リレーエッセィ

第68回:西川 淳

はじめまして。18期生の西川 淳と申します。
今回、第22期チャンピオンズリーグを優勝することができました。
その時、対戦した福光 聖雄プロよりバトンをいただきました。
どうぞよろしくお願いします。

私は2002年の4月にプロ連盟に入ったので10年が過ぎたことになります。
デビュー年の4月1日付の私個人のホームページのコラムに私はこう記していました。

—前略—

(以前の麻雀は)時間的、空間的制約が多いゲームの性質上、
対戦相手、対戦数は限られ、人が一生の間に伸ばせる資質の幅は限られていた。
多くの人が、井の中の蛙であり、井戸からでることがなく
井戸のなかで培った自分の財産を分け合うことがなかった。

でもこれからは違う。
インターネットの出現により、上記のようなボトルネックは打破できる可能性がある。
そのことにひらめいたから、私はプロになろうとおもったのだ。

インターネットは、膨大な数の対戦、牌譜の処理、データの検索、戦術の共有を容易にする。
公開された対局、よりインタラクティブな対話を可能にする。
そして、そのことは一般ユーザーの急速なレベル向上をも促し、
それは再び循環して、プロの淘汰、質の向上に貢献するだろう。

—後略—

まだ黎明期であった、とあるインターネット麻雀を体験して面白さにどっぷりはまりました。
そこで知り合ったひとたちを全国から集める麻雀大会を企画。
参加者100人を超える規模、名前も住所も知らない人が相手です。

現在でこそ同様の企画はあたりまえのように行われますが、当時は前例もなく、アシストしてくれるインフラもなく、
誰もが口を揃えて「そんなの無理だ」と言いました。

しかし紆余曲折はありましたが2000年に東京にて実現。
そこで出会った数多くの人々との、いまでも続く笑顔の交流が、私の麻雀観を支える原点となっています。

「麻雀は人と人とをつなぐ最高のツールだ」
「インターネットは、麻雀のありかたを変える」

この出来事により、そうインスピレーションを得た私は会社員をやめ、
翌年から麻雀教室の講師や、健康マージャンの運営で生計をたてることを目指してきました。

2008年には、麻雀教室が主目的のカルチャーセンターを千葉にオープン。
毎日、麻雀と接しています。

教室に来られる方は主に年配の方ですが、実に様々。
全くゼロから麻雀を覚える方。昔、会社員時代にならした方。いずれも楽しそうに牌と戯れます。

会場は会話と明るい笑顔で溢れています。いつも同じ時間にきて、同じ時間に帰る。
お弁当持参でランチも仲間と一緒に卓を囲む。車いすで来るかたもいる。台風でもみんな来てくれる。
毎週、往復4時間かけて何年間も通ってくれる人もいる。

「やっぱり麻雀は実際に会ってするのが楽しい」
「やっぱり麻雀は世に誇れる健全で素晴らしいゲームだ」

こんな思いを揺らぎ無いものにしてくれたのは、このような多くの方たちとの日々であることは間違ありません。
そして膨らむ気持ちは、やはり1つの願いにつながります。

「もっと多くのひとに麻雀を楽しんでほしい」

はじめてマージャンに接する人が対象の教室。全ての人が緊張や不安で「私にもできるかしら?」と表情が固くなります。
そんな中、初めて自力でアガった瞬間、電灯が点くかのようにぱっと明るくなる顔の変化は、
何回立ち会っても、心が温まる、麻雀の素晴らしさを実感する瞬間です。

そしてそれは、ポーカーフェースを気取る上級者でもさほど差はないと考えます。
長くやっていると忘れがちですが、アガる瞬間が麻雀最大の楽しみであり、続けていく原動力なのでしょう。
そう、麻雀はアガるから楽しい。

ところが、こんなに素晴らしいゲームなのにも関わらず、初心者に限らず、麻雀を途中でやめていくひとたちもいます。
幾度もあったそういう機会の度に、講師である己の非力を嘆きながら、理由を探ります。
そうすると、多くの場合、打牌批判やアガリ批判が原因であることがわかったのです。

「そんな牌を普通打つか?」
「そんなんでリーチしてどうするの?」
「そのアガリでは着順変わらないじゃない?」

このような言動を受けて、少なくない人々が、自分の打牌に制約を設け、アガリかたに制約を設け、そしてアガリの楽しみを失っていきます。
ほとんどの批判は、理に適っています。しかし、残念なことに全ての人がそれを直ちに理解できるわけではありません。
何より、多くのケースでは、発言者が思うようにいかない腹いせに言っているに過ぎないのです。

そして、結果は言われた人が心を閉ざすことになります。
心を閉ざすと、ひとつひとつの打牌に対して相手の視線、評価が気になりだします。
消極的になり、無難なものを選択するようになり、自由な表現ができなくなります。

