プロクイーン決定戦 レポート/第14期プロクイーン二次予選レポート 東谷 達矢
2016年08月17日
二次予選は、一次予選を勝ち抜いた25名と、シード選手23名を合わせた計48名で行われる。シード選手は以下の通りだ。
愛内よしえ(協会) 命(協会) 佐月麻理子(協会) 蔵美里(協会)
鳥越智恵子(最高位戦) 池田幸枝(最高位戦) 石井あや(最高位戦)
大平亜季(最高位戦) 日向藍子(最高位戦) 二階堂亜樹 優木美智
仲田加南 魚谷侑未 吾妻さおり 黒沢咲 安田麻里菜 和泉由希子
片倉まち 古川彩乃 優月みか 高田麻衣子 井上美里 高宮まり
愛内よしえ(協会) |
佐月麻理子(協会) |
日向藍子(最高位戦) |
大平亜季(最高位戦) |
石井あや(最高位戦) |
二階堂亜樹 |
和泉由希子 |
高宮まり |
魚谷侑未 |
黒沢咲 |
優木美智 |
吾妻さおり |
現タイトルホルダー、歴代プロクイーン、そして前年度ベスト16などの面々ということもあり、錚々たるメンバーである。総勢48名から先へ進めるのはたったの11名。通過率わずか20%強である。一次予選より更に激化を極める二次予選は毎年若手にとっての鬼門となっている。果たして、誰がベスト16へと駒を進めるのだろうか。
システムは4回戦終了時に8名が途中敗退、5回戦終了時に同じく8名が途中敗退、そして残りの32名で最終六回戦を戦うことになる。
いかなシード選手と言えども、容易に勝ち残ることはできない。歴代プロクイーンの石井や黒沢、更には大平や和泉、高宮などらが、最終戦へと進めず途中敗退となってしまった。
そして残った32名により行われる六回戦全8卓、ここから戦いの激しさはピークを迎える。各卓ごとに紹介していきたい。
1卓(命+112.5P、優月+26.1P、青山+22.2P、朝倉▲20.6P)
命は、3回戦には劣勢の場面から国士無双をアガリトップを、また5回戦には3着目からオーラスにアガリトップを取るなど、1日を通して力強さを見せてきた。既に通過はほぼ確定。一方、優月と青山めぐみはトップが、朝倉ゆかりは80,000点を超えるトップが必要である。
南3局、優月と青山は勝負所を迎えていた。
優月
ドラ
青山
両者ともにリーチを掛けてのぶつかり合い。現状朝倉がトップ目であるが、優月も青山もこの局アガることができれば二次予選突破が見えてくる。
優月は昨年ベスト16で敗れた悔しさを昨日のことのように覚えているだろうし、若手の青山にとっては今この状況を迎えていること自体が大きなチャンス。ここで負けたくない、その思いゆえか、双方ともに牌山に伸ばす手に力が入る。
ツモって切る。ただ、それだけの動作だが、その繰り返しは無限の時間のように感じられ、2人の胸は爆発寸前だっただろう。だが、どこまで進んでも両者のツモ筋に互いの和了牌は眠っていなかった。
流局。落胆したと同時に、放銃に回らずほっとしたという思いもあるだろう。次にアガればいい、そう思っていただろう。
しかし、ここから状況は一変する。台頭したのは第18期マスターズファイナリストの朝倉。優月と青山が割り込む間もなく、ひたすらアガリ続けた。上乗せすること40,000点、誰も止めることができない。このまま通過ラインまで突き抜けるのでは、そう思われたが、朝倉の健闘もあと一歩が出ず、ここまで。
結局勝ち上がりとなったのは命、ただ一人だけだった。
2卓(福島+100.5P、東城+32.2P、佐月+20.3P、古川▲18.6P)
福島清子は一次予選に引き続き、二次予選でも安定感を発揮した。通過はほぼ確定。
一方の東城りおは、3連勝スタートを果たすもそこから失速し、現在の位置につけていた。
東城が通過する為には、トップ、又は40,000点前後の2着が必要となるだろう。
その東城が序盤から走った。東3局の時点で既に45,000点もの点数を持っており、追随するものもいない。協会の現女流雀王、佐月や昨年ベスト8進出の古川にとっては厳しい状況となっていた。
そして状況はほぼ変わらず、南場に突入。東城は残り4局を福島と共に流すことができればそれで通過できる。
だが、そこに親番を迎えた佐月が立ちはだかった。
リーチの発生と共にを河に置いた。
東城は一瞥するとそのに反応。
チー ドラ
一発を消し、両面待ちのテンパイ。更には自身でドラを2枚使っていることを考えれば、鳴かない理由を探す方が難しい。
