第16期プロクイーン決定戦最終日観戦記 日吉 辰哉
2018年11月12日
大激戦。
第16期プロクイーン決定戦最終日は半荘終了ごとにトータル首位が入れ替わった。
女流同士の意地の張り合いと、その負けん気の強さに引き込まれ続けた。
9回戦【起家から 浅見・水口・天音・日向】抜け番・西嶋
トータルポイント首位に立った西嶋が抜け番。
西嶋への挑戦権をかけた戦いといってもいいだろう。
東1局、親の浅見が軽快にアガリを重ねる。2度のアガリと1人テンパイで持ち点は一気に5万点間近。
これ以上の連荘はごめんだと3者は仕掛けを多投し浅見に1人ノーテンを押し付ける。
3人がかりで浅見の親を流すことに成功。
迎えた東2局4本場、9巡目の天音
ツモ 打 ドラ
ここからのノータイムテンパイ取らずは高打点打法の天音らしい一打。
次巡、狙い通りを重ねてリーチとする。
直後追いついたのは親の水口。
ツモ 打
待ちは天音の現物。しかしトータルポイントで大きく離された水口はリーチの選択。
更には日向だ。同巡三色確定のテンパイからリーチを選択。
暫定3位の日向。勝負を先送りする選択も十分に考えられる場面。
「リーチ行ったか・・・勝負かけてますね」
解説の勝又プロである。
「いやぁ日向さんにしては珍しい」
同じく白鳥プロ。
高打点打法の天音、更に水口はリャンメンターツを外した後のリーチ。放銃となれば優勝戦線から一気に陥落しかねない。
しかしこれはプロクイーン奪取のための戦い、争いなのだ。
西嶋が手にするその冠を奪い取るために、戦いを挑む。
3人が勝負の土俵に乗った直後、天音からがツモ切られた。
一気に浅見の背後に迫った日向。更に逆転を目論み東3局では6巡目にリーチ。
ツモ 打 ドラ
そうはさせない浅見。プロクイーン奪取の想いは日向と同様だ。
直後に追いつく。
ツモ 打
日向の捨て牌にはがありヤミテンを選択するが一歩も引く気はないだろう。
そう、なぜなら戦いだから、争いだから。
8巡目に日向からツモ切られたをとらえ、再び浅見がリードを広げた。
更に南2局では2,000・4,000のツモアガリでトップを盤石としトータルポイントでも西嶋を逆転し首位に立つ。
浅見の独走を黙って見過ごせない日向は次局、以下のアガリでしっかり食らいつく。
リーチ ロン ドラ
最終日の初戦からこの激戦である。この先どうなってしまうのか・・・
9回戦成績
浅見+42.3P 日向+15.3P 天音▲16.1P 水口▲41.5P
9回戦終了時
浅見+77.7P 西嶋+68.8P 日向+46.4P 天音▲25.1P 水口▲169.8P
10回戦【起家から 浅見・水口・日向・西嶋】抜け番 天音
優勝決定まで残り3半荘。10回戦終了時下位1名が敗退となる。
ベスト16、ベスト8を盤石な形で通過した水口の敗退を誰が予想しただろう。着実にアガリを積み重ねる水口の長所が今回の決定戦では鳴りを潜めた。
「決定戦を楽しみたい」開始前のインタビューにてそう口にした水口。
厳しい戦い、ボロボロとなり最後まで戦い抜いた水口に対し・・・日向が手向けの一撃。
水口が最後の力を振り絞った4,000オールの次局、日向はドラタンキのリーチを敢行。
絶対にオリることのない親の反撃という最大級のリスクと引き換えにタイトルを奪い取りにいく。
僅かな可能性にかける水口が直後に追っかけリーチ。日向は想定していたであろう最悪のケースも、水口を振り切っての4,000・8,000。最大級のリターンを手にする。
裏ドラを開示した日向の手が僅かに震えていた。
日向は守備力に定評のあるプレイヤーだ。
その日向が9回戦ではカンの三色追っかけリーチ、そしてこの場面でもリスクを負って戦いに出た。
これがプロクイーン奪取のために日向が準備してきた方法論なのであろうか。
