王位戦 決勝観戦記/第38期王位戦 決勝観戦記
2012年12月18日
第38期王位戦決勝戦は、宮岡宏樹さん(一般)筒井久美子(プロ連盟)阿賀寿直(プロ協会)
二見大輔(プロ協会)若林伸一さん(一般)以上の5名が勝ち残った。
1回戦(起家から、阿賀・二見・筒井・若林・抜け番:宮岡)
誰もが先制点を上げたい東1局、12巡目に二見からリーチが入る。
リーチ ドラ
捨て牌に、があり有効な手変りもないので、牽制も兼ねたリーチであろう。
二見は「決勝の経験なら自分が一番。相手が決勝の空気に慣れる前に主導権を取りに行こうと思っていた。」と。
このリーチに向かっていったのは親番の阿賀。
が特別良い待ちというわけではないこと、ドラが見えていないことなどから、
切りのヤミテンがマジョリティーになるであろう。しかし、阿賀の選択は、切りのリーチであった。
このリーチのリスクがいかに高いかは十分に分かっている。
が、タイトル戦の決勝を勝ち切るには、そのような選択も必要になってくる。
このリーチには、阿賀の絶対に優勝するという想いがひしひしと伝わってきた。
決着はすぐについた。
次巡、阿賀が4枚目のを引き当て、大きな3,200オールをものにした。
その後阿賀は、東2局にも、
リーチ ツモ ドラ
この2,000・3,900をツモり大きなトップ目にたった。
1回戦はこのまま独走かと思われたが、ここから二見が好プレーを連続する。
まずは、東3局。8巡目、二見にテンパイが入る。
ツモ ドラ
テンパイを取ってからの、三色やピンフへの変化を見るか、
を切ってタンヤオを見つつドラを使い切ろうというのが普通の構想であろう。
しかし、二見の選択は打。アガリ目の低いカンには見切りをつけ、柔軟性を求めにいった。
これでもドラの重なりや234、345の三色変化で高打点も見込めるので、
非常にバランスの取れた一打である。
今局はこの選択が功を奏し、引きから、
ロン
このアガリとなった。
この後も二見は、アガリ易さに比重を置き、ヤミテンと仕掛けを駆使して、
7局中6局で加点に成功、オーラスをトップ目で迎える。
南4局、トップで終わりたい二見が仕掛けていく。
すると、ここまで全く手の入らなかった若林さんにテンパイが入る。
ドラ
ここは三色とドラの手変わりを待ってヤミテン。次巡、若林さんはドラのを引く。
まだ三色の手変わりは残っているものの、リーチで十分の局面。
しかし、ここはヤミテン続行。さらに次巡、2フーロの二見から手出しが入る。
これを見た若林さんは、これ以上待っては捌かれてしまうと、ここでリーチに踏み切る。
二見の手出しは、1シャンテンの受け入れを広くしたもので、タイミングとしては絶好のリーチであった。
ここは、若林さんの1人旅かと思われた。が、ここに筒井が飛び込んだ。
ツモ
満貫をアガれば3着なだけに、678の三色を目指して攻め込んでいった結果だが、
私には自分のフォームを見失っているように見える。
手牌が型に入った時の踏み込みの深さは筒井の長所であるが、
これはあまりにもリスクとリターンが見合っていない。
親は5巡目にをツモ切りの後、8巡目にの手出し。
これはドラとの振り変わりが濃厚なだけに、放銃した時の打点はそれなりなものが想定される。
さらに、3着に浮上するための受け入れは、とたったの2種しかない。
ここは、次局や次半荘以降にチャンスを求め我慢する一手であった。
一方、アガった若林さんは、理想的な手組みであった。
麻雀は、巡目が深くなるほどアガリ点が大きくなる可能性が高い。
しかし、追いすぎると他家にアガリ切られてしまう。そのギリギリを見極めた秀逸なアガリであった。
続く南4局1本場では、
ドラ
若林さんが、この配牌を丁寧に仕上げて6,000オール。
ポン ツモ
一気にトップ目まで突き抜け1回戦が終了した。
若林伸一さん |
1回戦成績
若林+22.9P 二見+8.7P 阿賀+6.3P 筒井▲38.9P 供託1.0P
2回戦(起家から、若林・筒井・宮岡・二見・抜け番:阿賀)
