第9期女流桜花決定戦 初日観戦記 櫻井秀樹
2015年01月23日
【プロの価値】
奇しくも去年と同じ面子での決勝となり、話題を呼んだ第9期の女流桜花。
プロ連盟にはこの女流桜花とプロクイーンという女流プロのいわば2大タイトルがある。
そしてここ数年、この2つのタイトル戦にほぼこの4名の誰かが絡んでいる。
麻雀という競技の性質上、短期戦で常に同じ人間が勝つということはなかなか起こらない。
ましてやプロを名乗り、日々麻雀にあけくれる者たちの集団ならなおさらだ。
私は麻雀プロとしての価値の求め方は各々いろんな方向性があってよいと思う。
華やかに業界を盛り上げる事ももちろん重要だし、ファンの方々や視聴者に麻雀の楽しみ、醍醐味を伝える事も、麻雀の普及に全力を注ぐのもすばらしいことだろう。
そしてここにいる4名は「自身のプロとしての価値」をどこに見出そうとしているのだろう?
おそらく「勝つこと」が自分の存在価値と捉えているのではないだろうか?
近年の彼女たちの活躍を見ると、そう思わざるをえないし、そうであってほしいとも思う。
【安田麻里菜】
昨年はノートップながらも安定した守備力でマイナスを最小限に抑え勝負を盛り上げた。
今期のプレーオフも一見有利な立場からのスタートに見えるが、実はかなり難しい条件をこなしての決勝進出。
最近はかなり攻撃力もついたという事で是非この1年での進化を見せてもらいたい。
ちなみに安田は、今期のC3リーグを危なげない成績で見事優勝している。
【和久津晶】
ご存じ超攻撃型麻雀アマゾネス。放銃(う)っても放銃ってもその倍アガり返す麻雀はファンを魅了し、勝負を盛り上げる。
6,000オール3発でのプロクイーン奪還は記憶に新しい。プレーオフでも大爆発大マクリの決勝進出だが、彼女であれば別に奇跡でもなく日常の事のように思えてしまう。
今期のB2リーグでも楽勝のところから70ポイント沈むもギリギリ踏みとどまり昇級。来期はB1リーグだ。
【魚谷侑未】
最速マーメイドという名をここ数年で何回聞いただろうか?
「麻雀しかない、負けたら自分の価値はない」と言い切る彼女は、結果を出すのが難しいといわれる短期戦での対局実績も凄まじく、勝ちにこだわるその麻雀スタイルに惹かれるファンも多い。
そのモチベーションから来る高い集中力は、桜花連覇の時より一層磨きがかかっている。
彼女も今期C1リーグで、最終戦に小四喜をツモりBリーグへの昇級を決めている。
【吾妻さおり】
現女流桜花。昨年初決勝で見事初戴冠。手役を重視しどこまでも踏み込んでいくスタイルはまさに王道。最終局も桜花の名にふさわしい美しいアガリで逆転。
現桜花であるため、対局の配信はなかったが、特昇リーグでは優勝。1半荘で120P近いプラスをするなど、恐ろしい程の破壊力を見せつけた。
そのため、来期はBリーグへの特別昇級が決まっている。
麻雀プロにはタイトルを獲ってから急激に成長するものがいる。吾妻も今年1年はいろんな意味で環境の変化があったはずだ。
そして今年は狙われる立場となり、受けるプレッシャーは去年以上となるだろう。
「進化した吾妻をお見せしたいと思います」
それはきっと他の3名も同じ。みんなここで勝つための1年を過ごしてきたのだから。
1回戦 (起家から、安田・吾妻・和久津・魚谷)
東1局、2局と魚谷が連続でアガリをとる。
打点こそないものの魚谷らしいロスの無い手順で安田、和久津の勝負手を潰す。
東3局、魚谷、和久津の本命コンビに微妙な選択。
南家・魚谷が9巡目にこのリーチ。
リーチ ドラ
一見して普通のリーチだが、は場に4枚(ドラ表示含め)
それでもツモで1,300、2,600ならば魚谷にとっては当たり前のリーチか。
しかし、オヤの和久津が大チャンス。
18,000が見えるこの手牌、超攻撃型の和久津でなくても全て押す一手。
当然のように無筋をいくが、終盤安田からもリーチが入り、をしぶしぶチー。
2を魚谷から打ちとり、勝負局を制した価値あるアガリのようにみえた。
が、和久津は7巡目に、
ツモ
この形からを切っている。直後にをツモり、魚谷のリーチ後ツモ、チーした後に下家の魚谷からでロン。
を残さずとも、ツモ切りでアタマを決める手もあるだけに結果論のように見えるが、6,000オールになっていた人も多い事は間違いない。
いや、いつものアマゾネスなら捉えていたように思う。
どこかずれていたのか?
