第35期十段戦決勝 最終日観戦記 前田直哉
2018年10月12日
初日を終え、各々何を思い1週間を過ごしたのだろうか?思いはそれぞれだろうが、今日その戦いに終止符が打たれる。最後に笑っているのは誰だろうか?
5回戦終了時のポイント上位者から最終日の抜け番が選択出来、初日トップの沢崎は初戦の7回戦を抜け番とした。
6回戦終了時
沢崎+65.0P 佐々木+40.0P 内川▲16.7P 藤崎▲41.0P 黒沢▲47.3P
7回戦(親から、内川・黒沢・佐々木・藤崎)
東1局、親の内川が三色を見つつ手を進めるが、10巡目に足止めのリーチとする。だが、最も早くテンパイしていた藤崎がアガリきり幸先の良い出足となった。
ツモ ドラ
次も追いかける側の黒沢の出番となる。東2局1本場、親番でこの手をヤミテンとした。
ドラ
そしてこの後を持ってきてを切ってのリーチに踏み切った。だが前局に続きここも流局。だが次局はしっかりとヤミテンでアガリを取り迎えた3本場、最初のテンパイは佐々木。
ツモ ドラ
を切ってドラ受けのリーチもあるが、南家なのでここは手堅くを切ってヤミテンとする。佐々木らしい一打である。だがまたしても黒沢が来る。
これはさすがにヤミテンとした。そして内川も仕掛けてここに参戦する。
チー ポン
この仕掛けと黒沢のテンパイを察知してか佐々木が一旦迂回する。すると今度は藤崎がここにリーチで割って入ってくる!
リーチ
いかにも苦しいリーチだが、このくらいをアガリに結び付けないと逆転は難しいと思ってのことだろう。だがすぐに藤崎がを掴んでここも黒沢のアガリとなる。次局は藤崎が軽く流したが黒沢にとっては十分な加点となった。
南1局、最初にヤミテンを入れる佐々木。
ドラ
そして親の内川も足止めも兼ね、先制リーチとする。
リーチ
すると同巡黒沢の追いかけリーチが飛んでくる!
リーチ
これを見て、ならば俺も!と佐々木もリーチといったのだ!
今日を占う山場となった。そして力強く牌を手元に寄せたのは内川だった。打点こそ無いが色んな意味で大きなアガリとなった。そして次局も4,000オールをアガリ一気にトップ目まで突き抜ける。
ツモ ドラ
その後も黒沢から5,800をアガリ、トップを盤石のものとする。
ここまで苦しい佐々木だったが南3局の親ではここからフリテンリーチとした。
リーチ ドラ
を切ってはいるが高目ツモなら6,000オールだ。そして数巡後この手が開花する!高目のをツモリこれで一気に浮きにまわる。常に冷静に見える佐々木だが、この時は少し手が踊っているように見えた。
そしてオーラス。東2局では5万点あった黒沢だが持ち点は原点を割っていた。だが高目なら浮きになるリーチを入れてくる。
リーチ ドラ
これに終盤、親の藤崎も追いつきリーチ。
リーチ
このリーチを受けて止まる内川。2人の共通安全牌が無いのだ。そして2人の筋であるを河に置くと藤崎からロンの声。やってしまったと、この時の内川の表情がとても印象的だった。最後は黒沢が浮きになる七対子ドラドラをツモって藤崎の1人沈みで乱打戦であった7回戦は終了した。
7回戦成績
内川+14.9P 黒沢+6.8P 佐々木+4.0P 藤崎▲25.7P
7回戦終了時
沢崎+65.0P 佐々木+44.0P 内川▲1.8P 黒沢▲40.5P 藤崎▲66.7P
8回戦(親から佐々木・藤崎・沢崎・黒沢)抜け番 内川
東2局親の藤崎がツモリ三暗刻でリーチ。
暗カン リーチ ドラ
これに黒沢も勝負手になって追いつきリーチ。
リーチ
このも山には残っていなかったが、佐々木が完全に手詰まりとなりが打ち出されてしまう。これは沢崎にとっても嬉しいアガリだろう。
東場は沢崎の思惑通り小場で進んでいき南1局には藤崎が仕掛けてテンパイ。
チー ポン ドラ
だがこの仕掛けで黒沢にドラのが重なり更にを暗刻にしてリーチが入る。
捨て牌に情報が少なく早速手詰まる佐々木…藤崎の仕掛け、黒沢のリーチに挟まれ吸い込まれるようにを河に置いた。これが黒沢への5,200の放銃となり、沢崎を追いかける佐々木にとっては手痛い放銃となった。
そして南2局には親の藤崎からのリーチ。
リーチ ドラ
沢崎も佐々木も先にテンパイを入れていたがここはドラのを藤崎がツモって2,600オール。
そして佐々木1人沈みのまま迎えたオーラス、このまま終わらせようと沢崎が仕掛けていく。だがこの仕掛けで佐々木にテンパイが入りリーチ!
