第36期鳳凰位決定戦 初日観戦記 荒 正義
2020年02月13日
1月18日の土曜日、『鳳凰』決定戦の初日だ。
この日は、朝からしとしと雨が降り、その雨がみぞれに変わった。とっても寒いのだ。朝の散歩なんて、犬も人も論外である。夏目坂スタジオの外では、皆が震えていた。異常気象は、人に不吉な予感をもたらす。
(今日は荒れるかも知れない…)と、私は思った。
前期鳳凰位・吉田直の挑戦者は…古川孝次、西川淳、藤崎智だ。
私の展開予想は、吉田と西川が腕を振り回し直線的に攻めるだろう。受けの強い藤崎は、それをどう捌くかだ。大局観の明るい藤崎なら、2人の攻め屋がいても捌けるはずだ。しかし、一つ問題がある。ここにサーフィン打法の古川が加わるのである。これが厄介なのだ。
古川の上家は、ポンでツモが飛ばされる。牌も絞る必要がある。いろいろ面倒なのだ。
吉田は別のタイトル戦で、古川の仕掛けに攻めたら、ドラの暗刻に3度も打ち込んだという。舐めてはいけないのだ。
古川対策はそれぞれが練っていようが、誰も口には出さなかった。
1回戦。
出親は吉田で順に西川、古川、藤崎の並び。
初めは2,000点の応酬で静かな立ち上がり。点棒が大きく動いたのは、東3局だ。親は古川でドラは。古川の上家は西川だ。1巡目で西川がを切ると、古川が動いた。
ここからチーして、打。これなどまだ、まともな鳴きだ。は藤崎の第一打だし、2枚目だ。古川の手は、ドラ2でタンヤオだし三色が見える。巧く決まれば11,600点だ。しかし、この鳴きで9巡目に吉田にテンパイが入った。
引き入れたのはと。テンパイ直前に、藤崎がを切っていた。西川がその3枚目のをツモ切ると、吉田からロンの声。西川には痛い8,000点である。このとき古川の手はこうだった。
(なんだ、ちっとも進んでないじゃないか!)
チー
鳴きでツモを変え、相手に有効牌を流す。けれど、自分は被害なし。このとき古川が(相手の不幸は蜜の味…)と、思ったかどうかは定かではない。
親を引いた吉田は、続いて1,300オールをアガる。
南1局1本場。ドラ
今度は、を打たされた西川が怒った。
7巡目でテンパイ、即リーチだ。七対子の河だったが、怒っているのだ。構ってはいられない。リーチ後、古川が動いた。古川は、タンヤオドラ1の3メンチャンで待ちだ。しかし、その動きで西川がを引き当て3,000・6,000点(+300)。西川の怒りは、これで収まった。
南2局は、親の西川がピンフドラ1をリーチ。気分のいいアガリの後だから、引けると思ったが、流局して西川の1人テンパイ。ここで西川の略歴を紹介してこう(他3者は前に書いたので、ここでは省く)。
昭和48年生まれの46歳。血液型はA。
私立市川高校を出て、上智大学に進む(中退)。その後、電通のインターネットビジネスに従事。このとき連盟に入る。
この後、離職し麻雀の道に進む。2003年に千葉で健康マージャンを設立し、現在に至る。麻雀を覚えたのは小学4年で、雀歴は36年である。
この時点で、4者の持ち点はこうだ。
吉田 西川 古川 藤崎
33,8 35,0 28,6 21,6
このままの流れで、決まるかに見えたがここからが一波乱。
南2局1本場。ドラ
8巡目、南家の古川にテンパイが入る。
ツモ
を切って、こっそりヤミテン。しかし、は吉田が暗刻。も西川に流れて暗刻になる。ドラのは藤崎に浮いているが、出る気配なし。しかし、古川が15巡目に4枚目のを引いて2,000・4,000点。リーチ棒と積み場で、9,300点の収入。これは大きい。
南3局は古川の親番。
まず、リンシャンでカンを引いて1,600点オールだ。次がこれ!
南3局1本場。ドラ
これが13巡目の親の手。
ポン
ドラのポンだから、は出ない。は残り1枚で、も残り1枚。
するとすぐにを引き、のツモである。恐ろしい引きである。3,900は4,000点オールだ。この後は、吉田が2度アガって浮きを確保。1回戦の成績がこれである。どうした藤崎!
