「いってれば」「いけてたら」「押せてたら」
第11期 JPML WRCリーグ決勝戦 終了後のインタビュー。
感想よりも先に自身の弱気への反省を口にした若者がいた。
繰り返されるその言葉には、負けた、ではなく、
「自分の麻雀が貫けなかった」
そんな悲しみ色が滲んでいたように思う。
「突然なのですが、日本プロ麻雀連盟の37期プロテストで合格しました。」
笠原からそんな連絡を受け取ったのは2020年10月のことであった。
半年ぶりの連絡がプロテスト合格報告で、衝撃を受けたことを覚えている。
笠原は、現役の千葉大学生。
また千葉大学の競技麻雀部に所属している。
その千葉大学の競技麻雀部に共に所属していた私にも言わず、私と同級生の沢村侑樹プロ、そしてなんと、麻雀部が活動する会場のオーナーであり、A1リーグ所属の 西川淳プロ にさえ、一言の相談もなく受験したそうだ。
このころからすでに「他人は関係なく、自分を貫くこと」へのこだわりが垣間見えていた。
なぜ一言も相談がなかったのかは一旦さておき、そもそもなぜプロになろうと思ったのか、その理由がずっと気になっていた。
いつか聞こう。
そんなことを思っていたら、
いつの間にか若獅子戦優勝という快挙を成し遂げていていた笠原。
今回の若獅子戦優勝インタビューが1つの良い機会と思い
その理由を聞いてみることにした。
(インタビュー兼祝勝会にて 左は柴田、右が笠原)
柴田 「まずは優勝おめでとう!!!すげぇよほんとに。」
笠原 「あ、ありがとうございます。。。」
通常、タイトルを獲得したら大はしゃぎしたくなるところだが・・・
本当に24歳なのか?と思うほどの落ち着き様であった。
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笠原 拓樹(かさはら ひろき)
36期生・鳳凰位戦D3リーグ所属
第4期若獅子戦 優勝
(2023年4月よりC1リーグに特別昇級)
24歳 千葉大学生
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まず最初に、今までずっと疑問に思っていたことを聞いた。
柴田 「笠原は何でプロになろうと思ったの?」
笠原 「色々あるんですけど、ひとつは、西川さんや柴田さんに憧れがあったのがあります。」
気遣いのできる後輩である。照。
笠原「もう一つあるのが、活動休止が長かった千葉大学競技麻雀部に、『プロが在籍している』というアピールポイントがあれば、人が増えたり活気が戻ってくるきっかけになってくれるんじゃないかなと思っていました。」
コロナウイルスの影響で大学全体のサークル活動が休止の流れになり、
先ほど紹介した競技麻雀部についても、活動休止を余儀なくされたらしい。
その影響で新入生勧誘ができないなど、活動自体が減ってしまった現実がある。
それを放っておけなかったのだろうか。
笠原のプロテスト受験は、そんな部を愛する思いから笠原自身が考えた、ひとつの恩返しの形だったのかもしれない。
私も麻雀部で共に活動していた一員として、そういった気持ちを持ってくれていることを本当に嬉しく思う。
それと同時に、大学生にしてそういった思いを持てるその心こそが、今回の優勝の一員だったのではないかとも思う。
その自分だけではない、周囲のことを思うやさしさと、誰にも相談せずにプロテストを受験したというある種の不器用さ、そんな二面性をあわせ持っている笠原。
一言で表すとすれば、
“麻雀が大好きな、不器用だけど熱い男”
そんな表現がぴったりくるようなやつだなと思う。
そんな性格が愛されるのか、千葉ではここしばらく各所で祝勝会が開かれている。
(都内某所にて、左から 柴田・桜井紘己プロ・西川淳プロ・笠原・沢村侑樹プロ)
(千葉の競技会にて 約70名の前でスピーチする笠原)
優勝を祝われるたびいつも小恥ずかしい様子で、不器用な性格が表れているのではないかと思う。
しかしこの性格もまた、愛される理由なのだろうと思う。
さて、これまで「優しい」「落ち着き」「不器用」などと「静」の一面を見せてくれている笠原だが、若獅子戦を見た方はわかるであろう、麻雀に関しては全く逆の性格が現れる。
今回のインタビューで話を聞いた時もそうだ。
先程まで小恥ずかしい様子だったのが一変、先述についての話が湯水のようにあふれてくるのだ。
今回の若獅子戦決勝で特に印象に残った数局について聞いたのだが、その深い思考についてすごい量の思考を聞くことができた。
今回はそのうち2局を紹介したい。
最初に聞いたのは決勝1回戦以下局面
柴田「これほぼノータイムで切ってたけど、他は考えなかったの?例えば切りとか、もしくはツモ切りとかかな。」
笠原「もあると思います。なんですけど、基本的な方針として『部分役よりも全体役』という考えがありました。安めがのみ手になってしまうよりもどちらも役になる方を選択しました。」
そこから進んでテンパイ
柴田 「ここもノータイムでダマにしてたけど、思考めっちゃ気になってた。こういうの安目のときのためにリーチするタイプと思ってたから。」
