第24期チャンピオンズリーグ 決勝観戦記
2013年09月06日
8月18日、四谷連盟道場で行われたチャンピオンズリーグ決勝、今回の観戦記は私、増田隆一が担当します。自分の麻雀感に基づき、思ったことを素直に書くつもりなので、最後までお付き合いいただければ幸いです。
会場一番乗りは関西本部所属の三好直幸。今のところ目立った実績はないが、毎回チャンピオンズリーグに出場するために姫路より上京してくる努力家であり、今回はその努力が実り、念願の決勝の椅子を手に入れた。
麻雀は何度も対戦しているが、手役重視の超面前派、特に一色手が得意な印象がある。超がつくほどの面前派(実際に今回の決勝でフーロしたのは3回のみ)だけあり、打点の高さは今回のメンバーで随一であろう。
三好直幸 |
次に入ってきたのは藤井すみれ。入ってくるなり、立会人や審判、記録者らに大きな声で「今日はよろしくお願いします」と挨拶をしていたのが印象的。当たり前のことなのだが、挨拶が出来ない若手にはぜひ見習ってほしい姿勢である。藤井はチャンピオンズリーグ2度目の決勝。今回は、前回ぎりぎりの所で競り負けた相手である藤原も残っているので、より思うところもあるであろう。ちなみに、その決勝は私も残っていて、さらに今回のベスト16は藤井、藤原で勝ち上がったが、その敗れた相手に私もいる。
麻雀は、じっと息を潜めながらカウンターを狙う印象。技術よりも気持ちで打つタイプなので、勝ちたい想いが上手く牌に伝わればチャンスはあるだろう。
藤井すみれ |
きっかり開始10分前、同時に会場に姿を見せたのが蒼井ゆりかに、藤原隆弘。
蒼井と初めて対戦したとき、先手を取られた場面、全てにベタオリする姿を見て、失礼ながら、攻め屋の私は負ける気が全くしなかった。実際に、そのときは1人でアガリ倒した記憶がある。ところが、最近対戦する蒼井は全く印象が違った。勝負の場面では、先手を取られても果敢に攻め返し、アガリをものにしていたのだ。元来、腰が重くしっかりと手を作る麻雀なので、華奢な体で河に放たれる危険牌には迫力すら漂う。蒼井は、かわいらしい顔から想像もつかないくらい芯がしっかりしている。ここまでの成長は、並々ならぬ芯の強さが支えたに違いない。集中力を切らさずにしっかり攻めれば優勝争いに加わってくることは間違いない。
蒼井ゆりか |
最後に、今更不要かもしれないが、藤原の紹介もしておこう。2度のチャンピオンズリーグ優勝に加え、四大タイトル戦全ての決勝進出経験、30年近いプロ歴と、経験、実績共に大本命であろう。麻雀は、現在数少なくなった守備型だが、経験に基づく引き出しの多さが一番の武器である。今回の決勝では、持っている技を全て駆使して闘うこととなった。
藤原隆弘 |
1回戦(起家から、藤原・三好・蒼井・藤井)
定刻通り、試合開始が立会人の瀬戸熊鳳凰位より宣言される。
立ち上がり、全員の模打ペースが異様に早い。それを見て藤原、3巡目に何も迷うようなことのない手から、わざとワンテンポ置いての切り出し。「これは、決勝、そんなに軽々しく打つなよ。丁寧に打ってよい牌譜を残そうぜ」という先輩から後輩に向けてのメッセージである。確かに、最近は模打スピードを重視するあまり、打牌が雑になっている若手も多い。これ以降、ゆったり目のペースで試合は進む。そして3者は、藤原からの無言のメッセージにプレッシャーを感じたのか、2度とこのペースが上がることはなかった。
東1局、親番の藤原がリーチと出る。
ドラ
