プロリーグ(鳳凰戦)決勝観戦記

第31期鳳凰位決定戦観戦記初日 前原 雄大

第31期鳳凰戦 初日
2月7日、いよいよ、日本プロ麻雀連盟の頂点を競う第31期鳳凰戦が始まった。

「全てのタイトル戦の中でも格別なものだと思う。少なくとも他のタイトルを2つ獲得する以上の価値があると思う。」
そう語るのは連盟の生きる伝説とも呼ぶべき荒正義さんである。
私も同じように思う。

私に鳳凰戦の観戦記のオファーが来たのが12月のことだった。
元々観戦記者になりたくて連盟に入会した部分もあり快諾させていただいた。

私の叔父が囲碁の観戦記者をやっていたが、
「とにかく、現場できちんと取材すること、テレビの放映されない部分を伝えることが全てと言ってもいい」
叔父は常々そう言っていた。

その言葉を思い出し、今回も現場であるスタジオに足を運び、対局者に簡単なアンケートと取材する旨の手紙を書いて渡した。
対局者にはさぞかし煩わしいことだろうと思う。
それはやはり、休憩時間等には次の戦いに備え、心の準備、集中に傾けたいからである。
私も同じ立場にある以上、細心の敬意と心配りをさせていただいた。
いずれにしても、映像に映らない部分を中心にお読みの方には伝えていきたいと思う。
まずは選手紹介。

100

藤崎智
生年月日:昭和43年1月25日(47歳)
連盟在籍年数:18年
A1リーグ在籍年数:5年
獲得タイトル:十段位、麻雀グランプリ、日本オープン(3回)
タイトル戦に臨むとき心掛けていること:自然体で
麻雀のスタイル:守備型
ファンの方へメッセージ
「去年はみなさんの応援のおかげで実力以上の麻雀が打てたと思っています。今年は昨年の恩返しのつもりで頑張ります。よろしくお願いします。」

 

100

勝又健志
生年月日:昭和56年3月15日(33歳)
連盟在籍年数:14年
A1リーグ在籍年数:1年
獲得タイトル:麻雀グランプリMAX
タイトル戦に臨むとき心掛けていること:いつも通りの麻雀
麻雀のスタイル:守備型?
勝又はアンケート用紙に記しながら、私に尋ねた。
「僕って何型なのでしょうか?」私にはそんな勝又が微笑ましく映った。

 

100

前田直哉
生年月日:昭和47年(43歳)
連盟在籍年数:14年
A1リーグ在籍年数:1年
獲得タイトル:麻雀グランプリMAX
タイトル戦に臨むとき心掛けていること:気持ちのもっていきかた、冷静さを保つこと
麻雀のスタイル:高打点を目指した重い一撃
ファンの方へメッセージ
「応援して下さる人の為、そして自分の為、最高の舞台で、最高の麻雀を目指します。」

 

100

瀬戸熊直樹
生年月日:昭和45年8月27日(44歳)
連盟在籍年数:17年
A1リーグ在籍年数:10年
獲得タイトル:十段位(3回)、鳳凰位(3回)、他
タイトル戦に臨むとき心掛けていること:体調を整え、戦いに挑める身体にする。
麻雀のスタイル:攻撃型ですが、自分の時間帯を作りにいくスタイル
ファンの方へメッセージ
「やはり鳳凰位は僕にとって特別なものです。全てを卓上に捧げるつもりで戦い抜きます。」

こう記すとわかることだが、50代以上の打ち手がいない。
ここ十年ではめずらしいことである。

プロリーグは今日にいたるまで様々なかたちを変えてきた。
鳳凰戦という名前に変わりデフェンデイング制になったのは1992年度の第10期からである。
それまではプロリーグであり、決勝戦もなかったり、あっても予選の得点持越しだったりした。

この時のメンバーが安藤満{故人}荒正義、沢崎誠、前原雄大。
最年長の安藤満が44歳で、最年少の私が36歳であった。
安藤、荒は当時すでに偉大な実績を残し、沢崎、私は他のタイトルは持っていても初挑戦だった。
構図としては今回の鳳凰戦を彷彿させる。
ちなみに、この時は半荘、1日6回の4日間で計24回戦だった。

