JPML WRCリーグ 決勝観戦記

第26期チャンピオンズリーグ 決勝観戦記 中村 慎吾

第26期チャンピオンズリーグ決勝。
今期から決勝はニコニコ生放送で放送されるため、会場は夏目坂スタジオで行われる事となった。
決勝進出者は以下の4名。

100

松崎良文 五段 37歳 17期生 C1リーグ所属
第32期 王位戦 3位
第12期 チャンピオンズリーグ 準優勝
第26期 十段戦 5位
第19期 チャンピオンズリーグ 4位

今回が5回目の決勝戦進出だが、実績の割に意外にも映像対局は初めてである。
カメラを前にして普段通りの麻雀が打てるかが鍵となるだろう。

 

 

100

田中史孝 四段 44歳 23期生 C2リーグ所属
今回が初決勝
最高位戦日本プロ麻雀連盟から移籍したため、プロ活動年数は4人の中で一番長い。
最強戦の全日本プロ代表のベスト16に続き2回目の映像対局となる。

 

 

100

太田優介 四段 30歳 22期生 C2リーグ所属
今回が初決勝
連盟チャンネルでは、実況・MCなどで活躍。映像対局は今回で3回目となるのでカメラ慣れはしていると思うが、タイトル戦初決勝のプレッシャーに勝てるかどうかが注目である。

 

 

100

安村浩司 三段 30歳 25期生 B2リーグ所属
第4期グランプリMAX 準優勝
近年、活躍が目覚ましい若手注目株。今年3月に行われた第4期グランプリMAXでカメラと決勝の舞台は経験しているので、後は自分との戦いとなってくるだろう。

 

 

誰が優勝しても初タイトルとなる。最後まで目が離せない熱い戦いが今始まる。

100

 

1回戦(起家から太田・田中・松崎・安村)

東1局は好配牌をうまく纏め上げた松崎が安村から1,300をアガる。

五万六万六索六索八索八索八索三筒四筒五筒五筒六筒七筒ロン四万ドラ三万

本人も対局終了後に語っていたが、松崎は初めての映像対局とは思えないほど卓に入り込め集中できていた。やはり、過去4度の決勝進出の経験がそうさせるのであろう。

流局を挟んだ東2局1本場も、安村から3,200は3,500をアガって迎えた東3局の親番。
2,000を安村からアガリ続く1本場、8巡目に以下のリーチ、

八万八万八万七索七索二筒三筒四筒七筒七筒八筒八筒九筒  リーチ  ドラ二筒

これを受けて南家の安村が以下の手牌。

一万三万四万五万五万六万七万七万四索五索六索四筒六筒ツモ六万

親の捨て牌に五万があり、裏筋の一万は切りづらいがここは勝負と一万を切る。
そして南ツモ切りの後に持ってきた一筒で手が止まってしまう。

 

100

 

たしかにドラ跨ぎで表示牌の一筒は切りづらいが、リーチの一発目に(一発役はないが)危険牌である一万を切った以上、ここは勝負してほしかった。四筒六筒重なりのタンピンイーペーコー。マンズのツモ次第ではタンヤオ456の三色が狙える勝負手の1シャンテンである。

結果は、現物の三万を切った後に、12巡目のツモ五筒一筒切りリーチと勝負に行き六筒で松崎に放銃となる。先に一筒を切っても結果は同じになったが、最初から闘う姿勢を安村には見せてほしかった。

同2本場は、田中の2,000・3,900は2,200・4,100のツモアガリ。
東4局は、太田が安村から5,200をアガって迎えた南1局。各自の点数状況は以下。

太田33,000
田中38,500
松崎37,900
安村10,600

この状況で、南家の田中が1枚目の発をポン。5巡目に以下のテンパイとなる。

八万八万三索四索四索五索五索六索七索八索ポン発発発ドラ三万

前局5,200をアガった太田の親を軽く流し、自分の親を持ってくるのかなと思っていたら、安村からでた六索を何と見逃し。そして、7巡目の本来ならアガリ牌であるツモ九索八万のトイツ落とし。

