第98回『サバキの神髄④流れの認識―NO2』 荒 正義
2015年02月17日
場面は東2局で4人の持ち点がこうだ。
沢崎38.3P
瀬戸熊30.0P
ともたけ26.1P
望月25.6P
ここで次のアガリを予測するなら、望月の絶テンの親の跳満を蹴ってラス牌ので仕留めた沢崎が本命。
次が無傷の瀬戸熊と見るのが妥当。
もちろん麻雀はまだ始まったばかりで、その流れも絶対ではない。
しかし、勝負手を蹴られた望月と、がラス牌と知っていたともたけの注意は沢崎に向いていたはずである。
だとしたならば、沢崎が先手を取って攻めたとき2人は受けの構えを取るはずだ。
勝負に出るときは自分も満貫に相当する手で、マチも好形のときに限る。
どちらか一方が欠けたら勝負はしない。
これが流れの対応で、受けのサバキである。
ただし、沢崎はがラス牌だったとは知らない。
東2局は、7巡目の瀬戸熊の手が面白かった。
??ツモ??ドラ
瀬戸熊の河にはマンズもソーズも振りテンになる牌は切られておらず、そこに引いて来たのがだったのである。
ドラはである。
ソーズの関連牌はが1枚出ているだけだ。
ならば誰しもドラの受け入れを考え、かに手をかけるのが普通である。
だが瀬戸熊は一寸の間があって切りを選択。
この一打も解説の滝沢と司会進行の白鳥を唸らせた。
確かにドラを引いてテンパイしても瀬戸熊の手からはマチのが4枚見えているのだ。
ドラそばで出づらい受けだし、相手の手の内に使われている公算が高くツモ山にいるかどうかも分らない。
しかし、この形の継続ならの重なりでも、何を引いても三色になるのだ。
これが瀬戸熊の感性で、光る一打だった。
だがこの2巡後、先にテンパイを果たしたのは沢崎である。
その1シャンテンの形はこれだった。
を引いてもを引いても受けに困る手だが、ツモが好調のだったのである。
ここで沢崎は迷わずヤミテンを選択。
リーチなら安目で7,700、高めで満貫。高めツモなら跳満が狙えるのだ。
ヤミテンの理由は何か―。
直前に望月がを切っていたからか、それとも別の理由があるのか。
あるとするなら、安めのドラでも3,900あるから十分だしドラより6の方が出やすい、と考えたかである。
この後、12巡目に瀬戸熊が追いついた。
入り目に手応えが感じるし、受けも絶好の3面チャンである。当然、リーチの一手だ。
??リーチ
(瀬戸熊の河)
ここで沢崎は、なんの躊躇もなく追いかける。
勝負は7対3で瀬戸熊有利に見えた。滝沢も白鳥もそう見たはずである。
だが2巡後、瀬戸熊の河にが打たれた。
これで沢崎が、リーチ棒付きで満貫の追加点。
沢崎の手牌には、ともたけと望月の冷ややかな視線が注いだはずだ。
さらに瀬戸熊は自分の手牌を見つめ、こう思ったはずだ。
(このツモと受けでも負けるのか―)
さっきはラス牌の勝利で、今度は不利なめくり勝負でも勝ちを収める。
これが流れの1つ、アガリの連動である。
そして、望月も瀬戸熊も避けられない放銃であったことも確かである。
3人の思いもまた同じだ。(今日の要注意人物は、沢崎だ―)
流れを認識したら、後は対応である。
沢崎の親番や攻めは、早めのかわしが必要である。
ただし、かわしはいいが勝負は無用。勢いの差があるから、正面からの戦いは不利になるのだ。
これも受けのサバキ1つで、戦いの要領である。
東3局は瀬戸熊の親番。
まず先手を取ったのはともたけだった。
10巡目にリーチをかける。
この河で手牌がこうだ。
??ドラ
しかも入り目が、カンチャンすっぽりのだから笑いが止まらない。
手が詰まれば、高め三色ののオリ打ちだって狙える河だ。
安めのツモでも5,200だし、高めなら跳満で一気に浮上である。
ところが5巡後、ともたけに勝負を挑んだのが親の瀬戸熊である。
彼の手はこうだ。
受けは悪いが入り目がドラので打点は十分。
この時点では、相手の手の内に使われて残り2枚。
圧倒的にともたけ有利に見えたが、先にを掴んだのがともたけだった。
リーチ棒付きで8,700の献上。
瀬戸熊は原点近くに戻り、ともたけは2万点を割ってラス目に落ちた。
もし、私がともたけの立場なら心の中でこう叫んだはずだ。
「オレのは、どこだ―」
東3局1本場、この局、先にテンパイを入れたのは沢崎だった。
9巡目にして仕上がりがこうだ。
??ツモ??ドラ
入り目は。マチの高めは一通ので、しかもドラ。
問題はここでリーチかヤミテンかの選択。
沢崎は迷うことなく前者を選択しを横にしてリーチ。
沢崎の状況判断に狂いはない。
のアガリなど論外。ヤミテンでもの出は、期待はしない。ならば引いてしまえ、の判断だ。
リーチで相手の手を曲げさせ、悠々と引きにかけるのだ。
そして彼はこう信じたはずだ。
(自分には二度の満貫のアガリの「運」がある。牌運も流れも良好、だからこのは引ける―)
さくらは七分咲きだが、麻雀の花は満開がベスト。
これが沢崎の攻めのサバキである。
確かにここで跳満を引けば持ち点は6万点の大台に乗る。となれば、後は1人旅である。
次の半荘はもとより、今日一日、すべてが彼を中心に回ることだろう。
このようにサバキは「受け」だけではない。
受けと流れの連動から、攻めに転じることも可能なのである。
この沢崎の遠大な構想に、待ったをかけたのがともたけである。
13巡目にともたけに絶好のテンパイが入る。
??ツモ
ともたけは無筋のをそろりと置く。
ともたけはポーカフェイスであんまり目立たない。
目立つからテンパイ叩きはいけないのだ。
こちらも同じマンズの一通だが、ともたけは確定。沢崎はマチである。
確定の分だけともたけ有利か。いや、有利なのはそれだけではない。
この間に瀬戸熊が沢崎に無筋のを強打していた。
つまり、そのは沢崎の河にあるのと同じで現物なのだ。
瀬戸熊がすぐにを掴む。
自分が通した筋だからツモ切りでもおかしくはなかった。
だが切らない。これに白鳥が感嘆の声を上げる。
(ともたけ先輩、そのはどうしたの?)
(えっ、何が?)
2人の心の会話が聞こえてきそうだ。
結果はこの後、意外にもで沢崎の放銃。
ともたけはリーチ棒と積場で9.000点の回収である。
まだ東3局である。なのに、高打点の応手。
「この麻雀は、面白すぎる!」
こう感じたのは、私だけではあるまい。
次号につづく。
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