東城の目からはリーチを掛けた佐月の打点は読みづらい。そして、余程いい待ちでテンパイしていない限りは福島も古川もオリるであろう。そう考えれば、前に出られるのは自分だけ、ある程度押す価値はある、東城はそう考えていたに違いない。
両者のツモ切りが続く。ここをアガれば、アガれなくとも流局してくれれば、東城はそう思っていたはずだ。
だが、
ツモ ドラ
アガったのは佐月。
更には裏ドラが2枚乗り8,000オール。
まさに佐月渾身の一撃が決まった。東城の表情は揺れない。ただ、その心は揺れていないはずが無かった。
まだ終わったわけではない。点差はわずか数千点。そう自身に言い聞かせたに違いない。それでも東城は佐月を超えることはできなかった。
佐月は5回戦でも敗退の危機から70,000点を超えるトップで勝ち上がりの可能性を残した。更には最後の親番でこのアガリ。誰もが同じテンパイ形に組めるような手順ではなかった。
その力を如何なく発揮した佐月は、そして再逆転には至らなかったが東城は、両者共にトータルポイントを40ポイント台に乗せ、別卓の結果を待つこととなった。
一方、福島は初めてベスト16への切符を手にした。
3卓(片倉+86.7P、足木+36.6P、池田+18.4P、冨本▲17.9P)
片倉は3回戦のオーラスに
ロン
この倍満を決めるなど、攻撃力に特化した打ち筋を見せ、同卓者を圧倒してきた。
さしもの片倉も最終戦は無理をしなかった。代わりに、トップが欲しい他3者の戦いが南場に入り動き出した。
冨本智美がリーチ
このリーチに、手を止めさせられたのは池田。池田はトップを取ることを前提としたとしても、持ち点が40,000点は超えていないと厳しい。そして今局が最後の親番。行くか、引くか、考えた末に導かれるように(9)を河に置いた。無常にも一発に裏ドラが付き、満貫の放銃となってしまう。池田の戦いはここまでとなった。
そして、アガった冨本が親番を迎える。
熱が高まってきた冨本は更に先制のリーチ。
冨本もここが最後の親番。全員に降りてほしい、そう思っていただろう。ダブを仕掛けている足木も現在、33,000点持ち。親に対して無理に押す必要もない状況だった。
しかし、足木は止まらない。持ってきた牌を見て考えたのは一瞬。間四軒と呼ばれる危険牌をいとも簡単に捨てた。
親が落ちれば終わる。降りてくれ。冨本はもう一度そう思っただろう。
だが、
チー ポン ロン
2,000。だが、冨本にとっては希望を絶たれる重い2,000点だった。
そして、こうなれば、足木の歩みを止めるものはいない。
チー ロン
片倉からこの5,800。
更に1本場でも加点。この半荘のトップを磐石のものとした。
足木は、3回戦を除けば東場に先行することはほとんどなかった。でも、最後まで諦めない。その気持ちが手を呼び、何度も逆転しプラスを重ねてきた。
嬉しい、初のベスト16入りを、片倉と共に決めた。
4卓(日向+77.3P、池沢+36.7P、鳥越+15.9P、井上(美)▲17.7P)
オーラスを迎えた各者の持ち点は、井上38,700、日向20,100、鳥越34,400、池沢麻奈美26,800。この最終局面において、4者全員が勝ち上がりと敗退の両方の可能性を秘めているというのは珍しい。井上は現状、ポイントは足りていないが、親番の為チャンスはどこまででも続く。そして、池沢はトップを取れば磐石、2着ならば別卓次第。鳥越はトップが必要条件で、後は素点をどれだけ上乗せできるか。日向はアガることができれば問題なさそうだが、失点に回ると危ない、そのような状況となっていた。
親番を続けるしかない井上は、早々に仕掛けを入れ、ファーストテンパイ。
チー ポン ドラ
そして、最低でも満貫条件である池沢は、条件をクリアする手を作り上げた。
ドラ
井上から出アガる、又はツモならばトップ。井上以外からの出アガリでも2着。更にはこの待ちがあまりにも優秀であった。山にごろごろ眠っていそうで、かつ日向以外が掴めばほぼ間違いなく出るだろう。
井上はオリるわけにはいかない。鳥越も井上に任せる手もあるが、自身の手牌に見込みがあれば前に出るはずだ。そして、困ったのは日向だった。
池沢のリーチから数巡が経過し、手が止まる。何度も河を、そして全員の点棒状況を確認する。
