第14期女流桜花決定戦 最終日観戦記 柴田 吉和
2020年01月31日
9回戦(起家から、仲田・古谷・武石・魚谷)
8回戦終了時
仲田+59.6P 古谷+42.1P 武石▲21.6P 魚谷▲80.1P
どの決定戦でも選手・スタッフは最終日ドキドキしながらスタジオに向かうが、スタジオに入った途端、いつも以上にピリッとした空気が流れているのを感じ、胸のドキドキが一気に引き締まる思いにさせてくれる、最終日開始前独特の緊張感が私は好きだ。
泣いても笑っても残り4半荘、14期女流桜花は誰の手に。
東1局
親仲田の14巡目リーチに対し、魚谷が七対子単騎でトータルトップ仲田から8,000の直撃に成功。
11巡目、ドラだがノータイムで打。最高四暗刻まで見据えた高打点を逃さない秀逸な選択だ。ポイントは離れているが、諦めの気持ちなど1ミリも感じさせない。
東2局
連続の高打点で先制リーチを打った魚谷だったが、親番古谷が追いつき追い越しての2,600オール。
南1局2本場
武石6巡目ツモでホンイツ移行も見えたが、仲田の親落としに比重を置きツモ切り、次巡ポン打ドラでカンのテンパイを入れる。
ポン
それを受けてドラドラのチャンス手が古谷。が2枚が2枚1枚見えでの選択。
七対子とメンツ手を天秤に掛けるならば、タンヤオを強く見て鳴きを視野に入れたと選択が分かれそうだが、古谷は打としてメンゼンでの進行を強く意識した。
ツモで武石への放銃を回避しつつ、最速テンパイからの見事なツモアガリ。
打時にを選択していると、での放銃またはでやっとテンパイの未来だった。
南2局1本場
リーチ ツモ ドラ
武石2,000・4,000は2,100・4,100
高打点ツモの応酬。一方仲田はたまったものではない。テンパイ料の1度すら加点させて貰えずノーホーラの1人沈みでの半荘終了となり、トータル首位古谷と一気に50.1Pのビハインドを背負わされた。
9回戦成績
古谷+29.0P 武石+ 6.2P 魚谷+ 3.4P 仲田▲38.6P
9回戦終了時
古谷+71.1P 仲田+21.0P 武石▲15.4P 魚谷▲76.7P
10回戦(起家から、仲田・武石・古谷・魚谷)
現在首位を走る古谷からの点差
仲田 50.1P
武石 86.5P
魚谷 147.8P
東1局
武石残り3半荘で首位古谷まで86.5P差。現実的には自身3連勝で古谷を沈めるイメージでやっと追いつける点差。贅沢を言えば、古谷からの直撃とツモアガリを繰り返してトップラスの関係を作りたいので、安めだがこの満貫ツモスタートは非常に嬉しく大きなアガリだ。
一方古谷の考え方は、各半荘で無理にトップを目指す必要はなく、大きく素点を減らさず原点キープを繰り返したいので、仲田、武石への高打点の直撃だけは避けながらの局回しがテーマとなりそうだ。また2人は初優勝に向け、所々で襲いかかってくる強烈なプレッシャーと自分自身との闘いも始まっている。
東2局 親:武石
ロン ドラ
仲田から武石3,900
東2局1本場
現状2番手の親武石が41,900まで積み重ね、13巡目リーチと古谷を苦しめる。
同巡、古谷もツモ打で役有りテンパイを入れノータイムで、すっとヤミテンを選択したが、次巡のツモで自身を奮い立たせる様に空切りリーチで勝負に出た。
武石に12,000と言われれば振り出しに戻りかねないと思う弱気な思考と、この手を高目でアガる事ができれば決定打になるうる打点だと、1巡の間に自身の中で揺れ動く想いが駆け巡った事だろう。
他人から見ればたかが1巡だが、優勝が数字として現実味を帯び始め、極限のメンタルの中で自身のプレッシャーと葛藤している決定戦終盤特有の思考が垣間見える場面だった。
東3局
5巡目に親古谷が、珍しくメンツ無しの遠い仕掛け出し。テンパイできないまま、終盤に仲田のリーチを受けリーチ宣言牌になったをポンして待ち選択。もちろん打は打点が付いてくるが裏スジにもなっており危険牌、さらに場面的に仲田のリーチは間違いなく打点が伴っている事や、が山に残っている情報が少ないという理由で、通りやすそうな打で親権維持が無難かと見えたが、古谷はを打ち切った。を鳴くからには勝負という考えかもしれないが、この場面でを打ち切れるハートの強い選手は中々いないだろう。それも初の決定戦でだ。
