十段戦 決勝観戦記/第31期十段戦決勝 最終日観戦記 勝又 健志
2014年11月21日
2日目終了時のポイントは
櫻井+56.1P
藤崎+42.2P
瀬戸熊▲8.5P
柴田▲20.8P
前原▲90.0P
トータル首位を走る櫻井は、初日2日目ととにかくバランスの良さが際立っていた。
打点の見込める手牌ではしっかりと手役を狙い高打点のアガリをものにし、それ以外の局ではスピードを重視し捌きにかけるか、確実に受けに回るという麻雀で確実にポイントを積み重ねている。
残り4回戦。ここからは相手4者だけでなく、ゴールに近付けば近付くほど増していくプレッシャーとも戦わなければならない。その中でいかに自分の麻雀が貫けるかということも見どころとなる。
9回戦(起家から、藤崎、櫻井、瀬戸熊、柴田、抜け番:前原)
藤崎1人テンパイ、櫻井1人テンパイで迎えた東2局1本場2巡目。
柴田が1枚目のを仕掛ける。
ポン 打 ドラ
ホンイツの可能性はあるものの、打点は安くアガリにも遠い仕掛けである。
これはここまでの柴田には見られない仕掛けであった。
1局単位で考えるならば、私には損な仕掛けに見える。
これは、ここまでの相手の対応から戦略的に得と考えた仕掛けなのか、76.9P差が打たせた仕掛けなのか、櫻井の親番だけは自由に打たせないといったものなのか。その答えはわからないが、ただ1つ柴田は戦い方を変えてきた。
結果は、櫻井、瀬戸熊の2人テンパイ。
東2局2本場。アガリはないものの連続でテンパイ連荘を果たした櫻井に好配牌が入る。
ドラ
この後、、と引き4巡目にリーチにいく。
すぐにをツモアガリ1,300は1,500オール。
4巡目ということで高打点を狙っての、切りや切りも考えられたが、手堅くアガリを取りにいった。
櫻井はこれまで通り、スピード、打点、最終形からバランス良く折り合いをつけていく戦い方だ。
東2局3本場。6巡目に柴田がリーチ、
ドラ
このリーチを受けた藤崎が11巡目に
このテンパイを入れるが、アガリは瀬戸熊。
途中、
この難解な選択もあったが見事最速かつ高打点のアガリをものにした。
ロン
東4局2本場。親の柴田が仕掛けを入れる。
チー 打 ドラ
やはり、この3日目の戦いに向けて用意してきた作戦のようだ。
この仕掛けを受けた瀬戸熊。
ここから、を切るもを引くとを払っていく。
そして、待望のを引くとリーチにいく。
柴田はオリを選択。
今局は瀬戸熊がハイテイでを引き当て、2,000・4,000のアガリ。
その瀬戸熊は、南1局でも3,900をアガる。
南2局は瀬戸熊の1人テンパイ。
そして、南3局1本場瀬戸熊の親番。
4巡目、柴田がまたしても仕掛けていく。
ポン 打 ドラ
ここまで柴田の仕掛けは、局が終盤までもつれオリに回される展開が続いている。
しかし、自分の用意してきた作戦を簡単には変えず貫いていく。
5巡目、瀬戸熊に
このテンパイが入るとヤミテンで攻め抜いていく。
11巡目、を引くとイーペーコーに受けてリーチにいく。
このリーチに藤崎がドラ2で無筋を押す。
これで難しくなったのは柴田。2人に挟まれ安全牌に窮し中筋の切り。
これが瀬戸熊に3,900の放銃となった。
ここまで柴田の作戦はことごとく裏目に出てしまう。
やはり、柴田の最大の持ち味は序盤から終盤までを見据えた手組みでの高打点のアガリであるだけに、他3者が戦いやすくなっているように見える。
一方瀬戸熊。初日2日目には得意の連荘モードに入りそうな局面での仕掛けで崩れ、ポイントを伸ばしきれずにいたが、3日目になり瀬戸熊らしさ全開の攻めを見せている。
南3局2本場では、
リーチ ツモ
同3本場は
リーチ ロン ドラ
遂に、クマクマタイムが発動。この親番で櫻井との64P程の差を一気に詰めた。
9回戦結果