1回戦抜け番の宮岡さんの登場である。
第28期王位戦、最終半荘での逆転劇は深く印象に残っている。
今期もその圧倒的な攻撃力を見せることができるか。
宮岡宏樹 |
東1局3巡目、宮岡さんが、
ドラ
ここから1枚目のを仕掛けていく。さらに6巡目、
ポン
こうなったところでをポンと2フーロ。主導権を取りにいく。
形は苦しく時間がかかりそうではあるが、ドラがということも考えれば、
競技麻雀では大きなプレッシャーになる。ましてやデータの少ない相手ならばなおさらであろう。
しかし、この仕掛けに上手く対応したのは上家の筒井であった。
ここから、打としたのは好判断である。マンズを打たないならばアガリの可能性はかなり下がる。
ならば、若林さん、二見の現物を残しつつ123の三色になったなら勝負という構えだ。
この、攻めと受けのバランスに優れた一打を見て、1回戦の結果はしっかりと忘れ、
勝負の土俵にあがってきたと感じた。この牌が打てるなら、まだまだチャンスは巡ってくるであろう。
その後、14巡目に宮岡さんに、
ポン 加カン
このテンパイが入るが、筒井も回りきって、
このテンパイを入れる。結果は、筒井が宮岡さんからで2,000点のアガリとなった。
これは点数以上に大きなアガリといえるであろう。
一方、放銃となった宮岡さんは、
「この仕掛けは自分の麻雀ではなかった。この仕掛けでペースを崩してしまった。」と、
後悔の残る1局になった。
続く東2局。先ほどのアガリから筒井が好調の波を引き寄せる。
まずは、
リーチ ツモ ドラ
この1,300オール。
東2局3本場には、
ポン ポン ロン ドラ
この11,600。さらに東4局1本場には、
ドラ
この2,000・4,000をアガリ、大きなトップとなり1回戦のマイナスをほとんど返すことに成功した。
そして、2着に若林さん、3着は二見となった。
2人は、筒井好調の中、じっと我慢を重ねワンチャンスをものにして原点をキープした。
7回戦の勝負となると、当然相手の時間帯がやってくる。
その中で、勝負どころはまだ先としっかり受け、プラスをキープしたことはとても大きい。
2回戦成績
筒井+33.3P 若林+6.3P 二見+2.5P 宮岡▲42.1P
2回戦終了時
若林+29.2P 二見+11.2P 阿賀+6.3P 筒井▲5.6P 宮岡▲42.1P 供託1.0P
3回戦(起家から、若林・宮岡・二見・阿賀・抜け番:筒井)
二見→若林2,900
阿賀1,100・2,100
二見→阿賀1,500
この移動で迎えた東2局1本場。1巡目、以下の牌姿から、
ドラ
ポンと仕掛けていく。門前で進めたとしても、ドラがならばどうせのチーはできない。
ならば他家にプレッシャーをかけつつ前に出ようといった仕掛けだ。
この仕掛けにいち早く反応したのが阿賀。
2巡目、ここからをチーする。ドラドラとはいえかなり苦しい形からの仕掛けである。
しかし、上家がホンイツの二見ならばマンズとソーズに寄せれば間に合うという対局観であろう。
この後、を2枚引くと将来アガリ辛くなるであろうピンズを払う。
そして構想通りに–をチーして、
チー チー チー ロン
二見より3,900のアガリとなった。
鋭い仕掛けから掴み取ったアガリは大きかった。
南4局、ここから阿賀のブレイクタイムが始まる。
16巡目、ドラが暗刻の1シャンテンとなっていた阿賀が、
残りの巡目が少ないこともあり、不本意ながらもチーテンを取る。
チー ドラ
この仕掛けを受けた17巡目の宮岡さんの手牌が以下。
チー ツモ
ここからの放銃となった。
宮岡さんのオーラスを迎えた時点での点棒は27,100。
初戦のラスを考えると、何としても30,000点を超えて今半荘を終えたいところである。
難しい選択が訪れた。阿賀、若林さんがテンパイ、二見ノーテンは読み切れていたであろう。
ここをノーテンにすると、次局3,900では原点復帰が出来なくなる。
もしかすると、若林さんがラス目で1人浮きなら、阿賀はノーテン宣言するかもしれない。