控室に赴くと、現鳳凰位である藤崎が近寄る。
「一番緊張しているのは、私だと思います。何しろ、失冠するかどうか掛かっていますから、、、」
「後輩達は可愛い、本当に可愛く思っている分だけ、簡単には勝たせてはいけないと思っています」
私は正直、藤崎のこの言葉に驚いた。
これほど熱く語る藤崎を見たことがないからである。
そして、一プレイヤーではなく、公人の発言だからである。

勝又健志
「昨日は2秒で就寝できました」
この2秒と語る部分が勝又らしい。
充分な戦闘態勢を作り上げてきたということだろう。

瀬戸熊直樹
「多分、一番リラックスしているのはボクだとおもいます」
この男が劇的な四暗刻をオーラスにツモリあげ、私への挑戦権を獲った時、一番うれしく思ったのは私であり、テンションがあがったのを良く覚えている。
そして、アッツサリ鳳凰位を戴冠したときに瀬戸熊に私はこう告げた。
「貴方は向こう10年で、5回は鳳凰位に就くと思う」
瀬戸熊直樹という打ち手は、それだけの逸材である。
そして、6連続決定戦進出というのはやはり、偉業と言わざるを得ない。

前田直哉
「ここ1週間、冷静であることだけに勤めました」
何をどう過ごしたとか、語らず、『冷静』の二文字をこの後、幾たびも前田は口にしている。
いずれにしても素晴らしい戦いが繰り広げられることは間違いなさそうである。

100

1回戦
(起家から、瀬戸熊、勝又、藤崎、前田)

対局直前の光景
目をつぶる瀬戸熊、勝又。一点を見つめ続ける藤崎、前田の両極端な表情が印象的である。

前田は開始前をこう語っている。
「いよいよ鳳凰戦開幕である。昔から夢にまでみた舞台。決まった後の数日は緊張も感じたが、当日は至って平静でスタジオ入り出来ました。卓に着き、瀬戸熊プロから気迫を感じ、勝又プロは何秒間か眼を閉じていた。藤崎プロは平静を装ってはいたが一番緊張しているように感じた。当の私は普段とほぼ同じであった。皆より背負うモノが少ないからだろうか?それとも鈍感なだけか・・・。しかし始まってみないと本当に普段通りなのかはわからない。」

藤原隆弘審判長
「では、対局を開始してください」
この合図と共に眼を見開く4者。戦いが始まった。

100

東1局9巡目、藤崎にリーチが入る。

三万三万五万六万七万一索二索三索五索六索二筒二筒二筒  リーチ  ドラ二筒

リーチ後、藤崎の指が僅かに震えている。{本人はまるで意識していなかったと語っていた}
初めて見る藤崎の光景である。

結果は流局なのだが、親番である瀬戸熊は立ち向かって行くかと思っていたが、いきなり現物を抜いたことは意外だった。
だが、これも瀬戸熊がシミュレートしてきたことなのだろう。

勝又は今局に関してこう述べている。
「対局時は藤崎さんに気配があったこと、勢いを掴むアガリをしたいと思っていたことから白を仕掛けなかったのですが、戦う姿勢として白を仕掛けるべきだったかと」
藤崎は藤崎で
「あれは下目の三色の手順があったように思えます」
そう語っていた。

確かに三色だけに拘れば藤崎の手筋ならば可能かとも思うが、難しい手順を踏まねばならない。
そして東1局ドラ3リーチはアガれず流局。

「この時点での自分の考え方は2通り。手なりでドラ3のリーチで1人テンパイならツキはあるかもという考え方と、いきなりのドラ3リーチのからぶりで先行き不安という考え方。なので、次の局、前田プロのピンズ気配にも1シャンテンからごり押し。8巡目1シャンテンがテンパイせず流局でかなり先行き不安を感じたのを覚えています。ここからとりあえず早目のリーチからのツモアガリがほしいとだけ考えていました。なので1、2回戦は意識してリーチを多用していました。」
藤崎はこうも語っている。

瀬戸熊
「東1局、藤崎さんのリーチを受けて、真っ直ぐ行っていれば、アガリがあったかもしれないし、放銃にまわっていたかもしれない。ただ、藤崎さんの手が高いのと、自分の中で、GOサインが出なかったのと、僕のウイークポイントである守備をしっかりするべきときはしようと思ったからでした。」
そう語っていた。

