中級

第139回:中級講座『トップ狙うべからず。』 浦田 豊人

皆さん、こんにちは。
日本プロ麻雀連盟北陸支部の浦田と申します。
今回より中級講座を担当させて頂く事となりました。宜しくお願い申し上げます。

はじめに簡単に自己紹介をさせて頂きます。
プロ合格は第8期生(現在:七段)、連盟内でももうかなり古株に位置付けされて来ております。
この間も新人プロから、
「もう四半世紀が過ぎてますね~。」
と言われてしまいました。
同期にともたけプロがいらっしゃいます。
過去の栄光として、
第6期新人王獲得(1991年) 、そして鳳凰戦A1リーグにもひっそりと3年間(2000年~2002年)在籍しておりました。
現在は北陸支部長として、地元北陸を中心に活動しており、最近では昨年の北陸プロアマリーグで優勝しました。

さて本題。
この講座は「連盟公式ルール」に的を絞って書いてみたいなと思っております。
そんな公式ルールにおいて勝率を上げるために、麻雀の王道をたくさん書きます!
と言いたいところなのですが、実はこの講座は邪道がいっぱい?のお話です。
邪道でもいい、とにかく何とかして勝ち抜いていこう!と泥臭く闘う方にオススメします。

24歳で鳳凰戦に飛び込んだ私。
謙遜ではなく、間違いなくリーグ戦内で一番下手くそだという事を自覚するのに、それほど時間はかかりませんでした。
「このまま真っ正面にぶつかっていっても玉砕する。」
「他の上手な人、強い人に惑わされず、自分の良さを生かすにはどうすれば良いか!?」
必死に考えてたどり着いた結論が、この邪道戦法その一。

「トップ狙うべからず。」

いきなり何言い出すんだ~!?
と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
ただその当時の私は本気も本気、大真面目にこの戦法に必死に、そして徹底的に取り組んでいたのである。
下の表を見て下さい。

●順位点(1P=1000点換算)
1人浮きの場合
1位+12P、2位▲1P、3位▲3P、4位▲8P

2人浮きの場合
1位+8P、2位+4P、3位▲4P、4位▲8P

3人浮きの場合
1位+8P、2位+3P、3位+1P、4位▲12P

お馴染み連盟公式ルールにおける順位点であります。
この順位点の特徴として「順位に対して順位点の差が少ない。」という事に気付かれると思います。
つまりトップを無理に狙う必要はない、「素点が大事」と理解する事が出来ます。
しかしながら公式ルールに取り組み始めた人はどうしてもトップに執着してしまいがちです。
確かにトップを目指す事は麻雀の王道であり、上級者ほど自ずと本能的にそう打ってきちんと結果も出しているのは間違いありません。
私が思うにトップを狙いたくなる一番の理由は、皆さんが麻雀を始めた時、おそらく多くの人は順位点以外に「オカ」という+20Pのトップポイントが付くルールで覚えられたからではないでしょうか?
確かに公式ルールの順位点と比較すると、オカの+20Pはとても大きいですからね。
なのでその後に公式ルールに取り組むと、どうしても無意識にトップを目指してしまうのかもしれません。

例を1つあげてみましょう。

オーラス
東家 +3.0P
南家(自分) +0.9P
西家 ▲1.0P
北家 ▲2.9P

南家の私は2着目で、トップの親とは2.1P差。なのでピンフツモの400・700でもトップが届く。
そんなところに西家へ下記の放銃。

一万二万三万四索五索六索五筒六筒六筒七筒八筒北北  ロン七筒  ドラ中

点数はピンフのみ1,000点です。
ただこれにより私は原点の30,000点を僅かに割り込み、▲0.1Pの3着で終了。
結果はこうなりました。

+4.9P(順位点込み) ️▲4.1P(順位点込み)
たった1,000点の振り込みが結果9,000点も違う結末となってしまいました。
逆にアガッた西家は
▲5.0P(順位点込み) ️+4.0P(順位点込み)と、結果価千金の1,000点のアガリと言えましょう。
ここに公式ルールの勝つコツが見栄隠れします。
トップ狙いは麻雀の王道で大切な事であります。
しかしそれよりも

「30,000点(原点)を死守する。」

これこそ、公式ルールにおいて長いリーグ戦で勝ち抜くための最も大事なことだと私は感じずにはいられませんでした。

公式ルールはコツコツと浮きを重ねていくもの。
なにしろ浮きさえすれば確実にポイントは増えるシステムなのです。
そのためにはトップは取りこぼしても「浮き」は1つでも取りこぼすわけには行かない。
トップを捨てた以上、1半荘でさえ沈む回は認めてはいけない。

この事を愚直に実践し続けた私は、結果として鳳凰戦において一度も降級する事なく、A1リーグまで駆け上がる事が出来たのです。

それでは
「30,000点(原点)を死守する。」
ために、具体的にどう打てば良いのでしょう?