これらを踏まえ、自身のツモ番はないが最後の出アガリに懸けた切りであった。
しかし、ここはこらえて欲しかった。
このまま3着で終わったとしても、トータルトップの若林さんがラスならば、残り4半荘で約75ポイント差。まだまだチャンスはあった。
さらに、2回戦では手が入るものの、展開が悪くラス。
そして、今半荘は自分の不調を意識してここまで丁寧に進めてきた。
ならばもう一度、せめて高打点でのめくり合いが出来るくらいの状況までは我慢すべきであった。
ここからの宮岡さんは、持ち味の懐の深い攻めから、
点棒状況で行かざるを得ないという攻めになってしまった。
一方、大きなトップ目にたった阿賀は、さらに加点を積み重ねた。
リーチ ロン ドラ
ポン ポン ツモ ドラ
リーチ ツモ ドラ
これらのアガリで80,000点に迫る大トップとなった。
3回戦成績
阿賀+60.3P 二見▲5.2P 宮岡▲24.5P 若林▲30.6P
3回戦終了時
阿賀+66.6P 二見+6.0P 若林▲1.4P 筒井▲5.6P 宮岡▲66.6P 供託1.0P
4回戦(起家から、筒井・阿賀・若林・宮岡・抜け番:二見)
東1局は、若林さんが宮岡さんとのリーチ合戦を制して、3,900をアガって迎えた東2局。
先制のテンパイが入ったのは筒井。
配牌
ツモ ドラ
一気通貫になれば満貫が見えるだけに、手なりでを切りそうなところだが、
ここは大きく狙って打とホンイツを見据えて進める。この後ツモが利いて、
跳満の3メンチャンと絶好のテンパイが入る。
この時、若林さんも勝負手の1シャンテンとなっていた。
そして13巡目、若林さんはをポンして片アガリのテンパイを入れた。
2人のめくり合いの結果は、
ツモ
筒井のツモアガリとなった。
仕掛けた若林さんは、親番がトータルトップの阿賀なこと、待ちがマンズになることから、
十分に勝算ありと踏んでのものであったが、これはどうだったか。
やもかなり期待の出来る牌だけに、門前で進める手が優ったかもしれない。
これは、結果論になるがが食い下がっていた。
一方筒井は、決めにいった手牌が見事アガリに結びついたのは大きい。
私はここで、以前「ミスター麻雀」小島武夫に教わったことを思い出した。
「意志を持って手作りして得たアガリは、流れを引き寄せうる」
2回戦でホンイツを受けてアガッて、以降手牌が動き始めた筒井はここから本流に入った。
次局700・1,300をアガると東4局には、
ポン ポン ポン ツモ ドラ
この跳満を引きアガリ60,000点にせまる1人浮きのトップを取った。
4回戦成績
筒井+39.4P 若林▲6.0P 阿賀▲12.7P 宮岡▲20.7P
4回戦終了時
阿賀+53.9P 筒井+33.8P 二見+6.0P 若林▲7.4P 宮岡▲87.3P 供託1.0P
5回戦(起家から、筒井・二見・宮岡・阿賀・抜け番:若林)
ここで1人が敗退となる。
現5位の宮岡さんは100,000点近くのトップが必要と、現実的には厳しいがそれを目指すしかない。
一方阿賀、筒井、二見はここでの敗退の可能性がかなり低いだけに上だけを見て戦える。
さあ誰が抜け出すのか。
まず先手を取ったのは二見。
1,600、500オールとアガって迎えた東2局1本場、10巡目にをポンして以下のテンパイが入る。
ポン ロン
をポンしての最終手出しがなだけに、他家のケアも薄れる。
そして12巡目、宮岡さんより、
ポン ロン
このアガリとなった。
これで上位3人のポイント差は約15ポイントと一気に詰まってきた。
続く東2局2本場。阿賀が6巡目、自風のをポン。
そして7巡目テンパイを入れる。
ポン ドラ
10巡目、これに二見が追いつくと、1枚切れの単騎でリーチ。
リーチ
すぐにを引いた阿賀は、ドラ単騎に受け変える。
そして、そのまま真っ向勝負にでた。結果は、
阿賀のツモアガリとなった。オリるのは簡単である。
しかし、仕掛けて親にテンパイを入れ、オリ、その後引きアガられることがあれば、
体勢は二見に一気に傾くかもしれない。
