プロリーグ(鳳凰戦)決勝観戦記/第31期鳳凰位決定戦観戦記三日目 前原 雄大
2015年03月05日
鳳凰位決定戦観戦記三日目:前原雄大
―――――――――先を見る人
それにしても瀬戸熊の2日目までのデキが悪い。
特別なミス、エラーをしているわけではない。それでもスコアが纏まらない。
2日目が終わり、
「どうする?独りで帰っても良いんだよ」
瀬戸熊と帰る方向が同じなので誘って見た。
「ご一緒します」
私が違和感を持ったのは、やはり、初日 東1局であった。
東家・瀬戸熊手牌
ツモ 打 ドラ
西家・藤崎捨牌
私の知っている瀬戸熊直樹という打ち手はここで、受けに入らない打ち手だった。
千の矢が頭上を襲って来た時、逃げ場所を探すのではなく、矢が放たれている場所を探し求め相手を倒す。
何処に逃げても矢が当たる時は当たるし、それならば戦いに臨む打ち手のように思っていた。
「最近、軽い放銃が結果として致命傷になることが多いんですよね」
しばらくの沈黙の時が流れた。
それは、私にも良く解る気がした。
数年前の十段戦の稽古の折り、やはり、私もそうだった。
「前原さん、パワースポットに行きましょう」
調子の悪さ、デキの悪さを心配した佐々木寿人の誘いに私は附いて行ったことがある。
私は元来、無神論者、というより不神論者である。
それでも、そうしたのは、彼の私への好意を受けたためである。
その時は結局、4連覇を逃した。
その時から、バイオリズムを意識するようになった。
丁度、今回の瀬戸熊とダブるように感じる。
しばらくの沈黙の後、瀬戸熊が口を開いた。
「たとえば、前原さんやほかの先輩達と戦う時はキチンと立ち向かうと思いますが、これからは、後輩達と戦う時が増えてくるようになると思います、ボク自身の戦い方が研究されているので、長所を伸ばすだけでなく、短所の矯正に入っていることも事実です。」
私は瀬戸熊の言葉を聞いた時得心した。
瀬戸熊にとっても今回の鳳凰戦は定説な戦いである。
それと同時にこれからの戦いも大切なことなのである。
瀬戸熊は、今を見ながら先を視ていると私には感じられた。
9回戦 (起家から、勝又、前田、瀬戸熊、藤崎)
東1局
瀬戸熊、ヤミテンに構えるも勝又の仕掛けに合わせリーチを打ち、最後のを手繰り寄せる。
リーチ ツモ ドラ
瀬戸熊にとっては初めてと言ってもいいほど先手を取れた開局である。
このアガリは瀬戸熊の時間帯に入る予感を感じさせた。
東3局1本場
勝又が鮮やかな手筋でメンホンを仕上げ、藤崎の一通リーチとぶつかるも、藤崎より8,000は8,300を出アガる。
東4局
ダブとはいえ、ここから仕掛ける藤崎も珍しい。
6巡目に前田よりリーチが入る。
リーチ ドラ
このリーチは、結果は別としてとの振り替わりがある以上、また、手牌と捨牌のバランスを考えれば、いままでの前田らしくないリーチのように思えた。
勿論、この前田の方法論が間違えというわけではなく、前田らしくないというだけのことである。
結果は、前田からの藤崎への12,000点の放銃となった。
そして前田の持ち点が15,000点となっても、次局リーチでを引きアガる。
リーチ ツモ ドラ
この1,300・2,600は大きい。そして、前田の強さを物語っている。
これで持ち点を20,500点まで戻す。
東4局に関して前田はこう語っている。
「高目のツモなら勿論ヤミテンですが、安めの引き…。ヤミでの3,200はあまりに弱すぎる。でも捨て牌があまりに派手になりすぎた!しかしまだ守る時ではない。ダブを藤崎プロが鳴いているが高い感じはしないし、あっても5,800であろう。結果は12,000の放銃であったが全く後悔は無い。」
