第22期マスターズ 決勝観戦記 滝沢 和典
2013年05月24日
第22期マスターズ、決勝進出者は以下4名。
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1回戦(起家から 四柳・勝又・小車・西岡)
東1局1本場
東1局は四柳、勝又の2人テンパイで流局。
続く1本場で、西岡が小車から6,400の出アガリ。
西岡の序盤の捨て牌を見ればわかるように、ほぼ手なりで七対子のテンパイが入った。
かの単騎選択はあったが、仮に待ちにしていたら、勝又が同巡に打ったはどうなっていただろうか。
きっとを放銃してしまう打ち手も多いと思うが、勝又の観察力ならを止める可能性があると、私は思う。
西岡の捨て牌を七対子と断定できるわけではないが、の打ち出しが早いこと、→、→という切り順の違和感。そして何より、自分の手牌が急所だらけでアガリに遠いこと。総合的に判断して打牌を選択すれば、が止まっても不思議はないのである。
勝又は9巡目の打から、3巡連続で安全牌を打っているが、それが偶然であったのかどうかは牌譜だけで判断することはできない。
ともかく、西岡の待ち選択が、小車の出ばなをくじいたことは事実だ。
東3局
西岡が14巡目のをチーテンにかけると、小車からドラを喰い取り500、1,000のツモアガリ。
西岡好調、小車不調、といった印象を受ける。
東4局
西岡が懇意にしている人物に、A1リーグ在籍の朝武雅晴がいる。朝武は高打点を追う雀風で、恐らく西岡も影響を受けているはずだが、その朝武を彷彿とさせる、第一打の。
西岡がを引き入れ、ヤミテンに構えると、同巡勝又がリーチ。
仮に、西岡が他家を押さえつける意味でリーチをかけていれば、勝又がヤミテンに構えることが予想されるだけに、この局の結末は興味深い。
西岡が1発目にを掴み、を落として迂回すると、12巡目にを引きリーチ。
すると、今度は勝又が西岡の高目のアガリ牌を掴み、12,000の放銃。
勝又、西岡、両者のリーチ判断が明暗を分ける1局となった。
ちなみに西岡が、シンプルに第一打としても、恐らく同じ手格好になっている。
小車の3巡目のドラ打ちなども踏まえ、両者の立場で自分ならどういった判断をするか、考えて見るのも面白い。
次局、東4局1本場 9巡目
西岡はこの手を即リーチ。
リーチ ドラ
16巡目にツモアガリ、2,000は2,100オール。
2本場、仕掛けた小車が勝又のリーチに8,000放銃となり、西岡の親が落ちた。
南1局
これまで息を潜めていた四柳が親番で、3巡目にリーチで一発ツモ。4,000オールのアガリ。
ツモ ドラ
近年の日本プロ麻雀連盟では、瀬戸熊直樹、前原雄大がビッグタイトルを取りまくっているが、口を揃えて「親番でどれだけ点数を叩き出せるかが重要、そのために良い形で親番を迎えるべきである」と言う。
絶対的な根拠があるわけではないが、きっと2名なら、この四柳の親番はチャンスだと言うだろう。逆に四柳以外の3名の立場であれば、この親を警戒すべきだ、と言うはず。
南1局1本場
親番の四柳は2巡目
ツモ ドラ
メンツ候補は足りているが、四柳は234の三色まで見据えて、打とした。
、と引き入れ、この形。
あくまで高打点を追求する打を選択。
を引き、10巡目にリーチをかける。
流局間際、形式テンパイを入れた勝又が高目を食い取り流局となった。
南1局2本場
7巡目、南家・勝又はここで打としてテンパイ取らず。
次巡、ツモでドラ打ちでこの形。
ペンのテンパイを外す、外さない。この手順には賛否両論あるだろうが、私はどんな打ち方をしても構わないと思う。
この後、ドラが捨て牌に並んでしまうことになるのだが、一瞬の結果はどちらでも良くて、勝又自身がこの局面をどう捉えているか、腰を据えて打つことができているかということが大きな問題であろう。
このドラ打ちが場面に作用する。
11巡目、小車が打ったを西岡がチー。
勝又が打ったドラは、手牌のスピードを知らせる牌である。
それを受けて、場に1枚切れの發単騎に受けた西岡だが、これも同じように、捨て牌とリャンメンチーは、他者に対して打点とスピードを知らせることになってしまう。手牌の情報を出せば、アガリ確率もグッと低くなる。
、とツモり、この手格好になったばかり。局のスピードを知り、それに対応して打つことが間違いとは思わないが、先ほど、東4局の親番で、第一打を選択した打ち手が仕掛けて良いのは、急所である、またはだけではないだろうか。
トップ目を走っているのにどうもバタついた感じを受けてしまう。いや、トップ目を走っているからこそ、プレッシャーを感じるものか…
その同巡、勝又がテンパイで即リーチ。
この仕掛けとリーチに対して、一歩も引かない姿勢の四柳が追いつく。
勝又のが山越しとなったが躊躇なく追いかけリーチをかける。
四柳の捨て牌には、と並んでおり、西岡の目からは3,000・6,000のアガリ逃しが確認できる。
その直後、2,000オールのツモアガリ。
西岡は精神の均衡を保つことができるか?
