桜蕾戦 レポート

第4期桜蕾戦決勝レポート

【桜の蕾を咲かせたのは北陸の地から舞い降りた“さくさくさくちゃん”宮成さく!】

桜の芽にはいくつかの種類に分かれる。葉になる葉芽、葉か花になる混芽、そして花を咲かせる花芽。桜蕾戦とは満開の花びらとなる蕾を内に秘めた新たな花芽を見出すタイトル戦。伊達朱里紗、菅原千瑛、廣岡璃奈と歴代の蕾は大きく開花する中、早くも4期目の決勝戦を迎えた。

⌘宮成さく(38期前期・1年目)
北陸支部

 

⌘廣岡璃奈(36期後期・3年目)
静岡支部
第3期桜蕾戦優勝

 

⌘加護優愛(38期後期・1年目)
東京本部

 

⌘渡部美樹(38期後期・1年目)
東京本部

 

▪️解説   和久津晶        二階堂亜樹         ▪️実況 大和

 

    ▪️立会人 ともたけ雅晴

 

■現桜蕾ピンチ!?
プロ1年目の宮成、加護、渡部に対して3年目現桜蕾の廣岡が受けて立つ構図となった今期のフレッシュな決勝戦。廣岡はこの舞台を一度経験しているが、他3者にとってはデビュー間もない未知なる戦いである。大きな期待と一体どのような対局になるのだろうという思いが入り混じる中、まずは渡部によって薄紅色の幕が開いた。

 

 

普段は麻雀店に勤務しているという渡部。インタビューでは柔らかい雰囲気であったが、卓に座ると一変して淡々と腰を据えた姿が印象的である。ピンフのみという何気ないオープニングのアガリではあるが、一連の動きを追っていくと高い雀力が隠れていた。

 

 

前巡のカン七万払いの際に八万切りでツモ五万に対応できる選択を取ると、場に重いピンズに見切りを付ける打三筒でターツの振り替え。そして読み通りに七万を捉えての最速ルートを辿っていたのである。

 

 

相手との距離感を把握し、広げられる時は目一杯に構える。そして場の情報をしっかり精査しながら選択する所からも普段から深く考えて麻雀に取り組んでいる事が伝わってきた。

この後も渡部の良さが際立つ。

 

 

配牌8種8牌の手も丁寧に進めながら東・西・ホンイツまで仕上げて廣岡から満貫の加点に成功すると、親の加護からリーチを受けた東3局では、通りそうな端牌や字牌などには手を掛けず今度は守備に回って放銃回避。メリハリのある麻雀をこの大舞台で披露した。

 

 

 

 

この局、渡部とは対照的に押し返す姿を見せたのは廣岡。

 

 

ディフェンディングとして迎えた決勝戦、確実な安牌が無いのもあったが前半は攻めていくと決めていたのだろう。
連覇して静岡にタイトルを持ち帰るんだという気迫が伝わる迷いのない三筒打ちとなった。
しかし、9,600の失点は想定よりも少し高かったのかもしれない。表情が物語っているように1回戦は廣岡の痛すぎる1人沈みとなり、序盤ながら早くも連覇に黄色信号が灯った。

 

 

 

 

■麻雀は苦しい時こそ差が出る!?
ベスト16以降は先行するパターンで勝ち上がって来た宮成だったが、一転して2回戦からは追いかける立場へ。そして局は進むと東4局7本場、親の加護が連荘を重ね徐々に下との差を広げている状況が訪れる。
親落としも有効な場面であったが、宮成はポンテンの取れる発を2枚とも見送った。これは捌く事よりもぶつける事を意味している。そして以下のテンパイを引き込むとリーチの一言を添えた。

 

 

普段は富山県で会社員として勤めているという宮成。燐とした表情に隠れる熱い意思に満ちたこの手牌は、トップ目の加護から高め九万を溢れさせるという最高の結果を生み出した。
劣勢を自身の力で振り払った宮成、そうなると麻雀の風向きが変わるのも必然である。

 

 
リーチ・ピンフ・ドラ2を“さくっ”とツモり、瞬く間に1人浮のトップ目に躍り出た。

 

 

3着スタートとなった宮成が一歩抜け出す展開の中、1人苦しい廣岡にも決断の時間がやって来る。

 

