第30期鳳凰位決定戦 初日観戦記後編
2014年03月07日
私の対戦前の予想は、本命に瀬戸熊、対抗に沢崎だった。
ただし、どちらが勝つかは微妙で技と芸の幅は沢崎。攻めの強さと勢いは瀬戸熊と見ていた。
誰もがそう予想すると思っていたが、違った。
前原雄大と会長の森山茂和の予想は◎瀬戸熊○藤崎だったのである。
2人の評価が高かったのは藤崎で、理由は決勝戦の残り方の「流れ」に注目したからである。
藤崎は7節目までマイナスで、陥落候補の枠に居たのだ。しかし、彼は8節目で面前の大三元をツモアガリ大きく浮上し、決定戦進出を果たした。
この「流れ」を見ていたのだ。
この時、親だったのが私である。今度は私が陥落枠に入ったのだ。
(なんてことするンだ!)である。
役満なら予選で沢崎も、見事な国士の振りテンだが13面チャン待ちを決めている。こちらは決めなくとも決勝進出確定だったから、流れ的にはそれほど価値はない。しかし、視聴者に感動を与えるという点ではどちらも素晴らしい役満だったと云える。プロはその高い芸を見せ、視聴者に感動を与えることが商売…いや「仕事」なのである。
第3戦はその沢崎が先手を取った。
7巡目に、上家の瀬戸熊からチャンタ目のが出たがスル―すると、次のツモがだったのである。
先を急ぐ打ち手ならを鳴く者もいよう。だが、それではつまらない。麻雀は絵合わせゲームではないのだ。ここはサバキの場ではなく、高いアガリを狙う場面なのである。鳴けばこのが下がり、親の伊藤と持ちもちになっていた。ならば、この手のアガリはなかったはずだ。
打点を考えるなら沢崎はここでもまだを重ね、手の伸びをここまで見ていたはずである。
その理想形はこうだ。
これならツモで三暗刻が付き、文句なしの倍満になる。
もしくはこうだ。
これが彼の構想力。
しかし、4巡待っても手が変わらず2枚目のも打たれた。12巡目に出た3枚目のでチーテン。で2,600のアガリを拾った。これが手牌の「見切り」だ。打ったのは瀬戸熊である。
チー
ここで動いたのは巡目の深さから自然である。だが、このアガリが次に繋がらないのだ。これが厄介である。
通常、麻雀はアガリも放銃も連動するのが普通である。
続く東2局は、瀬戸熊がリ―チで流局。1人テンパイを果たす。
さらに1本場は瀬戸熊のアガリが飛び出す。
瀬戸熊が2,000オール。この時、沢崎の追いかけリーチが入っていたから安めでも贅沢は言えない。
今度は沢崎が先手を取ってリーチで攻めるが、この手も実らなかった。
同じテンパイで相手に引かれる。向こうはカンチャンの愚形で、自分は好形の両面。
この時、沢崎もさすがに不調を意識したに違いない。
(出来が悪いから、今日はガードを堅くしていくか…)
今日負けても残り3日ある。失点は最小限に抑えようと、私ならそう考える。おそらく沢崎もそうだろう。
そして3本場。早くも瀬戸熊タイムの発動かと思われたが、ここで待ったをかけたのが藤崎だ。
安めだがリーチをかけ、この手をツモリ上げたのである。
そして自分も浮きに回った。またしても沢崎のチャンス手は不発。
このまま瀬戸熊と藤崎の先行で場が進むかに見えたが、ここでさらに待ったをかけたのが、伊藤である。
高めを引いて3,900オール、見事なアガリだ。そしてこの後、小競り合いが続いた結果はこうだ。
沢崎はラス親で3本積んで浮きに回り、伊藤が待望のトップを決めたのである。
伊籐優孝は1949生まれの64歳。古川孝次と同じ歳である。
伊藤の生まれは秋田だが、育ちは東京である。最終学歴は明治学院大学卒。学生時代はボクシング部に所属。卒業後の3年間はサラリーマンをしていたというから、私と知り合ったのは丁度その頃だ。体重は50キロに満たなく色白だった。その性格、きわめて温厚である。きっと女にはもてたに違いない。
プロとして第一線(プロリーグ)の引き際には2つある。前者はA1陥落と同時に去る者。
小島・灘・森山がそうである。
A2で打つことは、プロとしての「誇り」が許さないのである。もちろん、麻雀が生業だから他の試合には参加する。メディアもこの3人の名前が大きいから、出演依頼を出すのだ。これが前者だ。
後者は、力尽きるまで打つ者だ。
麻雀は人生の友でありライフワークだから、落ちても辞めない。虎視眈々と返り咲きを狙う。一線から身を引くときは、肉体的に限界が来て牌が持てなくなった時だ。伊藤・古川がそうである。去り際はせつないが、前者も後者も私には勝負師の「美学」に映る。
私が半年前に「生涯現役」と決めたのは、伊藤と古川、この2人の姿に感銘したからである。
そして第4戦が始まった。
注目すべきは11巡目の藤崎の手だ。配牌はこうだ。
この配牌がここまで伸びたのである。
そしてメンツオーバーで、決断の時だ。
は河に1枚とドラの指示牌に1枚。だから藤崎はに手をかけた。勝負手だから一番広く構え、真の狙いは四暗刻でドラの重なりでも七対子はあるのだ。
上家からが出たが見向きもしない。ところが次のツモがあろうことかだったのである。
麻雀ではよくある出来事だ。この時、藤崎の決断は早かった。打である。
手牌を折り、もとの形に戻したのである。
これが藤崎の勝負の感性か―。結果はまだ出てはいないが…
(かを引いたらどうするンだ!)である。
ここで親の瀬戸熊からリーチが入る。そして2巡後に来たのがだった。
そしてこの結末はこうだ。
これが藤崎の二枚腰の「サバキ」で、流石である。
通常、サバキとは相手のチャンス手を安手で蹴ることを指すが、彼は違う。相手の太刀を受けきり、返す刀で一気に相手の胴を切り裂くのだ。このサバキは南場でも現れる。
藤崎のテンパイは7巡目だ。この手が15巡目にはここまで育て、アガリ切るから驚きだ。
これもツモの勢いと手役の構想を見た、藤崎の進化した「サバキ」である。
親でしかもヤミテンで、2度も跳満を引かれた瀬戸熊はたまらない。
一撃必殺―プロの「サバキ」はこうでなければならない。
さらに藤崎はラス親で3,900は4,000オールを決め、この半荘の結末はこうだ。
初日終了時
藤崎+76.3P 瀬戸熊+0.2P 沢崎▲28.8P 伊藤▲47.7P
この一日目の最終結果を見て、打ち手四人は何を思ったのであろうか。
私の考えは次に述べる。
以下次号。
カテゴリ:プロリーグ(鳳凰戦)決勝観戦記