第41期王位戦 決勝観戦記 猿川 真寿
2015年12月23日
1回戦(起家から 山田 高谷 鈴木 石井)
東1局、鈴木が1巡目にドラを重ねたチャンス手。
7巡目にテンパイしてリーチ。これに七対子をテンパイした山田が捕まる。
リーチ ロン ドラ
入り目がだったこととが3枚河に切れていることがリーチに踏み込みやすかった。
山田の放銃はしかたない。
鈴木秀幸
日本プロ麻雀連盟 23期生
「準決勝終了時のコメント」
第41期王位戦の決勝進出が決まったとき、私は東京駅にいた。
正直ホッとした安堵感と高揚感を覚えた。
今、リビングに置いてある盾を見ながらペンを走らせている。
第35期王位戦 第4位 平成21年11月29日(祝)6年前に私の残した財産である。
最終戦、私の切ったで第35期王位は決まった。
6年という歳月。この月日が長いのか短いのか私にはわからない。
くしくも同日。6年前のあの日と…
今の私は、6年前の私に勝てるだろうか?
準決勝はばたばたしてた自分。どこか逃げながら前のめりになっていた自分がいた。
決勝。この素晴らしい舞台に立てた喜びを素直に感じよう。
這い上がってきた人生。麻雀も泥臭く、這い上がれ!!
自分に期待。
東2局は石井の1人テンパイで流局。
ここからを仕掛ける。打ではなくなのが面白い。
賛否両論ありそうな仕掛けだが、石井は得だと判断したのだろう。
私はそのあとの結末がマイナスになったときに精神的に参ってしまいそうなのでできないが、石井はそうなったとしても気にしないのでできる。
人それぞれ勝ちパターンはあるので、そこに持っていくことのほうが大事。
いずれにせよ石井の個性が出た1局。
南1局1本場、親の山田が勝負手をテンパイ。
捨て牌も強く、アガリがつきそう。
山田は次巡ツモで、フリテンの3メンチャンに。どちらの選択もアガれそうだが、結果は裏目。
直後、高谷にを切られると、石井にも合わせられる。流局となった。
これは胃にくるなと私は思ったが、次局飄々と打つ山田をみて、彼の精神力は強いなと感じた。
このあと、4者一歩も譲らない攻防で、大きな点数移動もなく流局も多かった。
接戦で迎えた南4局。
11巡目に石井にテンパイが入る。
は場に3枚切れ。アガリだけならシャンポンのほうが良さそうにみえる。
しかし、リーチ棒をだして瞬間沈みになるので難しいところ。
は3者が切っており、山に残っている可能性が高い。
石井の選択は切りのヤミテン。
これに鈴木が放銃して暫定1人浮きのトップになるが、1本場は高谷がアガリ2人浮き。
石井一馬
最高位戦日本プロ麻雀協会
第21期麻雀マスターズ 優勝
第10期最高位戦Classic 優勝
「準決勝終了時のコメント」
今期の王位戦ですが、ずっと1局麻雀の感覚でやっていました。
その局押した方がが得か引いた方が得か。
さすがにオーラスは浮き沈みも多少は意識しますけど。
決勝もそういう麻雀になると思います。最後2回ぐらい帳尻合わせる感じで。
今年は様々なタイトル戦の決勝に残れていい経験になっています。
また、一歩成長できたらなと思っています。
1回戦終了時
石井+20.1P 高谷+4.6P 山田▲6.0P 鈴木▲18.7P
2回戦(鈴木 石井 高谷 山田)
東2局、親の石井のリーチに高谷が追いつく。
勝負と踏み込むなら切りリーチか。
もしくはが自身の目から5枚みえており、かなり切りづらいので切りリーチもある。
しかし、高谷の選択は切りヤミテン。次巡、ツモで切りリーチ。
どちらも切りにくいなら、アガリやすそうなマンズにしたか、それとも石井のリーチにピンズが当たりにくい何かがあったかはわからないが、これが結果正解で1,300・2,600のツモアガリとなった。
石井は、トイツ手とシュンツ手の両天秤にかけなければ、6,000オールまであったので痛い局となった。
高谷圭一
日本プロ麻雀連盟30期生