いずれにしても、コメントが集中したということは、それだけ、開局に意味があり、それぞれに重い1局であったことは間違いないことである。

東3局2本場

一万二万三万三万五万七万八万九万六索七索八索五筒五筒  ツモ四万  ドラ一万

前田が500・1,000は700・1,200のアガリで収束した。

今局は前田が8巡目にカン四万の役なしテンパイを入れたのだが、9巡目に勝又が三筒六筒九筒待ちのテンパイが入る。

三索四索四索五索五索六索三筒三筒四筒五筒六筒七筒八筒  ドラ一万

10巡目に、勝又・藤崎と続けざまに四万が打ち出され、これで残り1枚になったと見ている瞬間に、役なしテンパイの前田がラス牌の四万を引きアガる。
これは点数以上に大きいアガリである。

他3人の対局者からも四万が3枚並んでいたことは確認できる。
本当に良いカタチで前田は親番を迎えた。
私が対局者であったならば前田の親番は細心の注意を払う。

このアガリに関して前田はこう語っている。
「序盤は誰にもアガリの出ない静かな立ち上がり。初アガリは自分でした。点数こそ500・1,000は700・1,200と安いものの、緊張も無い、ちゃんと地に足が着いている。今日はしっかりと戦えると思った局でした。」
前田もやはり私と同様の考えをもたらせた1局である。

―――――前田の構想力と感性
東4局、親・前田

配牌
二万三万四万五万七万八万八万八万九万一索一索四索六索二筒  ドラ南

前田の初打、二打と、一索のトイツ落としから入っている。
ピンフ一通と三色、チンイツを見据えた好手である。
そして瀬戸熊から打ち出された二万を仕掛ける。

三万四万五万七万八万八万八万九万四索六索二筒  ポン二万 上向き二万 上向き二万 上向き  打六索 上向き

この二万は中々動けないものだ。これが前田の持っている感性である。
普段腰の重い前田が仕掛けるということは、脳よりも身体が反応したものだろう。
そしてわずか5巡目には

二万三万四万四万五万七万八万八万八万九万  ポン二万 上向き二万 上向き二万 上向き

このテンパイが入る。
同巡、瀬戸熊から六万が打ち出される。
親の12,000の成就である。

前田にとっては会心のアガリであり、瀬戸熊にとっては手痛い放銃である。
これだから麻雀は怖い。

東4局1本場、親番の前田が絶好のカン三索を引き込み、9巡目にリーチが入る。

五万六万六万七万七万七万八万九万二索三索四索六筒六筒  リーチ  ドラ二索

そして今度は勝又より出アガる。
勝又もこの形にしてしまった以上、打八万は至当な放銃である。

二万三万四万四万六万八万四索五索六索八索八索四筒五筒六筒  打八万  ドラ二索

この時点で前田の持ち点が50,000点オーバーの53,700点。
さらに得点を伸ばすかに思えたが、次局、前田は勝又を意識し、早い段階でオリを選択。
結果は、勝又のリーチが中盤過ぎに入り500・1,000のツモアガリ。
それだけ前田は場が良く見えていたのだろう。

南1局、藤崎より6巡目にリーチが入る。

一万一万一索二索三索四索五索六索八索九索五筒六筒七筒  リーチ  ドラ三万

ここに飛び込んだのが親番の瀬戸熊。

四万五万六万三索三索四索四索七索二筒二筒二筒五筒六筒七筒  打七索  ドラ三万

これは状態を考えれば瀬戸熊らしく無いと映ったのは私だけだろうか。
東1局はフラットな状態で受けきったのに、今局は悪い状態でありながら攻めに転じている。
このアンバランスさはどこから来るのだろう。

一局面から最善手を打つのではなく、プロセスから最善手を打ち出すのがフォームの瀬戸熊だけに微妙な一打ではある。
瀬戸熊だからこそどこまでも頭を下げて欲しかったというのは酷な注文であろうか?