南1局3本場
6巡目の打でテンパイ、次巡の打でに待ちかえ、を空切りしてのリーチである。
「には自信があった」と打ち上げの席で話していた勝又だが、2枚のと、西岡のの後押し、それだけの理由では、現在の四柳の親に対して勝負するには無謀に映る。
もちろん、先手を取って相手の手順ミスを誘う、ということが隠された理由のひとつであろう。しかし、前局の四柳の腹をくくった攻めを見れば、少々リスクが高いように感じる。
またしても捨て牌にドラが2枚並んでしまった。四柳の捨て牌のトーンにも肝を冷やしたことであろうが、直後にの引きアガリとなった。
決勝メンバー4名の中で、唯一タイトル戦優勝の実績を持ち、舞台慣れもしている。場面を読む能力が最も高いのも勝又で間違いないであろう。
しかし、麻雀を勝負事として捉えたとき、四柳に優位に立たれている感はある。
1回戦終了時
四柳+36.9P 西岡+15.5P 勝又▲10.9P 小車▲43.5P
2回戦 (起家から 西岡・小車・四柳・勝又)
東1局は小車が2,000・4,000をツモアガリ。
ポン ツモ ドラ
東2局も小車。2,600オール
ツモ ドラ 裏ドラ
決勝戦終了後「最初のラスで開き直ることができたかもしれない」
と語っていた小車。確かに2回戦目以降、顔つきが晴れ晴れとしており、力んでいる様子もなくなっている。
南3局1本場
小車がドラをツモ切ると、西家の西岡がポン。
西岡が13巡目にツモアガリとなる。
ポン ツモ ドラ
を打つのは問題ない、しかしこので簡単に撤退してしまうのであれば、やはり問題がある。
トップを守り切りたいという考えがあるのなら、を打ち出さなければ良い。得点を伸ばそうとするならば、この瞬間には打ち出さなければならない。
ここで小車が打とすると、おそらく西岡がポン。すると、西岡のアガリはなかった。
結果論ではあるが、こういった打ち手の姿勢がポイントとなって、勝負の流れが出来上がるものではないか。
南4局
ラス目の勝又が親番をキープするため仕掛けると、西岡に2,000・4,000のアガリが生まれる。
2回戦成績
西岡+32.2P 小車+15.2P 四柳▲16.6P 勝又▲30.8P
2回戦終了時
西岡+47.7P 四柳+20.3P 小車▲28.3P 勝又▲41.7P
3回戦 (起家から 勝又・西岡・小車・四柳)
東1局
まず、先手をとったのはトータルトップ目に立っている西岡。場に1枚切れの単騎。
西岡の捨て牌8巡目にあるを、西家小車が合わせ打つと、四柳がチー。
四柳手牌
チー
11巡目、勝又がツモでをカンすると、リンシャン牌が。上のテンパイ形で即リーチ。
いきなり大荒れの東1局となった。
1回戦目と比較すると、場面の空気がまったく違う。皆、獣のように勝ちに向かって戦っている。
2者に攻め返された西岡は、そのとき冷静になってもリーチをかけているため、時すでに遅し。果たしてトータルトップ目のかけるリーチだったか?自問自答。
一方、リーチに対して仕掛けた四柳はどこまで攻めていいのやら、無我夢中の状態。
勝又はこれまでに背負っているマイナスを挽回するため、8,000オールを目指してリーチをかけたが、直後に、とツモり、アガリ形を河に並べてしまう。
東2局は、南家・小車が2巡目にこの形から動いて打。
ポン ドラ
ドラがなので、てっきりマンズのホンイツが本線かと思いきや、次巡ツモで打として、なぜかソーズのホンイツをアガる。
ポン ポン ロン
放銃した勝又の手牌がこれ。
この結果は、勝又が不運なのか、それとも自らが招いたものなのか、小車が作り出したものなのか。とにかく混沌とした2局だ。
それぞれが取った手段はさておき、これが人間同士の戦いであると思うし、また人間が未熟な部分が表れているとも思う。美しいとも思うし、醜いとも思う。
最終戦が近付くにつれ、人間の芯の強さが試される場面が増えてくるのである。
東3局1本場
小車の8,000オールが炸裂。
南1局
6巡目にホンイツのテンパイを入れた小車だが、勝又のリーチに対してツモで長考して打。
後に勝又から打たれたをポン。
このアガリとなった。
次に危険牌を引いたら、を打ってオリるつもりであろうか?
