第1期小島武夫杯帝王戦 決勝観戦記 望月 雅継
2019年09月20日
決勝戦
五月女義彦(B卓勝ち上がり、予選2位、関西代表)
『先程の役満連続を見て、最後まで諦めずに戦いたいと思います。』
荒正義(A卓勝ち上がり、予選1位)
『かなり強い人ばかりなので頑張ります。危ない人ばっかりです(笑)』
藤原隆弘(C卓勝ち上がり、予選11位)
『この席に座れているだけで大分満足していますけど、(天国の小島先生に)ここまで来たらいい決勝戦だったねと言われるように、あと半荘2回頑張ります。』
斉藤健人(D卓勝ち上がり、北関東支部代表)
『先程対局が終わって、一番勢いがあるところだと思っているので、決勝戦も飛ばしていきたいと思います。』
『小島武夫杯帝王戦』もついに決勝戦。泣いても笑っても残り半荘2回で初代チャンピオンが決定する。
準決勝はオーラスに驚くほどのドラマが立て続けに起こる、まさにスリリングな試合展開。
内容を見比べてみても、誰が勝っても全くおかしくないようなゲーム内容と選手の実力だけに、かなりの白熱した試合展開が予想されるだろう。
勝ち上がったのはプロ2人、アマチュア選手2人。
アマチュア選手の勝ち上がりは、若者の良さを十分に発揮して勝ち上がった北関東代表の斉藤さんと、熟練の技を如何なく発揮した関西代表の五月女さん。
対するプロは、剛と柔を使い分けての貫禄の勝ち上がりの荒と、緻密な仕事師らしく針に糸を通すような際どい勝負を勝ち上がった藤原。小島武夫杯らしく、故小島武夫プロに縁の深い2人が勝ち上がった。
この日の試合展開を振り返ってみても、恐らく最後まで誰が勝つのか全く分からないような試合展開になることだろう。
局が大きく動き始めたのは東2局。
親番荒の7巡目、タンヤオのテンパイもヤミテンに。9巡目、絶好のを引いてリーチに。
リーチ ツモ ドラ 裏
当然のようにをツモって4,000オール。
小島武夫杯の初戴冠は俺だと言わんばかりの貫禄のアガリで堂々とトップに躍り出た。
しかし周りも黙っていない。
東2局1本場、荒の連続攻撃。1回戦からエンジン全開。トップを不動のものにすべく12巡目リーチ。
リーチ ドラ
このリーチを受け、丁寧に対応したのは五月女さん。テンパイを拒否し、の暗刻落としを挟んで、ドラを重ねて最後はフリテンのツモアガリ。
ツモ
貴重な1,000・2,000のツモアガリ。これで五月女さんは原点復帰で2着浮上。
短期決戦とはいえ、勝負はまだまだわからない。
五月女さんはさらに攻めたてる。東4局11巡目リーチを放つ。
リーチ ドラ
このリーチに荒が襲いかかる。同巡、高目三色の3メンチャンリーチ。
リーチ
この2件リーチに、さらにかぶせるのが親番の斉藤さん。
12巡目リーチに踏み込む。
リーチ ロン ドラ 裏
この勝負を制したのは親の斉藤さん。
荒からを召し捕り、さらに裏ドラが。強烈な12,000で、ラスから一気にトップまで急浮上。準決勝D卓の勢いをそのまま継続させているようなアガリだ。
4人の牽制はまだまだ続く。
南1局4本場、五月女さん、11巡目チーで三色のテンパイ。
チー ドラ
藤原同巡七対子のテンパイ。
13巡目には荒もテンパイと追いつく。
荒、テンパイ打牌が。
このを藤原がポンして切り返す。七対子からに待ち変え。
局面が目まぐるしく揺れ動く。
五月女さんツモ。これは荒のアタリ牌。場を一瞥すると打と、役無しになるが放銃回避。
それを確認した荒、ツモ切りリーチを敢行。そしてラス牌のを引きアガる。
荒は1,000・2,000のツモアガリ。供託のリーチ棒3,000と4本場を全て回収して2着に再浮上。勝負の行方は全くわからない。
荒に喰らいつくのは藤原。
南2局、まずは斉藤さんが6巡目、ドラの切りで役無しテンパイ。
ドラ
9巡目、ラス牌のを重ねた藤原がテンパイ。当然のヤミテンから次巡、同テンのをツモアガリ。
ツモ、チャンタ、ドラ2で2,000・4,000。荒を差し切り今度は藤原が2着浮上。
藤原は後述する。
「前局の南1局2本場に、自分が強く押せれば自身のアガリがあった…。アガリ逃しの次局だけに、ここは丁寧に進める局であった。」
と、繊細な打ち手だけに、局面や自身の心の移り変わりや揺れなどを敏感に察知し、それを打牌や押し引きに反映させていく藤原の麻雀。道中、抜群の押し引きに感じられたその打牌の裏側には、経験と実績に裏打ちされた緻密な判断があることを若手プロ達には感じ取ってほしいと思う。
さて、いきなりですが問題です。
南3局、五月女さん4巡目の手牌。
ツモ ドラ
リャンメンと3メンチャンの1シャンテンのこの形にツモ。
皆さんならどうしますか?