前田にそれだけの覚悟があったということなのだろう。
東4局1本場
今局に関して前田はこう語っている。
「とのシャンポンリーチをしたのだが、凄く迷った。3者から1シャンテン、もしくはヤミテン気配がとてつもなく出ていた。普段なら多分しないが、点棒状況も考え嫌々のリーチである。結果をツモる。これでかなり救われた気がしました。」
南3局
前田の親を、300・500は400・600で落とした瀬戸熊の親番。
今局は瀬戸熊にとっては良い感じで迎えた親番であるだけに、ブレークポイントだと私は見ていた。
ただ、今局は難しい局で、瀬戸熊はチャンタに的を絞ったが、メンホンのツモアガリもあったように思う。
ツモ ドラ
結果はチャンタのタンキとなったが、アガリ逃しとなったため、残り1枚を争う、瀬戸熊、藤崎の争いは、藤崎のツモアガリで終わった。
瀬戸熊にとっては大きな逸機であったように思える。
ただ、今局のポイントは5巡目にを手の内に残せるかどうかであるから、難しいと言わざるを得ない。
今局、瀬戸熊がメンホンをアガっていれば、この後、親番で、何本積み上げたか分からないほどの逸機だったように思えてならない。
南4局
瀬戸熊のチャンスを潰した以上、勢いを掴むのは藤崎である。
7巡目の早いテンパイからリーチを入れ、手詰まりの勝又より、11,600点を出アガる。
藤崎手牌
リーチ ロン ドラ
南4局1本場
勝又のドラタンキのリーチをしのぎ切り、前田が1,000点は1,300点をアガリ、ラス抜けを果たす。
前田のしぶとさが光るオーラスであった。
これで16.2ポイント差となった。
9回戦成績
藤崎+35.2P 瀬戸熊▲5.0P 前田▲11.8P 勝又▲18.4P
9回戦終了時
前田+66.9P 藤崎+50.7P 勝又▲53.1P 瀬戸熊▲64.5P
10回戦 (起家から、勝又、瀬戸熊、藤崎、前田)
東1局
親で勝又が親満を取るか親跳を取るかで選択があり、当然の如く高目を取るも流局。
勝又にとってはアガリたい1局だっただろう。
ポン ドラ
東1局1本場
瀬戸熊がメンチンの倍満に仕上げる。
待ち取りも間違えず、アガリ切るところは流石としか言いようがない。
徐々にではあるが、瀬戸熊の調子が上がってきたようである。
今局に関して前田はこう語っている。
「とをトイツで1枚目のをスルー。その後が暗刻になりをポン。結果テンパイするものの、瀬戸熊プロに4,000・8,000をツモられる。この局、牌譜解説でも、取り上げられていたが、私としては別に間違いだと思っていないし、後悔も無いです。」
東2局
迎えた親番で、瀬戸熊が一色手に走るも、勝又がリーチをし2000・3900をツモアガる。
リーチ ツモ ドラ
今局に関して前田はこう語っている。
「次の局、勝又プロにドラドラのテンパイが入る。私にも勝負手が入るが、先にリーチを打たれ目一杯にしてしまった為が出る形。しかしが鳴けが出ない形になるがツモられる。この時感じたこと…振り込みにならない形になり悪くはない。しかし2局続けて鳴いて連続ツモられ。この半荘だけは鳴きは超要注意!!ってことである。」
東4局
藤崎が大三元をツモアガる。
ポン ポン ツモ
16巡目にをツモっているが、僅かな逡巡の後、打としているが受け間違えないところが流石である。
この瞬間、首位が前田から藤崎となる。
この局に関して勝又・前田はこう語っている。
勝又
「東1局1本場に、手組の悪さから倍満の親かぶりとなりましたが、東3局に藤崎さんのリーチに競り勝ってのピンフのアガリに手応えを感じここで勝負と思っていました。しかし、を仕掛けられた以上、まっすぐに進むのではなく、対応すべきだったと思います。自身のポイントを伸ばしにいくべきなのに、2フーロされたときに一番苦しいのは親の前田さんと思ってしまったことは大きな反省材料と思います。」