「追わなくてはならない立場ですからね。加点しない限りは優勝はないわけで。高くなる手は勝負に出ました。前向きに戦えた最終日でしたね」
3日間通しての日向に対する印象は攻守のメリハリである。
勝負局面をしっかりと見極め、攻めに出た時の成功率は非常に高かった。
トータルポイント3番手、日向の4,000・8,000により浅見、西嶋も黙っていられない。
南1局、親の浅見は以下のリーチ
ツモ 打 ドラ
無難なリーチに見えるだろうがなんと場にはが2枚切れ。なりふり構っていられない。
これをアガッた次局にチャンス手。
浅見は10巡目に以下のテンパイ。この手が成就すれば日向に肉薄しトップ逆転も十分に考えられる。
山に1枚残ったを14巡目に日向が吸収。日向の執念が勝ったか。
そして迎えた16巡目である。浅見に最後の選択が訪れた。
カンかタンキかタンキか・・・
浅見は長考の末、ツモ切りを選択。2巡後浅見はを力なくツモ切った。
日向1度目の危機を回避するも次の矢が飛んでくる。
次局は西嶋だ。
ツモ 打 ドラ
こちらもドラ暗刻。更にはツモリ三暗刻のリーチだ。
日向、今局は自力でかわし切る。
ロン ドラ
2度目の危機も回避。点数以上に大きなアガリとなる。
更に南3局の親番で4,000オールをツモアガリで追加点。
日向は浅見に3着、西嶋に4着を押し付け、価値あるトップでトータルポイント首位に躍り出る。
10回戦成績
日向+35.4P 水口+9.2P 浅見▲13.0P 西嶋▲31.6P
10回戦終了時
日向+81.8P 浅見+64.7P 西嶋+37.2P 天音▲25.1P 水口▲160.6P(敗退)
11回戦【起家から 浅見・日向・西嶋・天音】
ここまで2着4回、3着4回という成績で上位を伺う選手がいる。
天音だ。持ち前の高打点打法を活かすため、アガリの見込めない局ではガードに徹していた。しかし残り2半荘となればそうも言っていられない。
限りなく2連勝が欲しい状況。渾身のストレートを打ち込むべく天音もいよいよガードを下げて打ち合うしかない。
ガードは下げても自身の武器である高打点打法を捨てるわけにはいかない。この方法論で戦い、ここまで勝ち抜いてきたのだから。
東1局、天音は9巡目に以下の牌姿からテンパイ取らず。
ツモ 打 ドラ
親番であれば即リーチを選択する打ち手も多いのではないか。
次巡をツモると当然のリーチ。2巡後にを引き当て2,000・4,000のツモアガリ。
天音にとっては最高の立ち上がりも、その後アガリから遠ざかり持ち点を削られていく。
東2局、親は日向。今局、北家浅見が少牌のミスを犯してしまう。
冷静に戦い、時に攻めの鋭さを見せていた浅見。画面越しの表情とは裏腹に、第3者には感じることの出来ないプレッシャーが選手を包み込んでいる。
既に2巡目まで進行していたため今局は成立とし、浅見にアガリ放棄の裁定が下された。浅見が3者に詫びた後、対局再開。そんな中、天音と同様に追いかける立場の西嶋が目を疑うようなスーパープレーを見せる。
親の日向が10巡目にテンパイを果たしヤミテンを選択するも14巡目にツモ切りリーチ。
西嶋は12巡目に目一杯で上記の形。13巡目のツモでと入れ変える選択肢もあったがツモ切りとしている。
手残りした。更に16巡目には日向からがツモ切られは中スジとなる。
そして迎えた西嶋最後のツモはテンパイを果たす。
とはいえ自身のアガリの可能性は皆無といっていい状況。オリる選択も当然あるだろう。
オリるか、あるいは中スジとなったか・・・
「これ打ちますよね・・・これ打たなきゃリーチ後に行った意味ないですし」
勝又プロのコメント。続いて白鳥プロは
「これ絶対打ったわ・・・長考している理由がわからない」