ソウズの縦引きのテンパイをも取りこぼさないように打が自然な一打。マンズの膨らみやイーペーコーを狙いたい人はのツモ切りという方もいるはずだ。
しかし五月女さんはを暗カン。
そしてリンシャンからツモでテンパイ。さらにはカンドラがなんと。信じられないアクションとそれに応える結果の連続に、解説席も驚嘆の声を上げる。
ツモで少考。そしてドラ切りリーチへ。
そしてを一発ツモ
暗カン リーチ ドラ 裏
この結果になる選手が果たしてどれだけいるだろうか。全てのアクションが連動した2,000・4,000。この手筋でないと、この巡目にはアガリ切ることが出来ない。
全ては結果である。しかし、勝つことにしか意味を持たない決勝戦の舞台で、このアイデアが浮かぶことがすごいことなのだし、そしてそれが結果に結びつけることがすごいことなのだ。
誤解の無いように補足しておくが、極めて常識的で数字に明るい打ち手であることは、対局を観戦していればすぐにわかること。その五月女さんが勝負とばかりにセオリーを無視し、効率を無視したアクションを起こし、結果を出すことが素晴らしいと思うのだ。
五月女さんはこのアガリでラスから一気に周りを振り切り斉藤さんと並び同点トップに。
さらに卓内は勝負の熱を帯びてきた。
そして迎えたオーラス。
五月女さんと斉藤さんは同点。このままで終わると順位点は2人で分け合う事になるが、最終戦の座順は規定により、斉藤さんが東家、五月女が北家になる。
オーラスに親番を迎える北家の方が有利に働く為、斉藤さんの立場ではここは是が非でもアガって単独トップで最終戦を迎えたいところだ。
五月女さん4巡目七対子テンパイ。待ちはタンキ。
ドラ
荒5巡目テンパイ。こちらはチャンタドラ1。待ちはペン。
満貫ツモは単独トップ。斉藤さんか五月女さんからの出アガリは、放銃しない方との同点トップ。さらに藤原からの出アガリは、3人が同点で並ぶ事になる。
荒の選択はヤミテン。ツモった場合にのみトップに立つ道を選んだ。
対する五月女さんは7巡目、ドラをそっとツモ切る。あくまでタンキで心中するようだ。
荒のと、五月女さんのは共に山に3枚。
どちらもほぼ場に放たれる牌だけに、どちらが先に山にあるかが勝負となりそうだ。
五月女さんのドラ
のツモ切りを見て、荒は8巡目リーチを選択。
リーチ
すると同巡、斉藤さんのツモは五月女さんのアガリ牌。
このを斉藤さんは止めて打。見事に放銃回避。
さらに追いついたのは藤原。10巡目、待ちで覚悟を決めてリーチに打って出る。
リーチ
しかし…
勝ったのは五月女さん。力強くを引き寄せツモ、七対子。800・1,600でトップを奪取。
決勝は半荘2回戦という短期決戦の中、価値あるトップを自らの手でもぎ取った
決勝1回戦終了
五月女+23.0P 斉藤+6.2P 藤原▲7.2P 荒▲22.0P
決勝2回戦
東1局から素晴らしい牌譜が残る1局が見られることとなる。
決勝1回戦はラスとなった荒、開局からドラ暗刻の勝負手。7巡目、藤原の切ったにチーの声をかけてテンパイに。
チー ドラ
このチーを受けた五月女さんの手は、
ツモ
と、絶体絶命。孤立牌のは荒のロン牌。
フラットな状況なら当然打となるこの形から…五月女さんはを切らない。打と放銃回避。次巡ツモとアタリ牌のがターツとなり、方針変更。12巡目に、
一気通貫のテンパイに。
このテンパイがついた瞬間の親番斉藤さん、
ツモ
こちらも打となりそうなところだが…
打と放銃回避。対局に入りきっているように感じるアマチュア選手の両者。そしてディフェンス力の高さ。
結果、荒がを掴み五月女さんへの2,600の放銃で決着。
よく考え直してみよう。
1回戦ラスの荒が、リャンメンチー。それもからのをチーなのだ。
これはもう、緊急事態であると。
A1リーグで荒と共に長く戦ってきた者ならば、荒のこのアクションに恐怖を感じるのは各者の共通見解であろう。荒がチーなのだからテンパイは明白。ドラのが恐らく刻子である以上、荒の待ち取りは以上の待ちになっているはず。それならば…このは危険牌の1つであろう。
ここまでの推理はわかる。
しかし、それでも自分に甘え、欲に駆られて打としてしまうのが並の打ち手であろう。
