第4期グランプリMAX初日観戦記
2014年03月31日
鳳凰位決定戦の激闘が終わると、息をつく暇もなく、グランプリMAXがやってくる。
日本プロ麻雀連盟の段位システムに使用されている、ポイントランキングの上位者と、タイトルホルダーなどを中心としたメンバーで行われる、年度末最後のタイトル戦である。
決勝に進出したのは、以下の4名。
左から二階堂瑠美 灘麻太郎 前田直哉 安村浩司 |
1回戦
(起家から、灘、二階堂、安村、前田)
東1局 ドラ
配牌から、ドラのが、親番の灘、西家の安村に2枚ずつ。
2巡目のをいきなり灘が仕掛ける。
例えば私なら、アガリたいからこのは仕掛けない。
説明するまでもないであろうが、を仕掛けたら他家の警戒心も強まり、後は自分のツモに任せる以外なくなってしまうからだ。
シャンテン数を上げることは、アガリに近づけることではない。
特にドラの価値が重い、日本プロ麻雀連盟Aルールでは尚更だ。
しかし、これが灘の雀風である。常識的なことは承知の上で、相手にプレッシャーをかけていくのである。
この挨拶代わりの灘のポンを受けて、周りはどう動くのか?
東1局から興味深い局だ。
4巡目、南家の二階堂は上の手牌から、打とした。
確かに、早い段階で役牌を打てば、放銃のリスクは低くなる。
「どうしてもアガリたい手牌なら、放銃になるまで絞れ。テンパイ料欲しさに打ち出すくらいなら、心中しろ」
私が若い頃はそんな感じで教わったものだが、現代風の考え方は違うようだ。
しかし、危険牌を先打ちするのが二階堂のフォームというわけではなく、これは、予選段階で何度も灘の仕掛けを見た上での対応策なのである。
もちろん、234の三色への変化がある自分の手牌もあってのことだが、灘の仕掛けには屈しない、といった意志が感じられる。
二階堂にピンフのテンパイが入った次巡、安村にもテンパイが入る。
ライブで観戦した方はわかったと思うが、安村のこのリーチには微塵も躊躇が感じられなかった。
この後の安村の戦い方を見るに、決してかかっているわけではなく、自身のフォームで打ち抜こうという、こちらも二階堂と同じく、決意のようなものが感じられる間合いであった。
もちろん、この局面でのリーチ判断の是か否かはさておき、の話しだが。
リーチをかけた時点で、灘の手牌は2シャンテン・・・
しかし、結果は安村から灘に12,000の放銃となる。
リーチをかけることによるデメリットの1つに、数牌の入れ替えができなくなることがある。
灘の仕掛けが、トイトイを匂わせていることもあり、リーチは尚早だったのかもしれない。
実際、とは入れ替えることができなくなり、前田が二階堂のに飛び込む可能性も低くなった。
場にはが2枚打たれてあるし、灘からが打たれることもある。もちろん半分は結果論の話しではある。
しかし、これが安村のフォームなら、この局の結果はどうでも良いのではないかと、私は思う。
初の大舞台。カメラの向こうにいる想像もつかないほど大勢の観戦者の前で、素の麻雀を打っていることが、躍進を続けている安村の強さの理由のひとつではないだろうか。
もう一つ注目すべきは、4巡目にを打った二階堂が、灘が2フーロ目のポンが入ったあと、場面に見えていないを打ち出していることだ。
安村のリーチを受けた後のポン。つまり、灘が全面戦争の構えであることを物語っている。
安村にもドラのが入っていることが考えられるため、灘の手牌にが関連している確率は50%を超える。
また、リーチがかかったことにより、前田からの出アガリも期待できなくなった。
きっと放銃となれば、暴牌と罵られるだろう。
それでも二階堂はを打ったのである。
灘は、相手に問題を突きつけ、打牌に制限をかけるような麻雀を打つ。
安村も二階堂も、相手の動向に左右されすぎて、破壊されないようにしようと、心に決めてきたに違いない。
東2局
7巡目に、二階堂がを仕掛ける。
次巡に灘がリーチをかけるが、、と無スジを3枚打った二階堂が、ドラのを勝負して、4,000・8,000をツモアガる。
二階堂瑠美
妹の亜樹が、日本プロ麻雀連盟の門を叩いた翌年、姉の瑠美が入会した。
亜樹は堅実な麻雀、瑠美は大きな構えで手役を狙う麻雀。
長期間に渡って、極端なほどの手役派として打ち続けていたが、今期のプロクイーンを獲得したときは、皆が知る二階堂瑠美のイメージとは少し違っていた。
簡単に言えば、遊びの部分が少なくなった。無理を通す場面を減らし、勝ちに対して貪欲になったといった感じか。
女流プロ達の最前線で活動している二階堂姉妹だが、人気の裏には、人とは違った悩みもあるだろう。
例えば、その手役を狙うそのスタイルが、好意的に解釈される方が多いということがある。
つまり、ファンの期待に応えて、麻雀を打つことが当然になってくるということだ。