 

2回戦のオーラス、タンヤオのテンパイだが浮き牌はドラの二筒。1つ補足するならば、この半荘1人大きく沈んでいる親の加護が
牌の背牌の背牌の背牌の背 ポン南南南 ポン北北北 ポン三筒 上向き三筒 上向き三筒 左向き
と周りに威圧を掛けている。

 

 

さてどうするか。
廣岡の選択は雀頭の七索切りによるテンパイ取らずであった。

 

 

確かに実際に卓上で打っている本人と視聴者の立場では見え方が違う。と言うのも見ている側は答えを知っているからだ。何故テンパイ取ってリーチ行かないのだと指摘するのは酷な話である。
しかし廣岡本人が
① ドラだから打たない
② タンヤオのみのテンパイなので拒否
の理由で切れないのであればもう一度深く考える必要がある。

まず①の理由についてだが、加護の仕掛けが珍しく3連続ポンであったのである程度の手牌構成が透ける点に注目したい。逆算するとドラの二筒が放銃になるケースは目に見えている関連牌から単独単騎かシャンポン待ちしか残っていないのである。もし単騎テンパイの場合は
二筒三筒三筒四筒牌の背牌の背牌の背 ポン南 ポン北
となる為、ポンの前にロンアガリの形。またシャンポンの場合は
二筒二筒三筒三筒四筒九筒発南南北北牌の背牌の背
となる為、七対子・ドラ2の1シャンテンを崩す形となる。仮に崩したとしても
二筒二筒三筒三筒四筒牌の背牌の背 ポン南 ポン北
の5,800テンパイから打点は上がるがアガリ率の下がるトイトイに受け変える形となる。

次に②についてだが、1回戦目トップ・2着の渡部、加護がそれぞれ原点割れをしている点に注目したい。もともと3者から大きく離されている廣岡にとって3番手の宮成がトップである並びはある意味ラッキーなのである。もちろん打点はあるに越した事はないが、この局面は不確定な数ポイントの為に2,600を8,000に、1,000・2,000を2,000・4,000に固執する事よりも渡部と加護とのポイント差を縮める二筒切りリーチの価値が通常よりも高い。レアケースで放銃になる事もあるだろうが、アガリには多少のリスクは避けられないのだ。

そして麻雀には絶対的な正解はないので、①と②を踏まえた上でテンパイを取らないのであればその選択は尊重したいと思う。ただし、知っているのと知らないとの差は成長度合いに大きく関わってくるので今後の期待を込めてあえて掘り下げた。

 

 

この先は結果論になってしまうが、廣岡がツモアガリ逃しの形で二筒単騎リーチするも加護と廣岡の2人テンパイで流局。
そして流れた南4局1本場、渡部がフリテンながら値千金のタンヤオ・ドラ1の500・1,000は600・1,100のアガリ。前局の廣岡のリーチ供託を合わせてピッタリ原点を確保して2回戦を終えた。

 

 

 

 

■果てしなく続く茨の道
微差ながらトップ目に位置付けた宮成が3回戦も3者を引き離す展開へ。

 

 

山には残り1枚のアガリ牌であったが、リーチ・ツモ・三暗刻・ドラ1の満貫を“さくっ”と成就させ追い風に乗ると、

 

 

優勝という二文字のプレッシャーが近づく中、南場の親番ではしっかりとリーチと発して戦う道を切り開いた。
こうなると追いかける者にも違った種のプレッシャーがのしかかってくるのだが、ポジティブに考えれば直撃チャンスとも言える。そして、試練を与えるかのように廣岡の元へその機会が巡りやって来た。

 

 

廣岡はプロ受験で一度挫折を経験し、出身地である静岡で研鑽しながら正規合格に至った経緯を持つ。苦境の今だからこそ、その教わった事を1つ1つ思い出しながら打っている事だろう。
手牌に戻るとメンゼンチンイツの1シャンテンであり、上家から待望の二万が切られた。

 

 

二万は既に場に2枚目で且つ自身で1枚使っているので実質3枚目。また一万は目に見えて残っておらず、リーチに対して6枚持ちの危険筋である三万を処理できるメリットもあるのでチーして現物の九万切りテンパイ取りも視野に入る所。さてどうするのだろうか。