リスクは大きいものの、勝負所を見極めた見事な踏み込みであった。
次局も阿賀は、筒井より、
チー ロン ドラ
これをアガってトップに並びかける。
東4局。今半荘は少し置いていかれていた筒井だが、ここで大きなアガリが生まれる。
ドラ
14巡目に上記のテンパイが入る。
若干、ソーズは場に高いが、打点効率からリーチも十分考えられる手牌だ。
しかし、ここはヤミテンに構えた。
前巡、アガリ牌となるを打たれていること、前局放銃していることから、確実にアガリにいったのであろう。
すると次巡、筒井が引いたのはドラの。下家の二見が仕掛けていることもあり、
ここはを切ってフリテンの–に受け変えた。さらに次巡、筒井のツモは。
これを暗カンすると、リンシャンからを引きよせ2,000・4,000のアガリとなった。
筒井久美子 |
ヤミテンの選択が理想的な結果へと結びついた。
さらに南1局。8巡目に、
ドラ
このテンパイが入る。が1枚切れているので迷わずヤミテンにうける。
すると、トータルトップ目の阿賀が、
ここからをチーテンに取りで放銃となった。
このアガリで、遂に筒井がトータルトップ目に立った。
この2局のアガリは、ポイントだけでなく体勢も一番手ということをはっきりと認識させるものであった。
しかし、筒井次局に疑問手を打ってしまう。
阿賀のリーチを受けた15巡目、
ここからを抜いてしまう。
このは、ダブルワンチャンスなこと、もし阿賀に–のターツがあったとしても、
二見、宮岡さんの手牌に–が固まっている可能性は低く、すでに面子が出来ている可能性が高いことから、無筋の中でも比較的安全に見える。
それ以上に、かなりの危険牌だとしても、まっすぐ攻めきるべき体勢であり手牌である。
トータルトップ目にたったとはいえ、このまま逃げ切れる点差ではない。
点棒を失うよりも、勢いを失うことの方が怖い。ここはを切る一手だった。
筒井もこんなことは分かっていたであろうが、これがタイトル戦決勝のプレッシャーなのであろう。
ここで親が落ちてしまった筒井は、このトップは守り切れたがビックイニングにはできなかった。
また、宮岡さんはここで敗退となった。
5回戦成績
筒井+23.6P 二見+18.2P 阿賀▲10.9P 宮岡▲30.9P
5回戦終了時
筒井+57.4P 阿賀43.0P 二見+24.2P 若林▲7.4P 宮岡▲118.2P 供託1.0P
6回戦(起家から、阿賀・若林・筒井・二見)
残すは2回戦。
筒井、阿賀はここでトップをとることができれば、かなり優位に立った最終戦が迎えられる。
二見は上位2者よりも、上の着順を取って最終戦の条件を緩和したい。
若林さんは、ここでトップを取らなければ、最終戦はかなり厳しいポイント差になってしまう。
そんななかで迎えた6回戦は、激しい乱打戦となった。
東1局。まずは、筒井がプレッシャーをかけ、10巡目にリーチと行く。
リーチ ドラ
待ち、打点共に納得のいくものではないが、相手に自由に打たせないということだろう。
向かってこられたならかなり苦しいが、筒井の優勝に向けた想いが打たせたリーチであろう。
これに向かっていったのは二見。
一手変わりで三色、もしくはタンピンだ。
ここで、筒井に満貫を放銃したらかなり厳しいポジションになるが、攻めるべき手牌ではしっかりと攻め込む。1回戦からこのフォームは全くぶれない。
さらに14巡目、親の阿賀にもテンパイが入り追っかけリーチにいく。
リーチ
二見もを引きこみ、三色に手変わってのめくり合いだったが、ここは阿賀の勝利。
二見より3,900のアガリとなった。
ロン
対局者の勝ちたいという気持ちの伝わってくる熱戦の様相を呈してきた。
続く次局、またも筒井の先制リーチが入るが、ここも阿賀は真っ直ぐ向かっていく。
そして引きアガリ。
ツモ ドラ
阿賀はここまで強く押した局は、必ずといっていいほどアガリに結び付けている。
素晴らしい対局観である。
阿賀寿直 |
この連荘をストップさせたのは若林さん。
2回戦以降、苦しい戦いが続いていたが、ここは好配牌を丁寧にまとめて、