「準決勝終了時のコメント」
マスターズベスト28、十段戦ベスト16と、肝心なところで勝ちきれない自分に歯がゆさを感じてました。
今回、決勝まで勝ちあがることができたのは、今まで誰よりも麻雀を愛した成果だと思っています。
決勝も絶対負けないっという気持ちで挑みたいと思います。
東3局は山田が安めながら、ハイテイで2,000・4,000のツモアガリ。
ツモ ドラ
山田学武
日本プロ麻雀連盟 29期生
「準決勝終了時のコメント」
優勝するために全力を出し尽くします。
応援よろしくお願いします。
南3局、37,000点台で高谷と山田がトップ争い。石井と鈴木も競っている。
1回戦4着だった鈴木は、なんとしても今回は回避したいところだったが、この局は石井が1,300.2,600のツモアガリ。大きいアガリとなった。
ツモ ドラ
このアガリを生かし、またしても石井らしい局になった南4局。
10巡目に石井がを仕掛けてテンパイ。
同巡、親の山田もタンヤオテンパイ。リーチの選択もありそうだが、ドラの振りかえがあるのでヤミテン。
ドラ
11巡目に高谷からアガリ牌のが打ち出されるが見逃し。
石井の持ち点は28,900でツモれば浮くという状況。またしても賛否両論ありそうな選択だ。
1回戦2着だった高谷に、トップを取られないためのアガリなので、アガる人のほうが多いと思われる。
石井はこの選択を仕掛ける前から決めていたのであろう。強い意志の持ち方のように私は思う。
ずっと1シャンテンだった鈴木が、リーチするも高谷が再度を掴み石井への放銃。
リーチ棒も含め石井浮きの鈴木の1人沈み。
2連続4着の鈴木はすでにかなり苦しい位置に置かれた。
2回戦成績
山田+13.7P 高谷+6.6P 石井+1.9P 鈴木▲22.2P
2回戦終了時
石井+22.0P 高谷+11.2P 山田+7.7P 鈴木▲40.9P
3回戦(石井 鈴木 山田 高谷)
東1局、石井が積極的に仕掛けて主導権をとりにいくが、鈴木からリーチが入る。
1シャンテンですべてかぶせる。
12巡目に石井9,600のテンパイ。山にはなんと残り牌6枚。
しかし、ここは鈴木の勝ち。内心、鈴木もホットしただろう。
調子の悪い日に被せられることほど、冷や冷やすることはない。
東2局、石井が5巡目にメンホンイーペーコーのテンパイ。
ドラ
しかし、はこの時点で全員につかわれていてアガリ目なし。
2巡後にツモ切りリーチとするが流局。
もしリーチとしていなかったら、山田がまっすぐいった場合、三色のテンパイが入っていた可能性が高く、山田のアガリまであったことを考えると、アガれなかったがリーチの効果はあったか。
東3局2本場、供託3,000を石井がアガリトップ目に。
石井の圧勝ペースかと思われたが次局、高谷が勘違いの誤ロン。プロの対局でもたまにチョンボは発生する。
注意力不足と言われればそれまでだが、私たちは普段ほとんどチョンボを犯すことはない。
ただ、私も過去にリーグ戦で1度だけ犯したことがある。
普段の比較にならないぐらい労力を消耗する。麻雀は脳のスポーツなのである。
では普段は真剣に打っていないのかと反論がきそうだが、もし私が問われたならば、真剣に打ってないわけではないがモチベーションは違うと答えるだろう。
このあたりは人によって違うだろうが、プロにとって本場所はリーグ戦であって、次がタイトル戦だ。
少し話がずれたので戻ろう。
そういう固定観念があるから思うだけかも知れないが、対人ゲームには勝負のアヤというものが存在すると私は思う。
ここから、石井の手がガクッと落ち始めたのである。
東3局1本場、南2局に山田が満貫クラスのアガリをものにする。
南3局、高谷が12巡目にリーチ。
ドラ
リーチ自体が悪いとは言わないが、高谷らしくない。
焦りしか感じない。やはりペナルティが精神的にきているだろう。
