第140回:中級講座『役無しリーチかけるべからず。』 浦田 豊人
2018年09月12日
2000年2月、私は東京のとある会場にて公式戦の対局中であった。
それは第16期鳳凰位決定戦…、
の隣の卓で実施されていた「A1リーグ入れ替え戦」。
そうなんです。今は無くなりましたが、当時はA1下位者とA2上位者により、2日間半荘12回戦で上位2名勝ち上がりの入れ替え戦があったのです。
その入れ替え戦にA2、3位で進出した私。しかもそれは鳳凰位決定戦と会場を同じく、隣り合わせにして同時開催されていたのでありました。
ちなみにその年の鳳凰戦メンバーは、古川プロ・荒プロ・前原プロ・石﨑プロで、古川プロが見事優勝を果たされました。
レジェンド達は昔から強かったです。
そんな決定戦を尻目に行っていた入れ替え戦。初日を+50Pの1人浮きで終わり、周りから1人目当確マークと言われ、勘違いして迎えた2日目の初戦。
私は下記のリーチをかける。
東3局 北家 ドラ 8巡目
「しまったーっ!!」
私は思わず心の中で叫んでしまった。
何がしまったのか?私には公式戦における自分で決めた「掟」が幾つかあった。
その1つが
「役無しリーチかけるべからず。」
初日トップで浮き足だって、自分の決め事を破ってしまう。
次巡のツモがドラの、これを親の「死神の優」こと伊藤優孝プロがポン!そして猛烈に私のリーチに無筋を切り飛ばしてくる。
終盤掴んだで伊藤プロにタンヤオドラ3、痛恨の11,600放銃。そして、そのままこの半荘はラスになる。
これで一気に混戦に縺れて、最終戦まで4者の大接戦となりました。
結果、私は幸運にも勝ち上がる事が出来ましたが、もし敗れていたならこの1局が敗因だと思わされる局でした。
役無しリーチが良いか悪いか以前に、なんといっても先ず自分で決めた事を自分で守れないところが、プロとしていただけない。
私が鳳凰戦(プロリーグ)に参加し、闘い方を模索していた時、
「連盟公式ルールはやはりリーチに頼らず、手役をしっかりと作るべき。」
と強く認識させられました。
一発裏ドラがあるルールでは、どうしてもいち早くリーチに持っていった方が有利なケースが多い。打点の低さを一発裏ドラで十分カバー出来るからです。
しかしながら公式ルールにおきましては、リーチは単なる1ハン確定役でしかなく、それ以上にはなり得ません。むしろホンイツの方が面前で3ハン、仕掛けても2ハンなので、リーチよりも得策とも言えるでしょう。
そして公式ルールでは、比較的みんな守備意識が高いので、本手でない人は深入りせず、そのまま受けに回るケースが多く、逆に本手の人からキッチリ逆襲にあいやすくなります。その結果、こちらの役無しリーチはアガッても安く、逆に相手に振り込めば本手の高い手、という事になるケースが多く見受けられます。
安易にリーチに頼らず、しっかりと手役を作る。無意識に手役作りを放棄した結果、テンパイしたからとリーチするなど持っての他。
相手と間合い(打点、速度、点差など)をはかり、状況次第では受けに回れるようにヤミテンに構える。この事が公式ルールにおける生き残り方と考えました。
勿論、リーチは相手からしてみればどうしても「脅威」にうつり、必要以上に回ってしまう可能性もあり、足止めリーチなど効果的な面もあります。
リーチをかけてなかったばかりにアタリ牌を咎められず、結果相手にアガリを奪われる、というケースもあるかと思います。
しかし、闘いのレベルが上がれば上がるほど、そんなケースは少なくなり、足止めリーチにも強者の打牌は特段変わらず、逆にヤミテンでもアタリ牌をピタリと止められて、上級者ほどリーチ云々に打牌が左右されない事も痛いほど知らされました。
中途半端な事をしては勝ち上がれない、生き残れないと感じた私は「役無しリーチを封印」する事に決めたのです。
勿論、手の中にドラが2枚以上ある役無しリーチは問題ありませんが、ドラ0~1枚の時はリーチ禁止と決めました。
それでは例題をあげてみましょう。
【 例題① 】
東3局 西家 ドラ 8巡目
持ち点 28,000 3着目
リーチを打つとアガれば浮きに回れるので、リーチでしょうか?