吉田 西川 古川 藤崎
+5,1 ▲8,8 +33,0 ▲29,3
2回戦。
出親は西川で順に古川、吉田、藤崎の並び。
東1局は、藤崎が古川に1,000点の放銃。そして、東2局である。
藤崎の手が6巡目でこうなった。
ドラ
ドラのを暗カンしないのは、自分へのマークを避けるためだ。それは分かる。
しかし問題は、下家の西川から9巡目に2枚目のが出ると、これをスルーしたことだ。なぜだろう、ここはポンして打が正しい応手に見える。
ポン
これなら警戒されても、両面と3メンチャンでアガリが十分期待できる。この後、マンズかソーズが出たならチーして打。ツモでテンパイならの暗カンである。ツモを増やし、リンシャンを狙う。案の定だ、この後の西川のツモがと。を鳴けば、アガリだったのだ。
この後、藤崎が暗カンに出たがリンシャン牌はだった。これをツモ切ると、直前にテンパイを張った吉田の手が開いた。
吉田の入り目はで、のポンなら吉田はテンパイすらできなかったのである。
満貫のアガリが満貫の放銃、この出入りは大きい。これはこの日、藤崎が初めて見せた隙だった。
この後、単打が続き点棒が大きく動いたのは南2局からである。
古川の親番。ドラ
ポン、ポンと古川の早い仕掛け。
ポン ポン
またか、と思っても河がいいから油断はできない。
(古川の河)
しかし、手の内7枚はこれである。
これでは、テンパイもほど遠い。これがサーフィン打法か。いや、違うだろう!
しかし、相手の手を曲げる効果はあるかも知れない…と思ったら違った。仕上がりがこの形だ。観戦している方だって、呆れる。
ポン ポン ツモ
これで4,000点オールとは、これいかに。こんなアガリをされると、相手はグッタリと疲れる。観戦している方だって、呆れる。
この親を、吉田が蹴って3本5本。何をされるかわからないから、懸命に落とすのだ。
南3局 ドラ
その甲斐あってか、親の吉田にチャンス手が舞い込んだ。8巡目、不調の藤崎のリーチに追いかける。
出ても11,600だ。藤崎の麻雀は、強くて華麗だ。ファンも多い。吉田も尊敬しているはずだ。しかし、今は勝負だ。出る杭は打たねばならない。
どれ、藤崎の手はどうだ。ありゃ!
なんとを引けば、跳満の勝負手だった。しかし、勢いの差で軍配は吉田に上がる。を引いて4,000点オールだ。
1本場は、1,000・2,000をツモって古川が落とす。この時点で4者の持ち点はこうだ。
西川 古川 吉田 藤崎
22,5 42,7 44,3 10,5
このまま終われば、古川と藤崎との差は100Pになる。これでは優勝は難しい。だが、藤崎もこのままでは終わらなかった。ラス親を迎え、16巡目にリーチを放つ。
ドラ
そして2巡後、見事ラス牌のを引き当てたのだった。6,000点オールだ、まだ浮かないが、大きなアガリだ。1本場は古川が2,600点を和了して、2連勝。
2回戦の結果。
西川 古川 吉田 藤崎
▲21,5 +17,6 +12,3 ▲8,4
これで4人の総合成績こうだ。
古川+50,6P
吉田+17,6P
西川▲30,3P
藤崎▲37,7P
異常気象、荒れる予感は本当だった―。
3回戦。
親は古川で順に吉田、藤崎、西川の並び。
また西川が古川の上家で、苦しい展開。点棒が大きく動いたのは、東2局だった。
まず、先制リーチが西川。
ドラ
河から七対子は予想できるが、されてもいいのだ。待ちまでは分らない。
このリーチに、勝負を挑んだのが古川。追いかけリーチだ。は残り1枚。
今日のできの善し悪しから、勝負はあったのも同然。もちろん、古川が断然有利だ。しかし、流局間際を掴んだのが古川だった。リーチ棒込みで9,000点。高い山を削れたのだから、これはみんなの喜び。だが、誰も顔には出さない。いたずら小僧め…やっと捕まえたか、である。
東4局 ドラ
9巡目、藤崎の先制リーチが入った。
その手の内は、こうだ。
入り目がだから、手応え十分。12巡目、西川が追いついた。
は2枚切れだ。しかし、藤崎は、すぐにを引いて2,000・4,000点。この日、初めてのトップ先行である。風は藤崎に吹き出した。後は得点をどこまで伸ばせるか、が鍵となる。
南1局ドラ
古川の親番。その古川から、7巡目にリーチが入った。
この河では、待ちは読みようがない。その、手の内はこうだ。
ドラはだが、これを引かれたらガクッンとなる。ツモなら、まだ許せる。流局でも結構だ。実戦は後者で、吉田もテンパイだから古川は500点にしかならなかった。3人とっては、古川がラスのままで終わることが一番なのだ。
南1局1本場。ドラ
今度は、藤崎の配牌が軽い。2巡目でこうだ。
6巡目でこう。
ツモ
そして、7巡目の最終形がこうだ。
もちろんテンパイ、即リーチだ。すぐにを引いて2,000・4,000点。リーチ棒と積み場で、9,300点の収入。古川が親番で、大きく差が開いた。
しかし、古川もこのままでは終わらなかった。
南4局1本場。ドラ
10巡目、東家の西川からリーチがかかる。
待ちはカンチャンだが、引けば3,900点オールだ。一気にトップに立てる。
しかし流局寸前、アガったのは古川だった。
ツモ
4,000・8,000点で、浮きの2着に浮上。
古川を追いかける3人はガックンである。上家のツモを飛ばし、鳴きで相手を翻弄する。そして、面前の高打点もある。憎まれっ子…世に憚る、とはこのことだ。古川強し!