ここまでに前に出て強く闘える彼女を支えているもの何か?対戦相手の研究・絶え間ない稽古量が彼女の自信になり、自身を奮い立たせる事に繋がっているのだろうか。1つ言える事は、彼女が女流桜花を掴み取る為に、陰で人一倍努力してきた事は間違いない。
南1局1本場
今日の仲田は当たり牌を掴みまくる辛い展開が多く、展開・流れを変えようと必死にもがくが中々実らない。今局を迎えた時点では首位古谷に94Pまで広げられていたが、ようやく初アガリが出た。とうとう仲田反撃開始かと思われたが…、今日の仲田に二の矢三の矢を放つ力は残っていなかった。
南4局2本場R2
武石もそうそう簡単に諦められる訳がない。
オーラス渾身の3,000・6,000。古谷を沈める事まではできなかったが、1局で17.8P縮める強烈なアガリだ。
10回戦成績
武石+30.6P 古谷+ 7.5P 魚谷▲10.4P 仲田▲27.7P
10回戦終了時
古谷+78.6P 武石+15.2P 仲田▲ 6.7P 魚谷▲87.1P
11回戦(起家から、古谷・魚谷・武石・仲田)
現在首位を走る古谷からの点差
武石 63.4P
仲田 85.3P
魚谷 165.7P
これを入れて残り2半荘。現実的には最終半荘に向け、首位古谷に武石、仲田のどちらが挑むことができるか挑戦権をかけた争いである。
東2局
ドラを重ねリーチに出た魚谷から、武石が5,200のアガリ。
東4局
親仲田がダブトイツで選択があったが、足止めを兼ねた即リーチを打つ。受けて武石は親リーチに臆する事なく役有りで追いかけリーチに出て、見事に1,300・2,600のツモアガリ。
南1局
武石、仲田からすればどうしても沈めたい古谷の親番。しかしそれをあざ笑うかの様に力強くアガリきり突き放しにかかる。
南2局1本場R2 ドラ
6巡目、武石が高目ドラ待ちの先制リーチ。
6巡目、親魚谷が7,700のヤミテンを入れていたが、8巡目ツモ切りでリーチと行く。
10巡目、仲田も追いつきドラ単騎でリーチ。
古谷への挑戦権を賭けたリーチ3者の捲り合い、結果は武石の頭ハネ決着となった。
南3局
リーチ ツモ ドラ
まだまだ素点が欲しい武石。8巡目打点を見てテンパイ外しもある手牌だったが、即リーチを選択して見事一発ツモの2,600オール。2局連続での高打点を決め古谷を急追。
南3局1本場
俄然分からなくなった47.2P差。
10巡目またも親武石から先行リーチが入った同巡、古谷が役ありテンパイ。現在の持ち点であれば原点キープで半荘を終えられそうであり、何よりトータル2番手の武石の親リーチに高打点を直撃されたくないという思考から、自身リーチ発声の声が出なそうだが、ここでも古谷はノータイムで腹を括って強く闘う切りリーチ選択をした。闘う意思を貫き通す、良い言葉が見つからないが本当に強い人だ。
大勝負に出た結末は、武石からの直撃で自身がトップになるという最高の結果となり帰ってきた。
11回戦成績
古谷+26.8P 武石+16.0P 仲田▲13.4P 魚谷▲29.4P
11回戦終了時
古谷+105.4P 武石+31.2P 仲田▲20.1P 魚谷▲116.5P
最終戦(起家から、武石・仲田・魚谷・古谷)
日本プロ麻雀連盟の公式規定で最終戦の座順が決まっている。
古谷、武石が74.2P差。最終戦は数字上消化試合かにも見えるが、古谷は初タイトル獲得の重み・難しさを味わう事となる。
東1局 親:武石
ツモ
ツモ500オール。
東1局1本場
武石が4,000オールのツモアガリで1人浮き。39.8P差。
東1局3本場
2本場は全員テンパイで流局し3本場。最後の六を引き寄せ2,000は2,300オール。
最終戦開始時、古谷にしてみれば武石の2回の親を流してしまえば勝てると思っていたはずだが落ちない親。更に点数状況的に仲田、魚谷は早々親をサバキには行ってくれず、自力で落しに行かなければならない事もプレッシャーになっているはずだ。
