第13期女流桜花決定戦 二日目観戦記 紺野 真太郎
2019年01月11日
初戦ラスながらも、貫禄の3連勝でトータルトップに立ち初日を終えた仲田加南。
内心は分からないが、初の決勝にも憶する事無く臨んでいる中野妙子。
早い展開になりがちで持ち味を消されつつも、必死で離されまいと奮闘する石田亜沙己。
「4冠」目指しリングに立ったものの、まさかの最下位スタートとなった魚谷侑未。
ゴルフにはスコアが動く3日目を指し「ムービングサタデー」という言葉があるが、この日が「ムービングセカンドデイ」となるのか・・
初日終了時
仲田+51.4P 中野+24.1P 石田▲24.7P 魚谷▲50.8P
5回戦 起家から 中野、仲田、石田、魚谷
1回戦東1局は九種九牌という「静かな」立ち上がりで幕を開けた。だが、この5回戦は正反対、「動」いきなりの仕掛けから始まった。
「ポン」声の主は魚谷。南家仲田の第1打に声を掛けた。
ドラ
をポン。自風であるが、この遠い仕掛けは公式ルールのセオリーに反する。だが、メンツ構成を考えると、マンズで2メンツ、残りで1メンツと頭を作ればよい。マンズの伸びや字牌の重なりがあればホンイツまである手牌。そう思えば、仕掛けの意図が見えなくもない。でも、それは頭の中の思考であって、声を出させたのは身体であるように思える。4回でつけられた100ポイント強の差を残り8回で追いつき逆転しなければならないのだから。
親の中野はこの程度の事で面食らっている場合ではない。ここは戦場。何があろうが不思議ではない。真っ直ぐに手を進め、切りでリーチ。真っ向勝負だ・・しかしそのは魚谷の当たり牌。2,000点の放銃ではあったが、どこか引っかかるものがあったのではないだろうか。
東2局、魚谷に親をやらせてもらえなかった中野。しかし、その配牌は・・
ドラ
2役、ドラ3。いや、ホンイツ、もっと言えば小四喜まで見える。3巡目中野がを仕掛けた。
ポン ドラ
まずは確実に満貫を。といったところか。
「ポン」この声は仲田だ。
ポン 打
仕掛けても1シャンテンのままである事、面前なら三暗刻など、更に伸びる可能性がある事、中野に対しての受け駒が無くなる事、ドラの行方が不明(多分中野が2枚以上)な事など、スルーする理由はいくらでもある。だが、そこは誰が呼んだか「麻雀ラリアット」ラリアットの本家、スタン・ハンセンの如く、相手をなぎ倒しにいく。
少し、補足を。仲田は「守備型」であると、自ら語っている。この仕掛けは守備型の概念からは外れたものに思えるが、仲田は鳴くことにより役を確定させ、受け入れを広くして、手にスピードを持たせ、アガリ切ることで守備力を相対的に上げるという「攻撃は最大の防御」ということを実践しているのだろう。
中野はテンパイを入れるもそこまで。仲田が先にアガリ切り、失点を未然に防いだ。
南1局に中野が2,600オール。後手に回らされることが多い中、先行リーチを決め、トップ目に躍り出る。
南1局1本場、ここまでラス目、石田の配牌
ドラ
メンタンピン、イーペーコー辺りにまとめ上位を伺うきっかけにしたいところ。分岐は6巡目。
ツモ ドラ
打で三色は234に絞り、内に寄せていくのがマジョリティか。だが、石田は打とし、手役へのこだわりを見せる。石田の武器は破壊力である。早い巡目からの仕掛けも辞さない仲田、魚谷を相手にしてもスタイルは崩さない。
次巡のツモもツモ切り。あくまで三色にこだわる。これは意地か執念か。それとも石田という人間の生き方なのか、表現方法なのか。何なのかは石田にしか分からない。しかし、その石田に手牌も呼応した。
8巡目にを引き入れると、11巡目に場に2枚切れ、ラス牌のを引き込む。ドラを切りリーチ。安全牌に窮した中野が掴んだはそのまま河に放たれた。
石田のこのアガリによって一気に平たくなり、一時は仲田が抜け出すが、この半荘トップを決めたのは石田だった。
リーチ ロン ドラ
三色が決め手となったのは決して偶然ではないであろう。
5回戦終了
石田+18.2P 仲田+6.1P 中野▲9.8P 魚谷▲14.5P
トータル
仲田+57.5P 中野+14.3P 石田▲6.5P 魚谷▲65.3P
6回戦 起家から 魚谷、仲田、石田、中野
ポイント差を詰め、先を行く仲田の背中を視界に入れたかった魚谷だが、5回戦終了時には122.8ポイント差にリードを広げられてしまった。残り7回、もう本当にギリギリである。