これに似たような局が東3局。
8,000オールを引いた小車の親番を捌きにかけた西岡だが、四柳のリーチに対してを中抜き。
この一連の流れを見た、立会人の瀬戸熊はさすがに失笑を浮かべる。(当然対局者には見えない位置で)
小車はこの半荘の点数。西岡はトータルの点数。本来はリードを強みにしなければならないのに、それが逆に弱みになってしまっている。
すでに死に体に近い勝又にチャンスを与えず、この半荘は完全勝利で終えるべきだ。
3回戦成績
小車+46.8P 四柳+6.4P 西岡▲17.8P 勝又▲35.4P
3回戦終了時
西岡+29.9P 小車+28.5P 四柳+26.7P 勝又▲77.1P
4回戦 (起家から 小車・西岡・四柳・勝又)
東1局は勝又のメンピンツモからスタート
ツモ ドラ
東2局
6巡目、勝又が場に2枚目のを仕掛ける。
ポン
このときはすでに2枚切れている。苦しい仕掛けなのは承知だが、残された時間は少ないため、多少の無理は仕方なしか。
すると、親番の西岡が6,000オールツモアガリ。
勝又の仕掛けが無ければ、西岡は先にを引き入れ、––のテンパイが入っていた。
南2局
は2巡目にツモ切られているが、西岡は手出し牌が少ないため、配牌がある程度整っていたことが予想される。
残り巡目も少なく、自分にアガリがないと見るや、すっと引く。場面の情報を的確に集め、見切りが早いのが勝又の強さのひとつだ。
だから、勝又にしてはかなり珍しい放銃と言える。
まあ、もちろん勝又はすべて認識した上で打っていることだろう。現在の点数状況が無理な打牌を繰り返させているのだ。
しかし、その無理な打牌が西岡に利するパターンが多い。四柳、小車からすれば、西岡が他力で遠くへ行ってしまう感覚であったことだろう。なんて理不尽なんだと思うかもしれないが、それによって打牌を左右されることは、本質からずれることと同じ。きっと優勝も遠ざかってしまう。
4回戦成績
西岡+33.8P 小車+8.1P 勝又▲12.9P 四柳▲29.0P
4回戦終了時
西岡+63.7P 小車+26.6P 四柳▲2.3P 勝又▲90.0P
5回戦 (起家から 小車・四柳・勝又・西岡)
東1局
四柳は4巡目に純チャンの1シャンテンとなった。親番の小車が4巡目に打った、5巡目の、9巡目の、すべてに見向きもせず、ドラをツモった場面だ。
このドラもほぼノータイムでツモ切り。
4回戦目のバタバタ感は消え失せ、どっしりと構えて打牌に迷いもない。一本筋が通った印象を受ける。
北家の西岡がドラをポンすると、四柳の次のツモがで打、さらにを暗刻にすると、これも即決でリーチ。
当然ドラをポンした西岡も直線的に打つ。
四柳に軍配が上がり、12,000
その後も四柳が加点
東4局 リーチ→一人テンパイ
ドラ
南1局 勝又→四柳 1,300
ロン ドラ
南2局 1,000オール
ツモ ドラ
四柳の親を落としたのは西岡。
ポン ポン ツモ ドラ
南3局
南家・西岡は6巡目にを暗カン。
暗カン ドラ カンドラ
親の勝又がリーチで先手を取る。
リーチ
14巡目にようやく追いついた西岡は追いかけリーチ。
西岡が一発目に持ってきたを恐る恐る河に置く。
そして次巡、持ってきた待望のアガリ牌
が、河にそっと置かれた。
流局後、対局者に対して「すみません」と一言。
さすがに顔は青ざめて、額からは汗が流れていた。
対局終了後に聞いたところ、「勝又のリーチに対してが当たると思いこんでしまっていた、それが通ったあと頭が真っ白になった」
とのこと。
人間なので、間違いはある。点数や待ちがわからないより100倍マシだよ、と声をかけたが、頭はふらふらになってしまったことだろう。
優勝というゴールが近付くにつれて、激しいプレッシャーに襲われる。
え!?そんなにメンタル弱いの?と言う方も多いかと思うが、その舞台に立って、同じ状況にならなければ、わかならいものだ。タイトルに重みを感じているほどその圧力は大きくなる。
ただ、プロとしては批判されても仕方ない。むしろ、批判されるべきである。