これに3人が対応し、1人テンパイ。「ダブ東のドラが見えていない場面で親リーチが入り、親の1人テンパイ」、結果だけを見るとごく普通なのだが、3人の撤退がワンテンポ早く感じた。重要なのは、藤原が‘緻密な仕事師‘らしく、この先行親リーチに対する相手の出方を、捨て牌はもちろん相手の雰囲気からも敏感に感じ取っていたことだ。対応する相手ならばワンテンポ早く動き、踏み込みも一歩深くするし、対応しない相手ならば、次は普段通り腰の重いスタイルに戻し、守備型らしく無防備に踏み込まなければよい。こういった技術を使いこなせるのも、藤原の高い対応力があってこそ。そして、簡単にアガリを拾えなかったことも合わせて、この局の結果で、藤原のこの日の方針は‘相手に対応させること‘に決まった。
思惑通り、このまま藤原が主導権を握るかと思われたが、相手も開局から気持ちの上で藤原に対して引き過ぎてしまったのは分かっている。次局の東1局1本場、蒼井がこのリーチ。
「すでに10巡目ということ」、「ソーズがドラ色で場に高いということ」、「一発裏ドラのないAルールにおいて、満貫は充分なアドバンテージになること」、「5回勝負の1回戦だけに、拾える可能性がある満貫は確実に拾いたいこと」と、ヤミテンにしたくなる理由は数々浮かぶのだが、蒼井はあえてリーチといった。後日、蒼井にメールをしてみた。
私 「あのリーチよかったね」
蒼井「ドラを引いて一番いい形でテンパイしたので、力を感じました。Aルールにおいて、リーチは得策でないと思いますが、(どのような結果になるか)スタート時点での調子を見たかったです」
私 「なるほどね。ドラ引き以外はヤミテン?」
蒼井「そうですね。跳満をツモって勢いを持ってきたかったのと、(ヤミテン満貫をあえてリーチすることで)3者にしっかりと戦う姿勢を見せたかったのもありますね」
結果は流局で終わるが、牌譜だけを見てこのリーチをやり過ぎだなんて言わないでほしい。麻雀は人間と戦うゲームであり、相手を引き気味に打たせたい藤原、戦う姿勢を見せることで、相手に楽をさせたくない蒼井の思惑が水面下で絡み合い、この1局があるのだ。
藤原の親が流れた東2局2本場、三好が11巡目にこのリーチ。
暗カン ドラ
先ほどの蒼井と同じように、戦う姿勢を見せに行ったのだが、これはアガれたところでただ単に点棒が増えるだけ。蒼井のリーチとは意味が違い、勝負の流れを引き寄せるようなアガリにはならないと思う。‘流れ‘という言葉に拒絶反応を示す方もいらっしゃると思うので、違う言葉で説明しよう。例えば先ほどの蒼井のリーチが成就したとしたら、対戦相手は「今日の蒼井は出来がよさそうだ」や、「ヤミテン満貫をノータイムリーチか」など、‘強さ‘を感じるであろう。そうした感情は相手に対する尊敬や怖れとなり、蒼井に対して押し引きの判断を誤る場面が出てくる。対して、三好のリーチが成就したとして、同じような印象を受けるであろうか?私ならば、「何がしたいの?」や、「親なら何でもリーチか?」など、‘強さ‘とはかけ離れた印象しか受けないであろう。麻雀は人間同士が戦う以上、相手が感じた感情が複雑に絡み合い、勝負の‘流れ‘となる。そういった意味で、ここは手役派の三好らしくしっかりとした形で攻めてほしかったと思う。
このリーチを受けて、蒼井にもテンパイが入る。
牌譜を見ていただければ分かるが、比較的安全そうではあるものの、(一発役はないが)一発目に無筋のを勝負している。しかし、巡目が進んだここのはツモ切り。三好のリーチに対してトーンの低い藤原、藤井の手牌構成は読みにくく、の所在が、誰かに固まっていのるか、ヤマにいるかは賭けでしかない。ただし、勝負手である以上はドラ&親のリーチ宣言牌をまたぐ(蒼井の目からは–はノーチャンス)よりは、暗刻だった者が手詰まりしたときに、オリ打ちまで期待できるに待ちを替えてもよかったかもしれない。1巡おいてすぐ河にを並べたのは結果論ではあるが、やや残念な印象はあった。