「初日の後悔は2つ。藤崎さんに打ったペン七索シーンと、前田さんの早いチンイツに打ったシーン。今回の決定戦では、進化したスタイルで戦おうと決めて挑んだのだから、2つの放銃はあってはならないものだったと思う。親番のブレークは、子方でしっかり戦ったときのご褒美という考えなのだから、とにかくギリギリの我慢をして、兵隊(牌)たちを気持ち良く戦わせてあげなければいけないと反省しています。」
瀬戸熊自身もこのように述べている。

100

南2局1本場、前田のテンパイ崩しが妙手である。

五万六万七万八万九万六索六索三筒四筒五筒六筒七筒八筒  ツモ七筒  ドラ七筒

この形から打九万と構えられる打ち手が何人いるのだろうか。

五万六万七万六索六索三筒四筒五筒五筒六筒七筒七筒八筒

この3,900は中々にアガれるものではない。
前田だからこそアガれた牌姿であることは間違いないと言えるだろう。

そして、勝又のリーチを受けながらも、前田を常に視野から外さない藤崎も相当落ち着いている。
勝又のリーチが入った瞬間、楽をして打六筒としなかった。

100
個人的には勝又が八索タンキで受けた時の接し方を見てみたかった。
当日前田は、今局について四万七万が場に出ていたら二筒は押さないつもりでいたと語っている。
道理である。

1回戦成績
前田+37.2P 藤崎+4.3P 勝又▲12.9P 瀬戸熊▲28.6P  

 

2回戦
(起家から、藤崎、勝又、瀬戸熊、前田)

―――――藤崎の切り込み

東2局2本場

藤崎
二万三万四万五万五万三索五索六索六索七索三筒四筒五筒  ツモ八万  ドラ八万

藤崎は6巡目、ドラである八万をこの牌姿から打ってまで、1,000点のアガリに拘った。
それほど今局が勝又の時間帯になることを恐れていたのである。
何が何でもアガリ切りたい1局だったのだろう。
こんな藤崎を私は初めて見た。

東4局2本場

100

藤崎10巡目リーチ

三万四万五万五索五索七索八索二筒二筒二筒六筒七筒八筒  リーチ  ドラ五筒

1巡前の前田の牌姿であるが、

六万六万七万二索三索四索六索六索七索八索三筒五筒五筒  ツモ五筒

流局するも、前田の選択は正しかった。
ただし、1シャンテン時点の前田の選択が難しい。

六万六万七万二索三索四索六索六索七索八索三筒五筒五筒  ツモ五筒

ここで、一索を先に打っている分だけ、打六索もあったように思える。
それにしても先手を取られた以上、相手の待ちに合わせきる前田の能力は高いと言わざるを得ない。
藤崎は前田のドラの暗槓を見てさぞかし肝を冷やしたことだろう。

続く3本場は、前田の仕掛けから始まり、そこに向かって真っ向から勝負に挑む勝又。

二万三万一筒一筒二筒二筒三筒三筒七筒七筒中中中  ドラ八万

私ならテーマを前田の親落としにするためヤミテンに構える。
ここでリーチを打つのは若さの特権であり、勝又らしい勝負の挑み方である。

そして結果は、前田が東を引き込み、勝又から打ち出された六筒を捕える。
「ロン、7,700は8,000」
前田にとっては大きなアドバンテージである。

この局に関して勝又はこう語っている。
「手組が悪く、4巡目に九万を切るべきであったと思います。そうなれば、四万を直前に打たれたこともありホンイツになったかもしれません。さらにテンパイをとったとしても、どこまでもヤミテンにすべき局面にもかかわらず、打点あるアガリがしたいという欲からの情けないリーチだったと思います。特に1回戦で白を仕掛けなかったことを考えると、戦い方に一貫性がありませんでした。」

続く4本場、前田の麻雀に対する誠実さが実った1局である。
10巡目に藤崎より先行リーチが入る。

100

五万六万七万一索一索三索五索六索七索七索八索九索八筒

次巡、前田はこの牌姿からテンパイ取らずの打一索と構える。保留の一打である。
そして、結末のホウテイの出アガリは、点数以上に対局者に与えるダメージは大きいように思えた。