笠原
「ここは引きだけヤミにするつもりでした。それ以外は、引きなどもリーチするつもりでした。この局とにかくピンズが良くて、特にについてはよりもの方がいいと思っていました。なのでヤミでも十分に高目のアガリがあると思いました。逆にマンズはそこまでではないと思っていたので、リーチしてツモれればいいな、という対応にしようと思っていました。」
柴田 「なるほどねー。そして唯一ヤミテンにする引きから見事に3,900オールと。」
柴田 「右手の親指、震えてたね。」
笠原 「そうですね。めっちゃ震えてました・・・」
震えていた、という以上は少し恥ずかしかったのか何も言っていなかったが、緊張と、応援に応えたい気持ちとが重なって手を震わせたのではないかと思う。
この局を境に、笠原の打牌スピードが上がっていたように見える。
これは気持ちがノッてきた証拠だったのではないかと思う。
続いて、最も衝撃的だった1局
柴田
「改めてこのシーンだけど、ここからを切ったんだよね。結構選ばない人が多いんじゃないかと思うこの選択。インタビューでも少し聞いていたけど、改めてこの局の思考を聞かせてよ。」
笠原「そうですね、ドラ使い切りたくて、ドラの縦引きにも対応できると。あと引きはさすがに待ちにするんですけど、引きもドラ単騎からの引きなどの変化があると思いました。あとまわりの話なんですけど、が2枚とが2枚見えていて、かつについては同じ人が切ってるんですよ2枚とも。なので、の、既に4枚見えているリャンメンの形が微妙だなと思いました。またを引いて待ちになったとしてもは2枚見えてしまっているので嫌だなと思いました。もちろんカンやカンはもっとだめで。もしがもう1枚ずつ見えていない、という状況だったり、2枚を別の人が切っているなどだったら、ドラのをツモ切る選択がかなりありました。ソーズはかなり良くない待ちだと思っていたので・・・」
この間、柴田は相槌こそ入れるも、ほぼ間を作らずにつらつらと思考を語ってくれた。
この量の思考を対局が進む中で処理し、ほぼノータイムで打牌し、対局が終わって時間が経ってからも話すことができる。
彼の能力の高さに圧倒されるばかりである。
笠原「でもリーチ受けちゃって、もうドラの周りか引かない限りは・・・と思っていたら、ドンピシャででした。」
気持ちのこもったドラ切り追いかけリーチで次巡
柴田 「気持ちがいい2,000・3,900 だねー」
笠原 「そうですね(笑)」
優勝インタビューで阿久津翔太プロも「勝因」と語ったこの1局。、
この決勝戦、攻めに攻めていた笠原が、文字通り「躍動」していた1局であった。
この局を含め「動」の姿勢が目立った笠原だが、それ故、1局目に紹介したヤミテンや、仕掛けからあたり牌だけオリる、などの「静」の姿も印象的だった。
半荘4回で
アガった回数:15回
放銃した回数:1回
ただ攻めるだけではない、彼の高い処理能力と思考の深さを物語っている結果になったのではないかと思う。
このような緻密かつ大胆な麻雀が、今回の若獅子戦の勝利をもぎ取ったのだろうか。
今回笠原は、史上初の「ずっと1位」での優勝となった。
全体の予選を首位通過、ベスト16、準決勝を1位通過、そして優勝である。
そんな笠原だが、実は第1回若獅子戦はなんと予選で全会場の最下位になるという、真逆の結果を残している。
プロ2年目にして、若獅子戦最下位から優勝まで経験し、優勝するときはずっと1位を譲らずの優勝。
こんな「大物」が今後現れる姿が想像できない。
間違いなく今一番、脂がのっている20代なのではないだろうか。
インタビューの最後に、こんなことを聞いてみた。
柴田「今回の若獅子戦決勝、いつも攻撃する麻雀とはいえ、いつも以上に押すシーンが目立ったような気がするんだけど・・・何か事前に考えていたことはあったの?」
笠原「そうですね。先日のWRCリーグの決勝戦の反省が一番大きくありました。あの時は全然勝負所で押せなくて、何もできなかったので・・・」
若獅子戦の前に既に別の決勝の舞台を経験していた笠原。
WRCリーグ決勝戦、結果は4位となっていた。
その時は自分らしい攻めの麻雀は打ち切れなかった、という反省があったようだ。
そこでの苦い経験が、今回の「攻める」「勝ち切る」麻雀につながり、そしてそれが若獅子戦優勝という結果につながっていたのではないか、そう思えてならない。
24歳にして既に経験・実績 共に多くを積み重ねている笠原。
今後のさらなる飛躍を期待したい。
またこれから先、「タイトルホルダー 笠原拓樹」としての様々な経験を積んでいくことになる。
その中でどのような姿・麻雀を見せてくれるのか、この記事で笠原を知った方は是非注目し、応援してもらえると嬉しい。
今後さらに大きく道を切り「拓」いていってくれることを祈って。
「本当に」「ほんとに」「ホントに」
第4期 若獅子戦決勝 終了後のインタビュー。
嬉しさよりも先に感謝を口にした若者がいた。
繰り返されるその言葉には、千葉のファンへの感謝だけではなく、
「自分の麻雀が貫けた」
そんな喜びの色が滲んでいたように思う。