坂の途上、苦しい時、人は何を思うだろうか。
楽になりたいとは思うだろう。
嫌になったりはしないだろうか。
歓喜の頂をイメージして己を鼓舞するのだろうか。
それとも、ただ耐え続けるのだろうか。
決定戦が行われる日本プロ麻雀連盟・「夏目坂スタジオ」は文字通り坂の上、高台に構えている。
麻雀の存在を日本に初めて伝えたとされる文豪・夏目漱石のゆかりで「夏目坂」と名付けられた。
図らずもそこから頂点を決する麻雀対局の配信が行われるとは、実に合縁奇縁ではないか。
対局者は皆、この坂を登りながら決戦の場へ向かう。
初日を振り返り、7日間あたため続けた思いと共に大いなる希望を持って!
12月14日。十段位決定戦2日目。
実況に古橋 崇志。解説に勝又 健志と西川 淳。牌譜解説に大和。
5回戦(起家から、杉浦・伊藤・内川・柴田)抜け番本田
ポイントに差はなく横一線のスタート。
その均衡を破る事件は開局早々に起こった。
西家・内川の配牌
ドラ
何を切るだろうか。
内川 幸太郎は、ここで10秒を費やした。
との差異さえ慎重を期した。
内川の手順は丁寧で繊細である。
5巡目にはこうなった。
何を切るだろうか。
今度は20秒、没頭した。
789の三色が見える。
と払う手もあるし、1シャンテン維持でを捨てるのも良いか。
三色を見切りダイレクトな切りもある。
内川の打牌は三色も1シャンテンも見切る。
ピンズが良いという読みもあったかもしれない。
しかし真意は、もっと先にあった。
内川のアガリ形はこう。
内川の手順は柔軟かつ大胆、そして雄大である。
的確な読みに基づいた洞察、それでいて決然たる見切り。
何より構想が素晴らしかった。
配牌からこの最終形をどれだけの人が想像できるだろう。
役満より難しい大技が開局で炸裂。
三倍満で6,000・12,000!
(ツモ・イーペーコー・清一色・ドラ3)
閑話休題
今回、勝ち残った4名は、例外なく道中に敗退の危機と向き合っている。
10月23日のベスト16B卓
3回戦南2局、杉浦は敗退濃厚のピンチを迎えていた。
瀬戸熊 直樹・本田 朋広・櫻井 秀樹という豪華メンバーの中で、何一つ噛み合わず1人だけ置いていかれる状態。
この半荘も元十段位、櫻井の前に連続で勝負負けして、持ち点わずかに9,000点。
勝ち上がりに必要な2位本田との差はトータルで75Pほどとかなり厳しい状況。
本人も「ほぼ負けを覚悟した」と述懐する。
そんな時に起死回生の四暗刻を成就させ、それを契機に突き抜けた。
決定戦初日も倍満親かぶり等、不運の連続。
それでも不屈の精神で盛り返し初日を終えた。
「今日こそ、我が一日に!」という想いもあっただろう。
ところが開始早々、三倍満の親かぶり。
出鼻をくじかれる災禍に常人だったら意気消沈しそうなものだ。
しかし杉浦、闘志の炎を消さず、次局ドラ1のリャンメンリーチへ!
