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第99回『サバキの神髄⑥ 運のサバキ』 荒 正義

2回戦は出親が前回トップの沢崎で、順にともたけ・瀬戸熊・望月の並びである。
怖い親だから早めに落とそう、誰もがそう思っていたはずだ。
一番アガリが早そうに見えたのは望月。ドラが四索で、6巡目でこの手牌。

三万七万八万九万四索四索五索六索七索八索五筒六筒七筒  ツモ四筒  ドラ四索

ドラが雀頭としたら、くっつきテンパイの選択である。
ソーズの好形に手をかけないなら、ピンズか三万切りの選択。望月の捨て牌はこうだ。

東九万 上向き北二筒 上向き西

彼はここで三万切りを選択。牌の効率で受けの広さを重視したのだ。
これなら次のツモが懸念の三筒でも、受けが3面チャンの下図の手だ。

七万八万九万四索四索六索七索八索三筒四筒五筒六筒七筒

振りテンだがリーチで、悠々ツモにかけられる。

彼の頭に描いた理想形はこれである。

七万八万九万四索四索六索七索八索四筒五筒六筒七筒八筒

七万八万九万四索五索六索七索八索四筒四筒五筒六筒七筒

この間に九万六万が変われば、申し分がない。
しかし、次のツモが裏目の四万。これなら三万を残せばこのテンパイが入っていた。

三万四万七万八万九万四索四索六索七索八索四筒五筒六筒

この時点で河には五万が2枚切られていたから、手変わりもあるしヤミテンに構えたはずだ。
それならともたけの二万をすぐに打ち取っていたのだ。

望月の選択は、ミスではなくただの指運。
しかし、これが沢崎に大きなチャンスを与えてしまった。
この時点で沢崎の手牌はまだこうだ。

六万七万八万二索三索五索六索一筒一筒三筒三筒六筒七筒

比べて望月はこう。

七万八万九万四索四索五索六索七索八索四筒五筒六筒七筒

シャンテン数も受けの広さも大差だが、望月が空ヤマを掘っている間に、沢崎が追いつきリーチが入る。
この河である。

白南東二万 上向き九筒 上向き六筒 上向き
九万 上向き四筒 上向き九索 上向き一筒 上向き一筒 上向き北

そして手牌がこうだ。

六万七万八万一索二索三索五索六索三筒三筒五筒六筒七筒  リーチ

この時点で四索七索は1枚も出ておらず、ともたけの河に五索が2枚切られていたから手応えは十分。
望月は変わらずの1シャンテンのままである。
2巡後、沢崎が発をツモ切ると、それをともたけが下りポンしてテンパイを入れた。

四万五万六万二索四索七索八索九索五筒五筒  ポン発発発

すると望月に入るはずのドラの四索が、沢崎に流れて2,600オール。
鳴きがなければ望月のテンパイ形はこうだ。

七万八万九万四索四索四索五索六索七索八索五筒六筒七筒

残り山が少なかったとはいえ、リーチで十分に勝算があったのだ。
これがこの一局の結末である。

三万を残せばアガっていたし、鳴きがなければ勝っていただろう。
このことを知っているのは、もちろん望月だけである。その胸中やいかに―。

チャンスを逃せば、後に来るのがピンチだ。これが流れの常識。
では、沢崎の思いはどうか。1回戦目は+22.6Pのトップ。
そしてこの局、鳴きでドラが下がってアガれたことで確かな手応えを感じていたはずである。

沢崎の目標は鳳凰決定戦進出の一点である。
その得点の目安はプラス70Pから80Pである。
8節までの得点はわずか2.6Pの浮き。しかし9節の1戦目にトップを拾えたことで(これならいける―)と思ったはずだ。

続く1本場。
テンパイ一番乗りは、やはり好調の沢崎だった。9巡目にテンパイが入る。

五万七万八万九万七索八索九索一筒一筒一筒六筒七筒八筒  ドラ五万

ドラは五万だが、ここは焦らずヤミテン。ヤミテンの理由は2つ。
その1つは四万六万を引けば、好形の両面リーチが打てるからである。
もう1つは九筒引きの三色だ。これが沢崎の狙いの本命。
この時点で場には九筒が2枚切られていた。だが、沢崎は九筒を引いてもリーチは打たない。