一番強固に実行する場面は…?
そう「オーラス」です。
いくらトップを狙うなといっても、東1局からそこまで意識するわけではなく、道中原点や並びを少しずつ意識するものの、やはり最も重要な場面はオーラスです。
オーラス終了での結果が当たり前ですが、そのまま結末として確定し、得点表に掲載されます。
南3局までとは訳が違う、オーラスは至極特別の局となります。
こここそが命懸けに原点を、並びを死守する大事な主張の場となります。

それでは例題を幾つかあげてみましょう。

【 例題① 】
南四局 ドラT
東家 +8.9P
南家(自分) +7.9P
西家 ▲2.0P
北家 ▲14.8P

2着目ながら微差のアガリトップ
10巡目、沈んでいる三着目の西家からリーチが入る。

西八筒 上向き九索 上向き七索 上向き六万 上向き三筒 上向き
中西二筒 左向き

前巡すでにテンパイしていた私だが、

八万八万一索二索三索五索六索七索六筒七筒中中中  ツモ一筒  ドラ東

押すか?引くか?
ここでの私の答えは「引く」です。

先にテンパイしているのに?
トップはもうすぐそこなのに?
7700打っても原点確保出来るのに?
リーチの捨て牌にアガリ牌の八筒があるのに?
1枚くらい勝負しないのは弱気過ぎるのでは?

確かに勝負したい条件は満載です。
オリて先にアガリ牌の五筒八筒が出てしまえば、それこそ目を覆いたくなります。
しかしながらドラ東が1枚も顔を見せないこの局、西家リーチには「リーチドラ3」を警戒する必要があります。
三筒二筒の間に安全牌の西や生牌の中が先に切られているのも目一杯感があり、ドラ2以上の可能性がうかがえます。
そしてリーチと来た以上、役無しの可能性も高く、7,700より8,000を警戒すべきであります。
(8,000振り込むと沈んでしまいます。)
勿論オーラスでなければ勝負ですが…。
しかし何度も言いますが、オーラスだけは特別な局なのです。
なので、私は中を捨て牌に3枚並べていきます。
全く楽しくありませんが、命懸けで打つという意味はこういう事なのです。

次はどうでしょう?

【 例題② 】
南四局 ドラT
東家 +8.0P
南家(自分) +2.0P
西家 ▲2.0P
北家 ▲8.0P

先程と同じく2着目ですが、今度はトップとは6,000点差で、浮きは僅か2,000点の状況。
10巡目、今度も沈んでいる3着目の西家からリーチが入る。

西八筒 上向き九索 上向き七索 上向き六万 上向き四索 上向き
西中二筒 左向き

そして今回も前巡テンパイしていた私だが、

一万二万二万三万三万四万七万八万三索四索五索五筒五筒  ツモ一筒  ドラ東

これは押すか?引くか?
今回は+2.0Pで、跳満ツモや1人ノーテンだと沈んでしまうので、30,000点死守理論から言えばここは押しでしょうか?
しかも受けるにしても安全牌が非常に少なく、先程みたいに並べられる中も無く、安全牌が41枚しかないので、ここは「攻撃は最大の防御」とすべく勝負の方が良いでしょうか?

いえ、ここでの私はやはり「引き」です。
トップ目が東家である事からも、この1局で終わる可能性もあり、そうであれば満貫ツモでもギリギリ浮く持ち点+2.0Pは、30,000点死守理論からいけば引く選択になります。
(3人ノーテンは沈んでしまいますが、その時は親もテンパイという事になので終局にはなりません。)
確かに跳満をツモられると沈んでしまいますが、公式ルールにおいて跳満ツモの確率はそんなに高くないと思うようにして、その時は仕方なく観念するようにしております。

ちなみにこの手で一番してはいけない事は、何とか粘ろうとして中スジの雀頭の五筒を切る事です。
雀頭落としで回るというのは一見上手い打ち回しに見えますが、カン五筒待ちは十分考えられ、これで打ち込めば最も中途半端な放銃となり、今日一日の致命傷になりかねません。

なので、ここはたった1枚の安全牌四索を切って、次巡以降も通る牌を必死に探しに探し、全力でオリに徹します。
安全牌がないから勝負する、という発想は、命懸けで30,000点死守するという意味から私の選択には絶対ありえません。
「防御こそが最大の防御」なのです。

原点死守のためとはいえ、そこまで受けに回らなければならないの?
そんなにオリてばかりで本当に勝てるの?
といった声が聞こえてきそうですが、勿論オリてばかりで勝ちきれるわけではなく、状況に応じて勝負は必須です。
逆にオーラス時点でマイナスの場合は浮きに回るために、泥臭く攻めに攻めて攻めだるまと化かなければなりません。

【 例題③ 】
南四局 ドラ東
東家 +6.0P
南家(自分) ▲0.1P
西家 ▲7.9P
北家 +2.0P

ラス目の西家からリーチ。

九筒 上向き一万 上向き八万 上向き一索 上向き三索 上向き北
四万 上向き九索 上向き二万 上向き六筒 左向き

そして私もテンパイ。

九万九万九万二索二索二索四索六索八索八索四筒五筒六筒

役無しのカン五索で頑張っていましたが、ここからツモがドラの東
どうするか?

ここは勝負の一手です。
中途半端に回る事をせず、歯を食いしばって切り飛ばすのみです。
ヤミテンで押し続けるのみです。
理由は簡単です。30,000点到達のためです。
そのためには危険と知りつつ、読みを入れながらも打ち抜くしかありません。
その結果、ラスに転落してもやむ無しとします。
ここで行かなければ例題①や②で引いた事に矛盾してしまいます…。
執念で30,000点を果たしましょう!

今回邪道戦法を推し進めてしまったかもしれませんが、邪道の中にも公式ルールでのコツ(ポイントの伸ばし方)があるのではないかと思います。

公式ルールを始められた方、また長年経験している人で最近スランプに陥っている方は、一度チャレンジしてみてはどうでしょうか?

「トップ狙うべからず」
「30,000点(原点)に命懸け」

邪道戦法は次回も続きます。
お楽しみに~。