この局の結果がそのまま初日のポイント結果となったようにも見えた。
終了後のインタビューで、和久津本人も悔いていた局であった。
続く東3局1本場、魚谷が痛恨の放銃。
11巡目 西家 安田のリーチ
暗カン リーチ ドラ
同巡、南家・魚谷
ツモ
ここからタンピンを見、打として放銃。
が安田のリーチ宣言牌だけに、ここは打とするのが魚谷の麻雀ではないだろうか?
ただ、本人もこの瞬間は後悔はなかったのだろう、この後もブレることなくいつもの自分の麻雀を打ち続けるが、アガリを取る事はできず、1人沈みのラススタートとなってしまう。
1回戦成績
吾妻さおり+21.4P 和久津晶+10.6P 安田麻里菜+3.0P 魚谷侑未▲35.0P
2回戦 (起家から、和久津・吾妻・安田・魚谷)
1回戦トップの吾妻が冴えている。
東2局1本場、オヤの吾妻。5巡目にこのテンパイ
ドラ
44,700点持ちからここはなんとヤミテンを選択。
捨て牌はこうで変則的ではあるが、4巡目のをノータイムでツモ切りしており、手役は絞り込めない。
解説陣も満場一致でリーチを打つと。
ところがこれがズバリとハマり、すぐに安田からを打ち取る。
なんとは和久津が暗刻で、すでに山には残っていなかった。
リーチならば安田もまず打たないので、ドラドラで好形1シャンテンの魚谷(すぐにテンパイが入る)の反撃に遭うところであったのだ。
昨年の吾妻はメンゼンで手役を仕上げると常に前に出て打ち合っていた印象だった。
これが進化の形なのだろうか?この後も意外な仕掛けなども使用し、去年とは違う形を見せてきた。
一方、守備から一転して重い一撃も打てるようになった安田、南1局には素晴らしい攻撃を見せてくれた。
オヤの和久津のリーチと、タンヤオ仕掛けの吾妻に対して、
ツモ ドラ
ここからドラのを勝負!その後ツモでツモり四暗刻のリーチを打つ。
結果は和久津のツモアガリ。
この半荘ラスとなるも、新しい安田が垣間見れた見応えのある1局であった。
2回戦成績
吾妻さおり+17.5P 和久津晶+5.4P 魚谷侑未▲8.9P 安田麻里菜▲14.0P
2回戦終了時
吾妻さおり+38.9P 和久津晶+16.0P 安田麻里菜▲11.0P 魚谷侑未▲43.9P
3回戦 (起家から、安田・魚谷・和久津・吾妻)
吾妻の2連勝。昨年の初日爆発を彷彿とさせるスタート。
一方、今年も苦しいスタートは魚谷。まだ12分の2が終わったに過ぎないとはいえ、これ以上離されれば2日目以降が苦しくなるのは明白。
その魚谷がようやくらしいアガリを見せる。
東2局、5巡目の北家・安田の先行リーチ。
リーチ ドラ
これを受けてオヤの魚谷は宣言牌のをチー
チー
現物の切り。
河にはを2枚並べているが、ドラドラだけにタンヤオへの移行も見たバランスの良い手組。
そして、テンパイから時間はかかったものの、終盤に2,000オールのツモアガリ。
チー ツモ ドラ
また、南場のオヤ番でも持ち前の鋭い切れ味を発揮。
南2局 東家・魚谷、リーチを受けながらもしっかり攻め返し流局。
打→流局 ドラ
1本場はここからをポン。
ドラ
チーで単騎。
チー ポン
