第29期鳳凰位決定戦 初日観戦記
2013年03月01日
私が初めてプロの対局というものを肌で感じたのは、今から9年前の「第20期鳳凰位決定戦」だった。
この年は、荒正義が挑戦者の立場で決定戦に進み、そしてその荒の採譜者を滝沢和典が務めていた。
プロ連盟の現在のタイトル戦はPCで採譜を行い、即日牌譜が観られる時代であるから、当時の手書きの紙牌譜というものが随分と懐かしく思える。
荒と知り合ったばかりの私は、その頃、麻雀プロに対する認識がほとんどなかった。
「早くプロになった方がいい」という荒の言葉の意味も、正直私にはよく理解できずにいたのである。
(そこに行けば何かわかるのだろうか)そんな思いから、私は試合会場である神楽坂へと足を運んだ。
そして気が付けば3日間全て、計18回戦に渡って荒の麻雀に見入っていた。
「プロというものは背中で魅せられる人のことを言うんだな」
この決定戦、荒は3着に敗れた。だが、一アマチュアの心を動かすには十分過ぎる戦いだった。
「この大きな舞台で自分もいつか戦いたい」
そんな思いが芽生えた瞬間でもあったのである。
昨年、荒はそれ以来の決定戦に進み、20年ぶりに鳳凰の座を奪還した。
今期は王者として、史上最高とも謳われるゴールデンカードでの防衛戦に挑むことになったのである。
その荒から私の元に電話があったのは、今期プロリーグの全日程が終了した翌日のことだった。
意外にもその内容は、今回の観戦記についてだった。断る理由はどこにもなかった。
いや、どこかで心の準備が出来ていたのかもしれない。
最後に放たれた荒の一言が凄く心に響いた。
「麻雀なんて二の次でいい。ヒサトなりの書き方で人間を描いてくれれば」
この言葉は、私に対してというより次の世代に向けてのメッセージのようにも聞こえた。
我々には、偉大な先輩達がいる。彼らが培ってきた伝統を受け継ぎ、後輩達に伝えていく。
間違いなく今、その段階に差し掛かっているのである。
それにしても凄いメンバーが集まったものである。
観戦記者という重責を背負ったこともあるが、自分以外の対局を前に寝付けなかったことなど、これが初めての経験である。
答えの出せない展開予測と、4者の戦前取材の言葉達が頭の中を行き交う。
ただ、その中でも1つだけ一致した言葉がある。
「先攻絶対有利」
皆それぞれ脚質は違えど、そこに重きを置いた戦いになるということなのだろうか。
決戦まであと8時間。もうすぐその答えが見つかる。
左から荒正義プロ、瀬戸熊直樹プロ、前原雄大プロ、藤崎智プロ |
1回戦(起家から、荒・藤崎・前原・瀬戸熊)
東1局、ドラ。
対局室に張り詰めた空気が漂い、世紀の一戦に携わる全てのスタッフの緊張感もピークに達する。
「では、対局を開始して下さい」
午後1時15分、立会人藤原隆弘の合図により、2012年度の王者を争う長い長い戦いの火蓋が切って落とされた。
ニコニコ動画での有料放送が決まり、例年にも増して注目が集まる第29期鳳凰位決定戦の開局は、6巡目にして4者が1シャンテンという早い展開になる。
先攻有利を強く意識する各人にとっては、点棒の多寡もそうだが、まずは最初のアガリが欲しいところであろう。7巡目、最初のテンパイを入れたのは荒正義。
ドラが2枚の七対子だ。
昨年の初戦で見せた、あの6,000オールが脳裏をよぎる。
加カン チー リンシャンツモ ドラ
やはり今年も主導権を奪うのは荒か。
私はノートに目を落とし、そう書き記した。
荒正義プロ |
荒正義
現鳳凰位。第8期鳳凰位、第5期、29期王位、第10期最強位、第12期麻雀マスターズ、グランプリ2006など獲得タイトル多数。連覇に挑む“精密機械”が掲げる今回のテーマは「魅せる麻雀の追求」
戦前の取材では、「実際戦ってみなければわからないが、様々なシミュレーションは頭の中で出来上がっている。とにかく手を作って勢いを呼び込む」と答えてくれた。