この時点まで全く戦いの舞台に上がってこなかった藤井に、仕掛けが増え始める。しかし、麻雀は優勢なときに加点を目指すゲームであって、劣勢になってから加点を目指すゲームではない。分かりやすく言えば、優勢=点棒があるときは、制限もなく手牌に素直に打てるし、調子も後押ししてくれるので加点しやすく、劣勢=点棒がないときは、制限がついていたり、目先の点棒を考えて判断を誤りやすくなっていたりと加点がしにくくなっている。開局のフラットな状況がすでに劣勢に変わっている藤井の仕掛けは、点棒的なもので焦れて動かされた感があり、自らさらなる劣勢の渦に入り込んでゆく。この仕掛けが藤原の1,300・2,600を生み、蒼井に安目ではあるが5,800を召し上げる結果となってしまう。
同じように藤原も仕掛けを多用し始めるが、藤井と違い、相手との間合いをよく考えて絶妙なタイミングで動き、相手が攻め返しにくい捨て牌を作り上げていく。思惑通り、南2局までは完璧に局を潰し得意の小場の展開に持ち込んでいた。
ところが、南3局に均衡が崩れる。蒼井が7,700、2,900は3,200と連荘した2本場、超面前派の三好がここからをポン。
2枚目という事や、を鳴ければ3,900になりそうなことを考えるとそこまで悪くはないのだが、結果として蒼井にが入り、即リーチ。そしてすぐに高めのドラをツモり、この半荘を決定づける4,000オールで蒼井の持ち点は5万点を超えた。
ツモ
蒼井の2打目の、3、5巡目ののトイツ落としを見ていれば、速度が速いことは容易に想像がつく。連荘中の親の上家ということも合わせて考えると、を安全牌として抱えながら、三好らしく面前でドラドラ七対子に向かう選択肢もあっただけに、悔いが残る1局となってしまった。
オーラスは、蒼井のダントツのなか、藤原がしっかりとリーチのみをアガリ、浮きに回って終了。
1回戦成績
蒼井+28.4P 藤原+4.7P 三好▲7.7P 藤井▲25.4P
2回戦(起家から、藤井・蒼井・三好・藤原)
プロ連盟では、情報の平等性を保つため、半荘間に休憩中の選手と、スタッフやギャラリーが会話することは禁止されている。チャンピオンズリーグももちろん、その規定に則り運営されているので、藤井、三好は2回戦目の挽回に向けて、蒼井は好調を維持するためにそれぞれ静かに集中を高めている姿が見られた。その中で藤原だけがにこやかにしている。1回戦目、藤原の牌姿が一度も出てきてないことにお気づきだろうか?載せるような牌姿がないくらいツキがなかった上で、苦しいながらもあらゆる技を駆使してのプラス。思わず笑みがこぼれてしまうくらい嬉しかったに違いない。
それにしても藤井のデキが悪い。東3局、西家で4巡目にこのリーチ。
ドラ
役なし両面で、あまり高くなる要素もなく自然なリーチ。ここに親の三好が追っかけリーチ。
リーチ
数巡後に、藤井が高めを掴んで5,800。これ自体はよくある話であって、別になんということはない。問題はこの後に、こういった失点をリカバリーできるかどうかなのである。藤井は結局、このまま浮きに回ることはなかった。
対して藤原。同1本場でこの放銃。
どちらでアガっても8,000の勝負手である。、の手出しを見て蒼井のテンパイは当然感じているし、三好の親リーチ宣言牌のまたぎでしかも、序盤のの裏スジのはどちらにも超危険。それでも藤原はまっすぐを打ちぬいた。守備型を勘違いしている人がいるが、放銃しないことが守備型ではない。それはただの怖がりの日和屋である。形が整うまで繊細に我慢を繰り返して、ここぞというタイミングで攻め返すのが守備型のあるべき姿だ。この局は結果8,000の放銃に終わったが、藤原は経験上、この点棒が返ってくることを知っている。藤原の言葉を借りると、「だって、行くべき形で悪い放銃じゃないもん」。この言葉はすぐに現実のものとなる。
