第141回:中級講座『二鳴きするべからず。』 浦田 豊人
2018年10月17日
北陸支部が設立されてから、もうすぐ十年という節目を迎える年になった。
一歩一歩の活動であったが、2年前から夢であった「プロテスト」を支部にて実施する事になり、北陸発の新人プロを輩出するカタチ作りが徐々に出来つつある。
そしてもう1つの夢の「北陸プロリーグ」もついに昨年よりスタートする事が出来、決勝戦は夏目坂スタジオで開催する事が出来た。
そうなると次なる夢は「北陸にタイトルを!!」
しかしながら支部員の皆さんにお願いするだけではダメで、先ずは自分が頑張らなくてはいけない。
「昔取った杵柄」で錆び付いた刀を磨かなければならない。
そんな勝つことだけしか考えてなかった昔の真剣勝負を、この講座を書きながら思い出しております…。
先日、支部の勉強会で若手プロの後ろで観戦していた時のひとこま。
東1局 北家 ドラ
ここに3巡目に東家からが出る。
彼はスルー。同巡、西家が手出しで親のを合わせ打つ。
「ポン!」今度は鳴いた。局後、彼に聞いてみる。
私「どうして鳴いたのですか?」
彼「2枚目だったので。もう無いので…。」
その時、私は連盟公式ルール用の、自分の掟をまた思い出していた。
「二鳴きするべからず。」
麻雀において「鳴く」という行為は、その日の勝負を左右する、重要な決断になり得ます。
麻雀はその都度瞬間での決断の連続で、「押し引き」や「リーチ判断」は非常に大事な判断でありますが、「鳴き判断」もその1つであります。
今回はこの鳴きにポイントを絞ってお話していこうと思います。
先ず、麻雀で「鳴く」というタイミングはどういう時かを考えてみましょう。
私は主に3つあると思います。
①鳴いても本手の時
連盟公式ルールにおいて、「本手は何点以上ですか?」と聞かれたら、私は満貫以上と答えます。
なので先ずは面前で満貫ベースを念頭に手を進めていきますが、鳴きでも同様で、もし鳴いても満貫以上の手であるならば、本手としてきちんと仕掛けるべきだと思います。
②かわし手の時
自分が本手に成り得ない手の時、逆に他者が本手の気配が漂う時、そんな時はスピード重視で仕掛けを入れて、他者にアガられる前にアガリを取る。
麻雀においての必勝法は、当たり前ですが出来るだけ大きな手をアガることですが、もしそんな手が入らない場合は、サッとアガるか、もしくは相手にアガらせないように絞る事、これもまた「逆の必勝法」であります。
一発裏ドラの無い公式ルールにおいては、そんなに毎回本手が入るわけでもなく、それ故に相手にとっても本手をかわされた時のダメージは大きく、そういう意味でもかわし手は非常に大事な手段であります。
③状態が悪いのでツモを変えてみたい時、
ツモられそうなのでツモをずらしたい時、
ブラフ鳴きしておきたい時。
これは物凄く抽象的な話になりますので、今回の講座では割愛させて頂きます。
(ホントはいっぱいお話したいのですが…。)
①本手の時、②かわし手の時、
この2つの時に仕掛けていくと決めると、思考もシンプルになり、自分に迷いが生じにくく、瞬時の鳴き判断がぶれにくくなります。
逆に言えば、「①②でない時は絶対仕掛けない!」と1回決めてみましょう。
さて、そう決めてみて冒頭の手を検証しますと、手牌のカタチもまだ整っておらず、ドラもなく、見た目通り本手とはいえません。
3巡目で他者に動きがないとすれば、1枚目は当然の見送りです。それでは2枚目はどうでしょう?