西嶋の長考。
そうこれは何度目かのあのシーンだ。鳥肌が立つ。まさか・・・
勝又「うわー嘘でしょ!?これはスゴイを飛び越えてる・・・なんで?」
白鳥「でたー、なんなのよ!?」
西嶋がを掴むと同時に発せられた両者の言葉には、どこかで西嶋のスーパープレーを期待しているようにも感じられた。
流局後、日向のテンパイ形を確認した西嶋の表情は何一つ変わらない。
人知を超えた選択。これが西嶋の麻雀である。
その西嶋は迎えた親番で2,600オール、4,000オールの加点で持ち点を55,000点とし、先を行く日向、浅見を捕らえることに成功。
更に次局、当然西嶋は攻撃の手を緩めない。ダブポンで加点を狙うも、浅見がその身を呈して西嶋の進撃を止める。
ドラ
浅見はここからを仕掛けドラ打ち覚悟の打。親落としに成功した浅見のタイトル奪取に対する強い気持ちを感じる1局となった。
西嶋の加点で苦しくなったのは天音。親番が残されているとはいえ、西嶋とは100ポイント以上の差が付き優勝の二文字が遠ざかる。
天音は遂にガードを下げ殴り合いに出る。南2局で西嶋から5,200、南3局で2,000・4,000のツモアガリで素点を回復。西嶋50.4、天音42.7まで詰め寄る。
しかし、総合成績では未だ80ポイントの差があり、残り半荘1回で逆転するのは至難の業。この親番で逆転し最終戦に臨みを繋ぎたい。
しかしガードを下げるタイミングがやや遅かったか・・・3者の姿は遥か先にあった。
女流プロ初の新人王獲得。あの日から10年以上の月日が流れた。
ベスト16にて初のテレビ対局、緊張感に包まれていたあの対局が随分前のように感じる。
最後まで自身の麻雀を貫き通した天音。
盟友清水と交わした約束は果たせぬまま、志半ばでこの舞台に別れを告げた。
11回戦成績
西嶋+34.7P 天音+16.4P 浅見▲18.7P 日向▲32.4P
11回戦終了時
西嶋+71.9P 日向+49.4P 浅見+46.0P 天音▲8.7P
12回戦【起家から 日向・浅見・天音・西嶋】
いよいよ大詰め。プロクイーンが決定する。
東1局、親の日向が先制リーチ。そのリーチに対してトータルポイント首位の西嶋が押し返す。
打ちだす牌はどれもこれも危険牌だらけ。仮に12,000の放銃となればこれまでのすべてが吹き飛んでしまうような状況。
勝又プロからこんな言葉が漏れる。
「このポイント状況でこんな押せるもんですか・・・」
西嶋は戦い抜いてその冠を守ろうとする。
次局は浅見だ。
この息詰まる状況下で切りを選択。理想通りドラのを引き入れリーチの選択。
2,000・4,000のツモアガリで西嶋に肉薄する。
そして日向も黙っていられない。西嶋、浅見の上位に立たない限り優勝はありえないのだ。
リーチ ツモ ドラ 裏
日向は東4局で2,000・4,000のツモアガリ。再びの大接戦。どうなってしまうんだろう。
南1局を迎え順位点込みではあるが、浅見が西嶋を2.2ポイント上回る。日向も1,000点アガれば優勝ライン。
本当に大激戦。表現力の乏しい私には言葉が見つからない。
これまで繰り広げられた熾烈な戦いも残り半周ですべてが決する。
どこまでも見ていたいこの戦いの均衡を日向が突き破る。
優勝を大きく引き寄せる6,000オール。
3者の表情が曇る。しかしこんなことで諦められるわけがない。
南1局1本場6巡目、浅見に今大会最大級の勝負手が舞い降りる。
それは裏を返せば絶対に失敗は許されない、結果のみが求められる1局。
ツモ ドラ
跳満確定のテンパイ。日向との差は23.7。リーチでツモれば再逆転。あるいはヤミテンの直撃でも再逆転となる。
リーチか・・・ヤミテンか・・・人生を変える選択。正解はどちらなのだろう。