場況も上々に映る。
しかし、またもや内川が立ちふさがる。
役牌三色ドラ1をテンパイしていたのだ。
カンチャンだが追っかけリーチへ。
これを掴まされてしまうのが今日の杉浦。
8,000の放銃で、開始10分で持ち点が1万点を割ってしまう。
「麻雀の神様よ、どこまでツラくあたるのだよ…」
本人がそう思わなくても、多くの杉浦ファンが呟いたに違いない。
しかし、杉浦 、なおファイティングポーズを崩さない。
それはそうだ。あの長い坂を登ってここまできたのだから。
運命を感じるような役満逆転で巨大な敵を倒してきたのだから。
東4局には工夫を凝らしたジュンチャン三色の3,900をアガると南場の親を迎えて以下の牌姿。
すでに柴田が、役牌とを2つポンしている。
中盤となりドラのは生牌。それがぽつんと浮いている。
手格好でいくとを切る一手ともみえる。
後の無い最後の親、点況的にもを切る一手かもしれない。
しかし、どうにかして伝えたい。
決勝というステージで、このを切ることにどれほど力がいることか。
ロンと言われたら12,000以上の失点が強く予想される。
振り込んだら薄くなってきた望みが絶望に近くなっていく。
それまでの不運な振込が残像のように視界にのしかかる。
無難な打牌なら他にいくらでもあるのだ。
しかし杉浦はを切った。
闘わないと勝てないと言い聞かせるように。
杉浦 勘介の覚悟。
視点を変えて同じ局の話をしよう。
2つポンしていた柴田は、どこから発進したか。
ここから3巡目にをポンで仕掛ける。
このポンは相当な勇気の要る積極策だ。
打点が見込みにくく、鳴いて2シャンテンで愚形もある。
往々にして柴田はこのような仕掛けをするが、本局は特別なのだ。
最後の親の杉浦は後が無く、まずオリてくれない。
絶好調の内川は嵩に懸けて押し返してくるだろう。
鳴いて手牌を短くすると、いつも以上にリスクが跳ね上がるのだ。
どうなったか。
12巡目にして柴田はこのテンパイにたどり着く。
ポン ポン ポン
あの手が役牌ホンイツトイトイの満貫テンパイに化けるのだ。
しかも終盤なのにアガリ牌が4枚全て生きている!
結果こそ王牌に阻まれ流局。
だが柴田、この最終形も見据えての仕掛けだろう。
そしてリスクを百も承知で飛び込んでいるのだ。
前に出て闘うしかない。
柴田 吉和の覚悟。
次局、南2局・柴田
ここからをチー。
またもや2シャンテンの少し遠い仕掛けだが今度はモノにした。
チー チー ロン
親の大物手リーチの伊藤から8,000をもぎ取った。
さて、放銃の憂き目の伊藤。
南3局の1本場には、持ち点が8,300点まで削られていた。
親の内川は7万点を超え連荘中。
遥か前方、雲の上を飛ぶかのよう。
そして必定かの如く更に内川の口からリーチの声。7巡目。
ここで8巡目に伊藤の手
ツモ ドラ
伊藤はリーチを受け前巡にのトイツ落とし。
ツモはアガリ逃しの形だが、親リーチに対してドラのは切れない、仕方ない。
ここは我慢しかない、どうやってオリるのか?と注目していると…
徐ろに振りかぶってドラの単騎のリーチ!
まさに一閃、なんと一発でツモって内川の流れを一刀両断。
考えてみれば。
十段戦の歴史は、連覇の歴史だ。
36回の優勝の中に連覇が実に8回もある。
うち3回は3連覇だ。
ディフェンディング制とはいえ5人で決勝を行う以上、確率上連覇は5回に1回だ。
3連覇となると25分の1となる。
いかに連覇が困難かとわかるが、現に確率を凌駕する足跡がある。
つまりは、優勝する人物は勝ち方を身に着けているのだ。
勝負の要諦を識り、かつ実行できる。
だからこそ連覇が成る。
伊藤の単騎は、まさにそれではないか。
絶好調の親のリーチにドラの単騎で追っかける。
損得で考えるとおよそ真似し難い。
しかし伊藤には確固たる勝算があったのだ。
そして「ここは引いてはならぬ」という大局観があったのだろう。
ここぞ勝負所と経験が語りかけてくる。
それに寄り添い、タイトルを一旦返上、身を預けるかのように斬りこんだ。
ただただ伊藤の凄みに戦慄した。
連覇に向けて。
十段位伊藤 優孝の覚悟。
2日目初戦の5回戦は、内川が最後まで突き抜けて大トップ。
寒空の中、噴き出す汗の蒸気が溢れんばかり。
爽快に刀を鞘に収める内川の覇気ある姿ばかりが目立った。
それでも内川の身には、3者がそれぞれの覚悟で残した爪痕が確かにある。
5回戦成績
内川+48.6P 柴田+4.1P 伊藤▲17.8P 杉浦▲34.9P
5回戦終了時
内川+53.0P 伊藤+0.5P 柴田▲0.9P 本田▲18.0P 杉浦▲35.6P
6回戦開始前に10回戦までの抜け番選定があった。
終盤に向けての組立てで重要な要素だ。
10回戦終了時に下位1名が敗退となるので、目標にされる10回戦の抜け番は通常敬遠される。
選択順位は、5回戦終了時のスコア上位順。
[結果]
選択順位1位 内川 →9回戦抜け番希望
選択順位2位 伊藤 →6回戦抜け番希望
選択順位3位 柴田 →8回戦抜け番希望
選択順位4位 本田 →7回戦抜け番希望
選択順位5位 杉浦 →10回戦抜け番自動決定
好調の内川は、この日に最大となる4回打てることを選んだか。
伊藤は不調を感じ、抜け番で一呼吸置こうとしたのかもしれない。
横一線でスタートした2日目は、初戦で早くも大きくポイントが動いた。
さあ、中盤の開始である。
6回戦(起家から、杉浦・柴田・本田・内川)抜け番伊藤
東2局
親の柴田がドラのが暗刻の大チャンス。
11巡目にテンパイ。
ツモ ドラ
さあ、どう受ける?