五万七万八万九万七索八索九索一筒一筒一筒七筒八筒九筒

この形で息を殺し、じっと待つのだ。そう、真の狙いは二筒三筒を引いての純チャン三色である。

七万八万九万七索八索九索一筒一筒一筒二筒七筒八筒九筒

七万八万九万七索八索九索一筒一筒一筒三筒七筒八筒九筒

これならリーチで、高めなら跳満がある。これが沢崎の隙のない戦いの構想である。

しかし、この1巡の間に3枚目の九筒が切られた。そこでリーチだ。
ドラの出なんか当てにはしないが、相手をオロしツモに賭けたのだ。
これが沢崎の勝負の構想と、手牌の見切りである。

流れに勢いがあるからオロせば勝ちと、踏んだのだ。
タンキ待ちだが、それでも相当な自信があったはずだ。
確かに、この時点でドラの五万は2枚生きていた。
怖い親だから沢崎の思惑どおり、相手3人はしっかりと受けに回る。
しかし肝心の五万がなかなか姿を見せない。ツモる度に、萬の文字が見えると実況の白鳥が声を上げる。だがツモれない。

沢崎の最後のツモが三万で、ハイテイのともたけのツモが五万
一牌ずれていたら危なかったのだ。もう一牌は王牌(ワンパイ)の中だった。
これで沢崎の1人テンパイ。沢崎は機を見るのが敏で、戦いの主導権を握る手段は流石である。
彼の攻めはまだ続く。

2本場。7巡目で沢崎の手がこう。ドラは九索である。

一万二万三万五万六万六索七索九索三筒四筒五筒東東  ドラ九索

ここに対面の瀬戸熊からダブル風の東が出ると、これをポンして打六索
鳴かない手もあったし、単にアガリだけを目指すなら鳴いて九索切りもある。
しかし沢崎は、今の自分の運と勢いを信じ、最高の打点に照準を合わしたのである。

次のツモが東で加カン。リンシャン牌が六索だったが、踊るような牌捌きでツモ切る。
九索を切っていたら出アガリ3,900のテンパイだったが、そんな打点は眼中になしだ。
そして次のツモが、待望のドラの九索である。牌の来方で、この親マンのアガリはもう約束されたようなものだ。

一万二万三万五万六万九索九索三筒四筒五筒  ポン東東東

河も六索七索が、手出しで何とも不気味だ。

白九万 上向き七筒 上向き三索 上向き北八筒 上向き
北六索 上向き六索 上向き七索 上向き

ここにテンパイの入ったともたけから四万が出る。
一見、責められない放銃に見えるが果たしてどうか。
ともたけも沢崎の河から危険は察知していたはずである。

直撃12.600点で100ポイントあった2人の差は一気に詰まった。
この時点で四万七万は残り5枚。打たなくてもツモもられていたに違いない。
前局のドラのタンキのリーチと、この局の六索切りは、見事な沢崎の運のサバキである。

この後も沢崎は2,600オール(3本場)を決め、持ち点を6万点の大台に乗せた。

麻雀の最高の一打は、今の自分の「運」に見合った戦いをできるかどうかにある。
オリもサバキなら、攻めも「運のサバキ」である。
そしてそのサバキは、流れ善し悪しで打牌の強弱と角度をつけることが肝心。
これが取得できたら一つの「技」となるのだ。
打ち手の能力はこの「技」の数、引出しの多寡で決まるのだ。

2回戦が終わった時点で、この日の成績は次の通り。
沢崎   +60.0P
瀬戸熊   +4.8P
望月   ▲13.8P
ともたけ ▲51.0P

ともたけが大きく沈み、前回ラスの望月が浮きの2着をキープした。
沢崎がこのまま一気に突っ走るか見えたが、そう予想通りならないのがA1の卓である。

相手も状況に応じて変化する。
相手と自分の運と勢いを量り、対応するからである。これも「サバキ」である。