結果的に五月女さんはを切らなかった。そしてがアタリ牌であった。さらにでアガリ切った。これが五月女さんの力なのだ。補足しておくと、を切り出さなかった斉藤さんも同等の評価を受けるべき打ち手であると思う。
この安定感とディフェンス力を見ると、五月女さんと斉藤さんのどちらかが大金星を挙げる可能性が高まったように思えた。そして、それがフロックではなく、ここまで勝ち上がってきた真の力であるという事の証明にもなるはずだと。
アマチュア選手2人のスーパープレーが、戦っている選手の目に映っていたかどうかは定かではない。しかし、このプレーが、明らかに1人の男の心に火をつけた。
東2局、優勝する為には是が非でも落とせない藤原の親番。
9巡目、理想的なツモでのテンパイを果たしリーチに。
リーチ ツモ ドラ 裏
予選道中、準決勝、そして決勝。
数々のスーパープレーを見せてきた藤原に、麻雀の神様が、いや、小島武夫が届けてくれた裏ドラ3枚のプレゼント。
「このアガリで、五月女さんとほぼ並びになったことはすぐにわかった。ツモって4,000オールでも嬉しいのに、普段乗らない裏ドラが3枚も乗ったという事は、何か見えない力が背中を押してくれているようにも感じたんだ。」
藤原はこのアガリで五月女さんを1.2Pかわしてトータルトップに躍り出た。
まだ先が長いとはいえ、この6,000オールには点棒以上の価値があったはずだ。
東3局2本場は藤原が斉藤さんに2,600の放銃。
東4局、斉藤さんが藤原に2,000の放銃。
重い空気の中、終局に向かって一歩ずつ近づいている。
南1局、最後の親番の斉藤さん、10巡目リーチに。
リーチ ドラ
この親リーチに荒がかぶせる。12巡目、リーチを宣言。
リーチ
五月女さんも追いつく。同巡、タンヤオイーペーコーのテンパイをヤミテンで押す。
この3者の争いは、親番の斉藤さんが粘りこむ。荒からで2,000の出アガリ。
何とか粘った斉藤さんであったが、続く南1局1本場、五月女さんは何と2巡目テンパイ。斉藤さんの親番を落としにリーチで攻め立てる。
リーチ
あっさりと五月女さんがツモって500・1,000は600・1,100。
斉藤さんの最後の親番を落とすことに成功。
親番が落ちた斉藤さんだが、この時点ではたった1万点程の差しかない。そんな斉藤さんに値千金のテンパイが。南2局9巡目、
ドラ
メンホン七対子のタンキに。これをアガれば一気の再浮上も見えてくるところ。
しかし親番の藤原も譲れない。
10巡目藤原、こちらはドラを暗刻にしてのイーペーコードラ3の超勝負手。藤原らしくここは当然のヤミテンに。
ツモ
斉藤さんのは山に2枚。対して藤原のは山に4枚。
13巡目、藤原が手にしたのは待ち望んだ。
初代小島武夫杯帝王位の座をグッと手元に引き寄せる4,000オール。これで優勝への道が一気に広がった。
南2局1本場
追いかける立場の3者。1局も無駄に出来ない。
斉藤さんはタンピン三色の1シャンテン。
荒はドラ暗刻の1シャンテン。
そんな中、五月女さんは12巡目三色のテンパイ。当然即リーチに。
リーチ ドラ
しかし…
このリーチはジュンカラ。
同巡斉藤さん、三色ならずのタンピンテンパイ。点数が必要な斉藤さん、ここはまだヤミテンを選択。
ここは両者痛み分け。
丁寧に対応した藤原の親番が落ち、残すはあと2局。
南3局2本場親番の荒、10巡目ポンでホンイツのテンパイ。
満貫を引きアガれば、荒にだってまだまだチャンスがひろがってくるはず。
ポン ドラ
しかしそんな荒の前に立ちはだかったのは、逆転を目指す五月女さん。
12巡目渾身のリーチを放つ。高目がドラのタンピンリーチだ。
リーチ ツモ ドラ 裏
なんとここでも一発ツモで2,000・4,000は2,200・4,200。一気に藤原を再逆転。再度トップに躍り出た。
そしてこのアガリで、斉藤さんと荒の小島武夫杯は幕を閉じる事になってしまったのだ。
泣いても笑っても最後のオーラス。最後は2人のマッチレース。
五月女さんと藤原の差は4.3P。1,000・2,000のツモアガリか、2,600の直撃。周りからは5,200の出アガリが藤原の逆転条件。
五月女さんは伏せても逆転される事はない為、実質この1局で勝負が決まる。
南4局。勝利の女神が微笑むのは、五月女さんか、藤原か。
流局OKの五月女さんは、序盤から安全牌を確保しながらの手牌進行。無事終局する事を祈る。