1年間のブランクについても不安はなく、むしろ年間を通して対戦相手の打ち筋を研究できたことに大きな収穫があったようだ。鋭い読みと、鮮やかな手作りを武器とする荒の麻雀に死角はない。
ドラのがトイツになってテンパイが入ったこと、場にが1枚切れているが、が2枚飛んでいることなどから、ここで即リーチを打つ選択もあったが、荒は慎重にヤミテンを選択。
既に切っている前原はもちろん、藤崎の捨て牌からもはこぼれそうという判断か。
ところが10巡目、荒は場に2枚切れのを引くと、ここが決断のときとばかり打としてリーチ。
リーチ ドラ
いきなりの勝負手だけに、荒にとっては是が非でも結果を出したいところだ。
しかし同巡、西家・前原がすっとをツモ切る。荒の心中はいかばかりか。
その直後、北家・瀬戸熊も追いつく。
リーチ ツモ
絶好のドラを引き入れ、高目3,000・6,000のリーチ。王者荒に敢然と勝負を挑む。
その荒のリーチ一発目のツモは、事もあろうになんと。
前原からの9,600、或いは12,000、そして6,000オール、全てのアガリが泡となって消えた。
こうなれば圧倒的優位に立つ瀬戸熊。
12巡目に安目ながらを引き、今決定戦最初のアガリをものにする。
瀬戸熊直樹プロ |
瀬戸熊直樹
主な獲得タイトルは、第26、27期鳳凰位、第28、29期十段位、第14期發王位など。
日本プロ麻雀連盟が誇る“絶対的エース”が掲げる今回のテーマは「鳳凰奪還」
昨年は荒の徹底マークに遭い王座陥落となったが、下馬評では今期の優勝候補筆頭に挙げられる。
「とにかく自分との戦いになる。弱点のないメンバーばかりなので、いかに自分の麻雀を打ち続けられるかということに尽きるだろう。ただ、それが決して我がままな打牌にならないように、細心の注意を払って戦いに臨みたい」実に瀬戸熊らしい謙虚なコメントである。
昨年、自身2度目の十段位を獲得し、こちらも勝てば2度目となる鳳凰、十段のダブル戴冠を目指す。
続く東2局は、わずか5巡でのアガリが飛び出す。
リーチ ツモ ドラ
アガったのは親の藤崎。
1,000オールと得点こそ安いものの、まずはほっと一息のアガリといったところか。
藤崎智プロ |
藤崎智
主な獲得タイトルは、第16期十段位、第3期、5期、6期日本オープン、グランプリ2005など。
これが自身初となる鳳凰位決定戦に臨む“麻雀忍者”のテーマは「この1年応援してくれた人達のために最後まで頑張る」「今回の3人は間違いなく強い。だが、胸を借りる気はさらさらない。当然勝ちに行く。前日はパチンコでもして脳を休めるよ」
4者個別の戦前インタビューで、得意のジョークを交えながら最も多くの時間語ってくれた藤崎。
「逃げた人間について行って、最終日勝負に持ち込むのは難しくない。ただ、やっぱりこちらが逃げる展開にはしたい」
序盤に高いヤミテンをどれだけ作りだせるか。藤崎にとってはこれがひとつのポイントになりそうだ。
局面は進み、南1局。西家・前原の4巡目の手牌に注目頂きたい。
上家の藤崎から、が切られた場面である。
もっと言えば、前局に藤崎のリーチを掻い潜ってピンフをツモアガリ、2巡前にカンが埋まったばかりの場面でもある。前原はこのにすかさずチーを入れ、打とする。
ニコ生放送の解説陣も思わず絶句するほどの仕掛けだ。
だが、これこそが前原の大局感のなせる業。
このあとカンも鳴け、流れるように鮮やかなアガリを仕留めてみせた。
チー チー ツモ ドラ
この局について後に話を聞くと、荒の捨て牌が異常なことと、既に–がほとんど残っていないだろうとの読みがあったと言う。だから仕掛けられた、逆に言えば以外からは仕掛けられなかったと振り返っていた。手格好ではなく、門前では勝負にならないとの読みがズバリ的中した一局であるということが言える。
前原雄大プロ |
前原雄大
第12期、25期鳳凰位、第14期、15期、24期、25期、26期十段位など獲得タイトル多数。