リーチ ツモ ドラ
これをアガる。次局も、二度の待ち選択があったが、しっかりと正解を選んで、
ツモ ドラ
阿賀を追いかける。この後も、1,100オール、2,000は2,600とアガってトップ目に立つ。
流局を挟んで迎えた東3局5本場。次は二見が積極策に出る。
ドラ
3巡目に4のポンから入ると、10巡目にはテンパイ。
ポン ポン
ここに向かっていくのは、若林さん。
暗カン
絶好のを引き入れたが、二見への放銃となった。
ポン ポン ロン
しかし、若林さんは南1局に3,900をアガリ再びトップ目に立つ。
そして南3局を以下の点棒状況で迎える。
東家・筒井19,100、南家・二見22,300、西家・阿賀36,900、北家・若林40,700
3巡目、二見よりリーチが入る。
リーチ ドラ
トップ目若林さんは、手牌に恵まれていなかったこともあるが、
ここで二見に放銃して阿賀がトップになれば、最終半荘の条件が現実的なものでなくなるため早々に撤退。
親の筒井も、前半荘の親を流して以降、勢いが止まったこともありここはオリを選択。
ポイント的にも無理をしなくてはならない局面ではない。
そして、トータルトップ目の阿賀もここは撤退。かと思われたが、ここで阿賀が勝負に出る。
8巡目、
がフリテンのため出アガリは出来ないが、高目を引きアガれば、
最終戦を待たずに優勝を決めうるテンパイだ。
二見、阿賀のめくり合いが続いていたが12巡目、を引くと阿賀の手が止まる。
は二見の現物、は無筋。ここで阿賀の選択はフリテンを解消しつつテンパイをキープする切りであった。次巡、阿賀はを引くとこれをツモ切って二見への放銃となった。
ロン
阿賀痛恨の放銃となってしまった。
この切りは、これまでの阿賀の気迫の攻めとは違っていた。
アガることが出来れば楽になるといった、目先の欲からの放銃であった。
これが、前巡にをツモ切っての放銃ならわかる。攻めるだけの価値のある手牌だからだ。
しかし、手堅くを切ったならばここはオリる一手であった。
阿賀は決勝終了後「恥ずかしい放銃をした。」と、これを最も悔やんでいた。
オーラスは、若林さんが1,000・2,000をアガって6回戦が終了した。
6回戦成績
若林+26.7P 二見▲2.0P 阿賀▲4.8P 筒井▲19.9P
6回戦終了時
阿賀+38.2P 筒井+37.5P 二見+22.2P 若林+19.3P 宮岡▲118.2P(途中敗退)
7回戦(起家から、筒井・二見・若林・阿賀)
阿賀から若林さんまでのポイント差は18.9P。
全員に優勝のチャンスがある大接戦である。
運命の最終半荘がスタートした。
東1局、筒井から先制リーチが入る。
リーチ ドラ
ここに阿賀が戦いを挑む。
ツモ
ここから無筋のを打つ。すぐに筒井の現物のをチーすると、裏筋のも勝負。
チー
ここは流局となったが、この攻めは先程の切りとは訳が違う。
愚形の1,000点ながら、筒井の勝負手を潰しに行く腹を括った攻めであった。
東1局1本場。またも阿賀が勝負に出る。
ツモ ドラ
ここから最も手広い切りとした。何としても筒井の親を落とそうということだ。
この選択が、局面に大きな影響を与える。このドラは筒井がポン。一気に局面が煮詰まった。
ポン
次巡、阿賀はを引くと、最強の応手である切りとした。
阿賀の戦略は徹底攻撃。自分がアガリ切ることで筒井の手を潰すというものであった。
一方筒井は、このをチーしてテンパイ。
チー ポン 打
そして、打でシャンポン待ちを選んだ。2巡後、筒井のツモはであった。
そして14巡目、結果はノーミスかつ筒井に対して安全にテンパイを組んでいた二見のツモアガリとなった。
ツモ
二見は、ここで筒井が引きアガると一気に条件が苦しくなるだけに、値千金のアガリとなった。
また、アガリ逃しとなった筒井だが、これは仕方のないものである。
当然、この段階で焦点になるのは阿賀の捨て牌だ。
第一打のと5巡目の切りから、シャンポンに受ければ阿賀からの出アガリも十分に期待できる。
しかし、カンならばツモアガリ限定と言ってもいいであろう。