最高のパフォーマンスができる状態で対局に臨み、観戦者に、視聴者に至高の対局を届けることが、麻雀プロを名乗るものの義務だからである。
本来、対局者に声をかけることは禁止されているが、私が西岡に声をかけたのも次の最終戦の譜を汚してほしくないから、というのが理由で、西岡に対する慰め、というより、麻雀界のためという意味合いで声をかけたつもりだ。
現在、プロと名乗るものが対局を発信する場面が増えてきている。正直、いい加減な対局も多く目にするが、もし関係者の方がこれを読んでいたらもう一度考えてみてほしい。
南4局2本場
オーラスは、四柳の3,000・6,000で終局となった。
これは小車にとっても嬉しいアガリ。
トータル首位を走る西岡をラスにしたまま、最終戦を迎えることができた。
5回戦成績
四柳+39.9P 小車+2.8P 勝又▲14.9P 西岡▲27.8P
5回戦終了時
四柳+37.6P 西岡+35.9P 小車+30.4P 勝又▲104.9P
6回戦
※規定により、トータルトップが北家、2着が東家、3着が南家、4着が西家でスタート
(起家から 西岡・小車・勝又・四柳)
3者は10ポイント差以内にいるため、着順勝負で優勝者が決まる。オーラスまで、特殊な局面は少なく、坦々と進んでいった。
東1局 ドラ
北家・四柳が、のポンテンでカンテンパイ。後に雀頭のをポンして–に待ちかえ。勝又から8,000出アガリ。
勝又→四柳 8,000
ポン ポン ロン ドラ
東2局 ドラ
4巡目、勝又リーチ
親番の小車が追いかけ、5巡目リーチ一発ツモ。4,000オール。
ツモ ドラ
東2局1本場 3巡目、西岡リーチ
ドラ
11巡目、勝又リーチに西岡が一発で放銃 2,600は2,900。
東3局 流局
勝又、四柳テンパイ
東3局1本場 流局
全員ノーテン
東4局2本場 ドラ
勝又6巡目リーチに四柳テンパイ打牌で放銃。2,600は3,200
勝又
ロン
四柳
南1局 ドラ
勝又→西岡1,500
チー チー ロン
南1局1本場
西岡→小車 8,000は8,300
南2局 流局
西岡、勝又テンパイ
南3局 1本場
西岡→四柳6,400は6,700
南4局
いよいよオーラスになった。
小車と四柳の差は8,800。西岡は小車から役満の直撃が条件となっている。
息詰まるような雰囲気で、打牌が続き、流局となった。
四柳の1人テンパイ。これで西岡の役満条件も消えて、実質小車と四柳の一騎打ちとなった。
南4局1本場
9巡目、勝又のを四柳がチーして打、次巡のをツモ切ったのだが、小車の捨て牌に注目すると、この選択はどうか?
しかし、絶対にテンパイを取らなければならない場面で引きに備えるのも正しい。実際小車の手牌には–の受けが残っており、究極の選択だ。
次巡、四柳はを引き入れ、手広い1シャンテンとなった。
チー
その瞬間、小車はをツモり、ピンフのテンパイが入る。
残りツモ2回で四柳がを掴み、放銃。
第22期麻雀マスターズは、九州の小車祥の優勝で幕を閉じた。
打ち上げの席で小車の挨拶。
「マスターズ………簡単でした!」
めでたい酒の席だし、まあいいかなと思ったが、決勝戦で審判を務めた紺野真太郎が一喝。
小車本人に向けてというより、それを言わせた小車の周囲の人間に対して発したものであろう。
遊びじゃねえんだぞ、と。
今回の観戦記で、一体小車のどこに強さがあるのだろう。全然小車について書いていないじゃないか、と思われる方も多いだろう。
4名とも、厳しい予選を勝ち上がってきたのだから、強いのは当たり前。
本来、勝者は称えるべきなのであろうが、今回は麻雀を見て素直に思ったことを書こうと思った。キレイごとを並べて、強引に勝者を称えるより、正しい麻雀の見方を書こうと。第22期マスターズ優勝者小車祥に、今後の期待もこめて。
もっと厳しい麻雀を打って、鳳凰戦のような対局を作り上げよう。
勝因より敗因が目立つ対局が多いが、これが逆転したとき、麻雀界は良くなると思う。
了
カテゴリ:麻雀マスターズ 決勝観戦記