4期ぶりの鳳凰位返り咲きを狙う“卓上の超獣”が掲げるテーマは「きちんと攻めてきちんと放銃する」
日が近づくに連れ、恐怖心のようなものも若干芽生えてきていると口にしていた前原。
逆に、それだけ戦いに向けての高揚感があるということなのかもしれない。
「失点するかもしれないが、先攻していくのは自分なんだろう。成功すれば、初日はノーガードに近い形で行き切ってしまおうという思いはある」
良作、駄作を織り交ぜた独特の打ち回しで、いかに親番をブレークさせるか。
前原にとってはそこが鍵となる。
1回戦は、この2,000・3,900をものにした前原が、この後も危なげない麻雀でトップを奪った。
まだ20分の1が終わっただけとは言え、前原にとっては今後のゲームプランが立て易くなったか。
反対にラスを引いた荒は、やはり開局のアガリ逃しが痛かった。
現鳳凰がここからどう立て直してくるか、2回戦以降も興味は尽きない。
1回戦成績
前原+19.8P 瀬戸熊+7.7P 藤崎▲10.0P 荒▲17.5P
2回戦(起家から、前原・荒・藤崎・瀬戸熊)
流局が続く静かな立ち上がりだったが、荒が親で1,500をアガリ、3本の供託を含めてまずはリードを奪う形となった。ここで更なる連荘を重ねたい荒だったが、それにストップをかけたのが西家の瀬戸熊。
リーチ ツモ ドラ
瀬戸熊は、これがこの日最も感触のいいアガリだったと振り返った。
上昇気配のある荒の親を潰したこともあるだろう。そして、これで強く前に出て戦えるというきっかけにもなっただろう。ここから瀬戸熊のエンジンは全開となっていく。
東3局、親・藤崎。
配牌にマンズが偏っていた西家・前原が、わずか5巡にしてテンパイを入れる。
ツモ ドラ
少考の後、前原が出した答えは打でのリーチ。
が既に2枚飛んでいることもあっただろうが、この手は決め手になり得るとの判断か。
これに真っ向からぶつかっていくのが、南家・瀬戸熊である。
前原のリーチを受けた一発目のツモでカンが埋まる。
直前に、親の藤崎がをツモ切っていることから、これを外すケースもあるだろう。
また、既にが3枚飛んでいることから、かに手が掛かることもある。
しかし、瀬戸熊が選んだのは、リーチを全く視界に入れない打だった。
自信を持ってこの一打を選択できるところに、瀬戸熊の気力が充実していることがうかがえる。
「中途半端な気持ちで勝ち切れるか!」
そんな想いが伝わってくるかのような一打だった。
リーチ ロン ドラ
この局、瀬戸熊は真っ直ぐ攻め抜いて、前原から2,600を討ち取った。
次局の親に繋がる、点棒以上に大きなアガリである。
暗カン チー リンシャンツモ ドラ
瀬戸熊は続く東4局の親番で、この3,900オールをツモアガリ、この半荘のトップをほぼ手中に収めた。
道中で、荒に6,400、1,300と放銃し点差を縮められたが、攻めた上での放銃だけに本人も納得のものだったはずだ。
オーラス、追い上げる荒が1,000・2,000を引きアガって瀬戸熊に肉薄するが、序盤のリードが効き、2回戦は瀬戸熊が辛くもトップを守り切った。
2回戦成績
瀬戸熊+19.8P 荒+15.1P 藤崎▲14.4P 前原▲20.5P
2回戦終了時
瀬戸熊+27.5P 前原▲0.7P 荒▲2.4P 藤崎▲24.4P
3回戦(起家から、瀬戸熊・藤崎・荒・前原)
東1局は全員ノーテンで流局。
迎えた東2局、4巡目にテンパイを入れていた瀬戸熊が8巡目、リャンメン待ちに振り変わったところでリーチ。
リーチ ドラ
次巡、ドラを重ねた荒が追いつき、場に1枚切れのタンキでリーチを打つ。
リーチ
ちょうど1回戦の開局と同じような構図となったが、ここも制したのは瀬戸熊。
荒からで2,600の出アガリとなった。
「徐々に瀬戸熊の体勢が出来つつあるか」このアガリを見て、私はそうノートに書き記した。
続く東3局、親の荒が5巡目にドラをトイツにしたところでを仕掛ける。