「10巡目に、下家の藤崎プロからリーチが入った局面。リーチを受けて12巡目に、

五万六万七万一索一索一索三索五索六索七索七索八索九索八筒

こうなり、藤崎プロのリーチなので打点があるか、待ちが好形かのどちらかであるのはほぼ間違いない状況。オリるのは簡単で、なんとか戦いたいとは思っていたのですが、ドラまたぎの八筒を切って二索三索待ちの追っかけは無謀ですし、三索切って一旦八筒タンキに受けるのもバランス的に違う感じがしました。捨牌は少し変則的でしたが、四索持ってきての3面張かドラ七筒持ってきての両面待ちにしてリーチにぶつけたいと思い、通ってはないが暗刻の一索を切ってどちらにも受けることが出来るようにしました。自分の中では、八筒切りよりも三索切りよりもより強くいくが為の一索切りでした。結果的には理想の形にはなりませんでしたけど、テンパイまで持っていけた手応えを感じた良い1局だったと思います。ホウテイでアガれたのはたまたまですが、この1局が次局の4,000オールに繋がったと感じています。」
前田自身もこのように語っている。

12巡目に前田よりリーチが入る。

五万六万七万一索一索四索四索四索三筒三筒三筒六筒七筒  リーチ  ドラ四索

「ツモ、4,000は4,500オール。」
山に残っている待ちの最後の五筒を手繰り寄せる前田。
6本場は勝又のリーチで流局。

南3局1本場、親の瀬戸熊が4巡目にテンパイ。

二万三万四万七万七万七万八索八索八索四筒七筒八筒九筒  ドラ八索

瀬戸熊は懐深く、打発から四筒タンキへ、そしてツモ六索へと変化するもヤミテン続行。
最後は10巡目にツモ九万でリーチを打つも、前田の音無しヤミテンに藤崎が放銃。
たしかに場面の空気は圧倒的に瀬戸熊がテンパイオーラを出していた。
その分だけ、影に潜んでいた前田にテンパイ気配は全くと言っていいほど感じられなかったのは紛れもない事実である。

それにしてもアガリ系が発タンキの1種類しかなかった瀬戸熊には辛い展開である。
それでも瀬戸熊はオーラス、前田より5,200点をアガリ沈みながらも2着に纏める。

まだ2回戦とはいえ、ポイント的には前田が鳳凰位に王手をかけていることは紛れもない事実である。
通常であれば、優勝のボーダーは半荘回数×8ポイントであると思っているからである。
簡単に記せば、16回戦×8=128ポイントと言うことである。

100

―――――

2回戦成績
前田+36.8P 瀬戸熊▲4.2P 藤崎▲11.3P  勝又▲21.3P

2回戦終了時
前田+74.0P 藤崎▲7.0P 瀬戸熊▲32.8P 勝又▲34.2P

 

3回戦
(起家から、藤崎、瀬戸熊、前田、勝又)

東2局1本場、2巡目

一万三万五万六万七万七索七索三筒四筒南南白発

前田にしてはめずらしく生牌の南を1枚目から仕掛ける。

一万五万六万七万七索七索三筒四筒白白  ポン南南南

7巡目、この形から1枚目の二筒をスルーする。落ち着いたプレーである。
そして、2枚目の五筒をしかけ、軽々と白を引きアガる。
2,000・4,000のツモアガリである。

そして迎えた親番で

七万八万一索二索三索四索五索七索八索九索一筒二筒北  ツモ三筒

普通ならばこの牌姿からは、打北と構えるのが自然のように思われるが、前田は一通を見切りチャンタを視野に入れた打五索と構える。
良し悪しは別として、前田らしい一打であることは相違ない。

その後二索をとらえ損なうも、一索を重ね藤崎からの六万を捕まえる。
独特の手筋を踏みながらも、アガリに結び付ける前田に展開の理を感じさせた。

東4局1本場について前田はこう語っている。
「1、2回戦目とまさかの順調な出だしに少し戸惑いつつも途中まではしっかりと戦えていた。 1シャンテンから2枚目の発を仕掛けて、手広い1シャンテンに取る。普段ではたぶん仕掛けないかもしれない。が、ここはリーチをしたくなかった為鳴いてしまう…。結果、瀬戸熊プロへの7,700放銃。しかし自分の中ではあまり後悔していなかった。」

たしかに、1シャンテンから1シャンテンにしかならない前田の仕掛けを咎める声もあったようだが、前田の言葉を考えるならば理にはかなっているように思う。
この部分に関しては、それぞれの考え方があっていいように思う。

