今回からこのコラムを担当させていただくことになった藤島です。
昨年から始まったこの「戦術の系譜」ですが、ひと月に一回ペースで連載され前回で丸一年(4名×三回)経ちました。私自身も楽しく拝読してきましたが、今回からは自分の番となります。テーマ自体も書き手が決めるとのことで依頼が来てから少し悩みましたが、私の回では書き物としては割と敬遠されがちな「仕掛け」について3回のターンに分けて書いていきたいと思います。よろしくお願いします。
まずはメンゼンと仕掛けのお話を少し。私自身仕掛けの多い選手だと自覚しています。最終的に強いのはメンゼンであることも理解しながら仕掛けを多用していますが、私のような鳴き屋でも勝ち試合の決まり手のほとんどがメンゼン手なのです。
では何故鳴くのか?言わばメンゼンでアガるために鳴くのです。
矛盾してるように聞こえるとは思いますが、間に合わせるため、相手のメンゼン手を潰すため、親を落とすため、など試合を自分有利に進めるために鳴いていきます。それは自分が優勢である時間帯を作っていくようなイメージです。
メンゼンで高打点を決めることは理想ではありますが、メンゼンに固執する麻雀は平凡で誰にでもできてしまう戦い方だと思いませんか?メンゼンで毎回ツモアガリができればそれに越したことはありませんが、そんな時ばかりではありません。
配牌が悪い時や他家に速度や手材料で負けていそうな時に、自分のツモ牌ばかりに寄りかかった構想だけではワンパターンになりがちで、それこそ運頼みの麻雀となってしまいます。それでも抜きん出た構想力とメンゼンを維持することによる高い守備力で勝ち切っている選手もいますが、仕掛けを使うことによって確実に戦い方には幅が広がります。
漠然と「仕掛け」と言ってもメンゼンを妥協するというネガティブなものばかりではありません。鳴きの性質には様々なものがありますので、私の回ではそれらを分野ごとに掘り下げていこうと思っています。拙い文となりますが三回ほどお付き合い下さい。
以下の項は基本的に連盟公式ルール設定とします。
まずは仕掛けの種類をカテゴライズしてみます。私の中で大きく分けて以下のものがあると考えています。
・スピードを取る仕掛け
・必然的な仕掛け
・打点を上げに行く仕掛け
・捌く仕掛け
・牽制する仕掛け
・ズラす仕掛け
・アガりだけを取りに行く仕掛け
・複数の要素を融合した仕掛け
それでは順番に扱っていこうと思います。
①スピードアップ(スピードを取る仕掛け)
麻雀の性質上メンゼンの方が基本的には打点がつきます。ただメンゼンで進めても打点の上昇幅が大して見込めない時などに”スピードを取る”という選択がしやすくなります。早めの仕掛けでスピードを取る時は逆に「メンゼンでの仕上がりづらさ」を見極めることが重要です。求められるのは言わば見切る力です。
わかりやすい基本的な例からお話します。例えばここから1枚目のを鳴きますか?
(公式ルール、南家、ドラ)
これはメンゼンでの最高打点がMAXでも1,000.2,000止まりとなるので1枚目のから鳴きを推奨するパターンです。
鳴いて1000点ですが、自身の手をメンゼンでやる価値が大してないと判断できるので、スピードを取り他家のチャンスを潰しにいくのが得策であると考えます。
それではドラがだとしたらどうでしょう?ドラが1枚あるだけでMAX打点が2,000.3,900となり2000点のポンテンでスピードを取るよりも、メンゼンで進める価値が高まるので一鳴きはしない寄りになります。
そして余剰牌が何であるかによっても鳴く鳴かないは変わっていきます。上記の牌姿は字牌が余剰となっていますが例えばの替わりにを入れてみます。
これだと345や456の三色が見えてくるので、ドラがなくとも一鳴きすることに抵抗が出てきますよね?
さらに、この牌姿ではドラによっても変わってくると思います。私はこれだとドラ無しは一鳴きしますがドラ1ならば鳴きません。
あとは残ったターツがリャンメンではなくカンチャンなど愚形であった場合も、テンパイのスピードは上がってもアガるまでのスピードアップになっていると言えないケースがありますので、残る待ちの強弱の見極めも大切になってきます。(補足として他家の速度や巡目の問題、あとはその試合の性質や点況などの兼ね合いがありますから一概に括らないよう注意は必要です。)
スピードアップで大事なポイントは
●鳴いたあとすぐアガれそうか?
●メンゼン時と比較して打点の上昇幅に大きな差がないか?
