第11期女流桜花入れ替え戦レポート 楠原 遊
2016年12月20日
11月23日、女流桜花の入れ替え戦が行われた。
今期初の試みとなるこの対局は、日本プロ麻雀連盟の女流リーグであるABC3つのリーグの選手4名が、Aリーグへの昇級、残留を賭け全4半荘を戦う。
トータル1位になった選手は来期女流桜花Aリーグに、それ以外の選手はBリーグで来期の女流桜花を迎えることとなる。特にCリーグの選手にとっては、Bリーグを飛ばしてAリーグにジャンプアップできる大チャンスとなる対局となり、熱のこもった戦いになること必至である。
まずは出場選手の紹介から
吾妻さおり Aリーグ15位 東京本部所属 第8・9期女流桜花。
「(あなたにとって桜花とは、との質問に)吾妻という打ち手を生み、育ててくれた親のようなタイトル戦です。今日しっかり打つことが恩返しの一つになると思います。」
稲岡ミカ Bリーグ5位 関西本部所属
「チャンスがせっかく得られたので、今できることを精一杯したいと思います。多方面の方々に、沢山応援していただいているので、期待にこたえたいです。強い打ち筋ができたらと思います。」
井上美里 Bリーグ6位 東北本部所属 第29期新人王
「ミスが無ければ必ず勝てると思います。先に昇級を決めた4人よりも1回多く映像対局が出来てラッキーくらいの気持ちで挑みます。」
土田小緒里 Cリーグ優勝
「一生懸命悔いのないように頑張ります」
泣いても笑っても、半荘4回。
残留を目指すもの、昇級を目指すもの、それぞれの戦いが今始まる。
なお、この対局も女流桜花のリーグ戦と同じく、一発裏ドラ無しの日本麻雀連盟Aルールによって行われる。
1回戦 稲岡・吾妻・土田・井上
東1局 3巡目
はじめに動いたのは南家・吾妻
ドラ
ここから東家・稲岡の切ったをチー。打。
巡目を考えると、随分と思いきった早い仕掛けに見える。スピード・打点とも期待はできない手だが、他家からはそうは見えないかもしれない。過去に桜花を連覇し、キャリア的に3者のかなり先輩となる吾妻。ほぼ初対局の3名に対するプレッシャーとなり得る一手である。
しかし親の稲岡も、ひるまずと切ってゆく。
そのも鳴いて、吾妻テンパイ。
チー チー
親の稲岡もまっすぐ打って1シャンテンの手だったが、吾妻がすぐにをツモって500・1.000。開かれた手を見た3者は、何を思ったのだろうか。
東3局1本場
西家・稲岡が4巡目にテンパイ
ドラ
三暗刻・の7,700。ここはさらなる手の成長を見てヤミテン。
南家の井上も仕掛けてこの形。
ポン
ドラのを暗刻にしての勝負手だ。一発裏ドラのないAルールにおけるドラ3の価値は極めて大きい。
しかしここで稲岡が2枚目のを鳴いて単騎から次巡引いて以下の手。
ポン
・・トイトイ・三暗刻の12,000。すぐに井上もテンパイ。
ポン
こちらも大きな勝負手になった。
2人の欲しいは山に2枚残されていたが、誰の手にも引き寄せられることなく流局。
終盤にテンパイを入れねばった吾妻と合わせて3人テンパイとなった。
南3局、吾妻と井上の手がぶつかる。
吾妻
ポン チー ドラ
井上
ポン
すぐに吾妻がラス牌のを引いての高目一気通貫のテンパイとなるが、ここは井上のツモで1,000・2,000。
今日の井上はいつもにも増してアガリにストレートな道を選択している。この手牌、切りテンパイで、待ちにすることも出来た。河と自分の手牌からは、1枚しか差がない選択だったが、ここは間違えず先にを引いて最速のアガリを手にした。
南4局、親番の井上が3本場まで積みトップの稲岡に迫るが、最後は稲岡自身が300・500は600・800で1回戦を終わらせる。
1回戦結果
稲岡+17.3P 井上+8.4P 土田▲9.2P 吾妻▲16.5P
2回戦 吾妻 稲岡 土田 井上
今回、入れ替え戦に登場する稲岡・土田と井上はそれぞれ関西本部、東北本部の所属。毎月、女流桜花に参加するため新幹線で東京まで通っている。もちろん麻雀の技量に移動距離は関係ないけれど、それだけの時間や経済的なビハインドを持って対局に臨むには、きっと準備も覚悟も必要だと思う。
東1局、はじめにテンパイしたのは西家・土田。
ドラ
この手をヤミテンにして、ツモで打、ツモでメンピン三色のリーチ!