東4局、迎えた親番でヤミテンのピンフ1,500をアガると、同1本場でこの配牌。
ドラ
12,000や18,000が見えるも、ダブ東が仕掛けられるかどうか、仕掛けられたとしてタイミングがどうかといった所。無難に打とすると、南家・藤井の第一打が。あっさりネックが仕掛けられる。このときの藤井の形は
ツモ
確かに123、234と両方の三色を考えるとや、456の三色を考えると、ドラ受けを考えるとは切りにくいし、藤原の点棒を見るとこの局は攻めたくなるのは分かるのだが、自らの劣勢をしっかりと受け止められていれば以外を切れたかもしれない。この後、藤原の不穏な捨て牌を見てポンテンを取るも、これが最悪の結果を生む。
藤原
ポン
ここに最高のドラを引き入れテンパイ。そしてあっさりカンをツモり8,000オール。先ほどの8,000を3倍にしてあっさりと回収した。
今こうして牌譜を見ていると、藤井はすごく悪いことをしているような感じはないのだが、やることなすこと、ことごとく悪い結果が出ていた。結果がそう出てしまった以上、受け入られるようになれば大きく成長すると思うのだが、このままだとツイているときは勝って、ツイてないときは負けるだけになってしまう。次局もピンフドラ1でリーチと出るのだが、私ならば、「8,000オールの藤原の親を交わしておこう」や、「今日は悪い結果が出やすいから一度ヤミテンにしよう」などと考えるので、三好の追いかけリーチに、3,900は4,500を放銃する結果にはならない。キャリアも実力も違うので比較するのは酷かもしれないが、藤原は今回の決勝、調子の悪さをきちんと受け入れ、それに合わせた麻雀を打っていた。このあたりが、今後の藤井の課題だと思う。
ロン
ここからは再び藤原の真骨頂、場を小場に持ち込み淡々と局は進んでゆく。ところが南2局、そう簡単にはやらせないぞと、ようやく三好らしいプレーが出る。
蒼井の親リーチを受けた瞬間。さすがに3枚目のだし、がリーチの現物なのでチーする人も多いだろう。これを、超面前派の三好は動かず。そして自らテンパイを入れて蒼井からホウテイで12,000。
暗カン ロン
これまでしっかりと手を作っていた蒼井だが、なんとなく点棒を削られながら東4局に37,000あった持ち点が26,000になってしまい、このリーチはやや焦った感がある。このまま藤井にも交わされて、最終的にはラスを押し付けられてしまった。しかし、トータルトップに立った藤原にとっても、最終的には三好に交わされており、なんとなく不完全燃焼感の残る半荘となった。
2回戦成績
三好28.2P 藤原17.1P 藤井▲17.9P 蒼井▲27.4P
2回戦終了時
藤原21.8P 三好20.5P 蒼井1.0P 藤井▲43.3P
3回戦(起家から、三好・藤原・蒼井・藤井)
藤井の1人沈みで迎えた3回戦、ここは藤井にとっての正念場となる。この回で藤井がトップを取っても決定打にはならないが、藤井との勝負で放銃すると優勝争いから遠のいてしまうので、ほかの3人はリスクを負ってまで勝負にはこない。マークを外されて打ちやすくなるこの回にどこまで巻き返せるかが注目だ。
開局から主導権を取りたい藤井だが、もはや手がついてこない。
最初に大きくアガったのは、前回ラスの蒼井。東3局2本場で2,600オール。
ドラ ツモ
続いて三好が同3本場で負けじと、3,000・6,000をツモ。