現在トップ目のこの状況で、仮にホンイツでアガったとしてもこの手は3,900点である。
結果は、ドラの三万単騎に待ちかえ、16巡目にラス牌の三万をツモったが、局面に合っていない非常に危い打ち方だと言わざるを得ない。

続く南2局では、松崎が安村のリーチを掻い潜り2,000・3,900のツモアガリ。
これが決め手となり、そのまま松崎がトップのまま1回戦が終了した。

1回戦成績
松崎+22.8P  田中+17.9P  太田▲6.0P  安村▲34.7P

 

2回戦(起家から松崎・太田・安村・田中)

東1局、松崎の1人テンパイ。同1本場は、4,000は4,100オールを松崎がアガリ、続く2本場、安村が7巡目にリーチ。

一万二万三万九万九万一索二索四索五索六索五筒六筒七筒リーチドラ五筒

安手、愚形ながら、ソーズの下が安いと踏んでのリーチだが、待ちのペン三索はリーチの時点で残り1枚。親の松崎がまっすぐ押し返してくるのを見て、安村の胸中は穏やかではなかったであろう。

そんな中、北家の田中に11巡目に勝負手のテンパイが入る。

 

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一筒一筒一筒二筒四筒五筒六筒六筒七筒八筒南北北ツモ北ドラ五筒

二筒は既に3枚切れのため、ペン三筒南単騎の待ち選択だ。
田中の選択は、打二筒南単騎を選んだ。

しかしその直後、無情にも安村から三筒が切られる。
田中にとっては痛いアガリ逃しとなってしまった。

そして、そのアガリ逃しを見てか、安村に通っていない無筋の五万を引いて今度は五万単騎にしてしまう。
その直後にまたしても切ったばかりの南が安村から打たれる。
田中にとっては目を覆いたくなるような光景だろう。

逆に安村は、二度も満貫放銃を回避している。しかしドラマはまだ続く。
残り1枚のこの五万を田中がツモアガるのだ。

五万一筒一筒一筒四筒五筒六筒六筒七筒八筒北北北ツモ五万ドラ五筒

2度のアガリ逃しの後に、3度目のアガリがあるとは珍しいものである。

局は進み南3局。西家の松崎が残りツモ1回の所でテンパイしリーチ。

三万三万五万六万七万五索六索七索三筒四筒六筒七筒八筒リーチドラ二筒

南家の田中が仕掛けていたため、ハイテイは親の安村。

二万三万六万六万五索六索七索二筒三筒四筒五筒五筒六筒ツモ四万ドラ二筒

 

100

 

親権を維持するためには、二筒五筒六筒どれかを切らなければならない。
六筒も無筋であるため長考に入る安村。
意を決して切った牌は、唯一放銃回避且つ親権維持となる六筒だった。

そして、ここから安村の怒涛の連荘が始まる。

1本場

四万四万四万五万五万六万六万六万一索三索一筒二筒三筒リーチロン二索ドラ東

2,000は2,300を太田から出アガリ。
2本場

二万三万四万四索五索七索七索三筒三筒四筒四筒五筒五筒リーチロン六索ドラ四索

12,000は12,600を先行リーチの松崎から出アガリ。

3本場 安村・田中・太田の3人テンパイ。

4本場

四索五索六索六索七索八索一筒二筒二筒三筒三筒西西リーチツモ一筒ドラ四索

4,000は4,400オールのツモアガリ。

5本場

六万七万八万九万九万四索五索五索六索六索四筒五筒六筒リーチツモ七索ドラ白

1,300は1,800オールのツモアガリ。

6本場、安村1人テンパイ。

7本場、松崎が田中から2,000は4,100をアガリ、嵐のような安村の親は過ぎ去った。

このまま安村が1人浮き特大トップを取り、1回戦の負債を帳消しにしトータル首位に踊り出た。

2回戦成績
安村+55.5P   田中▲5.0P  松崎▲21.7P  太田▲28.8P

2回戦終了時
安村+20.8P  田中+12.9P   松崎+1.1P  太田▲34.8P

 