しかし親の吾妻もだまっていない。
チー ポン
この手でこちらもテンパイしていた稲岡から2,900をアガる。
東3局1本場、親番の土田
ドラ
ここにを引いて、親リーチ。
そのリーチに、南家の井上が仕掛けていく
チー
1回戦2着スタートだった井上、ここはまっすぐ押してゆく。
チー チー
西家の吾妻も
この形になるが、リーチと仕掛けに挟まれは切らず、を外していった。
2人のアガリ牌の行方に注目が集まったが、終盤、最後まで押しきった井上がホンイツドラドラの2.000・3.900は2100・4.000をアガって土田の親を終わらせる。
オーラス、稲岡・井上のトップ争いかと思われたが、3着目の吾妻が井上から6,400をアガリ、稲岡のトップ。
2回戦結果
稲岡+18.2P 吾妻+12.4P 井上+2.8P 土田▲33.8P
トータル
稲岡+35.6P 井上+11.2P 吾妻▲4.1P 土田▲43.0P
3回戦 稲岡 井上 土田 吾妻
稲岡の2連勝によって、3者に課題が与えられた。各々のプラスを目指すことはもちろん、この半荘、稲岡を沈めること。最終戦が残っているとはいえ、ここで浮かれてしまうと勝負がほぼ決してしまう。逃げるトップ目の稲岡に対して、包囲網は作れるか。
東1局、北家・吾妻が7巡目にホンイツ役役のテンパイ。
ポン ドラ
ここに1シャンテンの稲岡
を引いてツモ切る。これを吾妻が大明カン!!
日本プロ麻雀連盟のAルールには大明カンの責任払い(パオ)があるため、ここで吾妻が嶺上ツモの場合は稲岡の1人払いとなる。
普段なかなか見ることが出来ない大明カンの責任払いだが、吾妻は稲岡がを切ったときのことも想定していた。もちろんテンパイがほぼ明確になってしまうが、その代わりにトップ目からの大きな直撃チャンスとなる。
しかし嶺上牌にいたのは。直撃はならず。
そして稲岡もソーズを引き入れテンパイ。
リーチ
–待ち対決となったが、すぐに吾妻がをツモって2,000・4,000。直撃はならなかったが、親かぶりという形で稲岡の親を終わらせる。
南1局1本場、ここも稲岡の親番、南家・井上が
ポン ツモ ドラ
このダブ・ホンイツをツモり、またしても大物手の親かぶりで稲岡の親を落としていく。
この半荘は3者の狙い通り、稲岡に苦しい展開になった。その中で多くのアガリをものにした井上がトップに、そこに吾妻、土田が続き、稲岡は4着。
3回戦結果
井上+16.1P 吾妻+6.0P 土田▲7.7P 稲岡▲15.4P
トータル
井上+27.3P 稲岡+20.5P 吾妻+1.9P 土田▲50.7P
最終戦 稲岡 吾妻 土田 井上
稲岡の4着によって、トータルトップ目が井上に変わった。鳴いても笑ってもこれが最後の一戦。晴れてAリーガーとなるのは、この中の誰になるのか。
※規定により、最終戦の席順は起家からトータル2位→3位→4位→1位の並びとなる。
東3局1本場、はじめにテンパイしたのは西家・稲岡
ドラ
しかし親の土田もすぐに追いつく。
ポン
緊迫しためくり合いが続くが、が土田の現物だということもあり井上が稲岡に1,300は1,600の放銃。