4本場も親武石の1人テンパイで流局。74.2P差で始まった最終戦、僅か4局で47.6P詰められ26.6P差。現状6,000オール一発で並びの点差である。
東1局5本場
ポン ロン
古谷から仲田1,000は2,500。
1,000点の放銃で武石の親は落ちたが、5本場と古谷がラスへ転落し順位点▲4Pが加算。20.1P差。
東2局
ロン
古谷から仲田4,800
東2局1本場
ロン
古谷から仲田1,500は1,800。
古谷3局連続放銃。止まらない失点。進まない局。
東2局2本場
チー ロン
魚谷から武石1,000はリーチ棒付きの2,600加点して、とうとう14.9P差だ。
東4局1本場
74.2P差でスタートした最終戦も、ここまで差を詰められプレッシャーも極限状態であろう。
親番古谷に大チャンス。あと1回あと1回アガリ切れれば決定打になる。リーチを打って早く楽になりたい。それが人の心情というものだろうが、古谷はここでも自分を見失わず冷静にヤミテンを選択するのだ。彼女にプレッシャー・欲など存在しないのか?ここまでスタジオのモニターに表示されている得点表を見て、一切点差を確認しない事も印象的だった。
決定打とも思えた大きすぎる5,800は6,100。ラス抜けにも成功し28.0P差。決まったと視聴者誰もが思ったはずである。
東4局2本場
どれだけ神様は古谷に初タイトルの試練を与えるのか。まさかの跳満親被りで、ラスを押しつけられた上に、仲田が沈んで武石の1人浮き。またもや17.0Pまで急接近。
南1局
古谷にとって最後の試練、武石最後の親番。
武石13巡目リーチ、古谷同巡にヤミテン、仲田15巡目高打点リーチの熱いめくり合い。
勝負の神様は古谷に微笑んだ。第14期女流桜花はこれにて決着、古谷が涙の初優勝となった。最後まで攻めきっての勝利は、観る者を魅了した素晴らしい闘いだった。今回古谷の麻雀を最後まで見せて頂いて、勝ち取った一番の勝因を考えたら、日頃の稽古努力のたまもの・積み重ねだと思う。
話が脱線してしまい申し訳ないが、最近の後輩・新人を見ていると、男女問わず稽古不足で麻雀への努力を疎かにしている者が多すぎる。連日欲に負け遊び呆け、いつ稽古をしているかも分からない者が、堂々と麻雀プロを名乗っている者がいるのも事実だ。そのくせ試合で結果が出ないと一丁前に悔しいなんて言い出す始末。稽古努力を疎かにして、自分の欲に負け遊び散らかしておいて、挙げ句の果てには口先だけで鳳凰位になりたい女流桜花獲ります、なんじゃそりゃである。
麻雀プロとは、筆記試験で良い点数が取れて与えられるだけの麻雀プロライセンスの略ではない。そんな物何の意味も価値も無い。麻雀プロとは、麻雀のプロフェッショナルを指す。プロ野球選手は、成績を残せないと球団からクビを言い渡されプロ生活を失う。将棋のプロ棋士は、何歳までに何勝・何段かを乗り越えなければプロライセンスを剥奪される厳しい世界だそうだ。その点麻雀プロは、どんなに弱くとも、どんなに成績が残せず負け続けてもプロライセンスを剥奪される恐れのない、引退は自主性に任せている緩い世界だ。だからこそ、努力しないものは圧倒的に置いて行かれるし、実績は明白に差が付いていく世界だとも思う。何故自身が麻雀のプロフェッショナルをやっているのか、負けて悔し涙を流せる資格がある程努力をしているのかをもう一度真剣に考えて欲しい。
桜花決定戦の様な大舞台に立てる者は、自分に厳しく競技麻雀を努力し続けてやっと上がれる特別な舞台なのだ。今回遅咲きの大輪を咲かせた古谷も日々の努力あっての事。その彼女達に追いつき追い越すには、彼女達の2倍3倍の努力をしなければ到底追いつく事ができない事を自覚して欲しい。
古谷桜花に挑むべく、桜咲く季節に向け努力を惜しまないベテランプロ達の研究調整はもう始まっているのだ。新たに昇級した新芽達の稽古の日々も始まっている。来年もこの舞台で闘う4名は、今年同様にプロフェッショナル意識の高い麻雀道を歩む4名での決定戦を強く望む。
古谷さん本当におめでとうございます!
カテゴリ:女流プロリーグ(女流桜花) 決勝観戦記