上級/第99回『サバキの神髄⑥ 運のサバキ』 荒 正義
2015年04月21日
2回戦は出親が前回トップの沢崎で、順にともたけ・瀬戸熊・望月の並びである。
怖い親だから早めに落とそう、誰もがそう思っていたはずだ。
一番アガリが早そうに見えたのは望月。ドラがで、6巡目でこの手牌。
ツモ ドラ
ドラが雀頭としたら、くっつきテンパイの選択である。
ソーズの好形に手をかけないなら、ピンズか切りの選択。望月の捨て牌はこうだ。
彼はここで切りを選択。牌の効率で受けの広さを重視したのだ。
これなら次のツモが懸念のでも、受けが3面チャンの下図の手だ。
振りテンだがリーチで、悠々ツモにかけられる。
彼の頭に描いた理想形はこれである。
この間にとが変われば、申し分がない。
しかし、次のツモが裏目の。これならを残せばこのテンパイが入っていた。
この時点で河にはが2枚切られていたから、手変わりもあるしヤミテンに構えたはずだ。
それならともたけのをすぐに打ち取っていたのだ。
望月の選択は、ミスではなくただの指運。
しかし、これが沢崎に大きなチャンスを与えてしまった。
この時点で沢崎の手牌はまだこうだ。
比べて望月はこう。
シャンテン数も受けの広さも大差だが、望月が空ヤマを掘っている間に、沢崎が追いつきリーチが入る。
この河である。
そして手牌がこうだ。
リーチ
この時点では1枚も出ておらず、ともたけの河にが2枚切られていたから手応えは十分。
望月は変わらずの1シャンテンのままである。
2巡後、沢崎がをツモ切ると、それをともたけが下りポンしてテンパイを入れた。
ポン
すると望月に入るはずのドラのが、沢崎に流れて2,600オール。
鳴きがなければ望月のテンパイ形はこうだ。
残り山が少なかったとはいえ、リーチで十分に勝算があったのだ。
これがこの一局の結末である。
を残せばアガっていたし、鳴きがなければ勝っていただろう。
このことを知っているのは、もちろん望月だけである。その胸中やいかに―。
チャンスを逃せば、後に来るのがピンチだ。これが流れの常識。
では、沢崎の思いはどうか。1回戦目は+22.6Pのトップ。
そしてこの局、鳴きでドラが下がってアガれたことで確かな手応えを感じていたはずである。
沢崎の目標は鳳凰決定戦進出の一点である。
その得点の目安はプラス70Pから80Pである。
8節までの得点はわずか2.6Pの浮き。しかし9節の1戦目にトップを拾えたことで(これならいける―)と思ったはずだ。
続く1本場。
テンパイ一番乗りは、やはり好調の沢崎だった。9巡目にテンパイが入る。
ドラ
ドラはだが、ここは焦らずヤミテン。ヤミテンの理由は2つ。
その1つはかを引けば、好形の両面リーチが打てるからである。
もう1つは引きの三色だ。これが沢崎の狙いの本命。
この時点で場にはが2枚切られていた。だが、沢崎はを引いてもリーチは打たない。
この形で息を殺し、じっと待つのだ。そう、真の狙いはかを引いての純チャン三色である。
これならリーチで、高めなら跳満がある。これが沢崎の隙のない戦いの構想である。
しかし、この1巡の間に3枚目のが切られた。そこでリーチだ。
ドラの出なんか当てにはしないが、相手をオロしツモに賭けたのだ。
これが沢崎の勝負の構想と、手牌の見切りである。
流れに勢いがあるからオロせば勝ちと、踏んだのだ。
タンキ待ちだが、それでも相当な自信があったはずだ。
確かに、この時点でドラのは2枚生きていた。
怖い親だから沢崎の思惑どおり、相手3人はしっかりと受けに回る。
しかし肝心のがなかなか姿を見せない。ツモる度に、萬の文字が見えると実況の白鳥が声を上げる。だがツモれない。
沢崎の最後のツモがで、ハイテイのともたけのツモが。
一牌ずれていたら危なかったのだ。もう一牌は王牌(ワンパイ)の中だった。
これで沢崎の1人テンパイ。沢崎は機を見るのが敏で、戦いの主導権を握る手段は流石である。
彼の攻めはまだ続く。
2本場。7巡目で沢崎の手がこう。ドラはである。
ドラ
ここに対面の瀬戸熊からダブル風のが出ると、これをポンして打。
鳴かない手もあったし、単にアガリだけを目指すなら鳴いて切りもある。
しかし沢崎は、今の自分の運と勢いを信じ、最高の打点に照準を合わしたのである。
次のツモがで加カン。リンシャン牌がだったが、踊るような牌捌きでツモ切る。
を切っていたら出アガリ3,900のテンパイだったが、そんな打点は眼中になしだ。
そして次のツモが、待望のドラのである。牌の来方で、この親マンのアガリはもう約束されたようなものだ。
ポン
河もが、手出しで何とも不気味だ。
ここにテンパイの入ったともたけからが出る。
一見、責められない放銃に見えるが果たしてどうか。
ともたけも沢崎の河から危険は察知していたはずである。
直撃12.600点で100ポイントあった2人の差は一気に詰まった。
この時点では残り5枚。打たなくてもツモもられていたに違いない。
前局のドラのタンキのリーチと、この局の切りは、見事な沢崎の運のサバキである。
この後も沢崎は2,600オール(3本場)を決め、持ち点を6万点の大台に乗せた。
麻雀の最高の一打は、今の自分の「運」に見合った戦いをできるかどうかにある。
オリもサバキなら、攻めも「運のサバキ」である。
そしてそのサバキは、流れ善し悪しで打牌の強弱と角度をつけることが肝心。
これが取得できたら一つの「技」となるのだ。
打ち手の能力はこの「技」の数、引出しの多寡で決まるのだ。
2回戦が終わった時点で、この日の成績は次の通り。
沢崎 +60.0P
瀬戸熊 +4.8P
望月 ▲13.8P
ともたけ ▲51.0P
ともたけが大きく沈み、前回ラスの望月が浮きの2着をキープした。
沢崎がこのまま一気に突っ走るか見えたが、そう予想通りならないのがA1の卓である。
相手も状況に応じて変化する。
相手と自分の運と勢いを量り、対応するからである。これも「サバキ」である。
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