リレーエッセィ/第74回:中村慎吾
2013年03月21日
201303リレーエッセィ:中村慎吾
3年前の冬、私は某大手探偵事務所で働いていた。
探偵と聞くと、ピンと来ない方もいると思うが、仕事内容の9割以上が浮気調査や人捜しである。
同じ場所に1日中張り込む事なんて当たり前で、不審がられて警察を呼ばれたこともあった(笑)。
南は九州の宮崎までドライブしたこともあったなぁ。
途中、降雪により高速道路が通行止めになり、下道を長時間掛けて走ったのは、今ではいい思い出である。
そんなハードな生活を続けていたのだが、久しぶりの休日に出会った麻雀格闘倶楽部の出現により、私の人生は大きな転機を迎える事となる。
探偵事務所に勤務する前は、暇さえあればフリー雀荘に通うほど麻雀が好きだった。しかし、中々休みが貰えず、麻雀から掛け離れた生活がずっと続いていた。そんな中、プレイした麻雀格闘倶楽部は私に衝撃を与えた。気が付くと1日中虜になって遊んでいた。
その日を境に、暇さえあれば頭に過るのは麻雀の事ばかり。調査中に、危うく対象者(追っている人)を見失いそうになり、このままではまずいと思い、今後の人生について真剣に考えた。そして熟考の末、麻雀店のメンバーとして第二の人生を歩んで行くことを決意したのである。
メンバーになった当初、当たり前ではあるが、右も左も分からない状態だった。しかし、自分にはフリー雀荘で培ってきた経験があると意気揚々に卓に入ったのだが、結果は見るも無残な惨敗。このままではいかんと思い、戦術書を読み漁り、上手い人の後ろで、打ち筋や押し引き等を見させて貰い必死に勉強した。勉強の甲斐あって、成績は徐々に向上されていった。
そんな中、麻雀プロの存在に出会ったのである。
プロの世界で自分の実力を試してみたいと思った私は、麻雀プロや麻雀団体の事を事細かに調べた。
そして、一発裏ドラのないルールでタイトル戦の多い、日本プロ麻雀連盟を受験することを決意した。
晴れてプロになった私は、最初のリーグ戦を2位通過。特別昇級リーグの権利を得たが、そこでは無念の4回戦敗退。正直、その当時の私は、Aルールというものを全然理解していなかった。巷の一発裏ドラ赤ありルールとほとんど打ち方を変えていなかったのだ。よくそんな打ち方で昇級できたなという突っ込みは置いといて、とにかくAルール麻雀を徹底的に勉強し直す必要があると考えた私は、翌年のリーグ戦から毎月A1リーグの観戦に行くことを誓った。
特に観戦したのが瀬戸熊プロ。読みが鋭く、攻撃的な麻雀は思わず見惚れてしまう程だ。観戦だけでは上手くならないと思い、暇を見つけては先輩方とAルールセットを組んだ。分からない局面があったら積極的に質問し、自分の中で納得させてから岐路に着く。そんな日々を過ごしていた私にチャンスが訪れる。
第23期チャンピオンズリーグの決勝に駒を進めたのだ。
過去2回チャンピオンズリーグに出場したのだが、ベスト16とベスト28で敗退と言う結果に終わっていた。決勝に残ったからには、目指すは優勝しかないと精神統一してから会場に向かった。
会場に着いて刻々と迫る開始時間。周りから見た私の表情は硬いように映ったかもしれないが、当の本人は全く緊張していなかった。日頃から打ち慣れているせいか、卓に着いてもその緊張が来ることもなく、立会人の合図により対局が開始された。
詳しい内容は、観戦記やインタビュー記事を見て貰う事にして、個人的に気になった局面を1つ紹介したい。
4回戦(起家から、吉田(直)・吉田(幸)・中村・高沢)
3回戦までのトータルポイントは以下。
吉田(直)+3.3P 吉田(幸)+44.3P 中村+27.2P 高沢▲74.8P
南3局2本場、西家の吉田(直)から以下の捨牌でリーチが入る。
ここまでの点数状況は、吉田(直)23100 吉田(幸)19000 中村36400 高沢41500
9巡目、親の私は以下の手牌になった。
ツモ ドラ
簡単に記すと、愚形2シャンテンで、親番とはいえ勝負に行くのは厳しい形。
トータルポイント的にも、完全にオリたいのだが、筋もワンチャンスも何もない。さてどうする?
こういった状況でよく聞くのが、どうせ安牌が1枚もないのだからリーチを無視して自分の都合に合わせて手を進めるという意見と、捨牌と切られている牌から手役を消していき、放銃しても安そうな牌から切っていくという意見。
前者は、この状況ではリスクが高すぎるように思う。もう少し好形ならば勝負に行く選択肢もあると思うが・・・。勿論この親番を落とすともう後がないというのなら話は別だが、今は満貫以上を打つと沈みの3着まで落ちてしまうという状況。この局面には見合ってない戦法だと思う。後者はヒントが少なすぎて、三色から一通まですべて見える。唯一、切り順からタンピン系と読めるのが精一杯だろう。
私の選択は打。暗刻の牌を打って、振り込んだら最悪だろうという声も聞こえてきそうだが、これこそ最善の一打だと私は思う。まず、シャンポン待ちには絶対当たらない。次に吉田(直)プロが、2巡目にを切っており、場にが3枚枯れ、カン待ちの可能性は低い。当たるとしたら、ほぼ–待ちのケースだろう。
そして、最大の理由が3巡凌げるという事。もう一度手牌を見て貰いたい。切り以外は、次にもう一度無筋を持ってきたらまた新たに開拓しなければならない。3巡凌げれば、よっぽどの事がない限り安牌に窮することはないだろう。そして可能性は低いが、を切って行くうちにツモが効いて、闘える形に復活する場合もある。
正直、これは敗因になる事はあっても勝因になることは決してない。しかし、この細かい事の積み重ねが大切だと私は思う。このをノータイムで切れたのは、日頃の訓練の賜物だろう(それが正解かどうかは別として)。この半荘は浮きの2着を取り、最終5回戦はトップで締めくくり第23期チャンピオンズリーグは優勝という最高の形で幕を閉じた。
後日、牌譜データサービスを使って、改めて自分の打牌を検証したが、細かいミスが多かった。
結果的に致命傷に繋がってはいないが、こんな麻雀を打っていたのでは、A1リーグなんて夢のまた夢である。夢ではなく現実にする為に、私は来期のA1リーグも観戦に行くだろう。そして、その努力が実り、いつの日か鳳凰位に就けると信じている。
長々と私の拙い文章にお付き合い頂きありがとうございました。
今月で28歳の誕生日を迎える、2年目の27期生中村慎吾がお届け致しました。
最後に、元探偵という異色の経歴ということで、浮気で困っている方がいましたら、無料で相談に乗りますよ~(笑)。
それでは次回は、麻雀格闘倶楽部や2013年日本プロ麻雀連盟カレンダー等で大活躍中の小笠原奈央プロにバトンを渡したいと思います。1年目からこんなにメディアに露出できて正直羨ましいぞ(笑)。
今後もブレイク間違いなしの彼女に要注目!!小笠原プロ宜しくお願いします。
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