自分の打ちたい麻雀を打って勝てるのなら良いが、そんなに簡単なものではない。
しかし、勝ちから遠のけば、プロとしての存在意義を考えてしまう。
ここまで貫いてきたスタイルを修正したことが、直接的に勝利に繋がっているかどうかはわからない。
実際スタイルチェンジするのには、かなりのエネルギーを要するはずだ。
それでも決心したのは、単なる人気商売では終わらせない、勝つこともプロとしての義務であると、本人が思い直したことに他ならないであろう。
東2局に、安村が2,000・4,000をツモアガる。
リーチ ツモ ドラ
すると、安村が止まらない。
東3局
リーチ ツモ ドラ
東3局1本場
リーチ ロン ドラ
東3局2本場は、難しい手牌をまとめて1人テンパイで流局に持ち込む。
東3局3本場
リーチ ツモ ドラ
この5局で一気にトップ目に立つ。
東4局4本場
灘の仕掛けは6巡目。
カンを引いた安村は、打とする。
11巡目に二階堂がをリャンメンチーすると、安村にドラのが食い下がりテンパイが入る。
安村の選択はカン待ちの一通で即リーチ。
すると、二階堂はこのでオリを選択し、次の巡目にアガリ逃しとなるをツモる。
結果はまたしても、安村の1人テンパイ。
主導権を取りにいった選択が功を奏した。
安村浩司
富山県出身の29歳。A型。連盟入会は、魚谷侑未、福光聖雄らと同時期となる。
今年度は、十段戦ベスト16、王位戦ベスト16など、躍進の年となった。
東3局5本場
3巡目、を仕掛けた安村の手牌はこうだ。
その後、安村の手牌が動くことはなく、南家・前田の2,000・3,900ツモアガリとなった。
ツモ ドラ
私が気になったのは、ポンに対し、解説の藤崎智が「この仕掛けはどうでしょうね~」と、首をかしげたことだ。
本当に、安村が仕掛けた瞬間にコメントを発した藤崎。これが鳳凰位の実力か。
いや、しかし安村にとってはを仕掛けるのが普通で、これを仕掛けないということは、自身のフォームが乱れていることに繋がるのかもしれない。
何が何だかわかならくなってきたが、解説者の藤崎はもちろん、例えば私も仕掛けない選択をすることが多い場面ではある。
1回戦結果
二階堂+17.0P 安村+11.7P 灘▲9.0P 前田▲19.7P
2回戦
(起家から安村、灘、前田、二階堂)
2回戦は前田の3,900からスタート。
全体牌譜の前田の捨て牌。5、6巡目のは両方手出しである。(明るい牌が手出し、暗い牌がツモ切り)
放銃した安村は、前田の手牌を見た瞬間に「ああ空切りか」と認識する。
こういう形で引っかかるのがイヤだから、と思考を放棄してしまう打ち手がいるが、これは麻雀の駆け引きの面白さでもあるのだ。
前田直哉
静岡県出身。42歳。A型。
今年、第2回グランプリMAX優勝者の勝又健志と共にA1に昇級。
2回戦東1局、前田は意図的にを空切りした。
しかし、次に同じ場面がきたら2枚目のはツモ切りするかもしれない。
自分が相手のデータを持っているように、相手も自分のデータを持っている。
長年プロリーグを戦っている前田の勝負感は、分厚く形成されてきているのであろう。
東2局
7巡目のにポンの声は、親番の灘麻太郎。
灘麻太郎
日本プロ麻雀連盟名誉会長
1回戦から所々に見られる遠い仕掛けは、常識的な対応をするもののピントを狂わせる。
逆に、人一倍常識を知っているからこそ、仕掛けたあとの均衡が保たれているとも言える。
体力も抜群で、とても77歳とは思えない。若い選手がフラフラになって戦っている中、姿勢を崩さずビシッと打ってくる。
勝負に関わる精神力は、年齢を重ねるに連れて充実していくという話しを聞いたことがあるが、体力も充実していなければ、麻雀を打って勝ち続けることは難しいだろう。とにかく規格外。並の人間ではない。
さて、このポンをした後のバランス感覚が素晴らしい。
まず、この仕掛けを入れた瞬間、灘の選択は打
目一杯には構えず、まずは相手の出方を見ようということだ。
出方と一言に言っても、牌譜だけでは伝わらない、ありとあらゆる所から情報を得ているのである。(としか思えない)
結果は、南家・前田との2人テンパイで流局となった。
これを検証する意味があるかどうかはわからないが、仮にを仕掛けなかった場合は、おそらく安村のアガリとなり、灘の連荘はなかった。
大きなアガリはないものの、この親は3本場まで続き、灘がトップ目に立つ。
東3局
親番の前田は9巡目にテンパイ。
ドラ
ドラ引きプラス三色の3ハンアップの変化があるので、これをヤミテンに構えるのは、まあ普通だ。
しかし11巡目、前田はこの手牌にを引いてさらにヤミテンとした。
全体牌譜を見ていただければわかるように、南家・二階堂から、のリャンメンチーが入っている。
二階堂の仕掛けは高いことが前提。
ドラを持っているであろう仕掛けに対して他家がどう対応していくか。