ドラ
三色確定のリーチだ。これをツモっても浮きになることは無いが、沢崎を沈めることは出来る。だがそれよりも嬉しい結果となったのだ。同巡テンパイが入ってしまった沢崎からが打たれ、この5,200で沢崎がラス、佐々木3着で終了し波乱の幕開けとなったのだった。
8回戦成績
藤崎+13.1P 黒沢+8.6P 佐々木▲8.2P 沢崎▲13.5P
8回戦終了時
沢崎+51.5P 佐々木+35.8P 黒沢▲31.9P 藤崎▲53.6P
9回戦(親から沢崎・黒沢・内川・佐々木)抜け番 藤崎
8回戦では痛恨のラスを引いてしまった沢崎だが、それを修正していくかのように東1局の親番で2,000、1,300オールと効果的に持ち点を増やしていく。そして次局先手を取ったのは黒沢。
リーチ ドラ
リーチとするが親の沢崎も追いつく。
は2枚切れだがここは強くを切って勝負に出た。だが佐々木もドラ暗刻のテンパイが入ってしまいで黒沢の高目に放銃となってしまったのだった。次局も親の黒沢に勝負手が入るが、周りも見事な対応を見せここは流局。次局は放銃してしまった佐々木が反撃のリーチと出る。
リーチ ドラ
このリーチに対して仕掛けて沢崎も追いつく。
ポン
を切って真っ向勝負に行くのかと思いきや、ここは安全に現物のを切る。正直言って違和感をおぼえた…いつもの沢崎ならを鳴いた以上、強くを切っているイメージだったからだ。そして佐々木からが打たれる。これを見て何を思っただろうか?結果これで佐々木が助かり、をツモって1,000・2,000のアガリとなった。
更に佐々木は東3局で積極的に仕掛けを入れる。
ドラ
なんとこのテンパイからをポン!一気にチンイツへと渡っていく。だが沢崎もヤミテンを入れる。
更に黒沢も追いつきリーチ。
リーチ
その宣言牌をポンして佐々木もテンパイ。この勝負所を制したのは佐々木だった。強引かと思われた仕掛けだったが見事に仕上げて黒沢から討ち取ったのだ。
ポン チー ポン ロン
そして南2局、ホンイツへと向かう内川とドラ暗刻の沢崎がぶつかる。北家の沢崎がの後付けで仕掛けていくが、放銃するかと思った内川がそのを重ねてテンパイする。沢崎も目一杯に構え打ち出したが内川への放銃となってしまう。
加カン ロン ドラ
ここまで悪くない展開だっただけに、沢崎にとっては痛恨の放銃となった。更に次局も内川が沢崎から5,800をアガリ、もう全くわからなくなってきた。更にリーチで畳み掛ける内川だったがここは佐々木が1,300・2,600をツモ。
最後は黒沢がラス目から3着になるアガリで沢崎をラスにして9回戦は終了した。
9回戦成績
佐々木+17.5P 内川+12.5P 黒沢▲10.8P 沢崎▲19.2P
9回戦終了時
佐々木53.3P 沢崎+32.3P 内川+10.7P 黒沢▲42.7P 藤崎▲53.6P
10回戦(親から藤崎・佐々木・内川・沢崎)抜け番 黒沢
ついにトータルトップが沢崎から佐々木へと移った。そしてこの10回戦が終わると1名敗退が決定する。初日好調だった沢崎がいきなり2ラスと誰が勝ってもおかしくない展開になってきた。
そして東2局、内川が一気に並びにかかる。
ドラ
これをアガれば一気にてっぺんが見えてくる。だが親の佐々木も遂に追いつく。
かの2択だがここはを切って単騎とする。実際は既に山には無かった。そしてこのが沢崎から放たれる。大きな大きな7,700となった!