ドラ ツモ
東4局の藤井の親はテンパイすら入らずにあっさり落ちてしまった。このまま、優勝争いから消えてしまうと思われたが、南1局1本場。
ドラ
ツモれば四暗刻、出ても12,000の勝負手を、親の三好から打ち取った。このアガリをきかっけにしてさらなる加点を目指したい藤井だが、あとが続かない。ダメな日はこんなものなのかもしれない。
南2局1本場、藤井に12,000を放銃してしまい盛り返したい三好が12巡目にリーチ。
リーチ
打点はあるが、待ちはドラのカンチャン。少しでも相手が対応してくれて時間が稼げればといったところだ。ところがこのリーチを受けた時点で、蒼井の手はこうなっていた。
一発目の無スジから早くも臨戦態勢に。今回の決勝、蒼井が1番良い麻雀を打っていたと思う。しっかりと手を作り、手がまとまればしっかり押し返す。非常にシンプルなことだが、大切なことだ。
この16,000がポイント的に大きいのはもちろんだが、しっかりと押し返してアガリをものにしたことも大きい。蒼井は優勝へ向けて大きな手応え感じたであろう。
そして、オーラス、藤原が渾身の700・1,300をツモ。大きな見せ場はないものの、しっかりと浮いて終わるところがいぶし銀。蒼井とアガリの派手さは違うが、この終わり方には藤原も手ごたえを感じたであろう。逆に、藤井に12,000を打って以来、先行リーチ後に16,000の当たり牌を掴まされるくらい劣勢になってしまった三好には試練の半荘となってしまった。藤井に関してはこの半荘、12,000以外は見せ場なく終わったが、一応は浮きを守れたので、優勝へ向けて首の皮一枚つながったというところか。
3回戦成績
蒼井29.9P 藤井7.2P 藤原3.1P 三好▲40.2P
3回戦終了時
蒼井30.9P 藤原24.9P 三好▲19.7P 藤井▲36.1P
4回戦(起家から、蒼井・三好・藤井・藤原)
藤原は悪いなりに、毎回うまく浮きで終わっているし、蒼井もきっちりと自分の型通り打てて、そこにポイントもついてきているので、この両者はこのままのペースでいきたい。三好は3回戦で崩れてしまったのを、ここで立て直し最終戦を良い形で迎えたい。藤井は良いところなしで来ている中、3回戦は一応ではあるが初の浮きで終われたので、これをきっかけに4回戦目は飛躍の半荘にしたいところ。それぞれの思惑がある中、まず主役になったのは藤井。
藤原のテンパイ打牌、ドラのをポンテン。藤原との紙一重の引き比べだったが、即で藤原のアガリ牌を食い取り2,000・3,900。これまで、こういったケースは必ず藤井が負けていた。3回戦から少々ではあるが、風向きが変わりつつある。次の東3局の親番は、不恰好ながら4本場まで積み上げ持ち点は50,000点を超えた。
終わった後の打ち上げの席で、藤井にこう聞いてみた。
「自分の麻雀の良い所は?」
藤井はうつむきながら小さな声で「ありません」と答えた。負けたその日にする質問にしては、少々いじわるだったかもしれない。ただし、答えに関しては違うと思う。藤井の麻雀の良い所は諦めの悪さ。不恰好でも一心不乱にアガリに向かう姿こそが藤井の良い所なのだ。確かにすでに並びができているこのあたりに関しては、藤原も蒼井も、直接対決のぶつかり合いなら仕方がないが、トータルラスの藤井にぶつけて放銃することだけはしたくないという気持ちがあるので、連荘がしやすいというのはある。しかし、それを差し引いても藤井のアガリに向かう執念は見事であった。1回戦目からこれができていれば今頃は、もっと違った位置に立っていたかもしれない。次に決勝に残るときは最初から、小手先に走らずにまっすぐアガリに向かう姿を見たいと思った。