浅見は一つ息を吐き、リーチを宣言した。
これをアガればプロクイーンをその手に出来るやも知れぬ状況にあっても、浅見の表情はこれまでと一切変わらない。
全ての結果を受け入れる覚悟が出来たのであろう。
連続4着スタート、悪夢の3回戦。厳しい立ち上がりからの巻き返し。ここまでの激戦を演出していたのは間違いなく浅見であった。
ヤミテンであれば日向からの直撃もあったかもしれない。しかしその答えは闇の中である。
ハイテイ牌に手を伸ばす浅見。その牌を力なく河に放ち、浅見のプロクイーンはここで幕を閉じた。
「当初対戦相手に怖さを感じていましたが、今日はスッキリしています。最終日は対局にのめり込めそうな気がしています」
開始前のコメントを体現するような浅見のリーチ判断であった。
水口が天音がそして浅見が去った。新たなクイーン誕生か、それとも・・・
西嶋にはオーラスの親番が残っているとはいえ22.5ポイント差を追いかけなくてはならない。
南3局、8巡目に西嶋がテンパイを果たす。この時点では打点力が乏しいが変化も十分にあり得る。
ポン ポン ドラ
2巡後ツモでテンパイ外しとする。天音が切りリーチの直後、西嶋がを引き入れてテンパイ。ピンズのリャンメンターツを払いホンイツに向かったようには見えるがテンパイ気配は出ていない。
浅見からを打ち取り12,000のアガリ。
現プロクイーン西嶋意地の一撃。日向に接近、その差は9.5ポイント。
いよいよ最終局、親は西嶋。日向奪えるのか・・西嶋守れるのか・・・
両者の配牌は以下。
西嶋
ドラ
日向
第15期プロクイーン西嶋。これが現プロクイーンとしての最後の配牌となる。
数々のスーパープレーに視聴者は引き込まれ、解説陣は言葉を失った。
独特の感性に寄り添い打ち出す牌は唯一無二のものであった。
1年前タイトルを獲得し更に大きくなってこの舞台に帰ってきた西嶋。
「誠心誠意戦います」
その言葉に偽りはなく最後まで真っすぐな戦いだった。
西嶋が玉座から降りる。そこに座るのは新クイーン日向だ。
配牌こそ横一線に思われたが両者だが日向のツモが伸びていく。
、、と引き込み4巡目に1シャンテンとし9巡目にテンパイ。
ツモ 打
ここからアガリまでが長かった。
この手をアガればプロクイーン優勝。アガリまでの数巡、日向の胸に去来する想いは・・・
対局後、日向はこう語った。
「感謝の気持ちを持つことで自分がブレないんですよ。サイコロを振るときも、ここでプレーできることにも、全てに感謝なんですよ」
感謝の想いを胸に、アガリ牌を願いツモ山に指を伸ばす、緊張か高揚か牌を打ち出す指先が震える。
「この場所に感謝しながら、いっぱい味わって、楽しんで、キンチョーして、モヤモヤして、苦しんで勝ちたいです」(対局前アンケート、原文)
テンパイから7巡後、日向は自らのツモアガリで優勝を手にした。
12回戦成績
日向+42.1P 西嶋+7.1P 天音▲32.7P 浅見▲16.5P
最終成績
日向+91.5P 西嶋+79.0P 浅見+29.5P 天音▲41.4P
「見ている人がワクワク、ドキドキしてもらえるような麻雀を打ちたいです」
日向は今後の目標としてこんなことを口にした。
今回決勝の舞台で戦いを繰り広げたプレイヤー5名は存分に視聴者を楽しませてくれたであろう。
麻雀という競技を通じて1つの目標に向かう方法論や姿勢。それはそれぞれ異なるからこそ、また時にシンクロするからこそ味わい深いものになるのではないか。
麻雀界を麻雀プロを取り巻く環境は信じられないスピードで変化していく。
活躍の場は多岐に渡り、その認知度も深まってきている。
我々麻雀プロはプレイヤーとして、今後一体どんなことが求められていくのであろう。
カテゴリ:プロクイーン決定戦 決勝観戦記