大まかにこの2つを考慮して鳴いていきましょう。
②連風牌やドラのポン、必然のチー(必然的な仕掛け)
いくらメンゼン派の打ち手でもこれはさすがに鳴く!という牌があります。
まずはドラそのものです。正確には役牌のドラや役がある時のドラポンということになります。役牌のドラをポンすることは役が確保される上に、基本的にシャンテン数は上がり、ドラ2がドラ3になるのでかなり必然的と言えます。
タンヤオが確定している時や、役牌が手の内に暗刻の時(役が既にある)のドラポンも必然のポンと言えるでしょう。ただしドラを切ってきた相手がいることをお忘れなく。
しかしダブやダブに関しては少し違ってきます。
ダブのポンテンでも2,900止まりのケースは鳴かない人が多数います。これは上記のスピードアップの項で取り上げた1,000点は鳴くが、(ドラ1の)2,000点は鳴かないという例と似ていて、メンゼン進行でリーチツモダブの3,900オールのMAX打点があるので目先の2,900は要らないという考え方です。
ただし、公式ルールにおいて子方が東場で生牌のを切ってきたことを尊重すれば、それなりの速度か打点があると判断できるので、対応を含め自分は仮に2,900でもポンするケースがほとんどです。これが普通の役牌で(ドラ1)の2,900のポンテンをとらないケースとの違いです。平たく言えば相手の速度に差があるということが2例の相違点です。
ですからダブの場合も少し違うということになります。親に対するダブのケアより、子方に対するダブのケアの方が若干緩くなる分、南場でを切る人の速度信用度は多少落ちるので、打点に寄せる時間の猶予が少しはあるということです。故にダブのみの2,000点のポンテンは1枚目はとらないことも結構あります。
これはあくまで私の打点とスピードのバランスです。公式ルールにおいて鳴いて5,800や3,900はお得だと考えるのでドラ1あればだいたいはポンとなりますが。
チーに関して必然的と言えるケースはドラ表示牌をチーしてのリャンメンテンパイやラス牌のカンチャンが三色目のケースなど、高打点を目指しながらも必要牌そのものが場に薄くなってしまった時です。妥協の側面が強いですが私の中では必然のチーだと思っています。打点アップの必然のチーなどもありますが、それは次の項で触れようと思います。
必然的な仕掛けでのポイントは
●本当に必然なのかを決めておく
●その必然的なキー牌を切った人がいるということを考慮
③ポジティブな鳴きの活用(打点を上げにいく仕掛け)
鳴いた方が打点が高くなる場合も結構あります。メンツを壊してチンイツに向かっていく鳴きなどはわかりやすいところではありますが、既にテンパイしてるときでも鳴いちゃダメなんてことはありません。
例えば、ドラの無いチートイツに役牌が含有されているようなケース。東場の親の手でドラが数牌だとしましょう。
こんな牌姿にが出たらポンの一手です。ポンしてでもでもいいので切っていきます。
チートイツのみの2,400の手が10倍の24,000まで期待できます。
まあこれは極端な例ですが、メンゼンテンパイからでも必然の鳴きと呼べるものは他にも
を食い替えチー(ドラが一枚あるときなど)
ドラのをチー(が場に薄いときなど)
をポンして役満にする
などが思いつきます。
ここまで出した例はわかりやすいものばかりですが、この項で一番言いたいことはメンゼンばかりが高打点ではないということです。ときに「手を高くするために鳴く」という仕掛けがあるということを知ってもらいたいのです。
ポジティブな鳴きを使っていくための条件として、「メンゼン手としての価値の低さ」の見極めが重要となってきます。
上記の例ではテンパイからのテンパイというわかりやすいものでしたが、本来実戦で使いたい積極的な鳴きとは配牌が悪いときを指しています。悪い形から仕掛けていくというのは、アクションを起こす最初のタイミングがその手牌の最終形を見据えた上での大事な分岐点となるとことが多いです。
実践例をあげてみます。
A2リーグ第6節3回戦より
南2局南家。微差の沈みの3着目でこのような割と凡手といえる配牌をもらいました。
しかし、2巡目にが重なります。この手をメンゼン進行した場合の高打点のパターンは、ダブ絡みか、後からドラを持ってきてのチートイツくらいです。
から発進します。
意図としては、
①連荘中の親にプレッシャーをかけたい
②ダブに依存することでしか高い手役が見えない
③高打点のパターンがダブとトイトイが現実的
スピードアップという側面からは、全く速度感はありません。まだ役もないので必然的でもありません。むしろ他にも急所が多いので一見悪手に見えるようなポンです。
ただ、ポジティブな考えのもとにアガりを目指すのであれば、ポン材の一枚目が既に分岐点となるのです。
実際にはこの時最後のは西家に両面ターツとして持たれていました。
上記でも述べましたがどうせダブに依存するならば後々トイトイが付く可能性を残そう、もしくはダブが出ない時でも保険的な役を確保しようという思考です。もちろん好調者の親番ということもあり、例えアガれなくとも親が手を曲げてくれても良し、ダブのみの2000点でもアガれれば御の字という局面ではありました。
すると、すんなりダブが鳴けます。2ハン役を確保しつつさらにプラス2ハンの可能性が残っています。
そして12巡目にテンパイにたどり着きます。待ち選択はありましたがまだトイトイ変化があるので–にはせず–・待ちに。(現状の打点2600)
そしてを引き入れダブトイトイの満貫テンパイとなりました。
もう一度配牌時の写真を見てもらえればわかると思うのですが、メンゼンで進めてもチートイツが精一杯のあのような手が、仕掛けによって形上は高打点を組むことができました。
(※但しこの局は放銃となります)
この実戦例もある意味極端かなと思いますが、仕掛けの基本は早いか、また遅い場合でも高くなる要素があることが大事になってきます。メンゼンで進めてもあまり価値が見出だせない時に鳴きの最終形を見据えながら発進するということです。
公式ルールは打点が組み辛いですが、鳴きながら狙える手役が想像できたらチャレンジしてみるのも一考かと思います。
打点を上げにいく仕掛けでのポイントは
●何かの役に依存すること
●メンゼン進行で高打点が見えないときに早めに発進
この実戦例では打点アップと言えど、牽制の側面が多分にありました。
次回は牽制仕掛けについて詳しくお話していきたいと思っています。