中級

中級/第74回『勝因になり得る可能性』

既にご存知の方も多いと思うが、第7期女流桜花決定戦は、魚谷プロの連覇で幕を閉じた。
決定戦に向けて、魚谷プロは何度か色々なプロの方々と、本番に向けての練習試合を行っていたようで、
その中の1回に私自身も参加した。
その対局の中で、前回の中級講座に『マクロな視点から考えるべきではないか』と記したが、
それに関しての実戦譜の様なものがあったので記したいと思う。
対局者は、魚谷、福光、小川尚哉、そして私の4名。
プロ連盟のAルール(一発・裏なし)5半荘でのトータルポイント1位が優勝、という想定で行った。
2回戦が終わり、私と福光が20.0P以上浮いていて、僅か数ポイント差で私の方が上、魚谷、小川は20.0P以上沈んでいた。3回戦目のオーラスを迎えて、私は38,600点持ちのトップ目に立っていたが、対抗の福光が2着目でラス親、31,800点持ち。
Aルールは一発・裏ドラに加えて、オカもなく順位点も大きくないルールで、原点の30,000点を超えていれば順位点がプラスになる浮き沈み方式を採用している。
8巡目、私の手牌は以下。
五万六万三索三索三索四索五索六索八索二筒三筒四筒五筒  ドラ四筒
9巡目に、上家から出た七索のチーテンを私はとらなかった。
もちろんチーテンをとればアガリにぐっと近づくし、何よりトップでこの回を終えることができる。
しかし、チーテンを取ったときの方が『優勝』する確率が高いか、と問われれば必ずしもそうとは言えないと思う。
浮き沈み方式を採用している為、福光が30,000点を割れば、福光の順位点は+4.0P→▲1.0P(沈みの2着の場合、1人浮きの順位点は+12.0P、▲1.0P、▲3.0P、▲8.0P)。
そして私の順位点は+8.0P→+12.0Pとなる為、浮き沈みだけで約10,000点も違う計算となる。
私がチーテンにとり、福光からの2,000点直撃の場合は、福光を30,000点以下に沈めることができるが、それは福光のオリか攻めかの打牌選択に委ねることになる。
しかし、門前でこの手が完成すれば、ツモでも最低1,000・2,000なので、福光を沈めることができる。
もちろんチーテンをとらないで、福光にこの回トップを取られてしまうこともある。その可能性を考慮しても、私は鳴かない方が優勝の確率は上がると判断した。
オカがあるルールと違って素点が重要なので、門前でリーチを打ってアガることができれば大きなアドバンテージとなる。
結果は、スルーした直後に七万をツモって二筒切りリーチ、下家から5,200点のアガリとなった。
もちろん25,000点持ちの30,000点返しの様な、オカありのルールならばチーテンにとるし、牌姿が違えば鳴くこともあるだろう。
同じ状況だと仮定して、例えば
一万二万三万五万六万七索七索二筒三筒四筒北中中  ドラ四筒
こんな牌姿で、9巡目に中がでたとしたら鳴く。
この牌姿でも門前で進めれば満貫クラスも見込め、ツモって最低1,000・2,000だが、上述した牌姿と違って圧倒的に受け入れが狭い。その上、満貫になるのは、自力で4枚目の中を持ってきたときだけである。
この牌姿であれば、早くアガってトップでこの半荘を終えた方が、この局、この半荘だけではなく、
『優勝』に近づいているとみる。なぜなら、差を広げることに重点を置くのではなく、差を詰めさせないことに重点を置いた方が良い手であると判断するからだ。
感覚的なものだが、この局を何千回とやるとして、鳴いたほうが期待収支は良いと思うし成績も安定すると思う。前回の中級講座で記した、平均点70点の打牌(選択)とは、ここではチーテンをとることなのだろう。ただそれは(何度も言うようだが)この半荘だけを見れば、という話である。
あるプロの方にこの話をしたら、「残りの半荘数や残り局数に応じた一定以上のアドバンテージは見た目のポイント差以上に有利」という様な答えが返ってきたが、正にその通りだと思う。
ポイントや点差が開けば、残りの回数に応じた手組などが必要になってくる上、多少無理をしなければならないことも多い。更に、その人自身にかかる精神的なプレッシャーというものもある。
よく「追われるよりも追う方が楽」と聞くが、私はそんなことは決してないと思っている。
精神的な意味では追う側が楽なのだろうが、追われる方は精神的な乱れというものを無くして考えれば、ポイントはもちろん戦略的にも幅が広がり有利な立場で勝負できるのである。
様はそういった有利な立場に持ち込むために、上述の手牌、点数状況は絶好で、たった2,000点で終わらせるよりも、少しくらいギャンブルした方がいいのではないか、というのが私自身の結論だ。
以前、勝又プロが執筆した観戦記の中で「敗因にはなり得ても、勝因にはなり得ない選択はしない」という旨の記述があったが、このチーテンを取らないという選択は十分『勝因になり得る』可能性がある選択だと考える。
前回の中級講座と伝えたいことはほとんど一緒なのだが、良い例があったので今回はそれを挙げて、より詳しく書いてみた。
私自身の麻雀における最大のテーマは「読み」だが、それは手牌や山に在る牌を推測するのはもちろんのこと、ゲームがどう展開していくかということや、心の動きまで読んでいきたいと思うのである。