撃が始まった。












ツモ
ドラ
まず、リーチで引いて2,600点オールだ。
1本場。












ツモ
ドラ
これもリーチで引いて、同じく2,600点オールだ。不調だった柴田が、急にツキ出した。
2本場は勝又がさばいた。
東3局。
親の前原が、11巡目に勝負手のリーチ。












ドラ











これに追いかけリーチをかけたのが、柴田だ。そして、引き勝つ。












ツモ
は、吉田の暗刻牌だった。これで柴田は持ち点を57,100とする。今日のこれまでのうっ憤を、晴らしているかのようだ。

柴田は、2000年に連盟入りした17期生である。最終学歴は、県立川崎南高等学校卒。ビッグタイトルは、無冠である。なのに、連盟の7人の優勝者予想は、◎の本命だった。実績からすれば、◎は前原のはずだ。次が勝又である。
1回戦開始前、緊張して1人で部屋に佇む柴田に私は声をかけた。
「よう、本命の気分はどう?」
「いや、あの予想は無いですよ!」
照れくさそうに、頭をかきながら彼は笑った。そう、緊張もいいがリラックスも大事なのだ。柴田の鳳凰戦は4度目の挑戦である。いつも、胃痛に苦しみながら打っていた。皆、それを知っている。あの予想は、その柴田への応援歌なのである。
東4局。ドラ
ここは、吉田の親番。柴田の手が軽い、2巡目にしてこの手だ。












ツモ
ここで柴田は
切り。七対子の1シャンテンで普通の応手に見えるが、私は違和感を覚えた。ここは
を切るところに思える。運気は上々で手牌もいいのだから、ここもてっぺんを狙うところではないのか。
切りから浮かぶ手牌の最終形はこれだ。まず、これがてっぺん。


























いや、これでもいい。













リーチかヤミテンかは状況次第だが、どちらにしてもこのテンパイならアガリの予感がする。次に七対子のテンパイが入れば、そのままテンパイに取るだろう。運気のある場面の、いなし手。それが嫌なのだ。
3巡目に下家の前原から
が出る。これを柴田がポンだ。













この鳴きにも、違和感があった。まだ、鳴くには早すぎる。鳴けば、1,000点にしかならないからだ。このとき、親の吉田の手はこうだった。













この鳴きで
を引きこみ、打
。これを柴田がポンして打
。
柴田の手






ポン

ポン


この鳴きで3巡後、ドラの
を引きこんだ吉田の手がこれだ。













が、仕掛けた柴田の河にあるからヤミテン。みんなの目は、柴田に向いている。これに打ったのが柴田だった。残念。
失投の始まりは
切り。そして、
の鳴き。今の態勢なら面前で進める限り、柴田の放銃は無かった、と思うがどうだろう。
1本場は流局。
そして、2本場が吉田のこれだ。












ツモ
ドラ
8巡目のリーチで、高目のツモだ。これで柴田を抜いた。
後は無難に流れて、オーラス吉田の親だ。













この手を終局間際、
で打ち取り大きな追加点。吉田の河は、ソーズの染め手。しかも、
が余っている。打ったのは、剛腕・前原である。しかも、七対子テンパイの暗刻切り。
「そりゃあ、ないだろう!」
これで、4回戦は前原の1人沈みとなった。
4回戦の成績。
吉田+28,3P
柴田 +6,8P
勝又 +2,6P
前原▲37,7P
初日の総合成績。
吉田+24,7P
前原+14,8P
勝又▲4,4P
柴田▲35,1P
高い山が削れて、その差が詰まった。勝負は、これからだ。次が楽しみである。