トータルトップ目の井上が沈み、稲岡・吾妻が浮いたことによりポイントはこの三つ巴の戦いとなった。もちろん大きく沈んでいる土田も含め、各々親番が残っているので、全員にチャンスはあり、それぞれの親・子方での打ちまわしに注目が集まる。
東4局、井上の親番、南家の稲岡が仕掛けていく。
ポン ポン ドラ
見えている部分を考えると非常に役牌が切り辛い状況である。
これを受けて井上、
ツモ
このツモによりをノータイムで外していく。
実際の稲岡の手はこちら。
ポン ポン
でもでも仕掛けられる手がたちだった。ここに自力でを引き入れ、高め満貫のテンパイ。
一方、西家・吾妻も一歩も引かない。2枚目のを鳴いてこの牌姿。
ポン
連荘したい井上、その井上の親を落としたい稲岡・吾妻。この3者のアガリ競争となったが、ここはドラが重なった土田が井上に2.900の放銃となった。
ロン
南2局、ここは吾妻の親番。まず仕掛けたのは親が残っている井上。
チー ドラ
しかしそうはさせない、と1番最初にテンパイしたのは親番・吾妻
リーチ
真っ直ぐ向かえなくなる井上と対照的に、このリーチに真っ向勝負を挑んだのは南家・土田。
迷いなく親のリーチに、無筋のマンズ・ピンズを押していく。
しかし、2番目のテンパイはまわっていた北家の稲岡。
片アガリではあるが、リーチのスジのを切ってテンパイとした。
ここに次巡、吾妻のアタリ牌であるを引いてくる。自身の待ち牌のは生牌、は1枚切れ。
小考して、稲岡が選んだのは吾妻の現物である。さすがに無スジの牌は打てないと一旦まわったか。
しかし次巡すぐにまたツモ。その後場に出たを仕掛けて、
ポン
粘ってテンパイ、流局。
吾妻・稲岡の2人テンパイ。互いの開けた手を見て、吾妻、稲岡の2人が思ったことは何だろう。
南2局1本場、南家の井上がを、北家の稲岡がをポン。2人とも、吾妻の親を早く流したい。
ポン ドラ
ポン
しかも井上はドラ3。ここは何としてでもアガリたい。
しかしドラのを切った吾妻もこの親は落とせない。
ツモ
フリテンの牌を引いて、一通は見切って即リーチ!
勝負どころと踏んだ井上から2,000は2.300をロン。連荘に成功した。
しかし2本場、早々にをポンした稲岡が吾妻から5,200は5,800をアガリ、吾妻の親番を終わらせた。
南4局、現時点でのトータル成績は
稲岡+40,0P 井上+17.6P 吾妻+6.8P 土田▲64.4P
跳満直撃の必要な吾妻が、井上に2,000を放銃して連荘。
南4局1本場
ロン ドラ
稲岡が2,000は2,300をアガリ、自身の優勝を決める。
最終戦結果
稲岡+25.8P 吾妻▲4.4P 井上▲6.7P 土田▲14.7P
最終成績
稲岡+46.3P 井上+20.6P 吾妻+2.5P 土田▲65.4P
こうして稲岡の優勝によって、初の女流桜花入れ替え戦は幕を閉じた。
優勝した稲岡はAリーグで、井上・吾妻・土田はBリーグで来期の女流桜花を迎えることとなる。
各々が打ったこの日の麻雀が、きっとまた、次回の糧となることだろう。
彼女たちの熱い活躍を、楽しみにして欲しい。
カテゴリ:女流プロリーグ(女流桜花) レポート