難しい判断だが、千載一遇の機、ここは間違えるわけにはいかない。
柴田の選択は切りリーチ。
この選択と続く各人の判断が結果に大きく影響を及ぼす。
同巡・南家本田テンパイ単騎。
同巡・西家内川、完全安全牌も無く無筋のを勝負。
次巡・本田、柴田が直前に切った現物の待ちに変化。
打は内川が通したスジで比較的目立たない。
直後・内川
ツモ
を打つなどすればテンパイだが、役無しで打点もない。
唯一の現物を打って本田のアガリも十分可能性があるかと思われた。
だが、内川の選択はいずれでもなく、打。
完全に攻めでもオリでもなく、打点が出来た時のみ前に出ると構えた。
同巡の杉浦は、早くから受けて準備があり現物のを抜かずに済んだ。
次巡・テンパイの本田、を持ってきてイーペーコーの役を加えた。
待ちへの変化もあるが、無筋の切りのリスクをとってでヤミでのテンパイ続行を選択。
同巡・内川、親リーチのロン牌をつかむが、直前に通ったを切り粘る。この1巡が大きい。
次巡・本田、危険牌のを持ってくる。
ツモ
安全牌なら増えた。オリることはできる。
しかし、ここで本田はツモ切りリーチを選択した。
ツモったら満貫の手に育ち、打点の折り合いはついた。
親リーチに3巡顔を出さなかったは、山にいる可能性が高まったと判断したか。
危険牌のを打つと、ヤミテンの効力も弱まるだろう。
ドラ切りのリーチは打点の脅威は比較的低いと読んだかもしれない。
いや、それでも怖かったはずだ。
本田は読みを尽くし、勇気を振り絞り、リーチ棒に手をかけたのだ。
勝負所は逃さない、退かない。
本田 朋広の覚悟。
2軒リーチとなったこともあり、内川、同巡タンピンテンパイもロン牌のを打たずオリを選択。
4人の技術や信条が存分に盤面に披露された局だった。
アガリ逃しとなるを引いて顔を歪める柴田。
だが、流局間際に柴田の待望の牌を掴んだのは本田だった。
痛恨の11,600放銃。
本田 はその後も放銃が続き、東場だけで4回の振込となり持ち点もわずか500点に。
東4局1本場。再び好調内川の親番である。
窮地の本田・4巡目。
放銃が続き委縮しそうな展開。
点数は度外視、まずはアガって親を流したいと考える打ち手もいるだろう。
だが、本田はあくまで有効なアガリへの道を冷静に考えていた。
ここから打。
トイトイを視野にを出やすくする目的もあっただろう。
どんなに苦境にあっても、あせらない。
やはり親の内川からリーチが飛んでくる。
それに対して柴田のドラの単騎での追っかけリーチ。
親リーチに加え、仕掛けている者がいる中でドラが見えていない。
5回戦の伊藤を彷彿とさせる相当な胆力の要る反撃。
だが、ここを制したのは本田。
描いた通りの役牌トイトイで柴田から5,200。
観る者も心拍数が高まってくる。
覚悟と覚悟がぶつかり、決着の行方が予想できない!