二階堂の捨て牌にはソーズが高く、自分の待ちであるソーズの上を厚く持っていそうだ。
前田の思考はそういったところであろうか。
結果、前田が5で500オールのツモアガリとなった。
ツモ
それにしても落ち着いている。
1回戦をラスで終了した前田だが、一切の焦りが感じられない。
東3局1本場
前巡にツモで、七対子ドラ2をテンパイした前田。
ここでに待ち替えで、さらにヤミテン続行。
この待ち選択はアガるためのもので、納得感はあるだろう。
13巡目にを暗刻から空切りしてリーチをかけると、一発でツモって6,000オール。
この半荘のトップを決める大きなアガリとなった。
東4局では
二階堂のリーチを受けて、この手牌からを勝負。
を出アガリ、トップを磐石のものとした。
終了後のインタビューで、勝負にメリハリをつけることが自分の持ち味だと、前田は語った。
一言にメリハリをつけると言っても、背景がしっかりしていないと、メリハリをつけて勝つことはできない。
先ほどの役無しヤミテンの後だけに、対局者には強烈な印象として刻まれたことだろう。
2回戦結果
前田+43.8P 灘+19.8P 安村▲21.0P 二階堂▲42.6P
2回戦終了時
前田+24.1P 灘+10.8P 安村▲9.3P 二階堂▲25.6P
3回戦
2回戦は、1回戦の着順と反対になったが、素点の大きさで前田が首位、二階堂が最下位となった。
このように日本プロ麻雀連盟のAルールでは、平均着順はそれほど大きな意味を持たない。
点数の動きが出れば、感情の動きも出てくる。
追いつかれた方と、追いついた方。残り回数が少なくなるに連れ、追い詰められる局面も多くなるものである。
東1局
3巡目、二階堂の打ち。
今までの二階堂瑠美なら、このを打ち出すことはなかったであろう。
3巡目の打ちの段階でを打っても、を打っても、二階堂の最終形に変化はなかった。
しかし、ドラ打ちを見た他家の対応は違ってくる。
例えば、前田の打は二階堂のスピードを感じて、先打ちした可能性がある。
他家に関しても、二階堂の安全牌を残して手牌をスリムに構えたり、と場面に影響を与えているのは間違いない。
これが、自分にとってプラスに帰ってくることも、マイナスになることもあるところが難しいところだ。
南1局1本場
2巡目、二階堂は發をツモり、メンツのを打ってホンイツに向かう。
これは、今までどおりの二階堂のスタイルだ。
この局の結果は前田の1,300出アガリ。
これも、2回戦目の役無しヤミテンと同様、リーチをかけても良さそうな手牌だが、前田はヤミテンを選択した。
やはり、この丁寧なヤミテンが、前田の強い部分となっているようだ。
理想的な並びで、3回戦目も前田のトップで終了となった。
3回戦結果
前田+13.2P 二階堂+6.7P 安村▲7.6P 灘▲12.7P
3回戦終了時
前田+37.3P 灘▲1.5P 安村▲16.9P 二階堂▲18.9P
4回戦
(起家から、前田、安村、二階堂、灘)
東1局 ドラ
親番の前田、ピンフツモからスタート。
は場に2枚切れ、ドラのは1枚も見えていない。
今まで前田がヤミテンを選択した手牌の全ては、リーチをかけてもおかしくはない手牌だ。
勝負を急がない、落ち着いた打ちまわし。
前田の押し引きのピントが合っているように感じるが、若干の違和感も覚える。
それは、キレイにまとめすぎではないか、ということだ。
私、滝沢の短所がそういった所にあることが、より、そう感じさせる理由かもしれない。
リスクを避ける打ち方をしていれば、大きく負けることはない。しかし、数少ない勝負所を先延ばしにしてばかりでは、勝ち味が遅くなる。
例えばこの東1局、リーチをかける前から「この親番は勝負所、一気に突き放す!」と心に決めていれば、どうだったか?
今の私は、反省すべき箇所をそういった所に持っていくことが多い。
ツキの偏りを捕らえにいく際に、決心は必要で、それは単なる思い込みでも構わないと思う。
極端に言えば、配牌を取る前から腹をくくっても良い。
「丁寧に打つところが長所だね」
そう言われれば、常に丁寧さをこころがける。しかし、時にそれが、成長の妨げになることがある。
特に、勝った者はあらゆる部分で好評価を受けやすいものだ。
短所を克服しようとすれば、その分長所がかすむものだが、それの繰り返しで太い幹が形成されるのではないか。というのが、今の私の考えだ。
南4局
実に、ここまでの前田「らしくない」放銃。
二階堂がトップで、初日が終了となった。
そういえば前田も安村と同様、タイトル戦の決勝は初だった・・・
4回戦成績
二階堂+27.3P 灘+14.8P 前田▲17.2P 安村▲13.1P
4回戦終了時
前田+20.1P 灘+13.3P 二階堂+8.4P 安村▲41.8P
~2日目観戦記へ続く~
カテゴリ:グランプリ 決勝観戦記