第35期十段戦 ベスト16A卓レポート 小車 祥
2018年07月06日
上田直樹(前年度決定戦出場により、ベスト16シード)
内川幸太郎(五段戦からの出場)
櫻井秀樹(歴代十段位として八段戦からのシード出場)
佐々木亮(五段戦からの出場)
過去2年、最も十段に近かった男上田。
A1リーガーでメディアでも活躍している連盟の看板選手の1人内川。
十段戦の高いステージには必ず名を連ねる櫻井。
関西本部の猛者佐々木。
1回戦(起家から、内川・佐々木・櫻井・上田)
序盤は大きな点棒の動きはなく、さばき手の成就か流局が続いた。
上田が親番で粘りを見せ連荘に成功し35,700点持ちのトップ目に立つ。
東4局2本場 親 上田
8巡目、上田が切ったを内川が仕掛けて以下のテンパイ。
チー ドラ
メンゼンで仕上げたい手だが、切られたは場に4枚目。
内川も致し方なく仕掛けた部分はあったかもしれない。
この仕掛けによって流れたツモが、佐々木のなんでもなかった手牌を化け物に変える。
以下、仕掛けが入った時の佐々木の手牌。
ここからの佐々木のツモが、、。ここで切られたポンテンのを佐々木はスルー。さらに自力でをツモってツモり四暗刻テンパイ。
リーチも打たずヤミテンに構え、山に1枚しか残っていなかったをあっさりツモった。
ツモ
8,000・16,000は8,200・16,200の大きなアガリ。
1回戦はこのまま佐々木が逃げ切り終了。
チャンス手は各々入っているが、アガリには繋がらない展開だった。
1回戦成績
佐々木+44.3P 櫻井▲9.1P 上田▲13.7P 内川▲21.5P
2回戦(起家から、内川・櫻井・上田・佐々木)
東1局 親 内川
9巡目、内川が以下のテンパイ。
ドラ
手順上仕方がなかったものの、自身の河にはやが切られていて有効な手変わりは少なく見えた。
そして次巡、内川はツモ切りリーチを敢行。
ドラが見えていないことに懸念はあったかもしれないが、押さえつけてのあわやのツモアガリと流局に賭けた。
リーチの直前に声がかからなかったを内川が切ると佐々木からロンの声。
ロン
佐々木、8,000のアガリ。内川にとっては手痛い放銃となってしまう。
南2局 親 櫻井
佐々木、2巡目に以下の手牌
ドラ
ここで櫻井からが切られるが佐々木は動かない。
ポンすればチンイツの1シャンテンで残る形も良さそうだが、佐々木はじっくり構える。
その後、、と自力でツモってメンゼンのチンイツテンパイ。
を櫻井から捕らえ12,000のアガリ。
2回戦のトップ争いをしていた櫻井からの出アガリは値千金だった。
2回戦も佐々木のペースでゲームが展開し、2連勝でこの上ないリードを手に入れた。
2回戦成績
佐々木+32.7P 上田▲2.9P 櫻井▲5.3P 内川▲24.5P
2回戦終了時
佐々木+77.0P 櫻井▲14.4P 上田▲16.6P 内川▲46.0P
3回戦(起家から、佐々木・内川・櫻井・上田)
ここまで展開が向かない内川。
ここで反撃の狼煙を上げる。
東2局2本場 親 内川
7巡目、上田がリーチ。
リーチ ドラ
11巡目に内川が追いつく。
ツモ
理想のテンパイで、リーチをかけて高目ツモなら6,000オール。
トータルポイントのビハインドを思うとリーチをかけたくなるところ。
しかし内川は落ち着いていた。
がリーチをしている上田の現物。じっくりとヤミテンに構える内川。
以下、櫻井の手牌。
ツモ
櫻井はここから一旦上田の現物切りで粘る打を選択。内川がリーチをかけていれば選ばれない牌だったろう。
内川、2,900は3,500の打点以上に価値あるアガリ。ひとまずきっかけを作ったように見えた。
東4局 親 上田
局終盤にテンパイを入れた内川が上田からアガリ牌を捕らえる。
ロン ドラ
ヤミテンに構えていた内川、8,000のアガリ。
その後も要所で加点に成功した内川。
そのまま逃げ切りトップを取る。
3回戦成績
内川+27.6P 櫻井+5.2P 佐々木▲12.6P 上田▲20.2P
3回戦終了時
佐々木+64.4P 櫻井▲9.2P 内川▲18.4P 上田▲36.8P
4回戦(起家から、櫻井・上田・佐々木・内川)
残り2回戦でこのトータルポイントであれば、佐々木はほぼ当確で残り1つの席を巡る戦いになるというのは対局者全員の共通認識と言っても過言ではないだろう。
もちろんイレギュラーはあれど、心構えとして事実をきちんと認識することも必要なスキルのはずだ。
東2局 親 上田
櫻井にチャンス手が入る。以下、配牌。
ドラ
ここから早い巡目に次々と鳴きたい牌が鳴けた櫻井。
チー ポン ポン
テンパイ前に1枚切れていたを内川がツモ切る。