日向視点だと、まず一番放銃していけないのが、満貫以上と容易に想定できる池沢だ。次いでテンパイしているかわからないが鳥越。かといって、親の井上に放銃した場合、もう一局は約束されるものの、高打点だった場合に致命傷になりかねない。
日向は時間を使った。この1巡を凌げば安牌が増えるかもしれない。そして、選んだ牌は池沢の現物の、であった。
しかし、無常にもは通らなかった。
ロン ドラ
声の主は鳥越。日向にとっては痛恨の5,200となった。思わず頭を抱えうな垂れる。
一方の鳥越は、トータルポイントを考慮するとリーチを掛けたくなるが、リーチを掛ければ日向が八を切る可能性がぐっと減る為、トップを取ることに重きを置いた。その選択が功を奏し、トータルは40ポイント台へ。日向も同じく40ポイント台となってしまい、2人は他の卓の結果を待つこととなった。
5卓(井上(絵)+75.4P、二階堂+37.3P、愛内+13.5P、稲岡▲15.3P)
稲岡は連盟関西本部からの声援を担っていた。地方は結束力が強いと言われるが、それは決して馴れ合いをしているわけではない。普段は地方リーグやタイトル戦のライバルであり、切磋琢磨しあう関係だからこそ、その仲間が中央で戦う際には自分のことのように応援できるのだ。稲岡は簡単に負けるわけにはいかなかった。その思いに牌が呼応するようにアガリ続けた。
稲岡が走り、トップが必須の愛内は苦しい。井上絵美子は貯金があるので逆らわずに、流れに身を任せていた。放銃せずにラスを回避さえすればいい、徹底していた。両者が前がかりにならないので、このまま稲岡が突き抜ける可能性は大いにあった。しかし、そこに卓上の舞姫、二階堂亜樹が立ちはだかる。
二階堂は、稲岡が50,000点を超えようと、自身の点数が20,000点を下回ろうとまるで動じなかった。これまで彼女が積み上げてきた年月が、他の者であれば苦境と感じる場面を苦境と思わせないのだ。
いつもと変わらぬ手組み。焦らずじっくり手を育てていた。チャンスを待ち続け、その時が来るやいなや、一瞬で射抜いた。気づけば、稲岡を打ち落とし、その持ち点は30,000点を超えていた。
親番を失った稲岡は愛内と同様厳しくなった。迎えたオーラス、親の二階堂は、まだ足りないとばかりにリーチを放つ。
ドラ
リーグ戦ならばヤミテンにしてもおかしくない手牌であった。トータルポイント的にも打点としては5,800あれば十分であった。
しかし、それでも二階堂はリーチを打った。リーチを打てば井上は前に出られない。全員にオリてもらい、その間に悠々とツモればいい、そう思ったのだ。
しかし、目論見通りに3者をオロすことには成功したものの、アガリ牌はツモ筋にはいなかった。次局も流局。惜しくも勝ち上がりを確定させることはできなかった。
ただ、ポイントを40P台に乗せ、他の卓の結果を待つことになった。
一方の井上はきっちりとポイントを守りきることに成功。ここでベスト16進出を決めた。
6卓(山脇+72.3P、吾妻+40.2P、元島+13.2P、魚谷▲4.8P)
大きめのトップが必要な元島明子が走ろうとすると、ポイントを守りたい山脇千文美と吾妻がそれを止める。開始時点では吾妻の+40.2Pがボーダーの為、吾妻としては2着以上で終え、トータルポイントを加点させなければならなかった。
細やかなアガリを重ね、36,000点に到達。並び的にも山脇との協力体制を築くことができれば終わる、はずだった。
6,400。吾妻がを河に置いた後、元島が手牌を倒し、点数を申告した。吾妻はそのアガリ形を食い入るように見、そして頷きと共に点棒を元島の前に置いた。
後一歩の所で。でもまだ終わっていない。今にもそう聞こえてきそうな表情を浮かべていた。
そして親番を迎えたのは魚谷。
この時、魚谷は逆転が難しいことを自覚していたはずだ。いかな数々の逆転劇を演じてきた魚谷と言えども、現実的な条件を前にした3人を相手にひたすら連荘をし続けることは難しい。
しかし魚谷は決して諦めない。それが自分の為であり、同卓している3者の為であり、必死で戦っている他の卓のライバル達の為であり、そして彼女を応援する人達の為であることを知っているからだ。
魚谷はいつもと変わらぬ声でアガリ、そして本場を積む。
元島も吾妻もまだ目は活きている。
だが、静かに終焉の時は近づいていた。
チー ロン
3人に引導を渡したのは、アドバンテージを得てからは無類の強さを見せる山脇。自力でベスト16進出を決めた。
7卓(安田+65.7P、高田+52.1P、仲田+12.2P、桜川▲3.1P)