確かに他に役も見えず、2枚目なので鳴きたい気持ちにかられるかもしれません。しかし先程決めた「①本手、②かわし手」のどちらにも当てはまらないので、ここは我慢してスルーが良いと言えましょう。
役はまだまだ他に作れます。最悪メンゼンツモでも良いと思って下さい。
(最悪リーチかければ良い、とは言わないで下さい…。「第2回・中級講座」参照)
そもそも状況が変わらないままでの二鳴きというのは、私の中では存在しません。
相手側にも「なんで1枚目を鳴かなかったのだろう?」「安手だったので鳴かなかったのかな?」とイメージされ、誰もその仕掛けに警戒をせずに襲い掛かってくる事間違いなしです。
(最近では逆手にとって、ドラ2などでもあえて一鳴きせずに二鳴きしていく方もいらっしゃいますが…。)
上記の例は3巡目同巡の2枚目でしたが、これがほとんど手が進まず8巡目の2枚目でも同じであります。
東1局 北家 8巡目 ドラ
これでは1枚目時点と何ら変わらないカタチであり、ここでの二鳴きはタブーです。
もう8巡目だから安手でもアガろうと見切りをつけるのではなく、むしろ「アガらない」事に見切りをつけるべきです。
それでは少しカタチが整ってきた下記の1シャンテンではどうでしょう?
東1局 北家 8巡目 ドラ
これなら鳴いて1シャンテンで、かわし手にもなりそうなので、二鳴きOKでしょうか?
否、これもスルーをお薦めします。それはの部分が気になるからです。
上手くドラを先に持ってくれば、かわし手といえますが、もしを先に持って来たり、チーテンに取れば、
チー ポン
ドラ待ちとなり、こういう出アガリがほぼ期待出来ない一種類だけの待ちは、厳密にはかわし手とは言いません。
「早いテンパイ=かわし手」だと思いがちですが、そうではありません。
待ちがドラ跨ぎ、またはドラそのものではなく、その他のリャンメン以上でなければ、かわし手とは言い難いのです。
なので、この1シャンテンでもやっぱり二鳴きはしない、という選択になります。
鳴きは「①本手、②かわし手」の時に行う。本手ならば1枚目から鳴く。そうでなければ2枚目も鳴かない。
ゆえに「二鳴きするべからず。」なのです。
それでは二鳴き以外の、他のパターンの時でも幾つか例題をあげて、仕掛けの判断を考えてみましょう。
【例題①】
東1局 西家 8巡目 ドラ
ここに上家よりが出る。鳴くか?鳴かないか?私の答えは「鳴く」です。
テンパイの受け入れ枚数も多く、鳴かなくても十分にメンゼンでテンパイしそうであります。
ならまだしも3メンチャンの方から鳴くのはどうなんだろうか?まだ開局だし…?とも思います。
しかながら、今は公式ルールです。
一発裏ドラのないこのルールでは、面前でテンパイしても1,300点確定の手であります。鳴いても1,000点、つまりどちらでもほぼ点数は同じとなります。
であるならば、かわし手はかわし手らしく、ここはサッと仕掛けて局を回す方を選択します。
「リーチかければ2,600、ツモれば4,000になるのでは?」と思われた方は、まだ公式ルールに対応出来ていないと言えましょう。
そんな方はとにかく格好つけずに、もっと泥臭く闘う事をオススメします。
【例題②】
東1局 西家 8巡目 ドラ
先程と手牌は全く同じなのですが、今度はまだ仕掛けは入れません。
何故でしょう?そう!ドラがだからです。
この手はを引くか、待ちになってリーチをかけてツモれば満貫になり得ます。
面前なら本手になる可能性があるのならば、ここはスルーの一手です。
このように、例題①と②は手牌は全く手牌が同じであるにもかかわらず、ドラが1つズレるだけで選択がガラッと変わっていきます。
だから麻雀は奥深く、そして堪らなく楽しい競技なのですね。
【例題③】
これは私のリーグ戦での実戦譜です。
(第17期北陸プロアマリーグ)
1回戦東1局 親 ドラ
ここから私は3巡目に出た1枚目のを仕掛け、アガリやすそうな2種類のリャンメンを残し、のトイツ落としをする。