対する藤原は、タンヤオベースで手を進める。13巡目、条件を満たすイーペーコーが完成してテンパイ。後はをツモるだけ。
山にはがたった1枚眠っているのだが…
ツモ ドラ
思い起こせば、予選道中から準決勝〜決勝と、数々のドラマが繰り広げられた『小島武夫杯帝王戦』。逆転に次ぐ逆転、さらには高打点の応酬、小島武夫のイズムを継承する打ち手達が、プロアマ問わず卓上で躍動し続けた2日間だった。
最後まで勝負の行方は全くわからなかった。
それは、戦いに挑んだ全ての選手が同じ思いの下、ゲームを創り上げてきたことに他ならない。
そして最後は、小島武夫を敬愛し、そして小島武夫にも寵愛されたこの男が、たった1枚のを掴み取った。
タンヤオ、ツモ、イーペーコー。1,000・2,000のツモアガリでの逆転優勝。
藤原隆弘が第1期小島武夫杯帝王戦の頂点に立ったのだ。
〜戦いを終えて〜
4位 荒正義
『今のはしょうがないと思うんですけど、予選から今日まで6回やって5回トップだったんです。小島さんが背中を押してくれているのかな…と思ったら、決勝になったらガラッと風が変わってしまって。ありがとうございました。』
3位 斉藤健人(北関東支部代表)
『決勝は予選と違って手が入らなかったんですけど、 タンキのメンホン七対子をテンパイした時にはチャンスがあるかな…と思ったんですが。久々に競技麻雀をやってみたんですけど、やっぱり面白いなって思いました。』
準優勝 五月女義彦(関西代表)
『最後、アガリにいけない状態だったので、自分でいきたかったなっていう気持ちはあります。森山会長が予選開始の際の挨拶で、藤原さんの名前を挙げた事がちょっと頭をよぎりました。なんかあるのかなぁというのは感じました。予選からずっと手が入っていたので楽しく打たせて頂きました。』
優勝 藤原隆弘
『ボーっとしてますね。僕なんかが勝っちゃっていいのかなと思うんですけど、50年くらい前に、中学生の時に11PMに出ている小島先生を観て、麻雀プロってカッコいいなって思って、それがキッカケでこの世界に入ってきた中の1人なので、勝ててメチャクチャ嬉しいです。森山会長、東京本部のプロ代表で出してもらって本当にありがとうございました。
(対局を振り返って)
あんまり覚えてないですけど、スゴイ手が入ったんで…1回戦ちょっと大事に行きすぎて日和過ぎて情けないなと思って、自分の顔を引っ叩いて2回戦に臨みましたけど、これだけ手が入ってくれたのは(小島)先生のおかげかなと思って。先生、ありがとうございました。今日、夢に出てきてほしいです。応援してくれている人のパワーのおかげで、手が入って勝てたと思います。本当にありがとうございます。』
今回が第1期となった『小島武夫杯帝王戦』。
栄えある第1期は藤原隆弘の優勝で幕を閉じた。
普段から技を磨き研鑽を重ねる麻雀プロ達が、地方に居を構えながら、麻雀を愛し麻雀と共に生きるアマチュア選手達と、『小島武夫』の冠を賭けて真剣勝負をすること。
それぞれの仲間たちの想いを背負って、地区を代表して勝負に挑むこと。
皆に愛し愛され、そして憧れた『小島武夫』の存在の大きさ。
それらを実感することが出来た『小島武夫杯帝王戦』
そんな素敵な大会に、ほんの僅かではあるが携わることが出来た事を本当に嬉しく思う。
数々の対局を目にしてきたが、本当にお世辞抜きに素晴らしい対局の数々であった。
プロアマでの映像対局としては、間違いなくここ近年のベストバウトであろう。
まだ目にしていない方は、時間が許すならば是非全ての対局をご覧になって頂きたいとおもう。それくらい素晴らしく凄まじい戦いの連続であった。
その対局をどこかで見守ってくれているであろう、小島先生。
そしてこの対局を目にして、いつかこの舞台で戦ってみたいと思う若者達。
全国各地で麻雀と向き合っている全ての方々の為に、この大会を未来永劫継続していく事が出来るよう、日々の活動に邁進していこうと心から思っている。
この場を借りて、この大会の設立、運営、放送に関わって下さった全ての皆さまに感謝申し上げます。本当にありがとうございました。
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