プロリーグ(鳳凰戦)決勝観戦記

第30期鳳凰位決定戦 初日観戦記前編

鳳凰戦・初日1~2回戦

2014年1月26日(日曜日)。第30期『鳳凰』決定戦の幕が切って落とされた。
この日、東京はその決戦を祝うかのように久しぶりに晴れたが、
スタジオに向かう早稲田の夏目坂は、勝負の波乱を思わせる強風が吹いていた。

試合開始は15時だが、選手はその30分前に入るのが慣例である。しかし4人の選手は、さらにその30分前にすでに到着していた。これは試合開始前のイメージトレーニングの時間に当てるように思われがちだが、そうではない。体力作りや調整・イメトレなどもうとっくに済ませてあるのだ。
早く来た理由は…勝負の場の空気を吸うことで、緊張で目が上るのを防ぐためであろう。

対局者は挨拶をかわした後、世間話に興じる。この時、誰もが内に秘めた闘志などおくびにも出さない。皆、粋な歴戦の強者達なのである。
だがこの時、世話係のプロが食事の注文を取りに来た。裏方は音声・カメラ調整・立会人・採譜・司会進行・解説を含めると10名に及ぶが、すべて連盟員が分担し取り仕切る。夏目坂スタジオは連盟の総本山なのである。

食事は3種類のロケ弁である。
試合時間は優に8時間に及ぶため、選手も裏方も第2戦が済んだとき食事休憩に入る。
しかし選手4人は言下に「結構です」と答えた。これが闘志と覚悟の表れである。

食事をとればその分、血液が脳から胃に下がる。それが思考能力の妨げとなり、凡打(ミス)を誘発ことがある。勝負どころの一打の緩手は即、致命傷となるのだ。1年間かけた総仕上げがそれでは無念だ。
だから「結構です」となるのだ。
もちろん食べなくても平気で、プロはそうした鍛錬をずっと昔から積んでいるのだ。

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第一戦は起親が沢崎で、順に瀬戸熊・藤崎・伊藤の並び。
開始早々、12巡目に沢崎の親のリーチが飛んで来た。

 

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通常、競技麻雀でこの牌姿のリーチはない。

三筒三筒四筒四筒六筒六筒七筒七筒八筒八筒発発中ドラ五筒

五筒を引けばリャンペーコだし五筒はドラなのである。
この形で決まるならヤミテンで、出ても24,000のアガリになるからである。

三筒三筒四筒四筒五筒六筒六筒七筒七筒八筒八筒発発ロン五筒

そんなことは沢崎とて百も承知である。では、何故リーチをかけたのか―。
考えられる理由は3つある。まずその1つは河に3牌の二筒が飛んでいたことである。
五筒を引いたとしても二筒五筒マチは薄い…)と考えたに違いない。
第2の理由は、藤崎の仕掛けと河にある。自風の西のポンで、この河ならピンズの染め手は一目瞭然。
同じ色で、手がぶつかっていたのだ。

四万 上向き五万 上向き五万 上向き二万 上向き五索 上向き六索 上向き六万 上向き八索 上向き一索 上向き白北九筒 上向き

中は藤崎に危険牌である。
(当たるかも知れないし、出るかも知れない。ならばここで勝負―)
これが沢崎の培われた明るい感性で、いわば勝負の決断と手牌の見切りである。

 

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この時、藤崎の手の内はこうだ。

一筒一筒二筒四筒七筒八筒九筒発中中ポン西西西

中が出ればポンテンで、真っ向勝負となっていたのである。
しかし、結果は流局。残された1枚の中は深く王牌に眠ったままだった。
もちろん対局者は藤崎以外、中の在りかなど知る由もない。

 

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この親の沢崎のテンパイ形を見て、相手はどう思うか。いや、このとき沢崎は何を考えていたかである。
大事なのはここである。
(この場面、流局が相場である。運があればツモれるか―)
と、まず考える。
ただこの手は実らずとも、相手に見せることに意義がある。
そして次にこうだ。
(オレのリーチは怖いぞ、前に出たときには訳がある―)
このテンパイ形を見て相手は考える。
(ゲッ、そんな手で!)
相手に与える強烈なインパクト。
これを見せつけ、後の戦いを有利に運ぶ手段にすればいいのだ。
今度はブラフのリーチでも相手をオロすことができる。彼はそう考える。
これが、沢崎がリーチをかけた第3の理由である。

だが麻雀は、思い通りに事が運ぶとは限らない。そう、一寸先は闇である。
この日の沢崎がそうだった。東2局の最終図を見てみよう。

 

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今度はなんの因果か、逆にメンホン七対子を藤崎に討ち取られたのである。
沢崎もドラが2丁の勝負手、だから仕方がないと自分に言い聞かせることはできる。が、あの時あの手がヤミテンならどういう結果だったのか、という思いは頭をかすめたに違いない。