ドラ 打たれる
結果的にはこれが好判断で、その後、と引き込み、七対子のテンパイが入っていた前原から、で5,800を召し取ることに成功した。
ポン ロン
さて、ここまで全くと言っていいほどチャンスに恵まれないのが藤崎である。
3者の攻めがきついこともあるが、何せ手が入らない。
しかし、このまま手をこまねいていては、1人おいてけぼりを喰らうことにもなりかねない。
そんな藤崎にこの東3局1本場、ようやく勝負手がやってくる。
まず先手を打ったのは南家の前原。6巡目に以下の形で即リーチ。
リーチ ドラ
見る人が見れば、何だこれは、と言われそうなリーチだが、ケレン味たっぷりにこのリーチを打ち続けられるのが前原流。小技を使いながら相手の体勢を崩し、自分の流れに持ち込むのが得意の勝ちパターンである。
だが、当然のことながら前原と対戦歴の長い打ち手は、それを十分にわかっている。
戦前藤崎は、前原の麻雀を「ホップ、ステップ、ジャンプの麻雀」と形容した。
「ジャンプまで行かれたら、もう手が付けられない。どの段階で止められるかが重要だ。」
その言葉通り、今局藤崎は無スジを連打する。
前局、荒に5,800を打ち上げた相手、ということもあるだろう。
このクラスになれば、勝負所を見誤るケースはほとんどないと言っていい。
8巡目、ドラを引き込んだ藤崎がリーチ。
リーチ
11巡目、手負いの前原からで7,700を討ち取った。
こうなれば藤崎の半荘になるか、というほど手応えのあるアガリに見えたが、これに待ったを掛けたのが、現鳳凰の荒だった。
ラス前の親番で、瀬戸熊から軽く1,500をアガると続く1本場でも、高目タンピン三色のリーチを打った瀬戸熊から5,800の出アガリ。
ポン ポン ロン ドラ
そして何より秀逸だったのは、流局を挟んで迎えた南3局3本場である。
荒の最大の長所は、シュンツ手の捌き方である。とにかく柔らかく、そして正確なのだ。
7巡目の切りなどは、是非とも参考にしていただきたい一打である。
材料は多少いびつでも、じっくり手を掛けて、旨い料理に仕上げる、そんな表現がピッタリの素晴らしい打ち回しだった。
リーチ ツモ ドラ
3回戦成績
荒+25.7P 藤崎+6.9P 瀬戸熊▲4.2P 前原▲28.4P
3回戦終了時
瀬戸熊+23.3P 荒+23.3P 藤崎▲6.9P 前原▲29.1P
4回戦(起家から、前原・荒・藤崎・瀬戸熊)
この日、最も点棒の動きが小さかった4回戦。局面が動いたのは東3局。
西家・前原が、3巡目にを引いたところで打とする。
ツモ ドラ
をトイツで払えば跳満まで見える手格好だが、ここはを仕掛けて3,900でも十分の構えか。
5巡目にはを引き込んでテンパイ、そしてリーチ。
もしRをトイツ落としなら、ここでカンのタンヤオ、ドラのテンパイ。
だが、それだとヤミテンに構えそうな分、リーチの選択においてはこのシャンポン待ちのほうがやや有利に見える。
結果は、タンヤオ、イーペーコーのテンパイを入れて追いついた荒からで8,000の出アガリ。
この後、大きなアガリが出なかったことも手伝って、前原がこの日2度目のトップをものにした。
4回戦成績
前原+14.1P 瀬戸熊+7.6P 荒▲6.7P 藤崎▲15.0P
4回戦終了時
瀬戸熊+30.9P 荒+16.6P 前原▲15.0P 藤崎▲32.5P
5回戦(起家から、前原・荒・瀬戸熊・藤崎)
これが初日の最終戦である。
ここまで好調をキープするのは、1回戦からオール連帯の瀬戸熊。
今期のプロリーグ同様、抜群の安定感である。
反対に厳しい展開が続くのは、そのプロリーグで年間通してトップを走り続けた藤崎だ。
藤崎は今期、わずか3節目にして決定戦進出の当確ランプを点灯させた。
だが、本人にとってはそれが相当なプレッシャーになったようで、実際に確信を持てたのは第8節が終了したときだったと語った。
そこに関して前原は、次のように言及している。