開局直後、いきなり場が動いた。3,000・6,000、覇気に満ちた声で点数を申告したのは仲田だった。このアガリで仲田のトータルポイントは開始時ボーダーラインに肉薄。ポイントを守りにくる安田と高田が同卓の為、このまま突き進むかに思えた。
だが。
9巡目に安田がリーチ。そして、次巡、仲田が河に放ったにロンの声が掛かる。
もし、この声の主が安田であれば、もし、手牌を倒したのが高田であれば、仲田は表情を崩すことはなかっただろう。
誰もが声には出さなかった。ただ、桜川姫子が手牌を倒すと、空気が微かに揺れた。
ロン
32,000。この局地でこの手を引き寄せる桜川もまた、選ばれた人間なのかもしれない。
一方、仲田にとってはとてつもないダメージを追うこととなってしまった。リーグ戦ならともかくタイトル戦で、しかも追う側で安田のリーチのケアをしながら、国士のケアもし、そして自分の手を進める。そんな芸当は誰にもできない。誰にも仲田の9放銃を責めることはできまい。それに、百戦錬磨の仲田はこの程度で参るほど柔ではない。
ただ、逆風となったのは点棒を失ったことだけではなかった。先程までは安田と高田が同卓していることが有利に働くはずだったのに、今度はそれが大きな障害となる。
安田と高田の2人にしてみれば、桜川が突き抜けることは問題なく、いかに自身が2着を取るか、それだけを考えればいいのだ。仲田がビハインドを追っているこの状況は2人にとっても絶好の展開であり、仲田に高打点を、そして親番で連荘させる時間を与えない。
大きな点棒の動きもなく、あっという間にオーラスを迎えた。最後の親は仲田。
各者の点棒状況は、仲田6,600、桜川65,000、高田25,100、安田23,300。
このまま終われば高田も安田も通過であろう。だが、事はそう単純ではなかった。
まず安田、このまま終わってもよいが、ボーダーが急激に上がる可能性を考えれば、高田を捲くり2着で終えるのがベスト。もし仲田が連荘し、ラスになってしまえば敗退の可能性が一気に高くなる。安田は自力で決着をつけにいくだろう。
そして高田、安田に2着を譲ってしまうと、自身の敗退の可能性が極めて高くなる。安田がアガリにくるならば、決して安穏とはしていられない。桜川が終わらせてくれれば良いが、もし桜川に2,000点以上放銃するとアウトだ。高田もまた、自身で決着をつけにいかなければならなかった。
桜川はボーダーライン付近、少しでも加点したい。仲田は連荘が必須。わずかなミスも許されない、そのようなオーラスとなっていた。
まず最初にテンパイを果たしたのが安田。
チー チー ドラ
ドラ2枚持ちの3,900。高田にとっては最悪の状況となった。もし安田がアガリの宣言をすれば、その時点で高田の敗退となる。
だが、2フーロさせた高田も決して遅いわけではなかった。3巡後、この手で追いつく。
ドラ
当然のヤミテンで気配を消す。いや、安田を鳴かせ、危険牌をも切っている為、気配は消せていないが、リーチ棒を出す必要もまたなかった。
果たしてどちらが勝つのか。はたまた仲田や桜川がアガるのか。
流局間際、決着は着いた。
ツモ ドラ
アガったのは高田。これで安田と共に勝ち上がりを決めた。
そして国士をアガった桜川はトータルポイント40ポイント台で着地。他の卓の戦況次第となる。
8卓(白田+62.6P、西嶋+56.9P、齋藤▲0.2P、北野▲2.7P)
齋藤麻衣子と北野由実は大きなトップが必要。一方で白田みおと西嶋ゆかりは大きな失点をしなければいいので、ラスを避け、可能であれば2着以上を目指す戦いとなる。
とにかく誰もが序盤に叩けるだけ叩きたい、そう思っていたはずだった。
そんな中、イニシアチブを取ったのは北野。瞬く間にアガリを重ね、点数を50,000点台に乗せる。
こうなると、齋藤は厳しい。そして、白田と西嶋は1人しか生き残ることができないことになりそうだ。
白田は一次予選からここまで一切崩れることはなく、11半荘中連帯を外したのはわずかに1回、そしてラスは一度も引いておらず、圧倒的な安定感を誇っていた。
一方の西嶋は対象的に、二次予選の5半荘で20,000点~40,000点の点数で終わった半荘が一度もない。失点する時も大きいが、得点力もまた圧倒的であった。