私の答えは「ヤミテン」です。
本手から反撃を受けた時に、待ちがカンチャンではやはり心細いものです。
場況が良かったり、山読みなどで待ちに自信があったとしても、過信は禁物です。
役無しリーチをかける時は、最低限待ちはリャンメン以上にしたいものです。
【 例題② 】
東3局 西家 ドラ 8巡目
持ち点 28,000 3着目
自分の捨て牌
例題①とほぼ同じ手牌ですが、待ちがリャンメンです。なら積極的にリーチで良いでしょうか?
否、私の答えはここでも「ヤミテン」です。
注目すべきは自分の捨て牌です。
捨て牌にと1メンツがあり、孤立牌のを序盤に切って、その後と持って来ただけですが、もし上手く打っていたら下記のテンパイ
になっていたかもしれません。
もしくは
上記の手で既にアガリになっていたかもしれません。
結果論かもしれませんが、麻雀はその結果論を踏まえて闘い方を修正する競技でもあります。
ならば、「手役が出来ていてリーチをかける必要がなかった。」、「アガリ逃しがあった。」という結果を踏まえ、ここは慎重にヤミテンに構えたいと私は判断するのです。
【 例題③ 】
東3局 西家 ドラ 8巡目
持ち点 19,000 4着目
これならどうでしょう?
今回は捨て牌に1メンツも被っておらず、結果アガリ逃しもなく、他の手役も見当たらない。待ちも3メンチャンなので、反撃が来ても十分に対抗出来る。
でも私の答えはここでもヤミテンです。
確かにリーチでも特に問題ないかと思います。アガリ牌がこぼれて、見過ごすのも罪かと思います。しかしドラがというのが気に入りません。ドラを持って来て鳴かれた時はどうしましょう?
ドラを鳴いた人の捨て牌に待ち牌のが切られていたら、もしかしたら脇の方から捨ててくれるかもしれません。
しかし、そうならない場合は伸るか反るかの確率で、ハイリスクローリターンで大物手と一対一で対峙しなければなりません。
なので私は「持って来たら止める牌」がある場合や「相手に大物手の気配」がある場合は消極的かもしれませんが、ヤミテンを選択します。
大物手の気配と書きましたが、そういえば私の掟の中で
「大三元の2種類目を鳴かせない。」
という決め事があります。
役満の中で一番出来やすいのは大三元と言われます。他の役満と違って9枚で完成してしまいますので、そう言われるのでしょうか。
1つ鳴かれた三元牌の2種類目を鳴かれた場合は、アガリ確率がぐんとアップします。
そこで私は序盤で誰かが三元牌を1つ仕掛けている場合は、自分から絶対に2種類目を切らない事に決めました。
「そんな馬鹿な!?1つ翻牌を鳴かれただけで、次の翻牌を切らないなんて、そんな事してたら一生勝てないのでは!?」
確かに大変窮屈な話だと自分でも思いました。でも自分で決めたので、誰かにバレるまでやってみよう、誰かに大三元をアガられるまでやってみよう、と軽い気持ちで実行してみました。
当時は映像対局も無かったせいか、誰にもバレる事なく、たまたまかもしれませんが、結局一度も大三元をアガられる事はありませんでした。
この掟は大変窮屈なので、流石に皆さんにオススメする事は致しませんが、
「翻牌を鳴かれたら、先ず大三元を警戒せよ。」
とは頭に入れておいて下さい。
大三元以外にも国士などの役満志向・大物手志向の方がいる場面では、上記のドラ同様、「持って来たら止める牌」と同じ意味合いで、リーチは控えます。
あと、上記例題③でもう1つリーチをかけない理由として、持ち点が19,000の4着目という位置が非常に気になります。
こういう時は「体勢」が相手に比べて悪い時が多く、そんな時に無理をすると傷口が広がるパターンだからであります。
この「体勢」については大変抽象的かつオカルト的で、非常に話が長くなり、今回のテーマから脱線していきますので、あらためてお話させて頂きたいと思います。
以上をまとめますと、
私が決めた「役無しリーチのみ(またはドラ1)をかけない」ルールは、
①待ちが悪い。
(リャンメンでない。)
②手役を逃してヤミテンの機会を逸している。
③結果的に一度アガリを逃している。
④持って来たら止めるべき牌が存在する。
⑤他者に大物手の気配がある。
⑥体勢が悪い。
この①~⑥にどれかに当てはまる場合は、「役無しリーチかけるべからず。」としております。
そして上記の①~⑥は役無しリーチの判断基準の時だけでなく、役有りの時に
「リーチをかけるか?ヤミテンにするか?」の判断をする時にも同じように使えたりします。
下記の例題④で、ドラを変えてそれぞれ考えてみましょう。
【例題④】
東3局 西家 8巡目
◯ドラがの場合
「ピンフのみのテンパイはヤミテン。」
連盟公式ルールを覚えた時にそう教えられた方も多いと思います。
一番の理由は1,000点の手に1,000点を払って2,000点にするのは得策ではない、典型的なハイリスクローリターンであるという事。
これをリーチしてしまう人は、もう「リーチ病」と言わざるしかないです。
◯ドラがの場合
ピンフドラ1のテンパイ。
このあたりが一番悩むのではないでしょうか?