「今回の決定戦、藤崎はかなり苦戦すると思う。それは早々と決定戦進出が見えたことで、本来のリーグ戦とは違う形になってしまったから。モチベーションをキープさせるのも難しかっただろうし、過去のデータから見ても、リーグ戦を走った(独走した)人間が鳳凰を獲るケースはあまり記憶にない。」
今回が初の決定戦となる藤崎に対して、前原はこれが実に11度目の決定戦である。
加えて、藤崎以外の3者は、過去にそれぞれ2度、鳳凰位の栄冠を手にしている。
この長い戦いでは、どこかでそういった経験の差が出てくるということなのだろうか。
東1局、親・前原。
1人テンパイ、瀬戸熊から2,000は2,300とアガって迎えた2本場、遂に前原が親で火を噴く。
配牌は以下。
ドラ
アガリを考えるとかなり厳しい部類の手牌だが、2巡目にを重ね、藤崎のを仕掛ける。
すると7巡目には、ピンズのホンイツ1シャンテンにまで漕ぎ着ける。
ポン
同巡、瀬戸熊が以下の手牌でリーチ。
リーチ
この時点で–は残り4枚。対して前原は、が既に山に残っておらず、瀬戸熊のアガリが時間の問題かと思われた。ところがここから前原は、、、と引いて12巡目、遂に瀬戸熊に追いつく。
ポン
アガリ牌は瀬戸熊のが2枚、そして前原のが2枚という非常に見応えのある局面となったが、この息詰まる攻防を制したのは前原だった。
ポン ツモ
あの配牌からは想像だにできない、見事な6,000オールである。
前原は続く3本場でも、瞬く間に6巡目のリーチを放つ。
リーチ ドラ
しかしと言うのか、やはりと言うのか、ここでも真っ向勝負に挑むのは西家の瀬戸熊。
リーチ後、前原のツモ切ったをポンして、食いタンで捌きに掛かる。
ポン
面白いことに、瀬戸熊が切る牌は全て前原の現物なのだが、見ているこちらには、どうも安全を保険に戦っているようには感じられないのである。
戦前、瀬戸熊は、「特にマークは設けない」と話していた。
だが、この5回戦までの打牌がそれを否定しているようにも思えた。
「前原を封じ込めなければ、優勝はない」瀬戸熊の表情には、そう感じさせる何かがあった。
ポン ロン
瀬戸熊は前原からこの1,000は1,900を出アガると、荒の親番では、浮きに回る好手をしっかりとツモアガる。
ツモ ドラ
そして続く東3局、自らの親番でもきちっと加点を決める。
リーチ ツモ ドラ
この半荘、最終的に前原を捲ることは叶わなかったが、5回戦通じて一番“打てている”のは、誰の目から見ても瀬戸熊であることは間違いない。ポイントもそうだ。
まだ4分の1を消化したばかりとは言っても、出来、不出来、或いは4人の絡みなど、浮き彫りになったものはたくさんあるはずだ。
今日調子の良かった者は、明日も同じように戦えばいい。
逆に、調子の悪かった者は、好調者を走らせないように、且つマイナスを削っていかなければならない。
不利な戦いを挑まなければならない局面も出てくるだろう。
「先攻絶対有利」
帰り道、戦前4者が口にしたこの言葉が、いつまでも頭から離れなかった。
5回戦成績
前原+28.6P 瀬戸熊+8.7P 荒▲12.8P 藤崎▲24.5P
5回戦終了時
瀬戸熊+39.6P 前原+13.6P 荒+3.8P 藤崎▲57.0P
初日を終えて
瀬戸熊「荒さん、前原さんの連荘中にぶつけに行くのは勇気がいるが、しっかり戦おうと思っていた。
負けてもおかしくない局面はたくさんあったが、自分らしく打てたと思う。」
前原「瀬戸熊は本当に強い。やっぱり力技だけではダメ。自分のダメさ加減がよくわかった。明日は決めに行かないように打つ。」
荒「初戦の東1局が全て。前原がをツモ切ったときは、ゾッとした。あれをアガリ逃して今日1日終わったなと。」
藤崎「5回戦やって、アガったのは4回。喋ることがないくらい辛かった。もしどうしてもと言うなら、2時間だけ付き合うけど。」
2日目に続く・・・
カテゴリ:プロリーグ(鳳凰戦)決勝観戦記