だが東4局、親の沢崎がホンイツへと向かって仕掛けを入れる。先にテンパイしたのは藤崎だ。
ドラ
三色にしてリーチ。しかし親の沢崎も2つ仕掛けてテンパイ。さすがに流局かと思ったその時、佐々木の手が止まる…そして吸い込まれるように筋のを手に取り河に置いたのだ。まさかの5,200放銃となった。これが目の前にタイトルが見えてきたプレッシャーなのだろうか?それでもまだトップ目であることに違いない。そして次局、佐々木珍しくの後付けの仕掛けを入れる。だが内川への2,600の放銃となってしまう。珍しく冷静さを欠いているように私には思えた。
そして南2局、とんでもない展開になっていく。まずは11巡目に内川がテンパイしリーチ。
リーチ ドラ
待ちこそ悪いが今日は攻めきるという意思のリーチだ。それを受けて親の佐々木も仕掛けてテンパイを取った。
チー
しかしこの仕掛けで沢崎の手が化けていく。を引きを鳴くと更にを引き大三元のテンパイとなったのだ!
ポン
内川のも山に1枚いるが、このも1枚いるのだ!更に後がない藤崎もテンパイしリーチ。
リーチ
ツモは2回ずつ…固唾をのんで見守るがここは決着つかずに流局となった。沢崎のテンパイ形を見てヒヤリとしたに違いない。
そしてオーラスは内川がアガリ、トップで10回戦は終了した。
10回戦成績
内川+17.3P 佐々木+6.5P 藤崎▲9.0P 沢崎▲14.8P
10回戦終了時
佐々木+59.8p 内川+28.0P 沢崎17.5P 黒沢▲42.7P 藤崎▲62.6P
ここで藤崎の敗退が決定した。本人によると初日の成績もやっぱりそうだろうなと思ったそうだ。そして途中敗退も予想はしていたとのことだった。皆強いので今の状態で自分になんとかなる相手ではなかったですと語っていた。
11回戦(親から、内川・黒沢・佐々木・沢崎)
東1局最初にテンパイを入れる佐々木。
ドラ
ここはヤミテンに構える。打点もあるしここはリーチでも良かったのでは?そう思っていると親の内川からリーチが入り、佐々木は撤退。だが数巡後にこれまでのアガリ牌であったを持ってくる。そうなると俄然内川有利だ。そして安目ではあったが幸先よく2,000オール。
ツモ ドラ
佐々木も放銃したくない気持ちはわかるがまだ守るには早い気がした。東2局も内川がアガる。
ポン ロン ドラ
トータルトップの佐々木からの直撃でトータルでもついに内川が上に立った。
そして東3局、今日はまさかの3連続ラスの沢崎から意地のリーチが飛んでくる!
リーチ ドラ
なんと四暗刻だ!これをツモるようならまた勝負の行方はわからなくなる。だが皮肉にも山には残っていなかった。逆にドラをポンしていた黒沢への7,700放銃となり今日の不調を物語るようであった。
ポン ポン ロン ドラ
南2局には内川が3,900。更に南3局にもタンヤオ三色ドラ1のテンパイ。
ドラ
黒沢も追いつきリーチ。
リーチ
更に沢崎も追いかけリーチ!
リーチ
いずれも山にいて、決着はすぐについた。この勝負も制したのは内川だった。黒沢から8,000をアガリ、トップを盤石のものとした。最後は黒沢がなんとか浮きにまわり11回戦は終了した。
11回戦成績
内川+28.5P 黒沢+4.0P 佐々木▲13.8P 沢崎▲28.7P
11回戦終了時
内川+56.5P 佐々木+46.0P 沢崎▲1.2P 黒沢▲38.7P
いよいよ最終戦を残すのみとなった。トップの内川と佐々木の差は10.5Pで、まだ全くわからない。沢崎は初日の貯金を全て使い果たしたがこのまま終わる人ではない。黒沢にも一発の爆発力がある。最後にどんなドラマが待ち受けているのだろうか?