東1局、終盤にを鳴き、ドラ2のテンパイを入れると、こちらもテンパイを入れていた中野から5,800。反撃の狼煙を上げる。
東2局1本場、親番の仲田からリーチを受けるも、落ち着いて打ち回し1,000・2,000。
ポン ツモ ドラ
トップ目で南入を迎えるも、仲田も簡単に追撃を許してはくれない。南1局、今度は魚谷の親番で仲田のツモアガリ。
ツモ ドラ
ここまでの戦いの流れでは「仲田が来た」と思わせるに十分なアガリ。このまま押し切り後続を更に突き放してしまうのか・・そんな空気が流れ始めた。
南2局、前局のアガリでスイッチが入ったか、仲田が足を使う。
ドラ
ここからをチー。上家の魚谷にプレッシャーを与える動き。だが、魚谷は次巡を河に置く。仲田は動き2フーロ。しかし、これは鳴いているのか、鳴かされているのか・・魚谷が仲田のホンイツに気づいていないはずはない。魚谷のその時の手牌がこう。
アガリが近い牌姿ではないが、仲田の手が遠いブラフ気味の仕掛けということに、ある程度気づいていたように思える。仲田はをチーしてを切るまで、1枚もピンズ字牌を切っていない。そのは場に3枚目であり、少なくともスピード感がある仕掛けではない。更に、序盤で切られたファン牌に動いておらず、トイツでない可能性が大。もちろん、ピンズで埋め尽くされている可能性がゼロではないが、既にそのくらいのリスクは受け入れなければいけない状況であろう。
、と引き入れ、、と生牌を打ち出していく魚谷。これに対し、仲田はを動いてしまう。残された4枚は
ポン チー チー
戦いに入り込み過ぎたか、さすがにポンは勇み足であろう。ここで石田がドラを暗刻にしてリーチ。そして、仲田にも、リーチの石田にも通っていないを魚谷がツモ切りした時、仲田も裏を取られていたことに気づかされたであろう。
ここからソーズを掴まされ、回していく仲田。石田の現物のを切ると、魚谷が仕掛け返す。
ポン
このを石田が掴み決着。この半荘のトップ目仲田を射程圏に入れた。
南3局、魚谷に肉薄された仲田だが、振り切るべく、この局も仕掛ける。
ポン ドラ
それを受けての魚谷、6巡目の牌姿がこう。
魚谷は西家。のトイツ落とし、4枚目が見えたの先切り、いずれにしても「タンヤオか・・」と思わせる手牌であったが、魚谷の選択はであった。
七対子に決めた。タンヤオに移行した場合、仲田の自風、を落とさなければならず、いわゆる持ち持ちであった場合、痛恨となる可能性がある。七対子にしておけば、打ちたくないマンズにも対応出来る。
仲田VS魚谷に目を奪われていたが、ここで息を潜め、手を進めていた、親の石田からリーチ。
石田らしい純チャンリーチ。は山にもう無い。石田にとってはむしろ好都合。魚谷はこの時、、、の1シャンテン。はドラだが、が3枚、が2枚山にあるのは、さすがの読みか。
狙い通りを重ねテンパイ。攻守一体でドラ単騎に。石田のも、魚谷のも山には1枚ずつ。どちらに転ぶかで展開が大きく変わる。
アガリ牌を先に引き寄せたのは魚谷であった。2,000・4,000。さあ、いよいよ反撃開始である。
6回戦終了
魚谷+26.2P 仲田+9.3P 中野▲11.7P 石田▲23.8P
トータル
仲田+66.8P 中野+2.6P 石田▲30.3P 魚谷▲39.1P
7回戦 起家から 魚谷、中野、石田、仲田
東1局、待望の初トップとなった魚谷の起家。3巡目に選択の場面。
ツモ ドラ
こちらが持つ魚谷のイメージではマンズのカンチャンを払うか。だが、魚谷は常に進化し、常に最善を探し続けている。今の魚谷にとっての最善はのトイツ落としであった。
そして、この局の最善は落とし、カン残しであった。
リーチ ツモ
2,000オール。先制に成功する。
先制した魚谷であったが、簡単には抜け出させてくれない。4者が30,000点の原点をめぐるつば競り合い。
南3局、少し遅れを取っていた石田が最後の親番で2,600オールを決め、原点復帰。
リーチ ツモ ドラ
南3局1本場、今度は仲田が500・1,000で原点復帰。
ツモ ドラ
オーラスを迎え、魚谷31,500、仲田31,200、石田29,800、中野27,500の大接戦。魚谷がピンズのホンイツ進行の中、中野にテンパイが入る。
ドラ
打点が足りない。あと一役を求めてヤミテン。
ツモ巡が残り少なくなった15巡目、中野に待望の手変わり。