山に残っていそうな枚数も、二見の切り、若林さんの切りからシャンポンが優っているように見える
(実際にはどちらも山に2枚)。最善の選択をした上での結果と言えるであろう。
東2局、二見が1,500、2,400は2,700、流局と連荘して迎えた4本場。
6巡目、配牌からホンイツ一直線の若林さんがをポンする。
ポン ドラ
この仕掛けに、親の二見が全面対決。、とぶつけていく。
二見
若林さんも9巡目にをポンしてテンパイ。
ポン ポン
ここは、2人の戦いかと思われた。
しかし13巡目、阿賀により場が一瞬にして凍るが放たれた。
阿賀
まだ1シャンテンではあるが、アガれると感じたらどこまでも深く踏み込むのが阿賀であった。
そして15巡目、ピンズを受けていた筒井にもテンパイが入る。
筒井
ツモ
メンホンのテンパイだが、打ち出さなければならないのはドラのである。
このは打ち切れず現物を切ってノーテンとする。
そして17巡目、筒井のツモはを打てれば跳満のアガリとなるであった。
結果は、筒井1人ノーテンで流局となった。
これは、筒井にとっては厳しい選択であった。
観戦していた私は、「このを切ればアガリ切って優勝しそうだな、でもこれは打てないな」と思っていた。
このが当たれば致命的な失点。まだ親が残っているとはいえ、現実的には厳しい数字になってしまう。
しかも、相手3人はみなテンパイに見える。誰かしらにこのドラは当たるであろうと考えるからだ。
しかし、対局終了後、立会人を務めていた十段位・瀬戸熊は、あのは絶対に切ると言っていた。
これが1年間戦うリーグ戦ならば切らないのであろう。しかし、今はタイトル戦の決勝戦の最終半荘。
しかも、追いかける立場だ。勝負を決めうるテンパイが入ったならば、
攻めるのが本筋であるということだ。また、瀬戸熊は自身の経験からこういった本手での勝負は、
例え放銃になっても、もう一度チャンスが巡ってくることを知っているのであろう。
ここから二見の連荘は9本場までいった。
連荘中の二見は、たった一度のミスも犯すことなく着実に加点を繰り返した。
しかし、筒井もまだまだ諦めてははいない。東3局に満貫を引きアガリ二見を追いかける。
これで、2人の差は12P。
東4局、南1局の阿賀と筒井の親番は二見が的確に捌く。
このギリギリの局面でも二見の的確な判断力が狂うことはない。
二見大輔 |
南3局2本場。二見、筒井の差は13.3P。
ここで筒井に最後のチャンスが訪れる。7巡目、
ツモ ドラ
リーチで高目を引けば瞬間二見を抜く。しかし、筒井の選択はヤミテン。
そして2巡後、のツモアガリとなった。
このヤミテンについて筒井に尋ねると、「をひいて–にしたかった」と。
確かにこのドラドラの手牌は何としてもアガリ切らなければならない。
しかし、筒井が待つ手変りがの一種ならリーチを打ち、打点を上げオーラス勝負に持ち込むべきであった。二見の的確な局回しが、阿賀の強烈な踏み込みが、筒井の判断を狂わせたのであろう。
そして、オーラス。
1局は阿賀が連荘を果たすが、1本場わずか7巡にして二見がアガリ切った。
7回戦成績
二見+35.9P 筒井+11.8P 阿賀▲20.9P 若林▲26.8P
最終結果
二見+58.1P 筒井+49.3P 阿賀+17.3P 若林▲7.5P 宮岡▲118.2P(途中敗退) 供託1.0P
優勝した二見、トップは最終7回戦の1回だけであった。
しかし、その戦略に長けた麻雀で、確実にプラスを積み重ねていった。
的確に局面を把握しミスを最小限に抑える麻雀は、優勝に相応しいものであった。
また、敗れた筒井、阿賀、若林さん、宮岡さんも優勝への想いが十分に伝わる気迫溢れる闘牌であった。
4人がそれぞれの持ち味を出したからこその大熱戦であった。
第38期王位戦優勝コメント
二見大輔「今後も精進して、王位の名を汚すことのないよう頑張ります。」
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