100

着目すべき点は、7巡目に上家の瀬戸熊から打ち出されている一筒を仕掛けなかったことである。
ここはマンズの受けの選択が難しい以上、結果は悪く出たが仕掛けなかった前田の気持ちも理解できる。

―――――前田の後悔

南3局1本場

五万五万六万六万六万七万五索六索四筒五筒六筒北北  ツモ三筒  ドラ一万

前田はこの手牌から打北と構えているが、私の目からは不自然な一打に映った。
さらに12巡目、対面から打ち出された六万を仕掛けたことが、前田を研究している私にとっては驚き以外の何物でもなかった。

五万五万六万七万四索五索六索三筒四筒五筒六筒  ポン六万 上向き六万 上向き六万 上向き  打六筒

たしかにテンパイなのではあるが、前田らしくない軽い仕掛けに思えてならなかった。
持ち点を加味すればそのことははっきり言い切ってもいいように思える。

この仕掛けで、勝又に絶好と思われる二万を引き込まさせテンパイを入れさせてしまう
麻雀はかように正直なゲームなのである。誰かがミスをすれば誰かに理が動く。

勝又手牌
一万三万四万五万五索五索六索発発発中中中  ツモ二万  ドラ一万

また称えるべきは、最後までドラである一万を持ち続けた勝又の力である。
前田は勝又のロン牌である三万をツモったとき、少考に沈んだ。
結果として三万を打ってしまうのだが、この三万が僅かでも指に止まるというところが、前田の感性が潜んでいるということだろう。

今局に関して前田はこう語っている。
「それよりも悪かったのが南3局1本場、自分の親番での1シャンテンからの六万ポンである。四万七万が薄くなった為、北をトイツ落としして2シャンテンに戻したまでは良かったのだが、ツモが効いていたにも関わらず、親番維持だけの為に思わず仕掛けてしまった。これにより勝又プロにテンパイを入れさせ、危険に感じたにも関わらず三万で6,400の放銃となった。案の定、オーラスで藤崎プロに放銃してラスになる。この局が1番の印象に残る局でした。」

南4局

100

南家・藤崎
六万六万三索三索九索九索五筒五筒西北北発発  リーチ  ドラ南

北家・前田
四索六索二筒三筒四筒六筒七筒七筒南西西西発中  打西

麻雀と言うゲームは本当に微細な所で勝負は決まる。
前田自身が述べているように、南3局1本場の僅かなミスとも呼べない軽い仕掛けが、好調を維持していた前田がまさかのラスにまで落とし込んでしまったと私は解釈する。
ただ称えるべき部分があるとすれば、藤崎の河を見ればわかるように、この河が七対子とは思えないことである。
それだけ藤崎が丁寧に仕上げきった七対子である。

3回戦成績
勝又+25.4P 瀬戸熊▲2.7P 藤崎▲8.7P 前田▲14.0P

3回戦終了時
前田+60.0P 勝又▲8.8P 藤崎▲15.7P 瀬戸熊▲35.5P

 

4回戦
(起家から、勝又、前田、瀬戸熊、藤崎)

開始前、初めて目をつむり自分の世界に入ろうとする瀬戸熊の表情が印象的だった。

100

東1局、勝又、瀬戸熊の一騎打ちの局面かと思われたが、藤崎の光るプレー。
どれだけこの男は局面が見えているのだろうと思わずにはいられない。
フリテンの五万を引きアガる。本当に大きな300・500のアガリである。

瀬戸熊も以下の牌姿から、細心の注意を払い打三万とし狭く構えるも、実らず。

二万二万二万三万四万八万八万  ポン六万 上向き六万 上向き六万 上向き  チー七万 左向き八万 上向き九万 上向き  ツモ四万  ドラ七索

東4局、瀬戸熊2巡目テンパイ。

一万三万一索二索三索四索五索六索七索七索五筒六筒七筒  ドラ北

これを瀬戸熊らしくヤミテンに構え、7巡目にツモ九索、打七索のテンパイ取らず。
そして最終形を、

一万一万一索二索三索四索五索六索七索九索五筒六筒七筒  リーチ

この形に持っていくのが、今の瀬戸熊の麻雀のカタチなのだろう。
これに放銃したのが藤崎。

藤崎はこう語っている。
「前局いい形でツモアガった以上、真っ直ぐ打ち抜くつもりでしたが、この八索がつかまるということは今日は僕の日ではないと思いました。」

藤崎
一万三万二索三索四索一筒一筒一筒七筒七筒九筒北北  打八索

南1局、勝又が6,000オールを引きアガる。
今半荘、手牌には恵まれたもののアガリには結びつかなかった勝又にとっては、大きなアガリである。
この瞬間、2回戦終了時、前田との点差が100P以上あったのがわずか34Pほどとなった。