この半荘はその後も激しい攻防が続き、全12局、流局無しの全てアガリ決着となった。
優勝に照準を合わせ全員が手をつくりあげ、押し引き基準をシフトしてきている。
勝負がけが始まっているのだろう。
オーラスは、その構図の中で明暗がくっきりとわかれた。
トップ目の内川を交わすため、高打点をつくりにいった柴田のタンピン三色ドラ1のリーチに杉浦が飛び込む。
柴田、跳満成就で逆転は点数以上の感触が残っただろう。
逆に、安全牌を有しながら、非テンパイで勝負をかけ原点を割った杉浦には後悔が残ったかもしれない。
6回戦成績
柴田+27.3P 内川+16.3P 杉浦▲10.6P 本田▲33.0P
6回戦終了時
内川+69.3P 柴田+26.4P 伊藤+0.5P 杉浦▲46.2P 本田▲51.0P
前回抜け番の伊藤。
この冬場、伊藤は対局開始直前まで手袋を外さない。
攻守を司る大切な指先を冷やさないプロフェッショナルな姿勢の表れである。
前へ進む内川、柴田を見て何を思っただろう。
伊藤は前回の抜け番の後は、鋭くトップを決めている。
7回戦(起家から、内川・伊藤・柴田・杉浦)抜け番本田
やはり、開局から伊藤が来た。
ポン ポン ロン
役役・ホンイツで8,000を内川からと最高の結果。
ただ、目を引いたのは、むしろ放銃した内川のほうかもしれない。
ここからを打ち抜いている。
場は中盤を過ぎ、南家の伊藤が自風のとをポンしている。
腰の重い伊藤が仕掛け、変則的な河となると、打点もあるテンパイと強く想定される。
逆算するとは最も危険な牌のひとつだ。
自分は場況良好で打点も見込めるとはいえ、まだ1シャンテンだ。
「おう、さようなことは事前に承知!」
内川は躊躇なく突っ込んでいった。
自分はトータルでかなり差のあるトップを走っている。
無理する必要はないと感じるのが人情ではないか。
しかし内川は毅然とその誘惑を絶った。
逃げるつもりは毛頭無い。前進の末にこそ優勝がある!
内川 幸太郎の覚悟。
この半荘は伊藤と内川が交互にアガリ、内川が失点を挽回。
そして南2局。
内川が柴田から8,000をアガリ、とうとう浮きに回る。
対して、その放銃の柴田。
ドラ3とはいえノーテンから、一番振り込んではならない相手を浮かせる痛恨の失点。
自分だけでなく他者も優勝から遠ざける、今期タイトルの向後を左右しかねない放銃だ。
柴田、痛悔。珍しく表情に出る。
ベスト16、8戦の観戦記を執筆した福光 聖雄は柴田に注目していると決定戦直前に語った。
柴田はベスト8で、山田 浩之、前原 雄大、本田 朋広と対峙。
大接戦の山場4回戦、柴田は勝負手のリーチ合戦に負け、激痛の7,700を山田に献上。
本人の弁によると「負けを覚悟した」という。
しかし、その次局、全員テンパイの中で、丁寧に手を育て細いアガリへの道をモノにした。
福光は、逆境に落胆せず盛り返す柴田の姿に、最後まで優勝争いに踏みとどまるために必要なしぶとさ、底力を見たのだ。
今回もその再現だった。
最も厳しい結果となった局のまさに次局に柴田は挽回してみせた。
南3局、杉浦の本手リーチを潜り抜け、値千金の6,000オール!