教室で、とある初心者のひとが、四暗刻のテンパイからオリようとしていました。
理由を聞いてみると、
「だってこわいんです」

…何が?
そんな麻雀が楽しいわけがありません。

こういった経験を経るごとに、多くの人にマージャンを好きになってもらいたい人間として、

「アガリに対して楽しみながら積極性をもつこと」
「フリコミをおそれないこと」
「可能性を信じること」

などを伝えることにいつしか力を注ぐようになっていました。
そしてどんな選択も、アガリも大いに認め、絶対に批判などをしないようにと心に決めるようになっていったのです。

長年私は、このような教室等での普及活動に重きを置いてきました。
麻雀を楽しむ人を増やすことを最重要視してきました。
だから麻雀で勝つことよりも、大事にしていることを実行できる基盤づくりを優先して、時間や労力の配分を行っていたのです。

そんな私にも、競技においてチャンスがやって来ました。
18期チャンピオンズリーグの決勝戦に残ったのです。が、結果は惨敗。
そこでとても悔しい思いをしました。
このとき、「なんとかしてまた決勝に残り、そして勝ちたい」という思いがふつふつと沸き起こってきました。
なんだかんだいっても勝ちたいんですね。

時間的制約が多かった私にとって、インターネット麻雀はベストのトレーニングの場でした。
ロン2で打つ回数を大幅に増やすと同時に、プロやレーティング上位者の打ち方や考え方を勉強しました。
そんな中、とあることに気が付いたのです。

「わたしのアガリ率って極端に低い!?」

当時の私のアガリ率はだいたい23%弱でした。
「アガリの楽しみを伝えたい!」と取り組んでいたつもりの張本人がこれでは…とショックを受けたものです。

「もっとアガろう!」

スタイルの差こそあれ、トップレベルの方はやはりアガリ率が高いものです。
彼らと自分との違いを研究し、いくつかの仮説に基づく打ち方の変更を実験してみることにしました。
そして目標をアガリ率25%以上に設定したのです。

結果はすぐに出ました。飛躍的にアガリ率はアップし目標値を軽く達成。
それにともなって、平均順位やレーティングも急上昇し、2年ほど経った現在でも維持できています。

以来、プロリーグ戦連続昇級の成績をはじめとして、マスターズの決勝に残ったり、特昇リーグで優勝したりなど、
リアルな場での麻雀も格段に成績が安定するようになりました。

今春ロン2で行われた「第1回インターネット麻雀選手権」のプロ選抜選考期間に、平均順位が1.97(100半荘)という数値も残せて自信にもなりました。
私がたてた仮説に基づく打ち方の変更は、

1)1シャンテンからテンパイへのフーロを意識的に多用する。
2)先行リーチを積極的に用い躊躇しない。
3)こだわりやカッコつけた打牌を控え、実効的なアガリ取りを目指す。

という至極単純なものでした。
でも、芽がでるきっかけとは、意外とこういう単純なことにあるのかもしれません。
ロン2のデータがそのヒントをくれたのです。

そして、以前の私を知っている方からみると一目瞭然な打ち筋の変化があったはずです。

今回のチャンピオンズリーグ決勝では、自由な発想による様々なアガリの形態。
勇気をもってアガリに向かい、あきらめないこと。放銃を恐れず先手を打つこと。
など、普段教室で伝えたいと考えていることを、少しは実践できたと考えています。

もちろんこれがベストだと思っているわけではありません。
ツキで勝てた部分も大きいでしょうし、ミスも多々ありました。
上位リーグで通用するかどうかはわかりませんし、今後も成長していかないといけないでしょう。
何1つ満足しているわけではなくて、それに何といってもやはり私にとって大事なのは普及活動です。

ただ、ひとつ明らかな事として、インターネットは、わたしに2つの大きなプレゼントをくれました。
麻雀に関わって生活していくきっかけ。
そして、麻雀の技術を向上させ、楽しみの幅を広げてくれる場所。

2011年からは麻雀映像の配信も多くみられるようになり、インターネットがもたらす恩恵により、
麻雀はますますエキサイティングなものになっていくとおもいます。
そうすれば、さらに多くの麻雀ファンが増え、自ずと麻雀の可能性は広がっていくでしょう。
そんな時代を、私はみなさんと一緒に楽しみたいと願っています。

だから最後に私のお願いです。

いっぱいアガろう!
そして批判はやめよう!

相手を認め、麻雀の楽しみを共有して謳歌しよう!
そうしてくれるあなたが上手な人であればあるほど、麻雀の輪は広がっていきます。
とりあえずロン2のプロフィール成績で、私がアガリ率25%を切っていたら、
「西川はあせっているぞ?」と、ほくそ笑んでくださいね。

長文を最後まで読んでくれてありがとうございました。

では次回のバトンは、9月から日本プロ麻雀連盟のプロとしてデビューを飾った、
手塚紗掬プロ、よろしくお願いします!