3回戦(起家から安村・太田・田中・松崎)

東3局、親の田中が1枚目の中をポン。それを受けた北家の太田の7巡目の手牌が以下。

 

100

 

二万七万八万二索三索四索二筒二筒四筒五筒六筒八筒東ツモ六筒ドラ一万

二万東を切るかで悩んでいるのかと思っていたら、この六筒をツモ切り。
南家の松崎の六筒を見ての、同巡合わせ切りだがこれはどうか。

親の田中に六筒は鳴かれる可能性もあるし、東とドラそばの二万が切りにくいならせめて八筒を切って欲しかった。ツモ五筒で高めタンピンイーペーコーの勝負手になるし、この一打は少し勿体無い。

そして8巡目、松崎がリーチ。

三万四万五万七万八万九万三索五索三筒四筒五筒白白リーチドラ一万

これを受けて、西家の安村が素晴らしい打ち筋を魅せる。
リーチを受けた時点では、七対子の2シャンテンだったのだが、ギリギリまで押し返しテンパイ。
松崎から以下のアガリをものにする。

一万一万五万五万六万八索八索二筒二筒八筒八筒東東ロン六万ドラ一万

この6,400で安村一歩リードかと思われたが、今度は松崎が魅せた。

東4局

三万四万八万八万一索二索三索五索六索七索八索九索二筒三筒ドラ八万

この形からノータイムで打八索。裏目の四索を引いても234の三色とタンヤオに振り替わるのだが、一通目もあるため、なかなかノータイムで決断できるものではない。

結果は、一筒を引き入れリーチ、五万をツモアガリ、最速でのアガリとなった。

三万四万八万八万一索二索三索五索六索七索一筒二筒三筒リーチツモ五万ドラ八万

この4,000オールを物にした松崎が、このまま首位のまま3回戦が終了。
逆に太田は、残り2戦、大きめの2連勝条件と窮地に立たされた。

3回戦結果
松崎+23.0P  安村+12.0P  太田▲14.4P   田中▲19.5P

3回戦終了時
安村+32.8P   松崎+23.0P  田中▲6.6P  太田▲49.2P

 

4回戦(起家から太田・安村・田中・松崎)
南1局を迎えて各自の点数状況は以下。
太田17,900
安村19,600
田中50,200
松崎32,300

そして西家の田中、7巡目の手牌。

五万五索六索七索五筒六筒七筒七筒八筒八筒八筒九筒東ツモ八索ドラ九万

2枚切れの東を残して、ここから八索をツモ切りするのだが、ここは東を切るべきである。
ツモ六万七万の三色が理想だが、ツモ四索六索七索九索のピンフの1,000点でもいい局面。
無論、田中も常にこの打牌を選択するとは思わないが、これが優勝を意識した途端にくるプレッシャーなのかもしれない。

「楽して勝とうとするな!!」

これは、私が勉強会時に瀬戸熊(現十段位)プロに口酸っぱく言われた言葉。
特にこういうタイトル戦の決勝は、リスクなくして安易に勝とうとすると足元を掬われる可能性が高くなる。追う側も必死になって来るのだから。

結果的に、4回戦は田中が7万点オーバーの1人浮きトップを取り、トータル首位に躍り出て最終戦はほぼ三つ巴の戦いとなった。

4回戦成績
田中+52.2P   松崎▲2.5P  安村▲20.8P  太田▲28.9P

4回戦終了時
田中+45.6P  松崎+20.5P  安村+12.0P  太田▲78.1P

 

5回戦(起家から松崎・安村・太田・田中)

日本プロ麻雀連盟では、タイトル戦の最終戦の座順が、トータルの順位によって決められる。
最終戦スタートの時点で、トータルポイント1位の者が北家スタート。2位が起家、3位が南家で4位が西家スタートである。

親番が落ちて優勝の可能性がなくなった者が、麻雀に参加しなくなると、麻雀本来の勝負からかけはなれて、歪なゲームになってしまう。こうした現象を1局でも減らす為にこのルールが決められた。