リーチをかけて出アガリ3,900、ツモって5,200、打点的にもリーチでも問題ないと思います。
ただ本手というほどの打点でもありませんので、ヤミテンのままでも勿論良いと思います。
つまりどちらでも良い状況と言え、こんな時は「自分の捨て牌」を眺めてみましょう。
もし捨て牌に1メンツが出来ていたら要注意です。それが手順通りの単なる結果論であっても、もしかしたらアガリ逃しをしていた可能性があるという事です。
「アガリ逃しをした後は他者のアガリ番が来る。」
という昔ながらの格言?があります。
こんな時はより慎重に対応する事も必要で、ヤミテンでサッとかわしにいきます。
またアガリ逃しは見られないものの、自分の切った牌をタイミング良く鳴かれた場合なんかも要注意です。
そんな時は自分が主役でない、脇役なのかもしれませんので…。
自分の役どころを見極めましょう。
◯ドラがの場合
ドラが2枚あるので、リーチをかければ出アガリ7,700と本手であるので、リーチで問題ないかと思います。
しかし、それでも周りに不穏な気配がないかの警戒が必要であります。
例えば親が前巡に下記のように仕掛けている時…。
7巡目
捨て牌
※と翻牌から切り出しており、早くストレートな手作りが伺える。
※ドラ隣のが4巡目に切られていて、ドラトイツかもしれない。
※誰も仕掛けておらず、がそんなに薄いわけでもないのに、7巡目にからのリャンメンチー。
※ダブがまだ場に顔を出していない。
※タンヤオ牌がよく切られているが、七対子にも見えない。
こんな時は親に「ロン!」と言われたら、11,600を覚悟しなければなりません。
チー
こんなダブ暗刻のドラ対子の親満チーテンを警戒しなければならず、リーチをかけて放銃に回れば痛恨の1局となってしまいます。
これは「交通事故」ではありません。しっかりと注意していれば防げていた放銃です。自分だけがドラがトイツでないという事を肝に命じましょう。
もう1つの事例、を仕掛けている親。
ポン
捨て牌
捨て牌がマンズ・ピンズ・ソウズ・字牌がそれぞれ切られている…、
そう!これこそ典型的な「大三元の捨て牌」です。しかもドラも切られて、完全攻撃体制であります。
こんな捨て牌にはやを切ってはいけません。
ポン
最近はホンイツに見せかけて、出来る限り大三元の捨て牌をぼかそうとする人も多いですが、それでも注意深く観察していれば、その偏りは分かるものです。
役無しリーチのところでも説明しましたが、「持って来たら止めるべき牌」が存在する場合は、本手であっても大人しくヤミテンに構える警戒心を持ち合わせましょう。
◯ドラがの場合
ピンフドラ3のテンパイ。
ヤミテンで7,700、リーチをかけても8,000と300点しかアップしないので、そのままヤミテンにされる方が多いのではないでしょうか?私もヤミテンにします。
しかし、本手なら堂々とリーチ、出アガリを期待せずに跳満を引きに行く選択も全然有り得ると思います。
バシッとツモられて、こんな手を開けられたら、内心「この人、本物の強者だ!参ったな。」と思わずリスペクトしてしまいます。
但し、リーチをかけて一番いけない事は、流局して「やっぱりヤミテンだったかなぁ?」と思ってしまう事です。
少しでもそんな思いが頭をよぎる人は、大人しくヤミテンにしましょう。
「役無しリーチかけるべからず。」
あなたの公式ルールの上達に繋がると思いますので、是非実行してみて下さい。
邪道戦法は次回も続きます。
お楽しみに~。
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