三筒三筒四筒四筒六筒六筒七筒七筒八筒八筒発発中

沢崎誠は群馬県安中市生まれの58歳。
彼は、自分を頑固者で生意気と評する。麻雀を覚えたのは学生のときで、すぐに勝ち組になったという。
連盟の3期生で、同期には藤原隆弘がいる。その雀風、読みの精度が高く攻めは重厚である。
連盟を代表する打ち手の1人だ。
こちらが親で勝負手のリーチをかけていても、無筋をブンと通されるとドキリとなるのだ。
その性格上、人とぶつかることもあるが、頑固者で生意気という性分は、ある意味で麻雀プロの素質でもあるのだ。彼は「十段」戦は瀬戸熊に敗れはしたが、その後「最強位」を手中に収め、リベンジに燃えていたのだ。

 

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さて、メンホン七対子の結果を見る限り、アガった者と打った者を見れば2人の態勢の差は歴然。

 

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だがこの第一戦、トップをものにしたのは要所・要所でアガリを的確ものにした瀬戸熊だったのである。
彼のこの半荘の安定感はまさに、いぶし銀に見えたのだった。

 

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第二戦は前回トップの瀬戸熊が起親。順に伊藤・藤崎・沢崎だ。
この半荘は稀に見る乱打戦となる。まず主導権を制したのは瀬戸熊だった。

 

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瀬戸熊の入り目はカン七索だが、リーチの打牌と構えに迷いが無い。すでに1シャンテンの段階で受けの選択と構えは決めてあるのだ。これが真のプロのフォームである。ツモってから考えるのではなく、ツモる以前に打牌と構えを考えてある。この姿勢はプロも範とすべきだろう。

この親に勝負と出たのが藤崎。彼もドラの発が雀頭だから打点は十分。しかし、打ち上げてしまったのは伊藤である。伊藤もホンイチの満貫手だから当然、勝負なのだ。プロの対戦はこうあってしかるべきだ。引くときは引くが、出るときは怖れず一歩前に出て斬り合うのだ。視聴者の感動はここから生まれるのだ。
勝ちも大事だが、感動を与えなければプロではない。

しかし、伊藤にとってこの7,700の放銃は応えた違いない。
競技麻雀の7,700は一発・裏ドラ有りのルールなら12,000点に相当するのだ。

 

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その好調の瀬戸熊を、今度は藤崎がめしとる。

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瀬戸熊の手役はタンヤオだけだが、符がはねてツモなら3,200オールの高打点。
気合いを入れてツモったら色違いの七万である。
(一発役はないから…まあいいか)
…で、これを切ったら小声でロンである。しかもドラドラの6,400。
これが闇夜で背中をバッサリの忍者・藤崎流なのである。

 

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怖い瀬戸熊の親が落ちたら今度は沢崎の出番だ。

四万五万六万四索四索五筒六筒東東東ポン六索 上向き六索 上向き六索 上向き??ツモ七筒

どうということのないアガリに見えるが、実はこれ東がドラなのである。
軽々とツモって2,000・4,000。親のかぶりは伊藤である。

伊藤は前回ラスだ。そしてこの時点で、持ち点は16,800である。あまりのツキのなさに苦笑いが出たことだろう。藤崎と沢崎は持ち点が36,500で並ぶ。瀬戸熊はわずか200点だけ浮いているという状況である。
そして東3局は3人のリーチ合戦。この日の勝負の明暗を決める戦いである。

 

oui38_a_10 oui38_a_11 oui38_a_10

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伊藤は高めツモなら跳満で、反撃の狼煙を上げたいところ。そして瀬戸熊は3面チャンの受け。
結末は、藤崎が一発で引いて2,600オール。これで持ち点を46,300とする。

さらに東4局は沢崎の親番。そのリーチをかいくぐり、ヤミテンでこの手をアガる。

五万六万六万七万七万八万二索三索四索六索七索四筒四筒ロン八索ドラ四筒

これで勝負が決まった。五索はリーチの指示牌で八索を打ったのは瀬戸熊。
藤崎の持ち点が54,400の大台となった。今度はラス前にその瀬戸熊が前期・鳳凰の意地を見せる。

 

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惜しいのは南家の沢崎、五筒でツモリ跳満だったがすでに高めは空テン。
そしてこの半荘の結末はこうだ。

 

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2回戦成績
藤崎+22.7P  沢崎+5.1P  瀬戸熊▲5.1P  伊藤▲22.7P

2回戦終了時
藤崎+36.5P  瀬戸熊+16.9P  沢崎▲20.2P  伊藤▲33.2P

まだ書きたいことは山ほどあったが、残念ながら紙数が尽きた。
初日の後半戦は次としよう。

28期鳳凰・荒正義。

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