最終戦(親から、佐々木・沢崎・黒沢・内川)
東2局、最初の山場が来る。黒沢がリーチ。
暗カン リーチ ドラ
ツモれば跳満まである。そしてドラを重ねて追いつく佐々木。
これもツモれば跳満だ。その後佐々木はに待ち替えをしてリーチとした。
それを仕掛けて沢崎も追いつく。
チー ポン
ロン!8,000。声の主は佐々木だった。沢崎からのアガリでトータルでも若干だが内川をかわす。
そして東3局、またしても大物手をテンパイする佐々木。
ドラ
これが成就すれば十段位が現実味を帯びてくる。しかし親の黒沢からリーチが飛んでくる。
リーチ
こっちも大物手だ!佐々木はどこまで押せるのか?だがを黒沢がツモリ6,000オール。麻雀の神様は簡単にはまだ勝者を決めかねているようだ。
今度は内川だ。
ポン ドラ
佐々木も追いつき直接対決となる!
ここは佐々木に軍配が上がる。内川も選択を間違っていなければアガリの手順があっただけに、悔やまれる局となっただろう。
南入し、佐々木は1人テンパイで更にポイントを突き放していく。だが1本場、内川が反撃の狼煙をあげる。
ドラ
更に黒沢もリーチ。
親の佐々木もフリテンながら粘ってテンパイを維持し、3人テンパイで流局。その後も1人テンパイ、1,500と効果的に加点していく。だが4本場では内川がリーチし、佐々木も真っ向勝負の構えだ。アガリ牌を手繰り寄せたのは内川だった。
リーチ ツモ
この2,000・3,900で浮きになり、佐々木に親被りをさせまた肉薄してくる。
南2局でも両者がぶつかる。今度は仕掛けての対決、内川はトイトイ。
ポン ポン ドラ
佐々木はホンイツだ。
チー ポン
この大一番を制したのはまたしても内川だった。をツモって1,600・3,200のアガリとなり、トータルでも5ポイント上に立った。
そして遂にオーラス。
実質内川と佐々木の勝負となった。その差は5.0P。
佐々木はテンパイも程遠い。内川もテンパイを入れるが終盤になり、流局を視野に入れてテンパイを崩していく。ジッと下をうつむく内川…この局が無事に終わることを祈っているに違いない。だがずっと内川を見てきた者にとっては、プロ入りしてからの十数年を振り返り、そしてやっと手にするタイトルを目の前にこみ上げてくる気持ちを噛みしめているかのように見えた。長い戦いに終止符が打たれた。
第35期十段位に輝いたのは内川幸太郎だった。
最終戦終了時
内川+70.8P 佐々木+65.8P 黒沢▲31.1P 沢崎▲42.9 藤崎▲62.6P
なんとか間に合ってくれた。だが、万全の体調でこの場に臨めなかったのはさぞかし悔しかっただろう。だからこそ既に来年の藤崎は脅威に思えた。
初日あれだけ好調だった沢崎がここまで苦しむと誰が想像したであろう。それでも役満を2度テンパイし、レジェンドの意地と底力を見た気がした。
勝てば女流初の十段位となれた黒沢だが、強気のヴィーナスは最初から最後まで強気のヴィーナスだった。初日の勝負手が序盤に決まっていれば全く違う展開になっていただろう。
最後まで内川を苦しめた佐々木。関西本部所属なので最初はあまり手筋を知らなかったが、しっかりと手役を作り、しっかりと牌を絞り、さすがここまで勝ち上がってきただけはあるなと感じたのは私だけではないだろう。
そしてやっとの思いで掴んだ初タイトル。
ここまでの道のりは長かっただろうし、悔しい思いもたくさんしてきただろう。最後の一打まで気迫が伝わってきた。きっとこれをきっかけにタイトル獲得を伸ばしていくに違いない。
初段戦から決勝までの長い戦いで最後に笑えるのはたった1人である。来年こそはこの舞台に!そう思って連盟のプロたちはまた明日から精進する。そんな私もその1人である。
ウッチー本当におめでとー!
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