瀬戸熊+47.6P 櫻井▲8.7P 柴田▲11.2P 藤崎▲27.7P
9回戦終了時
櫻井+47.4P 瀬戸熊+39.1P 藤崎+14.5P 柴田▲32.0P 前原▲90.0P
10回戦(起家から、柴田、藤崎、前原、瀬戸熊、抜け番:櫻井)
この10回戦が終わった段階で5位のものが敗退となる。
現在4位の柴田と5位・前原の差は58P差。
前原、何とかこの差を逆転しようと必死に攻めるものの、その差はあまりに大きかった。
これまで5度の十段位獲得の前原は10回戦で敗退となった。
この半荘のトップは藤崎。
東2局に
ポン ポン ロン ドラ
東2局2本場では
リーチ ツモ ドラ
これをアガると、その後はしっかりとリードを守り切った。
9回戦では、瀬戸熊の猛攻の前にラスとなり優勝争いから一歩後退したかに見えたが、見事ワンチャンスをものにした。
瀬戸熊も、一時11,200持ちのラス目となるが、勝負所でのヤミテンがピタリと決まり、踏みとどまった。
ロン ドラ
この時、親の藤崎にはツモり四暗刻のテンパイが入っていただけに、瀬戸熊がリーチにいっていると決定打が生まれていたかもしれない。
10回戦結果
藤崎+27.1P 柴田+4.8P 瀬戸熊▲13.9P 前原▲18.0P
10回戦終了時
櫻井+47.4P 藤崎+41.6P 瀬戸熊+25.2P 柴田▲27.2P 前原▲108.0P
11回戦(起家から、柴田、瀬戸熊、藤崎、櫻井)
櫻井、藤崎、瀬戸熊はできればトップがほしいが、まずは離されずについていくことが重要であろう。
柴田は、大きな2連勝が必要になる。そんな中で始まった11回戦。まず抜け出したのは櫻井。
東4局7巡目、瀬戸熊から先行リーチが入る。
ツモ 打 ドラ
8巡目、櫻井にもテンパイが入る
ツモ
カンと追いかけづらい待ちではあるが、ここは勝負とリーチにいく。
結果は、櫻井がをツモ。大きな大きな2,600オールのアガリとなった。
まず最初のポイントは4巡目。櫻井は
ここから切りとした。狙いとしては、ダブのくっつきと、ドラがらみのイーペーコー、そして縦の手牌ということである。この選択が見事であった。手順でを切っていたならば、おそらくカン待ちでのリーチとなり瀬戸熊に軍配があがっていたであろう。序盤の捨て牌からメンツになりそうな色を見極め、ギリギリまで打点を求めていく対局観が生んだアガリであった。
また、8巡目のリーチ判断も素晴らしかった。
瀬戸熊が7巡目にドラ切りリーチならば、打点が高いか待ちがかなり優秀であるということは容易に想像できる。
その中でも、ここが勝負とリーチに踏み切った。
決勝戦で優勝を掴みとるには、どこかでリスクを負って勝負しなければならない。
まさに櫻井の強さが凝縮されたアガリといえるであろう。
東4局1本場。櫻井はさらに勝負を決めにいくべく攻める。
ドラ
ここから櫻井は切り。7巡目、を引くと理想的なテンパイでリーチ。
櫻井がリードを広げるかに見えたが、このリーチを後のない柴田がかわす。
ロン
柴田はポイント差を考えるとリーチにいきたい手牌ではあったが、ここは櫻井の連荘阻止のため、グッとこらえヤミテンを選択。勝ちたいから、差を縮めたいからリーチではなく、勝ちたいからこそのヤミテンであった。
まだ櫻井も抜け出せない。
南1局1本場。柴田が
暗カン リーチ ツモ ドラ
この3,900は4,000オールをアガリ、3者のポイント差が一気に詰まってきた。
南2局。遂に櫻井が抜け出す。
櫻井、7巡目にをチーして1シャンテン
チー ドラ
この仕掛けを受けて瀬戸熊、
ツモ
このをツモ切る。アガリにかけるならソウズ以外にターツを求めたい局面ではあるが、瀬戸熊の手牌にはドラのが孤立している。万一このを仕掛けられたなら手残りしているが厳しく勝負にいきづらい。ならばここはかを選択するのが瀬戸熊のバランスであると思うが、ここは自らのアガリを最優先に手牌を進めた。