高目なら原点、ツモればトップまである。リーチを打って、ツモに委ねる選択もあったであろうが、流局してしまったら、リーチ棒を出した分、原点に届かなくなってしまう。
その中野。次巡のツモがで、また選択。を打てば、‐、待ちで、出アガリ以外は全てトップまでいく。だが、中野の目にはも良く見えた。、が3枚見え、が1枚切られている。中野はをツモ切った。‐待ち続行。
この時、魚谷の手牌
チー ポン
一度は処理したドラを引き戻しての1シャンテン。魚谷もギリギリの勝負。
ここから場が一気に動く。中野がツモ切ったを石田がチー。そのチーで魚谷にが流れ、生牌のを打つ。親の仲田、テンパイは難しいが、引く者を生む為にを仕掛ける。次の魚谷のツモは。一瞬、魚谷の表情が歪む。本来なら喜ぶべきテンパイだが、同時に最大のピンチにもなった。時間を使う魚谷。考え抜いた末に辿り着いたのはドラの打ち。ギリギリであったが、揺れるロープの上を渡り切った。
7回戦終了
魚谷+15.0P 仲田▲1.3P 中野▲4.0P 石田▲9.7P
トータル
仲田+65.5P 中野▲1.4P 魚谷▲24.1P 石田▲40.0P
8回戦 起家から 石田、中野、仲田、魚谷
7回戦まで守っていたトータルプラスの貯金を使い果たした中野。失ったものはまた取り戻せばいい。東1局、ドラを暗刻にし、ストレートに進めて2,000・4,000。
リーチ ツモ ドラ
東2局、今度は親番の中野。配牌を取ると1シャンテン。
ドラ
七対子で終わらせてしまうのは勿体無く思える配牌。打とし、大きく見た。
配牌が良いのは中野だけではなかった。
石田の配牌。ここまできっかけに乏しい石田。何としてこの手をものにしたいところ。先にテンパイを入れたのは石田。5巡目に、のシャンポン待ち。
は1枚切れ。ヤミテンがセオリーだと思う。石田であれば、この手をヤミテンにしておいて、後手を踏まされたと思えば、を落として回っていける。だが、残り5回、首位仲田とは100ポイント強の差のこの場面であれば、リーチの選択もあったかと思う。
石田がヤミテンをしている間に、中野はここまで手が伸びていた。
ツモリ四暗刻の1シャンテン。勿論、四暗刻は欲しいが、ポンテンのホンイツ、トイトイでも前局の2,000・4,000がある分、十分か。
石田の、が顔を見せないまま場が進む。10巡目、石田がツモ切ったを中野がポンテンに取る。
ポン
石田、追いつかれる。でも、これで中野も掴んだら止まらない。しかし・・
先にいたのは。石田にとっては厳しい現実であった。
東2局1本場、中野の調子が上がってきたと見るや、仲田は即座に動いてプレスを掛ける。
ポン ドラ
仲田が動けば、魚谷がリーチで被せる。
三色と一通の手役の選択を間違えずに、きっちりツモアガり、2,000・3,900。続く東3局は石田から、リーチ棒付き3,900、東4局は1人テンパイと、先行した中野を追い詰めていく。
南2局1本場、またもや仲田の仕掛け。だが、下家の魚谷を止めるまでの効果は無く、魚谷、7巡目にリーチ。
ドラ
リーチを受けた仲田も怯まない。仕掛け続け手牌は以下の形。
ポン ポン ポン ポン
4つ仕掛けた裸単騎。これに困ったのが中野。14巡目に追い込まれる。
ポン ツモ
安全牌は無い。マンズはノーヒントに近く、ピンズで仲田に放銃すれば満貫。が全て見えている為、‐は無い。また、仲田はポン、打なので、単騎だとすると、からポンしたことになり、矛盾が生じる。ここは切りが良さそうであったが・・追い込まれた中野はで放銃。魚谷が3連勝目の決め手となるアガリを決めた。
8回戦終了
魚谷+34.3P 中野▲1.2P 仲田▲4.7P 石田▲28.4P
トータル
仲田+60.8P 魚谷+10.2P 中野▲2.6P 石田▲68.4P
スコアはやはり動いた2日目となった。100ポイントあった差を50ポイントまで詰めた魚谷。数字の上では十分に4冠が狙える位置に戻ってきた。差を詰められた仲田だが、自身のポイントは伸ばしており、崩れた訳では無い。ラストスパート前に足を溜めていたようなものか。中野にとっては経験値の差を思い知らされた1日であったような気がする。1週間でどれだけ埋めることが出来るか。ポイント上はかなり苦しくなった石田。これは経験者で無いとわからないが、自分との戦いとなっていくことであろう。
また、思い思いの1週間を過ごし、ここに戻ってくることになる。
カテゴリ:女流プロリーグ(女流桜花) 決勝観戦記