東4局、藤原が500・1,000で藤井の長い親番を終わらせて迎えた自らの親番、6巡目に7,700のテンパイ(Aルールは連風牌が4符)。
ポン ポン ドラ
ツモでシャンポンに待ち替えをしたところで、蒼井がをツモ切り。
ツモ
形的には攻めてもおかしくないのだが、蒼井が今回、最も気を付けなければならないのが藤原への直撃である。蒼井にとって、藤原に直撃を放銃することは、点数だけでなく順位点も関係するので、ポイント差が倍速以上で開くことだからだ。それをふまえ、藤原のピンズが余っていること、最低5,800はあるということ、最終手出しの関連牌ということを考えると、すり抜けたとはいえこのはあまりにキツイ。
私 「あれはさすがに打ち過ぎかな?」
蒼井「集中力が切れちゃいました」
この後、蒼井にもテンパイが入り、蒼井は何かに魅入られたようにツモってきたを河に打ちつける。いつもソフトに牌を切る蒼井にしては珍しく、高く響いた打牌音が印象的だった。
4回戦成績
藤井27.2P 藤原15.6P 蒼井▲18.8P 三好▲24.0P
4回戦終了時
藤原40.5P 蒼井12.1P 藤井▲8.9P 三好▲43.7P
5回戦(起家から蒼井・藤井・三好・藤原)
藤原は浮きで終わればほぼ優勝、蒼井は藤原が沈めばかなり現実的な条件が見えてくる。藤井は藤原が沈むことが大前提で、そこからどこまで加点できるかで決まる。三好は現実的には苦しい条件となってしまった。
東1局、藤井のホンイツ仕掛けを受けて、蒼井がいきなりこのテンパイ。
ドラ
この手をなんとヤミテンに構えた。藤井の仕掛けでツモが効かずに1シャンテンが長く、さすがに13巡目とテンパイが遅すぎたようだ。1回戦目にドラをツモったときに、‘ツモに勢いを感じて‘跳満ツモリーチに行った蒼井らしい選択。これが功を奏し、すぐに藤井から高めを打ち取り11,600。このアガリで、後は藤原を沈めれば優勝は目前。蒼井の逆転劇を期待したギャラリーの熱気が高まったが、すぐに次局、三好へ12,000は12,300を打ち返してしまう。
ここから打でテンパイを取り放銃。いくら見え見えの染め手がを余らせているとはいえ、この放銃は責められない。タイトル戦決勝では、一度の親連荘で優勝を決定づけることは多々あるので、11,600をアガった次局、その勢いのまま勝負を決めに行くのは当然である。ただ残念なことに、ベストの選択が必ず正解とはならないのが麻雀。10回中8回が正解となる選択でも、そのときが2回の不正解になることもありえるのだ。こういったときに、強い人ほど気持ちの切り替えが早い。努力と経験が、「たまたま今回は悪い結果が出たが、これが自分の麻雀だから」と気持ちを強く持たせてくれるからだ。
東2局1本場、蒼井は14巡目にリーチ。
ドラ
これを親番でテンパイを入れた藤井から討ち取り7,700は8,000。このアガリを見ると蒼井がしっかり気持ちを切り替えているのが分かる。「巡目も遅いし」、「跳満を放銃したし」と弱気でヤミテンにしたくなる理由はあるが、ここで藤原以外から2,000や3,900をアガってもあまり意味がないし、蒼井は満貫クラスの手をしっかり作ってきたので、優勝争いができるこのポジションにいる。ただ単に開き直ってのリーチではなく、そのことをしっかりと理解しているリーチに蒼井の強さを見た。
このアガリを見た次局、藤原も2,000・3,9000をツモアガリ。
リーチ ツモ ドラ