 

 

廣岡が導き出した選択は“スルー”する事。そして自力でテンパイへ辿り着く。

 

 

それはまるで挫折から救いの手を差し伸べてくれた当時の静岡支部長、望月雅継の代名詞“跳満ベース”が重なる、廣岡璃奈が今できる麻雀を体現した1局であった。

 

 

しかし無情にも宮成にそのテンパイ打牌がつかまり、廣岡の連覇への道はここで途絶える事となった。

 

 

対局後のインタビューでは感情を隠す事なく悔し涙を見せた廣岡であったが、解説の亜樹、和久津からは激励と期待に満ちたコメントが送られた。

亜樹
『負けて泣けるのも凄く幸せだと思うんですよね。(一方で)この舞台で戦えない人もたくさんいるので、その人達の分までたくさん勉強して練習して次は勝った時に泣けるように今後も頑張って欲しいと思います。』

和久津
『廣岡さんが打ちたい麻雀を打って応援してくれた人達に見てもらえたのはとても素晴らしい事でした。(一方で)勝ちたいと思ったら自分の麻雀を捨てないといけない時があって、それに向けて今はチャレンジする時期だと思います。一緒にがんばりましょう。今日も頑張りました!』

廣岡と最初に出会ったのは2年前だったが、その頃から人一倍負けず嫌いで幾度となく悔し涙を流す姿を見てきた。この決勝戦で流した涙も是非とも大きな糧に繋げて、これから通るであろう茨の道にも負けずに前へ進んでほしい。

 

 

■決勝戦に潜む試練というトゲ
対局前のインタビューではいつも通りの強気の麻雀を見せたいと語った加護。今回の対局者の中では最年少ながら普段は新潟で麻雀店の経営に携わっているという一面も合わせ持つ。

 

 

ここまではポイント的に見ると上位陣に離されず耐え忍んでいる印象であるが、その道中は意気込み通りのアグレッシブさが光った。

 

 

 

 

今年の夏にプロデビューしたばかりとは思えない程の堂々とした佇まいであり、加護らしさが出ているように映る。そして常に前に出続ける姿勢がここに来て実を結んだ。

親の廣岡が連荘中の最終戦の東3局2本場、宮成が2フーロしている所に加護がメンホンテンパイ。そしてこの局も迷いなくリーチ宣言とする。

 

 

これに対して宮成は一体どうするのだろうか。

 

 

少考の後、宮成は今まで見せてこなかった顔を卓上に示す。それは加護の現物待ちとなる四万単騎への強気の待ち変えであった。しかしこの発に声が掛かってしまう。

 

 

8,000点という大きな直撃となり、加護が一気に二番手まで浮上した。

 

 

一方で対照的な表情を浮かべたのは宮成。

 

 

なかなか局が回らない展開で早く決着させたいという考えがよぎったのかもしれない。対局後のインタビューでは“生きた心地がしなかった”と表現したように正に決勝戦ならでは押し引きが見られた。

このアガリを皮切りに加護に展開が傾く。

 

 

 

 

 

 

怒涛のアガリによって加護にとっては少しずつ宮成の背中が、宮成にとっては少しずつ加護が歩み寄り、そして迎えた最終局。

 

 

焦点は加護の跳満ツモに絞られたが、最後の最後で条件を満たすテンパイが加護に入る。

 

 

選ばれし桜蕾は山に1枚眠っている八万の行方に委ねられ、そして遂に決着の時を迎えた。

 

 

 

 

運命の1牌は加護のツモ筋の隣に眠り、それと同時に新たな蕾が咲きほころんだ。

 

 

第4期桜蕾に輝いたのは“さくさくさくちゃん”こと宮成さく。最後に待ち構えていた試練も乗り越え、デビュー1年目ながら見事に満開のタイトルを北陸へ届けました。

 

 

⌘2位
加護優愛

⌘3位
渡部美樹

⌘4位
廣岡璃奈

 

 

⌘第4期桜蕾戦優勝
宮成さく

『支えて頂きました方々には“ありがとう”という言葉だけでは足りないくらいの感謝の気持ちでいっぱいです。そして今後も共に励んで行けたらと思います。』
 
■最終結果

 

(文:小林正和)