前田
「そして事件が起きる。藤崎プロの大三元。しかも親かぶり、持ち点は10,000点を割る。必ずこういう局面は来ると思っていたがちょっと想定外である。もうこの半荘はとにかく我慢!そしてこの半荘を捨てない!」
南3局
瀬戸熊が見事な手筋で2,000・4,000をツモアガる。
7巡目
ドラ
12巡目
リーチ ツモ
南4局
13巡目、瀬戸熊よりリーチが入る。
リーチ ドラ
前田は最終ツモので、テンパイを入れる。
ツモ ドラ
この最後のツモが線となり、前田の連荘の始まりとなった。
南4局1本場
ツモ ドラ
今局など、前田はツモでテンパイながらもツモの弱さを感じ、最後までヤミテンで通すあたりが当然のことではあるが、前田流である。
強いツモとは ツモ、、、などである。
一番弱いツモであるであるからこそ、前田はヤミテンに構えたのである。
南4局2本場
リーチ ドラ
この時点で前田の待ち牌であるは残り7枚である。
ツモアガリも確約されたとみていたが、結果はそうならなかった。
前田のリーチを受けて、次巡ツモ
ツモ ドラ
藤崎がこの手牌から現物であるをツモ切ったのである。
私ならばおそらく打と1シャンテンに構えたように思う。
このあたりに藤崎の麻雀に対する丁寧さが伺える。
2巡後、前田よりツモ切られたの仕掛けも藤崎らしい。
そして藤崎はその後、前田のロン牌であるを3枚食い上げ流局に持ち込んだのである。
これも藤崎ならではの麻雀である。
南4局3本場
前田は前田の目から見て3枚目であるをツモアガった。
ツモ ドラ
「ツモ2,000オール」
前田は「ツモ」の発声をするのに時間を要している。
このことからも解るように、今局はフリテンリーチもあったように思える。
ツモにツモの力を感じ、待ちの良さを考えるならば、打のフリテンリーチの敢行である。
4,000オールから6,000オールまでの可能性を秘めていたこと、トータルトップが入れ替わったことを考えれば、1つのチャンスのようにも私には思える。
もちろん10人いれば10人の価値観、100人いれば100人の麻雀観があるのだから、前田の取った方法論を否定するつもりはない。
ただフリテンリーチを打った場合、一観戦者としてその先を見てみたかったのは事実である。
南4局4本場
前田は残りツモ2回でテンパイが入った。
ポン ツモ ドラ
ハイテイで8,000オールのツモアガリまで期待させたが、流局で終わった。
ただ、このをポンしなければ前田にテンパイが入ることは無かった。
これも打ち手の対局観である。
この時点で前田は7,000点しかなかった持ち点を25,400点まで持ち起こしたのである。
前田
「半荘を捨てない、その気持ちが届いてかオーラスの親で25,000点まで戻すことが出来たのは、気持ちの上でも大きかったです。」
確かに、前田の言う通り、オーラスを迎えた親番の時点でわずか、7,000点持ちから、5本場まで積み上げ、持ち点を24,200点で終えたのは、前田の麻雀力以外の何物でもない。
10回戦成績
藤崎+22.9P 瀬戸熊+8.8P 前田▲9.8P 勝又▲21.9P
10回戦終了時
藤崎+73.6P 前田+57.1P 瀬戸熊▲55.7P 勝又▲75.0P
11回戦 (起家から、瀬戸熊、藤崎、前田、勝又)
遂に首位が入れ替わった。
東2局
前田の一色に染める感覚が今シリーズ素晴らしいものがある。
藤崎の親番と言うこともあり、この2,000・4,000のアガリは追う側に立った前田にとって感触の良いアガリである。