ツモ ドラ
再び内川に原点を割らせた。
逆転の柴田、ここにあり。
オーラス。
親の杉浦はここまでノーホーラ。
手は作っているのだが、テンパイをすると他に交わされる。
持ち点は12,100点。トータルからもこのまま終了は許されない。
だが、柴田が早々に役牌をポン。
南家の内川がオタ風のドラをポン。
四面楚歌だ。厳しい。
15巡目・杉浦。
ここで上家の柴田からが出る。
ポンをすれば形式テンパイをとれる。
杉浦には残り3巡のツモしか残されていない。
しかし、杉浦はポンを選ばなかった。
勝算がないと読んだのだろう。
試合を壊したくないという美学もあったかもしれない。
ここは内川が流局間際に満貫をツモって再び浮きに回って終了。
トップは伊藤。
7回戦成績
伊藤+17.8P 内川+10.1P 柴田+6.0P 杉浦▲33.9P
7回戦終了時
内川+79.4P 柴田+32.4P 柴田+18.3P 本田▲51.0P 杉浦▲80.1P
8回戦(起家から、本田・内川・伊藤・杉浦)抜け番柴田
2日目の最終戦。
東場に伊藤が満貫ツモ。
南場になると親の本田が満貫ツモ。
トータル首位の内川に楽はさせない。
だが、杉浦には一向に運が向いてこない。
東3局、8巡目。
杉浦に勝負手。
ドラ
ドラ2。この瞬間拾えそうな河で待ちは実際3枚生きていた。
嬉しい変化もある。
だが、直後に本田の手が開かれる。
ツモ
悪形の代名詞のような俗にいう役無しペンカンチャンに競り負ける。
解説の勝又が「こんなにツイてないことってあります?」と嘆息。
目を覆いたくなるような展開。
アガリ形を見つめる杉浦の目に哀愁の色が滲む。
杉浦にとって30局振りとなるアガリは、南2局の1,000点。
親の内川テンパイを本田がスーパープレーで放銃回避している間に、まるで他人のためにアガったような形になってしまった。
オーラス。
ここまでアガリのない内川。
ドラ
5巡目で、をポン。
既に仕掛けている伊藤がいる。
そしてまさに背水の陣をひくラス親の杉浦がいる。
ドラもないこの手で進むのは勇気がいるだろう。
しかし、1日を通して貫いた見敵必戦の構え。
浮きを目指して前へ。
11巡目、本田。
ドラ
トイメンには、2フーロしてマンズ仕掛けの体の伊藤。
下家には、役牌を鳴いてピンズ模様の内川。
はさまれた。
伊藤に逆転されないためには、マンズは打ちにくい。
だが、内川を浮かせるのは更に味が悪い。ピンズは絞りたい。
しかし、親も必ず来るだろう。ソウズを切っての手詰まりは避けたい。
本田の決断は自身がアガリにいく打。
これをチーして更に進む内川。打。
これをポンして3フーロは伊藤。
同巡、杉浦。
ドラ ツモ
ドラが雀頭のピンフの1シャンテン。
杉浦にとってはこのタイトル最終便のチャンスと言っても良い。
が、危険牌のをつかまされた。
「危ないのほうから切りましょうよ…」
それは罪なことではない、と愛おしむように囁く解説の勝又。
杉浦にとっては跳梁する他家に「いい加減にしろよ!」と暴れたくなるようなものだ。
だが、杉浦はを打たなかった。
最後まで美しく威容を保つ。
仕掛けで杉浦の欲しいやが立て続けに本田に流れた。
本田がツモ切るそれを、どのような気持ちで見つめただろう。
その後、本田は引き、内川と伊藤が満貫テンパイで2日目の極点へ。
伊藤に超危険牌のを叩き切る内川。
それならば、と更なる高い試練。
はこれ以上ないほどの危険牌!!!
50秒。
息を整え内川はを打ち抜いた。
伊藤は内川のアガリ牌のを引きノータイムで止めた。
各々、お見事。
流石にタイトル戦の決勝。
2日目大トリは内川のアガリ。
浮きに回るを手繰り寄せた。
8回戦成績
本田+20.7P 伊藤+6.5P 内川+1.6P 杉浦▲28.8P
8回戦終了時
内川+81.0P 柴田+32.4P 伊藤+24.8P 本田▲30.3P 杉浦▲108.9P
この日、内川は勝負どころのオーラスで3回アガリきった。
そのいずれも価値が高く、技術だけでは勝ち取れなかったもの。
天晴・内川の日であった。
ポイント以上に最終日に向けてのムードも良好だろう。
しかし、印象ほど点差は離れていない。
対局終了は20:00過ぎ。
夜空を見上げると新月。
月の姿と同じく、未だ勝負の行方は全く見えない。