さらに、南家・和久津のリーチをうけ、リャンメンに受け変えアガリをもぎ取る。
チー ポン ロン
賛否両論ある仕掛けだが、決まるかどうかわからない4,000オールより、受け入れを増やし7,700を狙える手組。
さらにはリーチを受けたのなら、打点を下げてでもアガリ率を優先。
抜群のバランス感覚を持つ、魚谷ならではの見事なアガリである。
2本場
ポン ロン ドラ
3本場、ついに面前で最速の大物手を決める。
ツモ ドラ
魚谷麻雀の真骨頂とも言える連荘で、3回戦は魚谷が1人浮きのトップ。
マイナスを一気に取り戻す。
3回戦成績
魚谷侑未+37.3P 吾妻さおり▲3.7P 和久津晶▲12.4P 安田麻里菜▲21.2P
3回戦終了時
吾妻さおり+35.2P 和久津晶+3.6P 魚谷侑未▲6.6P 安田麻里菜▲32.2P
4回戦 (起家から、魚谷・和久津・吾妻・安田)
この半荘が初日の最終戦。
昨年のノートップから未だトップの無い安田。
今年は一歩踏み込みを深くしているように見えたが、ようやくその姿勢が形になる。
東4局2本場、オヤ吾妻のリーチ、和久津の仕掛けに対して、苦しい形ながら押し切りハイテイで跳満のツモアガリ。
ハイテイツモ ドラ
迎えたオヤ番では、絶妙なヤミテンと強引なリーチを使い分け、持ち点を59,700点まで伸ばす。
トータルをプラスに戻し、吾妻にせまる。
ところがここから好きにさせてくれないのがこの面子。
もともと攻撃的な3人は、荒れ場は大歓迎とばかりに、
吾妻 4,000・8,000
リーチ ツモ ドラ
魚谷 6,000オール
リーチ ツモ ドラ
和久津 2,000・3,900
リーチ ツモ ドラ
点棒を削られ続け、終わってみれば安田は4万点台の普通のトップ。
それでも1人浮き、なにより決定戦でようやくのトップで、少しホッとできたのではないだろうか。
4回戦成績
安田麻里菜+24.7P 吾妻さおり▲1.3P 魚谷侑未▲6.5P 和久津晶▲16.9P
初日終了時
吾妻さおり+33.9P 安田麻里菜▲7.5P 魚谷侑未▲13.1P 和久津晶▲13.3P
なんと今年も昨年同様、初日は吾妻の1人浮きで終えた。
参考に去年の初日成績を下記しておく。
第8期女流桜花決定戦 初日終了時成績
吾妻さおり +92.5P
和久津晶 ▲10.3P
安田麻里菜 ▲37.4P
魚谷侑未 ▲44.8P
今年も初日は吾妻のできが良かった。だが、昨年よりポイントが伸びていないのは懸念点なのだろうか?
いや、本人はそうは思っていないはず。これはむしろ成長の証である、と。
こちらから見てもただがむしゃらに向かっていった1年前とは違い、しっかり押し引きのバランスが取れていたように見える。
安田、魚谷も同様。
吾妻の猛攻撃になすすべがなかった昨年とは違い、それぞれが個性、進化をアピールしてきた。
1人和久津がおとなしい。
だが、彼女の後半の追い上げパターンを考えれば、このくらいのマイナスはむしろ丁度いいのかもしれない。
上から下まで一撃で並ぶ点差。
2日目の初戦、4人はどういう戦略を打ってくるのか?
はたして誰が突き抜けるのか?
激戦必至の熱い戦いを見逃すな!
カテゴリ:女流プロリーグ(女流桜花) 決勝観戦記