第31期A1リーグ第4節レポート 望月 雅継
2014年07月21日
『心技体』
私が麻雀プロとして戦っていく上で、一番大切に、そして一番重要だと考えている事柄である。
一流の技術を卓上で表現するためには、その技術を如何なく発揮するだけの強い精神力を身につけなければならない。
強い精神力を持続させるためには、長時間の対局に耐えられるだけの強い身体を作り上げなければならない。
強い身体を生かして戦うには、自分の能力を最大限に発揮する技術を身につけなければならない。
そういった考え方の下、私はここまで戦ってきた。
自分の技術がA1リーグにおいて通用しているかどうかはわからないが、自分が万全の状態で戦えるように、今期のリーグ戦に向けて心と体を苛め抜いて準備をしてきたつもり…だった。
だがしかし…
自分のやりたい麻雀は、皮肉にも私以外の3者から画面に向けて発せられていたのだ。
勝又の強靭な精神力には、ただただ脱帽するしかない。
勝又が対局に向けてどのような気持ちで臨んでいたか、同じ会場にいた自分には痛いほど伝わった。
どのような事があっても、自分自身を信じる気持ちは揺らいでいなかった。
勝又とはCリーグ時代からしのぎを削ってきたのだが、全ての事柄において現在の私を上回っていたのは間違いない。今回の対局で現状での勝又との差を痛烈に感じたのだ。
今期のともたけの充実度は、A1リーグを観戦していても画面から伝わってきていた。
ともたけとの対戦は約1年ぶり。序盤のともたけの攻勢たるや、鳳凰位を獲得した時の勢いと同じくらい、いや、今の自分にはそれ以上の衝撃として卓上から伝わってきた。
ここ最近対戦回数の多い沢崎は、不調ながらにも随所にその高い技術を発揮していたというように私には感じられた。牌勢は劣勢でも、何とか状況を打破しようと繰り出す技の数々に、私自身翻弄されっぱなしであった。
自分の歩んできた道は何だったのだろう。
自分が重ねてきたつもりだった努力とは何だったのだろう。
結果が出せなかった自分に、語る資格はないだろう。
全てのエネルギーを集約して臨まなければならないはずのA1リーグで、ベストパフォーマンスを出せない自分には、努力という言葉を使うことは決して許されないと。
技術が劣るなら、せめて心と体を充実させて対局に臨むべきだ。
心が揺れる出来事があったとしても、調整ミスがあったとしても、プロと名のつく舞台で戦っている者には、それを周りに感じさせてはならない。
そういった意味で、今節の戦いはここ数年で最低の戦いだと言わざるを得ないだろう。
このような戦いが続くようであれば、麻雀プロとして戦っていく事自体考え直さなければならない。
私は今、そう考えている。
我慢すること。顔を上げない事。
自分自身が強く思い、それを画面上で表現したい。
それがマイナスに作用し、マイナスに画面に映る。
1回戦南3局親番。
ツモ ドラ
一見弱気に見える打。
解説でも、コメントでも、何故を切らないのだ?そういった言葉が多く発せられていた。
さえ切っておけば、
ツモ、打、ツモ、打で跳満のテンパイ。
沢崎から出たを捕らえるか、または自身でをツモっていたか。親の跳満、またはツモで倍満。
画面ではそのような言葉が多く書き込まれていたし、解説もを切るべきだとのこと。
客観的に見ればそうなのだろう。
画面から結果が見えているだけに、きっとそれが正解なんだろう。
ツモの瞬間、自分の選択肢は一択。
切りは選択肢になかった。
何故なら、ここまでメンゼンで仕上げてきたあの形を、仕掛けで崩されたくなかったから。
自分の卓上での体感では、恐らく勝又にダブはトイツ。そして、満貫の出アガリでスタートしたところから現状ラスに転落した自分の親は、きっと捌きにかかるだろう。そう思っていた。
自分のツモ筋で戦いたいからこその打なのだ。
だからこそ、を切り出せなかったのだ。
鳴かれたら、きっと結果は変わっていただろう。
アクションと対応が変わるため、どうなっていたかはわからない。
「瀬戸熊ならアガっていたね」
視聴者の皆様にそう思わせる瀬戸熊は、やはり超一流だ。
瀬戸熊なら、あの牌姿になっているかはわからない。
しかし、そう思わせる瀬戸熊の存在感こそが、プロ連盟を代表する打ち手だという事だ。
を切ったら勝又が仕掛けたかどうかは、今となってはわからない。
しかし、を仕掛けるだろうと私が感じていたことは紛れもない事実。
そう感じさせた勝又の方が、間違いなく力が勝っているということなのだろう。
を切ったら勝又が仕掛けるのでは?
視聴者の皆さんにそう感じさせないのが勝又の強さであり、仕掛けると感じた私の弱さなのだろう。
ツモ。テンパイ。
少考後、打のテンパイを取った私には、もう一つの選択が残されていた。
打。
跳満テンパイを果たしていたのにも関わらず、少なからずとも違和感を覚えていた。
だったらいっそのこと、テンパイ取らずの一手はどうか?
そんな手筋があってもいいだろうと。
実際、打なら、
ツモ打となり、とのシャンポンテンパイ。
このを沢崎が切るかどうかは別として、をツモっていたのは自分自身なのだから…。
これが現在の自分の力であろう。
を切って展開が変わる事より、自らのツモ筋を信じた自分。
違和感に襲われたにも関わらず、テンパイを取ってしまった自分。
倍満ツモアガリの牌姿が自らの目に確認出来た後、私はともたけに2,600放銃。
勝又のツモX、打を確認した後で、恐らく勝又にアガリ牌のがトイツになったのではと感じていただけに、自らの心の弱さを強く悔いることとなるのだった。
3回戦の勝又への12,000放銃も然り。
全ては、自らの心の弱さが敗因だ。
これを立て直すためにはどうしたらいいのか?
もっともっと心も体も苛め抜くしかないのか、それとも違う部分の充実を図る方が良いのか、または麻雀プロで在る事自体を考え直さなければならないのか。
いろいろな想いが去来する。
この舞台で戦っていることを自問自答する毎日が続く事だろう。
それでも自分は、前に進み続けることしかできない。
全てを投げ打ったとしても、ここまで長い時間を掛け、人生の全てを注いできたここまでの歩みを止めることは出来ないのだから。
自分には足りないことが多すぎる。課題も多いし、能力も低い。
自分の想いを、考えを、もっと視聴者の方に伝えられるように、自分自身を磨く時間を割くことを愚直に続けていく事で、何らかの形を残したいと思っている。
カテゴリ:プロリーグ(鳳凰戦)レポート