第98回『サバキの神髄⑤流れの認識―NO3』 荒 正義
2015年03月17日
東4局は沢崎の親番。
跳満を引きに行き、逆にリーチ棒込みで9,000点の打ち込みとなってしまった沢崎。
だがその闘志は少しも衰えない。けれどこの日、迎えた最初の親番は瀬戸熊に落とされた。
瀬戸熊から7巡目にリーチが入る。
この河では読みようがない。そしてテンパイ形がこれだ。
どうということのない手に見えるが、ドラがなのである。入り目が4枚目のというのも瀬戸熊らしい引き。
2巡後、あっさりとツモって2,000・3,900。
この半荘は満貫クラスの応酬、これが荒れ場である。
打点の高いアガリが1人に偏るのが「嵐」。それが打ち合いやツモリ合いになると「荒れ場」と呼ぶ。
この時点で4人の持ち点がこうだ。
望月 | 23,600 |
---|---|
ともたけ | 24,400 |
瀬戸熊 | 37,600 |
沢崎 | 34,400 |
いつの間にか瀬戸熊が沢崎を抜き、トップに立ってしまったのである。
(やっぱり今の瀬戸熊の安定感は、ピカイチだ―)
観戦者がこう思っても何ら不思議はない。解説の滝沢も感嘆の声を漏らした。
「強い!」と。
さっきはともたけの3面シャンの先制リーチにカンで追いかけ、親で7,700をともたけから打ち取る。
今度は両面でツモだ。一見、今の瀬戸熊は死角なしに見える。
しかし麻雀の「流れ」の判断は、見る角度によって変わる。私の見方はこうだ。
瀬戸熊が超一流の打ち手であることは私も認める。しかし「流れ」は別だ。
彼は第5節までオール浮きで、プラス250P。しかし、その後は70P沈んでいたのだ。
彼の「流れ」が本物なら、浮きは300Pを突破していたはずである。
ならば上昇運が止まり、下降運に入ったと見ることもできる。
これが、瀬戸熊の「流れ」に対する正直な私の見解である。
ようやく南場に突入。ここで沢崎が鋭い仕掛けを見せた。6巡目で沢崎の手はこうだ。
ドラ
ここに親の望月からが切られる、と動いた。
通常ならこの手は面前で進め、動かないのが普通の構えだ。
しかしこの時、場にはが3枚ととが1枚切られていた。だから動いたようにも見える。
それにしても、よくポンの声が出るものだ。私は鳴けないし、動けない。
この鳴きですぐにを引きこんで沢崎はテンパイを果たす。これが沢崎の状況判断と手牌のサバキである。
ポン
ここに瀬戸熊から、食い上ったドラのを重ねてリーチが入る。
リーチ
またしても読みづらい河だ。
マチは分らなくても沢崎の染め手に勝負と出る以上、打点は相当あると判断できる。
瀬戸熊も前局のアガリとツモから手応えを感じていたはずだ。
もしも沢崎が動かなければ、手はこうなっていたことになる。
もちろん瀬戸熊のリーチも入らず、望月の手も進まなかった。
そして沢崎の手がもっと高くアガていた可能性があったのだ。鳴くべきか、鳴かざるべきか。この判断は難しい。
瀬戸熊のリーチに無筋のと強打する沢崎。これで沢崎もテンパイが明白。
そこに望月が生牌のを強打した。2人のテンパイをかわして沢崎の3,900、これは大きいアガリだ。
危険を承知で打った望月の手はこうだ。
入り目がで、ヤミテンでも出アガリ9,600。
このは今の望月の状況と立場、そして手牌が打たせたのである。
これを止めていては勝負にならない。
後の戦いは小場で流れた。そして第1戦の結末はこうだ。
(カッコ内は9節までの総合計)。
沢崎 | +22,6P(+2.6P)=25.2P |
---|---|
瀬戸熊 | +8,9P(+173.4P)=182.3P |
ともたけ | ▲11,4P(+92.5P)=81.1P |
望月 | ▲20,0P(▲81.6P)=▲101.6P |
試合は半荘ごとに15分くらいの休憩に入る。
このとき打ち手は、出た結果と流れから、相手3人の心の動きを敏感に察知しておく必要がある。
相手はどう構え、どう来るかである。
相手の仕掛けや河から、相手のロン牌を推理することを「読み」というが、それは読みの部分に過ぎない。
「読み」とは、相手の心の動きを知ることだ。そこに打ち手の雀風を加え、次の行動を予測する。これが真の「読み」である。
私の「読み」はこうだ。
現状1位の瀬戸熊は、この荒れ場を浮きの2着で通過できたことで満足だろう。
3位通過のボーダーラインは通常+70Pである。余裕を持つなら90Pあれば十分。
だとしたなら、まだ90Pの余裕がある。
残り7戦、後は一歩ずつ半荘を刻んで詰めていくはずである。
打牌の強さは、いつも通りと予測できる。
一方、ともたけは不調である。牌の巡りが怪しい。それはともたけも感じているはず。
となれば今日は、守備を重視し失点を最小限に抑えようとするだろう。
したがって、打牌は極めて「静」と予測できる。
しかし、打牌が強い時は注意が肝心。そのときは打点があってマチも好形と見なければならない。
では、望月の場合はどうか。
このラスで柴田と並んだ。A1陥落は2人で、1人は猿川で確定。
だから争いは柴田との一騎打ちである。今日がダメでも次があるから、自分らしく打とうと考える。
となれば攻めと守りの打牌が、より鮮明になるはずだ。
問題は好調の沢崎だ。トップをマクリ返し、気分は上々。今のトップで残留は確定。
だから下は見ず、上だけを見て打ってくる。
打牌も強く伸ばして来るだろう。彼の技は多彩で中にはブラフもあるが、それを見極めるのは困難である。
しかし、調子に乗ると卓上の制空権を一気に支配して来る。そうなると厄介である。
だから、彼の親だけは早めに蹴るに限る。
たった15分の合間でも、この位の「読み」と「対応」は入れておくことが大事。
プロは、卓上だけが勝負の場ではないのだ。
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