矛と盾がぶつかり合う時、持久戦になることはない。ぶつかり合う瞬間、相手を上回った方が相手を粉砕する。今回、白田と西嶋のぶつかり合いは西嶋が上回り、そして勝ち上がりを決めた。
そしてオーラス、北野の持ち点は59,400点まで到達していた。北野はこのオーラスで更に5ポイント上乗せすることに成功している。トータルポイントを40ポイント台に乗せた北野。果たしてこの5ポイントがどう影響したのだろうか。
かくして、全8卓による激闘が終わりを迎えた。だが、安堵の表情を浮かべているのは一部。勝ち上がりを決めたもの以外は集計結果を聞くまで気が気でないだろう。トータルポイントが40ポイント台の各者のポイントはこのようになっていた。
日向+47.2P、北野+46.7P、桜川+46.5P、二階堂+46.5P、佐月+45.3P、東城+42.0P、鳥越+41.5P
果たしてどこまでが通過ラインなのだろうか。
集計が終わると、立会人にその場に残る全員の視線が注がれた。そして、立会人の口からボーダーが発表された。
「+46.7P」
歓声が上がった。北野までが通過。そして、桜川と二階堂はわずか200点に泣くこととなってしまった。
通過の喜びを全身で表現する者、感極まって瞳を潤ませる者、できることはすべてやったとばかりに晴れやかな表情を浮かべる者、そして今にも嗚咽の声が漏れんばかりの表情でうつむく者、反応は皆それぞれだった。
だが、それでも全員に共通している思い、それはこのプロクイーンにかける思い、である。
そこに価値があるからこそ、自分の全てをさらけ出すに値するからこそ、喜怒哀楽が理性を飛び越えて表に出てしまうのだ。
6半荘の激闘の末、数百点差、数千点差が勝ち上がり者と敗退者を分けた。あそこでああしていれば、あそこで違う結果になっていれば、ドラマがたくさんあるからこそ、観戦する者も戦った者も過去に思いを馳せる。だが、それでも出た結果は変わらない。勝ったものは更なる夢を思い浮かべ次のステージへ進む、そして敗者は心の中にしこりを残し、また日常へと帰っていくのだ。
片倉「2年連続のベスト16進出。次こそは決勝へ進みます」
山脇「B卓になったので、A卓の対局日は旅行に行きリフレッシュしてきます。万全の状態で挑みます」
西嶋「ベスト16の対局は、緊張して吐きそうになるかもしれません。でも精一杯がんばります」
命「去年の悔しさは今でも覚えています。今年こそは勝ってみせます」
福島「嬉しくて泣きそうです。ベスト16もがんばります」
足木「夢みたいです。苦境に立たされても最後まで諦めない気持ちが大事だと、今日は本当に実感できました。ベスト16もがんばります」
井上「D卓はA卓と比較して時間の猶予があるので、しっかり勉強と準備をして本番に臨みます」
高田「今年もまたベスト16で宮内さんと当たります。どれだけ成長できたのか、去年と違う自分をぶつけられるよう精一杯がんばります」
安田「久しぶりに(ベスト16に)残りました。奪取できるようにがんばります」
日向「プロクイーンベスト16に残ったのは初めてです。この対局を楽しんで、自分自身気持ちで負けないようがんばります」
北野「ベスト16、少しでもいい麻雀を打てるようがんばります」
……そして、全てが終わった後、二階堂がポツリと立会人の1人に向かって呟いた。
「あのリーチ、ダマだったのかな」
また、別の場で東城はこう言った。
「あのスルーする手はあったのかな」
これだけを見れば、たらればを言っても仕方がない、そう感じる人もいるかもしれない。確かに、二階堂にしても、東城にしても、今彼女達が持っている雀力から変わらない状態で同じ局面に出会ったら、まったく同じ選択をするだろう。そして、そうしてきたからこそ勝ってきた対局も山ほどあるのだ。
ただ、そんなことは彼女達もわかっている。では何でそう呟いたのか。
将来の自分の血肉とする為、である。
正しいと思っている選択と別の道筋も検討する、それを繰り返すことで視界が一気に開けることもあるのだ。
負けた者は誰も見ていない所で涙し、そしてまた歩みだすのだ。いつの日か、将来の自分がトロフィーを掲げることを夢見て。
第14期プロクイーンベスト16
A卓:茅森早香(最高位戦)、西嶋ゆかり、北野由実、命(協会)
B卓:和久津晶、山脇千文美、福島清子、日向藍子(最高位戦)
C卓:大里奈美、安田麻里菜、片倉まち、足木優(最高位戦)
D卓:二階堂瑠美、宮内こずえ、井上絵美子、高田麻衣子
カテゴリ:プロクイーン決定戦 レポート