チー ポン ツモ ドラ
今局に関して前田はこう語っている。
「1回戦、2回戦とかなりの我慢が続いた。どうしても浮きの欲しい半荘。 配牌はソーズが目立つ。ここは一気に染めにいこうと決める。藤崎プロのは仕掛けずにから仕掛けに行く。藤崎プロも珍しく被せにくる。を鳴かなかった為、手の進行が遅いと睨んだのか?それともここが勝負と思ったのか?途中藤崎プロがをポン!高く見えない。勿論全部勝負である。結果2,000・4,000のツモアガリ。これでかなり気持ち的に楽になり、その後も落ち着いて打てたように思います。」
東3局
親番を迎えて前田はリーチを打ち、一発で引きアガり2,600オール。
リーチ ツモ ドラ
この前田の親番をキッチリと藤崎が落とす。
東4局
藤崎が柔らかいうちスジで、700・1,300をツモアがる。
南1局
瀬戸熊が難解な局をまとめ切り、ドラ暗刻のリーチを一発でツモアガる。
南1局2本場
藤崎が鋭い反応で瀬戸熊のを仕掛け、同巡前田のツモアガるべきを喰い流し、跳満のツモアガリを阻止する。
チー 打 ドラ
この藤崎の仕掛けには驚かされた。
瀬戸熊も5本場まで積み上げるも、前田にドラ暗刻をツモられてしまう。
リーチ ツモ ドラ
南3局2本場
勝又がリーチ高目イーペーコーを一発でツモアガる。
本当に一発ツモの回数が多い半荘である。(注・連盟Aルールは一発、裏ドラなし)
それだけ打ち手のエネルギーが集約されているのだろう。
痛いのは親かぶりさせられた前田ではなく、ラスを押し付けられた藤崎の方だろう。
リーチ ツモ ドラ
オーラスは勝又の1人テンパイでトップは前田、1人沈みの藤崎。
これで前田の再逆転で11回戦が終了。
11回戦成績
前田+25.2P 勝又+5.4P 瀬戸熊▲4.6P 藤崎▲26.0P
11回戦終了時
前田+82.3P 藤崎+47.6P 瀬戸熊▲60.3P 勝又▲69.6P
12回戦 (起家から、勝又、瀬戸熊、藤崎、前田)
本日の最終戦である。
東1局
前田手牌
ロン ドラ
瀬戸熊からの出アガリ。
前田にとっては幸先の良いスタートであった。
東2局
勝又の11巡目の打は好手であった。
ツモ 打
次巡、当然の如くを並び打つことも大事である。
ポン ロン ドラ
四暗刻にこそならなかったが、勝又会心のアガリである。
今局に関して瀬戸熊はかなりを後悔していた。
瀬戸熊
「藤崎さんドラリリース、勝又ポンのところで引くことが出来ない自分が情けなかったです。我慢する戦いを選んだのだから、まだまだ我慢すべきでした。」
南3局
これぞ勝利者とも思わせる前田のアガリである。
ラス牌のを7巡目、テンパイするや次巡跳満をツモアガった。
これは点数も大きいが、価値のあるアガリである。
ツモ ドラ
南4局
勝又
「を切らずにを切った以上、メンゼンで進めるべきでした。前田さんからリーチが入ったことにより直撃でトップとなれるという目先のことしか見えていない浅い仕掛けでした。」
9巡目
ツモ 打 ドラ
勝又はこうコメントしているが、好調者の前田の親リーチが入った以上、終局させる一局として私は悪くない応手に思ったのだが、見る側と対局者の心理は別のところにあるということだ。
12回戦成績
前田+28.9P 勝又+13.5P 藤崎▲9.3P 瀬戸熊▲33.1P
12回戦終了時
前田+111.2P 藤崎+38.3P 勝又▲56.1P 瀬戸熊▲93.4P
全対局終了後
「瀬戸熊さんの優勝の可能性は5,000分の1、そしてぼくの可能性は3,000分の1」
勝又がそう語っていたが、何が起こるのか、分からないのが麻雀である。
最終日が楽しみである。
カテゴリ:プロリーグ(鳳凰戦)決勝観戦記