13巡目に鈴木がドラドラの5メンチャンで追っかけリーチするが高谷のアガリ。
鈴木の暗黒街道は深いようだ。
南4局は、高谷が2,000オールをアガる。
1本場は山田がアガリ2回戦と同じ並びに。
3回戦成績
山田+21.0P 高谷+6.2P 石井▲9.0P 鈴木▲18.2P
3回戦終了時
山田+28.7P 石井+13.0P 高谷▲2.6P 鈴木▲59.1P
4回戦(高谷、山田、鈴木、石井)
4回戦開始前、こんなことを考えていた。
波は変わったな。準決勝と同じ展開だ。後半調子のアガッてきた山田の逃げ切り。
あとは、山田が普通に打てれば優勝になりそうだ。
山田は東1局に鈴木から3,900アガると親番でテンパイ、2,900は3,200を石井からアガッてトップ目に。
2本場、配牌で七対子1シャンテンだったが、12巡目にドラ単騎でテンパイ。
リーチといくかと思ったがここはヤミテンを選択。
同巡、高谷がリーチ。ここで追っかけリーチといくかと思っていたがヤミテン継続。
鈴木のに石井が少し止まるが、そのままツモ山に手をのばした。
引いてきたのはドラの。仕掛けていたら高谷の放銃だったなと思っていた矢先に山田のツモの声。
これで石井を大きく突き放した。
後日、山田にこの局のことを聞いてみたらこう返信がきた。
「全然自信がなかったのでヤミテンにしました。2件リーチなどになったらおりようと思っていました。とくに石井さんには放銃したくなかったので。」とのことだった。
東3局、石井が7巡目にリーチ。鈴木から安めが出るが見逃し。高めのは山に3枚いたが安めツモ。
ツモ ドラ
この見逃しを見せられたからか、この後の4回戦、山田の麻雀がかなり消極的に映った。
優勝を意識してのプレッシャーか。悪く言えば、点棒を減らさずなんたか逃げ切りたいと訴えてくるような打牌。
私は今までと同じように普通に打てばいいのになと思っていた。
放銃しても点数は減るが、局は進むのだから。
準決勝から彼の麻雀をみていて、武器は強い攻めだと思っている。手順はまだ微妙だが、勝負勘は悪くない。
この手のタイプは守備にまわったときに、相手の速度の読みが鈍ってくるものである。
当然、石井だけでなくそう簡単に他の面子も逃がしてくれなく、ここから山田が追い込まれていく。
南1局1本場に鈴木が2,000・4,000のツモアガリ。
ツモ ドラ
南3局の親番で鈴木が2局連続テンパイで、気づけば山田は40,000点を割っており、差は4,000点差まで縮まった。
しかし2本場、石井が見事な手順で跳満を引きアガリついに山田をかわした。
オーラス、ここまで不完全燃焼だった鈴木が4,000・8,000のツモアガリで一気にトップになる。
石井はかぶって沈みに。山田にとっては得なアガリとなった。
アガッた鈴木もこれで、わずかだが優勝の可能性もでてきた。
4回戦成績
鈴木+24.0P 山田+6.5P 石井▲4.9P 高谷▲25.6P
4回戦終了時
山田+35.2P 石井+8.1P 高谷▲28.2P 鈴木▲35.1P
5回戦(石井 高谷 鈴木 山田)
確率的に不思議ではないが、絶不調だった鈴木が復活したのは山田の打ち方のおかげではないかとオカルトな私は思ってしまう。
復活したことが山田にとってマイナス要素になるかは別にしてだが。
山田と石井の差は約27ポイント差。ルール的に考えたら結構な差だが、追われている山田からしたらすぐ後ろにいる感覚だろう。
勢いというものがあるなら、山田が4回戦と同じ打ち方をしたら勝てないだろう。
勝負局をあまり増やさずに戦う打ち方が出来れば、2着ならほぼ優勝なので山田の勝ちになる。
鈴木が復活したことで、局の進み具合も早くなるだろうと予想できる。
東1局、石井の親で積極的に仕掛けていった。
テンパイが入るが直前に高谷からリーチが入っている。
ここは放銃してもおかしくないを勝負。石井からでアガる。