8,000の直撃は2つ目の席を争っている両者にとってかなり大きな点棒の動きとなった。
東3局1本場 親 佐々木
ここで櫻井との点差を広げられると最終戦がきつくなる内川。
ここは打点に折り合いをつけて、積極的に動いていく。
ドラ
6巡目に切られたをポンして打とする。
このを親の佐々木がポン。
ポン
すぐにをツモった内川、ピンズのホンイツではドラでも切る他なかった。
内川に追い打ちをかける7,700の放銃。
南1局1本場 親 櫻井
7巡目に櫻井がテンパイを入れる。
ドラ
出アガリ9,600のテンパイ。待ちごろな牌に変わるのを待つ構えを取る櫻井だが、今一つアガれそうな牌を持ってこない。
12巡目、待ちから待ちに待ち変えをする櫻井。
場にピンズはほどよく切られていてヤミテンならば拾えそうな牌だ。
16巡目、は出ないまま櫻井は持ってきたとを入れ替える。
は場に1枚も出ておらず、巡目との兼ね合いで受け気味の選択だったのだろう。
内川、最後のツモ番。
ツモ
内川はここで時間を使う。
リーチ者はいない。だがこのは切っていい牌なのか?自問自答する。
後に聞いた話では、櫻井の七対子ドラドラは読めていたのだそう。
「あの手出しのは待ち変えか?ならばからに変えた?ではからに変えた可能性は?待ちとしてはよりを選ぶのではないか?ならば単騎を選んでいる可能性は低いはずだ」
内川はをツモ切った。
櫻井、9,600は9,900のアガリ。
内川と櫻井のトータル2着争いの行方を決定づけかねない大きな大きなアガリ。
内川自身も後に話していた。
「あの判断は間違えていた。深い巡目だったから受ける意味での待ちへの変化は十分にあり得ることを見落としてしまっていた」と。
4回戦成績
櫻井+36.1P 佐々木+26.0P 上田▲19.5P 内川▲42.6P
4回戦終了時
佐々木+90.4P 櫻井+26.9P 上田▲56.3P 内川▲61.0P
最終戦(起家から、内川・佐々木・上田・櫻井)
櫻井と上田のトータルポイントの差が83.2P。
櫻井と内川のトータルポイントの差が87.9P。
奇跡を何度か起こさない限り逆転できるような差ではない。
東2局 親 佐々木
4巡目、櫻井が仕掛けを入れる。
チー ドラ
さらにをチーして打の–待ちテンパイ。
その瞬間、内川が以下のテンパイを入れる。
ツモ
なんと、内川があっさりツモり四暗刻テンパイ。リーチを打つ。
数巡後、最初の奇跡。ツモ。
8,000・16,000
消化試合になりそうだった最終戦をたった1局で面白くした内川の四暗刻。
しかしまだこれでは足りない。それほどの差をつけられているのだ。
その後は、櫻井が決め手に欠けつつも隙は見せずに点差を詰めさせない展開。
南4局4本場 親 櫻井
オーラスの点数状況は以下の通り。
内川 60,600
佐々木 18,300
上田 30,300
櫻井 10,800
内川の勝ち上がり条件は跳満ツモ、もしくは櫻井からの跳満直撃。
一発裏ドラのない公式ルールにおいてこの条件がどれだけ厳しいかは容易にご理解頂けるだろう。
3巡目の内川の配牌。
ツモ ドラ
ソウズの一色手かピンフ一通ドラ1をリーチしてツモるかというところ。
7巡目には以下のテンパイ。
ツモ
ドラから引いてしまうとピンフがつかない。
内川、ここは打として123の三色でのアガリも視野に入れた。
次の内川のツモは。三面張だがツモしか許されないテンパイ。
それでも内川はリーチを打つ。打たざるを得ない状況。
リーチ
リーチを打った時点では山に2枚残っているだったが、リーチ後すぐに佐々木がをツモり残り1枚。
そして2巡後、二度目の奇跡。内川ツモ。
3,000・6,000は3,400・6,400。
なんと87.9Pを捲る内川の大逆転劇。凄まじい対局を見せつけられたのだった。
最終戦成績
内川+55.8P 上田▲4.1P 佐々木▲18.1P 櫻井▲33.6P
最終戦終了時
佐々木+72.3P 内川▲5.2P 櫻井▲6.7P 上田▲60.4P
ベスト8勝ち上がり
佐々木亮 内川幸太郎
見事ベスト8へ勝ち上がりを決めたのは佐々木と内川。櫻井と上田が敗退となった。
「なんで俺の手だけツモれないんだよー」と明るくふるまう櫻井に好感。
あの逆転劇の直後にそんな振る舞いはなかなかできるものではない。
「また三段戦から頑張ります」と上田。
2年前に初段戦から決定戦に残り準優勝したエースも、ついにシードを失ってしまった。
まずはベスト16A卓が終了し、勝者が2名決まった。
B卓の戦いにも注目したい。
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