交わし手を多用することで、ここまでなんだかんだプラスを積み重ねてきた藤原だがここはリーチで勝負。相手にエンジンがかかってしまえば、30Pもないアドバンテージなどあってないようなもの。タイトル戦の決勝でトータルトップが勝負から逃げて、追いつめられる姿をたくさん見ている藤原は、どこかで勝負をしなくてはならないことを知っているのだ。これで藤原の浮きは6,900点。これを守ることができればほぼ優勝である。自らの親は無傷で終わり、南1局の蒼井の親はポンテンの1,000点で流すことに成功。
南2局時点での持ち点と現状での順位点を入れたトータルポイントは以下の通り。
藤原37,900(51.4P)
蒼井38,500(28.6P)
三好37,400(▲35.3P)
藤井6,200(▲44.7P)
若干開始時よりは差が縮まったが、すでに蒼井に親番もなく、素点で約23,000点を稼ぐのも大変だし、藤原が7,900点浮いているので、それを沈めるのも苦しい。ギャラリーからは早くも藤原優勝ムードが漂う。正直、私もそう感じていた。
私は、「努力は必ず報われる」とも思わないし、「諦めなければ必ず叶う」とも思わないが、諦めずに努力をした者にしか奇跡は訪れないと思う。南2局2本場、藤井の親リーチに俄然と立ち向かった蒼井、追いかけリーチに出る。
ドラ
蒼井が藤井に放銃してしまえば、その時点で藤原の優勝がかなり濃厚となる。相当苦しいが、奇跡を信じてツモを繰り返す藤井、藤井の勝ちを祈りながらベタオリする藤原、そしてこのリーチにすべてを託した蒼井。緊迫した雰囲気の中、「ツモ」。発生と同時に蒼井の手牌が開かれた。
こうなると焦点は、藤原に残された2,600点を南3局、オーラスで蒼井が削れるかどうかである。
蒼井、10巡目のリーチを三好からアガる。
本当に難しいのだが、ここは見逃してもよかったかもしれない。親に攻め返されるリスクなどもあるが、勝負は藤原を沈められるかどうかであり、三好から2,600をアガっても状況はほとんど変わらないからだ。すでに蒼井と藤原の素点がかなり離れたので、あとは藤原さえ沈めれば無条件で蒼井の優勝。ならば、少しでも藤原の点数を減らした方が有利だからだ。
蒼井「あそこは最悪ノーテン罰符をもらっても条件はよくなるし、見逃した方がよかったですね」
初決勝で、これはよい経験。次は同じ局面で冷静に判断して、強くなった姿を見せてくれるに違いない。
オーラス、必死にホンイツを作りに行く蒼井だったが、テンパイすることなく終局。こうして蒼井の初めての挑戦は幕を閉じた。
5回戦結果
蒼井+28.6P 藤原+5.6P 三好▲5.5P 藤井▲28.7P
最終結果
藤原+46.1P 蒼井40.7P 藤井▲37.6P 三好▲49.2P
一気に書き上げてみて、改めて読み返してみると、本当に藤原の牌姿が出てこない。
いろいろなところで「藤原さんどうだった?」と勝因を聞かれるのだが、毎回、「今までこの打ち方で優勝したのは見たことないな」と答えている。
実際タイトル戦の決勝は、誰が勢いを持ってくるかの勝負で決まる。藤原は今回の決勝、加速することはなくアガリも全て単発に終わっていた。
それでなぜ勝てたか聞かれたら、経験と技術と答えるしかない。
タイトル戦で、トップが1回もない優勝なんて初めて見た。1つ言えるのは、トップを1度も取れないくらいの調子でも、スコアをちゃんとまとめることができる藤原の技術と引き出しはすごいということだ。
そして、今回は敗れたものの、それぞれが自分らしさや、らしさの片鱗を見せてくれた。
特に蒼井は、王道のスタイルで優勝してもおかしくはなかった。
蒼井の細かな敗因はあるかもしれないが、一番の不幸は藤原が座っていたこと。藤原の技術が全てを凌駕した決勝だった。
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