すぐにをツモりテンパイ。あっさりと1,000オールをツモる。
ポン ツモ
これ、全然駄目ですね。この手はダブがトイツでドラも1枚有るので、満貫を見据えた本手を目指さなければいけません。
から仕掛けると「ドラ1」に終わる可能性が非常に高く、それではせっかくの手材料を殺し、開局早々の勢いも殺してしまう恐れがあります。
なので、ここは1枚目のはスルー。そしてここが肝心なのですが、2枚目が出てもスルーなのです。
一方、ダブが出たら1枚目から仕掛けていき、切る牌はどちらかのリャンメンとなります。
「ダブドラ1」の親満を作りにいくべきです。
(が2枚切れてしまっていたら、ダブドラ1を目指します。)
これが「本手を作るための鳴き」、「自分に勢いをつけるための鳴き」と言えましょう。
開局早々は先制したいという弱気から安易にアガリを取りにいったり、また逆に戦闘準備不足で鳴くべき局面で「いきなりのポン」の声が出なかったりします。
しかしながら麻雀において「開局=入り」は非常に大切であります。序盤戦で簡単に一か八かにいってもいけない、かといって慎重すぎて勢いに乗れないのもいけないのです。
もう1つ私の実戦譜から。
【例題④】
第2期北陸プロリーグ第2節
3回戦 南1局 親 ドラ
1・2回戦でほぼ合計±0ポイントと、今一つ波に乗れずに迎えた3回戦。
この半荘も原点付近で一進一退の状態。迎えた南場の親でオバケ配牌を手にする。
ドラがトイツでホンイツがくっきりと見える2シャンテン。ここはなんとしてもものにしたい。
2巡目に上家からが切られる。どうする!?
鳴けば早くもMAX18,000の1シャンテン…。
私の判断はスルー。
この手、ここでやから仕掛けるとなると、おそらく最終形は下記のカタチになると推測される。
チー チー
これでは出アガリの可能性は非常に低くなり、いくらやを持って来たらリャンメンに変化出来て、ツモ期待も出来るかもしれないが、それではせっかくの手がなんとも心もとない。
なのでスルーだが、ここから場に、、とバタバタと切られて、4巡目に上家からもが切られる。
どうする!?
そう、勿論ここもスルー。
「二鳴きするべからず」理論と同じで、1枚目と状況が変わらない、この場面では枚数が薄くなったとはいえ、鳴きはありえません。
ここが「公式ルール特有の我慢」のしどころなのです。
するとすぐに下家が5巡目、を手出しで打ってくる。
どうする!?
ちなみに下家は北陸支部きっての「感覚派」の藤本プロである。
彼の感覚から、私のホンイツ狙いを見て、「面前で仕上げさせない。鳴いてみろ!」とばかりに打ち出されて来た。
イヤ、そうじゃないのかもしれないが、藤本と長い付き合いである私には、そう感じられずにいられなかった。
勿論、ここで引っ掛かるわけにもいかない。私は無言。
もうこうなったらを自力で引かない限りは仕掛けられないなぁ、その時に待ちになる枚数が残っているかなぁ、と思っていた矢先、をツモる。
こうなれば七対子が見えてくる。問題は七対子1本に絞るか?それともメンツ手との両天秤にかけるか?
私の選択は、・が既に5枚場に切られている事から打で七対子に決め打つ。
(は場に2枚切れ)
親で七対子狙いは大嫌いなのだが、もうそんな事も言ってられない。
この一連の選択が見事にハマり、
ロン
幸運にも親の跳満をアガる事が出来た。
アガッた事は勿論嬉しいが、自分で決めた「鳴くべきでない局面」で、しかも目先の点数が欲しい状況で欲に負けず、しっかりと鳴かなかった事が非常に嬉しかった。
「局面が変わらない二鳴きするべからず。」
「鳴く時は本手か、かわし手かをしっかりと自覚した時のみに仕掛ける。」
次回は「鳴かれた側」に視点を変えて、鳴かれた時の「読み」の話をしたいと思います。
邪道戦法はまだまだ続きます。
お楽しみに~。
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