第3戦の結果。
藤崎 西川 吉田 古川
+17,8 ▲10,0 ▲17,0 +9,2
4者の総合得点が、これである。
古川+59,8P
吉田+0,4P
藤崎▲19,9P
西川▲40,3P
第4戦。出親は藤崎で、順に西川、吉田、古川の並び。
西川は、やっと古川の上家から解放された。代わり上家に座ったのが、吉田だ。大丈夫か?
東1局0本場。ドラ
13巡目、両面で藤崎が動いた。
上家の切った、を鳴いたのだ。
チー
ドラが暗刻で、ダブの後付け。なりふり構ってはいられない。慌て者がいれば、出てくる可能性があるのだ。実際は吉田と古川の手に、1枚ずつもたれていた。しかし、手にならずノーテンだから出るはずも無い。藤崎の1人テンパイだ。
東1局1本場。ドラ
またしてもドラが。早い巡目に、古川のチーが入った。その鳴きで、有効牌を引いた藤崎が、13巡目にテンパイを果たす。
ツモ
藤崎は、を切ってしっかりヤミテン。高目のは、河に3枚出ているから当然だ。9,600は9,900点。これは痛い。しかし、この時点で古川の手はこうだ。
チー
が4枚目であったとはいえ、何をかいわん。不幸の鳥は、古川の上家。今度は、吉田の頭上に舞い降りた。吉田もピンフのテンパイなので、このは止まらなかった。偶然とはいえ、古川の上家は鬼門である。
2本場は、西川が落とす。七対子のみだが、打ったのは吉田だった。
東2局。ドラ
11巡目、吉田がを切る。すると、親の西川からロンの声。
またしても9,600点。このとき古川は、面前だった。だからと言って、無罪とは限らない。吉田の体に、毒がまわったのだ。3度の放銃で、持ち点は7,300点。まだ、東2局だ。頑張れ、吉田!
東2局1本場。ドラ
6巡目に吉田のリーチ。
はドラだから、出ても跳満。しかし、この時点では空テン。流局して、吉田の1人テンパイ。
東3局3本場。ドラ
7巡目、好調の藤崎のリーチだ。
14巡目、親の吉田が追いかける。
ツモれば、三暗刻。しかし、アガリは藤崎でのツモ。
これで、藤崎の持ち点は47,900点。
次は、古川の親。これも藤崎が早い仕掛けで捌いて、2,000点で落とす。打ったのは吉田。後は小場で流れた。
南2局1本場。ドラ
やっと、吉田のアガリが出た。
ツモ
ヤミテンで、これを引いて2,000・4,000点(+300)。
後は、小場で流れて終了。
4回戦の成績がこれ。初めて古川が沈んだ。
藤崎 西川 吉田 古川
+26,3 +6,4 ▲26,1 ▲6,6
そして、初日の総合成績がこうである。
古川 +53,2P
藤崎 +6,4P
吉田 ▲25,7P
西川 ▲33,9P
この日は、古川の強さが光った1日だった。藤崎の巻き返しも見事。
もちろん、勝負はこれからだ。吉田と西川にも、優勝のチャンスは十分にある。
次が楽しみだ!
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