第3期桜蕾戦決勝レポート
2022年04月19日
【一つ勝つのはこんなにも難しいのか~桜蕾戦決勝レポート~】
全4回戦の3回戦目、僅差だったがトータル首位の廣岡がトップを取った。
ここまでの大きなリードも入れて、トータルポイントは+90.7P、2位藤居との差も約110ポイント。
もう見なくても廣岡の優勝だな――
夕飯でも食べて、優勝インタビューだけ見ようかな――
そう思って画面を閉じた人もいたかもしれない。
『最後まで優勝を目指して全力で戦います。』
これは戦前の桜木のコメントだが、そうは言ったものの、皆、集中が切れてしまっても仕方ないと思う。
それくらい絶望的な差だ。
最終戦東1局、親の藤居のリーチ。
廣岡は大量リードを背に、アガリやすい手だけ攻めればいい。
暗刻のを切ると、
なんと単騎のホンイツ、一発と裏ドラ1枚の18,000に放銃。
藤居のこの捨て牌で、流石にの単騎待ちとは思えないし、ホンイツまでついているなんて、数年に一度あるかどうか。
「放銃は仕方ない、大量のリードがあってよかった。」
廣岡はそう思ったのではなかろうか。
まずは第一関門となる廣岡のラスの並びはできた。
藤居だけでなく、花宮、桜木にとっても、廣岡とのトップラスを作りやすくなる。
このアガリをキッカケに場の空気が変わる。
最終戦東1局2本場、桜木
リーチ ツモ ドラ 裏
最終戦東2局、桜木
ロン ポン ポン ドラ
連続の満貫のアガリで迎えた東3局の親番、道中の手順が完璧だった。
一気通貫になるが生きて、先行リーチの藤居のを捉える。
リーチ、一発、ピンフ、一気通貫、ドラ3の24,000。
このアガリで桜木の持ち点は7万点。
桜木も廣岡も表示されたスコアボードを見上げる。
この表情だ。
この桜木の親を2本場で廣岡が落とす。
猛追されてはいるものの、画面越しには落ち着いているように見える。
22歳、入会してから2年も経っていないとは思えない。
解説の藤崎「ここは親番なんで、一息つきながら攻めてもいいんじゃないですか?手が良ければですけど」
東4局、親番の廣岡、この1シャンテン。
早くテンパイしてリーチを宣言したい、そんな思いが伝わってくる。
しかし、花宮が切ったに藤居からロンの声。
開かれた手牌を見て、肝を冷やしたに違いない。
このアガリで藤居も戦線復帰。
1人ならまだしも、2人が追い上げてくるとは誰が予想できただろうか。
さらに、廣岡には試練が待っていた。
南1局、親の藤居のリーチ。
河は変則だが、やが4枚見えたことで国士無双はない。
ほんの1時間前に暗刻からを切って痛い思いをしたことを覚えているが、現物は尽きている。
ここまで手をかけずにいた、3枚になったことでとうとう選ばれてしまった。
裏ドラ2枚の12,000。これは相当ぐらつく。
こんなのまで放銃してしまうと、僕はまともに手を組める自信がない。
逆に追いかける藤居、桜木はもう手を伸ばせば届く位置。
打牌にも力が入る。
南1局1本場、親の藤居、ドラが暗刻のリーチだ。
一発ツモか、ツモって裏が1枚乗ればトータルで逆転する。
しかし、この局のアガリは桜木。
無理はしすぎず、でも自身の手は壊さず、とてもいいバランスでの手組みだった。
リーチ、一発、ツモ、タンヤオ、イーペーコー、ドラの3,000・6,000(+2,300)
南2局も桜木は満貫をアガる。
南3局の桜木の親を迎えて、トータルスコアはこちら。
140ポイント差もあった桜木が、ちょうど16ポイント差。
もう満貫ツモアガリで同点だ。
第4位、花宮海咲
「何もできなかった…自分の実力不足を痛感した1日でした。」
僕が初めて見たのは、去年の10月の第2回桜蕾戦のベスト16、このときは入会して2ヶ月のときだった。
第2回はベスト8で負けてしまったが、それから約半年、かなり勉強したのだろう。
以前も強気の攻めが印象的だったが、その攻めに技術力が加わったように思う。
今日は優勝争いからほど遠くなってしまい、非常に苦しく悔しい最終戦だっただろう。
それでも最後まで優勝を目指して戦っていた姿に、心を打たれた人は多かったはずだ。
「もっと勉強して、もっと強くなって絶対に優勝します。応援してくださった方、本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いします。」
第3位、藤居冴加
「自分のミスが多かったから負けてしまったと思います。」
後半の追い上げも見事だったが、藤居の麻雀の見どころは守備意識の高さと見切りのよさだと思う。
ところどころで解説の和久津や、その技術を褒めるコメントがとても多かった。
おそらく本人は今日の出来に全く満足していないだろうが、周りから桜蕾戦よかったよ、と声を掛けられるのではないかと思われる。
「まだチャンスはいっぱいあるので、次は優勝します。今後とも応援よろしくお願いします。」
第2位、桜木里咲
「1回戦、緊張なんですかね。自分でもよくわからないくらい何も見えなくなっちゃって、自分の手牌しか見えてなかったです。」
対局後すぐに桜木が包み隠さず書いたこのNoteを是非ご覧になってほしい。
色々と複雑な思いで臨んでいることが見て取れる。
同じような悩みを抱えるプロも少なくはないだろう。
最初の緊張の真っ白から(大差になって)絶望の味、そこから希望の光が見えてきて極限の興奮、最後はやりきった充実感と悔しさ。
この表現とは違う感じ方をしたかもしれないが、この日、特別で格別な体験をしたに違いない。
『もう一度、この舞台で戦いたい』
また1人、競技麻雀の沼にハマってしまった気がしている。
「次回は必ず優勝できるように、残りの(出場できる)回数、全力でチャレンジしたいと思います。たくさんのご声援ありがとうございました。」
対局に戻ろう。
南3局、藤居が桜木から満貫のアガリ。
廣岡にとっては展開の利で桜木の親が落ちる。
オーラスは、廣岡が親なので1局勝負。
桜木、藤居に条件を満たす手はできず流局し、廣岡の優勝が決まった。
優勝、廣岡璃奈
「(最終戦はどういう思いでしたか?)ずっと怖くてしょうがなかったです。」
100ポイント以上の大差からギリギリまで追い詰められてしまい、勝った気はしなかっただろう。
最終戦、廣岡が何か大きなミスをしたわけではなく、避けられない放銃だったし、安全にアガリにいける手はほとんどなかった。
それでも逃げ切ることができたのは、3回戦までしっかり攻めてリードを築けたからに他ならない。
「応援してくださった皆様、支えてくださった皆様、アドバイスくださった先輩方にホントに感謝します。ありがとうございました。皆様のお陰で勝てました。」
非常に面白い決勝戦だった。
面白かったというコメントもとても多かった。
もちろん試合展開が想像を遥かに超えたものだったのもあるが、もしこれがミスだらけで混戦になっていたとしたら、決して面白いとは思わなかっただろう。
それだけ技術のレベルも高かったし、何より全員の必死さが胸に響く対局を生み出したのではないかと思う。
最後に、廣岡さん、優勝おめでとうございます。
(文:福光聖雄)
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