あくまで主観だが、4回戦の山田ならを切っていた気がする。
追い込まれたことで腹をくくったか。
東2局も山田がアガリ、東3局、腹をくくったことが裏目に出たか鈴木に痛恨の12,000の放銃となる。
役牌もドラ以外すべて見えており、鈴木のトータルポイントを考えるとドラは持っていそうである。
鈴木が2チーして切り。それを山田がチー。食い取ったで放銃となってしまった。
やってしまったか。最終手出しがなのに。
確かに自分から4枚見えている待ちかも知れないし、中の後づけかも知れない。
その可能性も否定はできないが、そのは打つべき牌ではない。
もっと言うと、この局面で鈴木に先手を取られて、押し返す必要がないのでチーするのもいらない。
鈴木が4,000オール引くときつくなるのは石井だから。
別に山田を応援していたわけではなかったが、なぜ…という気持ちが込み上げてきた。
ここでいくなら4回戦いくらでも押し返せる局があっただろうと。
これで鈴木も優勝まで30ポイント差まで詰まった。
南1局、石井が親でリーチと打つがこの局も鈴木のアガリ。
石井の最後の親が終わった。石井も残り3局で浮きにならない限りは、ほぼ優勝はないのでかなり苦しくなった。
南2局、高谷が2,000オールテンパイ料と粘る。
2本場は山田と石井のテンパイで流局。石井はハイテイでテンパイ。
南3局3本場、石井が11巡目にをチー。
残った形は苦しい。
チー ドラ
しかし、ここでノーテンだと、次局オーラスで山田が伏せても優勝になってしまうので、ここは仕掛けるほうが得。
また鈴木に連荘されるのも自身の浮きが遠くなるのできつくなる。
鈴木もチーテンを入れるが、石井はすぐにをひきドラドラの高谷からでアガる。
第41期王位戦もついにオーラスを迎えた。
現状、山田のほうが上だが、親で連荘になるのでアガリ優勝の石井が有利。
2人の配牌は。
山田
石井
どちらもよくないが、1メンツある石井のほうがいい。
山田の手は伸びず、石井は8巡目で1シャンテンになる。
この時点では7枚山にいる。
石井の勝ちかと思われたが、その7枚がことごとく他者にツモ切られる。
タイトル戦などでよくみる光景だ。
神様はいたずら好きで試練を与えてるとともに、タイトルの重みを増やしてくれているように思える。
14巡目、山田は自身のテンパイを諦める。
石井が8巡目からツモ切りでノーテンだと読んだのだろう。
何を切るか?
石井の捨て牌はヤオチュウ牌からの切り出しでタンヤオが濃厚。
役牌もドラの以外は見えている。山田の選択は。
これを石井はポンで1シャンテンを広くする。
石井からみれば、このノーチャンスのはトイツ落とし以外ないので、すなわち山田はノーテンという読みになるので仕掛けやすい。
結果的には、このが山田の敗着ということになった。
敗因はほかにあったと思うが。
もし山田がまっすぐ進めていてもオリても、石井に鳴かれなければ2人ノーテンで山田の優勝だった。
一寸先は闇とはよく言ったものである。
オリを決断したときに石井の現物が多かったら、全く違う結末になっていた。
表彰式の前に石井と一言、言葉をかわしにいった。
無論、おめでとうというためだ。
控室から出てきた石井は、優勝したにも関わらず険しい表情を浮かべていた。
「おめでとう」
「なにか変な局ありましたか?」
「とくにはなかったけど」
「自分のなかでは3か所ぐらいあるんですけど」
「カン3は即リー打たなきゃだめだな」
といい残し表彰式に向かった。
石井の麻雀を初めて見たのはマスターズを獲ったときだ。
私の印象はいまいちだった。
それから時は流れ、上からの発言になるが一回り以上強くなっていた。
まだ20代、これからの麻雀界を盛り上げてくれる1人になるであろう。
次もさらに進化した石井一馬を見せて欲しい。
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