このを櫻井がポンしてテンパイ
ポン チー
この清一色にドラが重なった柴田が飛び込む。
ツモ 打
まだまだ加点の欲しい柴田は、高打点が見込める1シャンテンなだけに勝負にいったが手痛い放銃となった。
1シャンテンでを切るとこの先のソウズはほぼツモ切りになってしまう。櫻井がまだノーテンの可能性もあるからこその切りであるが、柴田は放銃が即致命傷となるポイントなだけに、受けに回る選択もあったであろう。
このアガリが決め手となり11回戦は櫻井のトップとなった。
11回戦結果
櫻井+14.7P 柴田+8.1P 瀬戸熊+4.7P 藤崎▲27.5P
11回戦終了時
櫻井+62.1P 瀬戸熊+32.9P 藤崎+14.1P 柴田▲22.1P
最終12回戦(起家から、瀬戸熊、藤崎、柴田、櫻井)
東1局、瀬戸熊が櫻井から直撃。
ロン ドラ
東1局1本場は、瀬戸熊が2,000は2,100オール。
そして、東2局2本場。これ以上の連荘は許したくない櫻井が仕掛ける。
ドラ ポン 打
状況的に、藤崎、柴田が瀬戸熊の親を捌きにいくとは考えづらい。
ここは自分でアガリに向かった。また、柴田の捨て牌が国士模様なことも大きな要因であった。
櫻井は形が悪いながらも、瀬戸熊に打ちやすい牌を残しつつアガリ切れるターツを探していく。
しかし、瀬戸熊からツモの声。その手牌は
ツモ
難しい単騎選択を正解し、素晴らしい6,000オール。
なんとこのアガリで瞬間櫻井を逆転する。流れを重んじ、自身が攻めれる局面まで我慢を続け、勢いを掴んだと見たらメンゼンで高打点のアガリをものにする。これはまさに、瀬戸熊の勝ちパターンであり、この麻雀で十段位三連覇を成し遂げている。この勝負所である最終12回戦で絶対王者と呼ばれるその力を存分に見せつけた。
しかし、櫻井もこのまま引き下がるわけがない。
東4局2本場に
ツモ ドラ
これをアガリ、その差は約10ポイント。まだまだ勝負の行方はわからない。
東4局3本場11巡目。
ドラ
櫻井がリーチにいく。456の三色やタンヤオへの変化もあるが、もう形ではない。櫻井の気持ちが全面に表れてるリーチである。瀬戸熊もこのリーチにベタオリせずにアガリを目指す。両者気持ちのこもった戦いが続く。
そして最終手番、櫻井がを引き寄せた。
これで再び櫻井が10ポイント程のリードを築く。
南1局、瀬戸熊はこの親で再びの逆転を目指すが、ここも櫻井がアガリ切る。
ロン ドラ
そして、オーラス。瀬戸熊の条件は倍満のツモアガリか、跳満の直撃。
櫻井は第一打からオリを選択。瀬戸熊の手牌に注目が集まる。
9巡目、
ツモ ドラ
条件を満たす1シャンテンとなる。
しかし、瀬戸熊の想いも届かずここまで。
18巡目瀬戸熊がをツモ切り、4者が手牌を伏せ櫻井の優勝が決まった。
12回戦結果
瀬戸熊+26.8P 櫻井+20.1P 藤崎▲19.3P 柴田▲27.6P
最終成績
櫻井+82.2P 瀬戸熊+59.7P 藤崎▲5.2P 柴田▲49.7P 前原▲108.0P
優勝した櫻井は「これでやっと麻雀プロとしてのスタートラインに立てた。今後のシードももらえるのでそこでは、結果だけではなく良い麻雀も意識して取り組んでいきます。」と。
櫻井は今十段位決定戦では、内容よりも結果にこだわっていたとも話してくれたが、12回戦を通じて最もぶれることなく自分の麻雀を貫いていた。
その、手牌の見切りの鋭さであったり、勝負所の見極めであったりは、戦いを見守る多くのファンの方々に感動を与えたであろう。
もうじき行われる王位戦や、年度末に行われる麻雀グランプリMAXでも、櫻井の活躍に注目である。
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