東1局、起家の松崎。

四万四万六万七万八万五索六索六索七索七索四筒五筒六筒リーチツモ五索ドラ東

この大きな4,000オールをツモアガリ。これで暫定ではあるが、田中を抜いてトータル首位に立った。
続く東2局、西家の太田が渾身のリーチ。

二万二万二万六万六万六万二筒二筒三筒三筒三筒北北リーチドラ七筒

対局終了後、太田にこのリーチの事を聞いたら、仮に当たり牌が出てもツモ番がある限り絶対に見逃すと答えてくれた。誤解のないように記しておくが、太田が見逃すと言ったのは、あくまで自分の優勝の確率を少しでも上げるためである。トータルトップ者と100P以上離れている現状では、ここで8,000をアガるより、ツモった時に素点だけで40P縮まる四暗刻に賭けた方がいいと判断した為だ。

これを受けて親番の安村、8巡目の手牌。

 

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六万七万四索五索六索六索六索七索七索二筒四筒六筒七筒ツモ八索

ここで安村は、現物の四索を切ったが、強気に二筒四筒を払っていく手もある。
二筒は当たり牌であるが、二筒四筒を払って、仮にこの二筒を太田が見逃すと、安村に以下のアガリがあった。

五万六万七万三索四索五索六索六索六索七索八索六筒七筒リーチロン五筒ドラ七筒

もう1つ、アガリの手順があった。
安村、12巡目。

六万七万五索六索六索六索七索七索八索二筒四筒六筒七筒ツモ五万

実際は七索切りを選択したが、ここで六索を切ると17巡目ツモ四筒でテンパイ。

五万六万七万五索六索六索七索七索八索四筒四筒六筒七筒ロン五筒ドラ七筒

リーチすれば18,000のアガリがあった。
結果はテンパイもできずに流局、痛い親落ちとなってしまった。

しかし、安村も粘る。続く東3局、南家・田中がピンズの一色手で2フーロ。
これを受けて北家の安村、8巡目。

二万三万五万六万七万八万九万五索六索七索八筒八筒八筒白ドラ八索

ここから打八筒とする。普通ならここは打白なのだが、どうせ一通に拘るなら八筒は不要牌。
ならば先打ちしといて、一通をテンパイしたら白を勝負しようとする構えだ。
そして安めではあるが田中から出アガリ。

二万三万四万五万六万七万八万九万五索六索七索八筒八筒リーチロン七万ドラ八索

因みに切り順が逆だった場合、田中に八筒で放銃が濃厚だっただけに、安村の鋭い打ち筋が光る1局となった。

安村追い上げムードかと思われた東4局、松崎が勝負を決定づけるこのアガリ。

九万九万九万二索二索四索四索四索六索七索八索南南リーチツモ南ドラ二万

この2,000・4,000でリードを広げた松崎が、オーラスも自力でアガリ切って5回戦が終了。
松崎の優勝が決定した。

5回戦成績
松崎+35.5P   太田▲1.4P  安村▲13.4P  田中▲20.7P

5回戦終了時
松崎+56.0P   田中+24.9P  安村▲1.4P  太田▲79.5P

 

松崎「今日は自分なりに納得いく麻雀ができたと思う。課題も自分の中で見つかっているのでこれからも精進して頑張っていきたい。」

この決勝戦の前日、トーナメントベスト28で敗れた私は、翌日の決勝観戦記の為、ベスト16、ベスト8と観戦していた。

この2日間を観戦して、優勝した松崎が、一番普段通り打てていて内容が良かったと思う。
「麻雀打ちとして、こんなに幸せなことがあるのかっていうくらい嬉しいね。タイトル獲るって。」

普段クールなイメージのある松崎が、こんなセリフを言うなんて少し意外だが、それだけこの決勝戦に対する想いが強かったのだろう。

松崎は5回目のタイトル戦決勝進出で、念願の初タイトル獲得。
松崎プロ本当におめでとうございます。

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