続く1本場も2,000は2,100オールをツモアガリ、25P差となる。

勝又
二万三万四万六万七万八万七索七索六筒六筒六筒六筒七筒  ツモ八筒

このツモアガリで苦しくなったのは前田ではなく、瀬戸熊と見る。
トータルのポイントが▲50P弱。初日とはいえ、最下位に位置するのはやはり苦しいものがあると考える。
それをわかっているかのように次局、ヤミテンピンフをテンパイしていた藤崎より出アガリ自分の位置取りをキッチリ図る。

この男の一番の強みは常に、今、何をすべきか理解し、行動に移せることである。
このアガリでこの半荘2着目に位置づけた。
そして苦しくなったのはテンパイしながらもアガリに結びつかない藤崎である。
次局も勝又のリーチに前田のヤミテン。

南2局、北家・勝又

三万三万三索三索三索四索五索六索四筒五筒六筒発発  リーチ  ドラ六筒

東家・前田

一万二万三万六万七万五索六索七索四筒五筒六筒九筒九筒  ロン五万

前田のヤミテンに放銃するや、次局も前田の速いヤミテン七対子に飛び込む。

南2局1本場、東家・前田

二万二万三万三万四万六万六万五索五索八筒八筒南南  ロン四万  ドラ七筒

この辺り、藤崎に落ち度があったわけではなく、前田のいぶし銀のヤミテンを評価すべき所だろう。

―――――勝又の Count Down

南2局2本場、勝又が9巡目にテンパイし、次巡、六筒で跳満をツモアガる。

三万四万五万六索七索七索七索八索五筒六筒七筒七筒八筒  ツモ六筒  ドラ七索

これで前田、勝又の差が15P弱となった。

南3局、勝又が3フーロして2,000・4,000をツモアガリ、前田との差が僅か5.0Pでオーラスを迎える。

西家・勝又
二万二万二索二索  チー五万 左向き六万 上向き七万 上向き  ポン七筒 上向き七筒 上向き七筒 上向き  ポン西西西  ツモ二万  ドラ二万

南4局、オーラスも勝又が十八番の七対子をキッチリとツモアガリ、前田とその差わずか1.0Pで初日を終了する。
「勝又の時間帯の入り方が、ボクには良く解らないんですよ」
後日、瀬戸熊はそう語っていたのが印象的だった。

4回戦成績
勝又+58.1P 前田▲9.7P 瀬戸熊▲16.1P 藤崎▲32.3P

4回戦終了時
前田+50.3P 勝又+49.3P 藤崎▲48.0P 瀬戸熊▲51.6P

 

初日を振り返って
前田
「3回戦のミスは自分の弱さだと思います。ただ冷静さだけは失わないように明日も戦います。初日としては悪くはなかったと思います。3回戦目を反省して、ここは落ち着いてドッシリと打とうと思いながら入りました。 勝又プロが好調で、とにかくこの半荘は我慢がテーマ。自分から崩れることのないよーにと打ちました。初日終わって自分の1人浮きよりも、勝又プロが浮いて2人浮きになったほうが、今後も戦い易いのでは?と思ってもいたので、とにかく自分から不用意な放銃だけはしないようにと落ち着いて打てたと思います。」

瀬戸熊
「これだけ我慢をしていたのだから、自分の時間帯になったら絶対許さないゾ」
瀬戸熊の本音が覗えたコメントではある。

藤崎
「とりあえず今日の事は置いておいて、明日はポイントを±0ラインには持っていきたいと思います。」

勝又
「1、2回戦に関してはコメントした通りで、3回戦 、4回戦は自分なりに及第点はある内容だったかと思います。」

いずれにしても初日が終わっただけの事である。
2日目以降に、さらなる頂点を極めるプロの凌ぎ合いが繰り返されることは必至である。