九州プロリーグ レポート/第17期皇帝位決定戦 二日目(最終日)
2017年03月10日
皇帝位決定戦二日目。
昨日も今日も、差し入れを片手に会場に足を運んでくれた一般の方がいた。
九州リーグにもずっと参加してくれているのだが、日頃からとても熱心で、麻雀に対する気持ちが強いのが感じ取れる。
そして、毎年必ず皇帝位戦を最初から最後まで観戦してくれる。
私はとても嬉しかった。
九州本部を支えてくれているのは、こういう方々なのだと思う。
選手が集まってきた。
昨日の疲れなどまったく感じさせない、4名の対局者。
今日で今期の皇帝位が決まるんだ…そう思うと、何故だか私がドキドキしていた。
5回戦開始時
浜上 +55.8p 塚本 +48.2p 安東 ▲17.3p 中尾 ▲86.7p
5回戦(起家から浜上、安東、中尾、塚本)
東1局0本場 親浜上 ドラ
塚本、8巡目に以下の牌姿。
塚本
ここで決めてしまうかと思った。
しかし、12巡目に表示牌のが浜上から打ち出される。
これを塚本がポン。
とのシャンポン待ちでテンパイ。
そして13巡目に浜上が打ち出したを安東がポン。
安東
ポン
浜上は一手変わり345の三色のピンフテンパイ。
浜上
開局から三者がぶつかる形となった。
15巡目、安東からを打ちとったのは塚本。
ポン ロン
2,600のアガりとなった。
安東は本来自身のツモであったを食い下げられ、結果は放銃。
開局のこの一連をどう感じただろう。
東3局の中尾の猛追は、とても彼らしかった。
5本場まで積み棒を増やし、持ち点を43,800まで伸ばす。
後手を踏んでも最後まで諦めず、果敢に攻める姿勢は本当にかっこよかった。
私は、この中尾の姿が見たかったのだ。
この皇帝位戦を迎えるために、中尾は自分をかなり追い込んでいた。
攻め込むスタイルの彼は、打っても打っても前に出る強さがある。
それは、日頃の訓練により培ったものなのだと思う。
南3局の親番も3本場まで積み、64,500の大きなトップ目に立つ。
もう後がない…この崖っぷちの状況で、優勝することだけを目標に戦い抜くと決めていたのだ。
その中尾の後を浜上がついていく。
無茶はしない、けれども簡単には諦めない。
配牌を見てまず守備を考えるといつか話してくれたことがあった。
あがりに向かいながらも、常に受けることを考える。
それを浜上は毎局やっているのだと思うと、並大抵の練習量ではないはずだ。
彼の前で、「私は努力しています」だなんて、口が裂けても言えない。
このまま中尾がトップを守りきり、浜上は最後までしっかりついていき浮きをキープ。
5回戦成績
中尾 +40.1p 浜上 +5.2p 塚本 ▲12.9p 安東 ▲32.4p
5回戦終了時
浜上 +61.0p 塚本 +35.3p 中尾 ▲46.6p 安東 ▲49.7p
6回戦(起家から安東、中尾、塚本、浜上)
浜上が東1局の1本場7巡目に、純チャン三色ドラをテンパイ。ヤミテンを選択。
浜上
ロン
次巡、中尾からあたり牌であるが打ち出される。
12,000は12,300のあがり。
このアドバンテージはとても大きい。
東2局0本場 親中尾 ドラ
2巡目、チャンタが見える配牌から安東が早々とカンを仕掛ける。
そして中尾も5巡目にカンを仕掛けタンヤオにむかい、誰よりも早くカンで聴牌をいれる。
安東は2フーロして10巡目のシャンポン聴牌。
そんな中、塚本から「ツモ」の発声。
ツモ
3,000/6,000の大きなあがりをものにする。
牌譜を見て、私はとても驚いた。
塚本の配牌
ここから3回のツモ切りを除き全て有効牌を引き入れ、9巡目にテンパイしたのだ。
仕掛けるという行為は、時に残酷な結果をもたらす。
これはあくまで結果論だが、紛れもない事実。
この配牌を9巡の間で、2人の仕掛けによってハネ満の手に進化させたのだ。
東4局0本場 親浜上 ドラ
親の浜上の配牌
打、次巡を引き入れて打。
浜上の河はとなる。
5巡目、上家の塚本からを仕掛け、テンパイ。
チー ロン
下家の安東が同巡を放銃。
浜上は12,000をアガる。
2巡目の打がなければ、この早いアガりはなかったかも知れない。
こういう手順を、この二日間で何度も見た。
私が一番勉強になったなと思うのが、浜上、塚本の染め手を作る際の手順だ。
ホンイツの手組に関して言えば、浜上と塚本は同じ思考だ。
「最終目標はテンパイではない、アガること。それならば、出アガりの可能性を1%でもあげる、アガりに必要な仕掛けをさせてもらえる河をつくることも大切。」
リスクももちろんある。
それは承知の上で、テンパイではなくアガりへの最善を尽くしているのだ。
浜上が一歩リードした点棒状況の中迎えたオーラス。
塚本
ロン
7,700は8,000を中尾から出アガり、トップで終了。
このトップはとても大きい。
浜上は一抹の不安を覚えたに違いない。
6回戦成績
塚本 +23.9p 浜上 +17.3p 中尾 ▲10.7p 安東 ▲30.5p
6回戦終了時
浜上 +78.3p 塚本 +59.2p 中尾 ▲57.3p 安東 ▲80.2p
7回戦(起家から中尾、塚本、浜上、安東)
開局早々、塚本が5,200、5,800と出アガりトータルトップ目に立つ。
東1局 南家 塚本
リーチ ロン ドラ
東2局 東家 塚本
ポン ロン
そして東3局、東4局共に1,300/2,600を力強くツモあがり、持ち点が47,400となる。
南1局0本場 親中尾 ドラ
ここで、浜上が勝負にでる。
今皇帝位戦で、初めてリスクを背負った立直を打つ。
絶対おりないであろう中尾の親番で、役牌シャンポン待ちのリーチ。
まだ親番もあり24,000持っている浜上が、このリーチを打つイメージはなかった。
だが、ここはリーチを選択。
今まで慎重に戦っていた浜上が、リスクを背負ってでも戦わなければいけないと判断したのだ。
中尾と浜上の2人テンパイで流局したが、浜上の意思を感じる1局だった。
同1本場、中尾が6,000オールをツモアガる。
ポン ポン
中尾も、まだ諦めるわけにはいかないのだ。
安東
安東はずっと苦しい展開だった。
勝負手もなかなかアガりに結びつかず、アガれたとしても次に繋がらない。
流れを変えようと果敢に仕掛けてもアガれず。
リーグ戦ならば耐えられるが、今日優勝者が決まるというこの日に、まともに戦わせてもらえないのは本当に苦しかったであろう。
南3局、塚本は1巡目から果敢に仕掛けてアガりにむかう。
塚本
ポン ロン
そして7巡目に中尾から1,000を出アガり、浜上の親を自力で落としにいったのだ。
その局、自分が何をすることが最善なのかがわかっていないと、普段軽い仕掛けをしない彼が1巡目からポンの声を出すことは出来ないだろう。
そういったプランニングを、最初から最後まできっちり出来ていたのは塚本だった。
並びが出来た今自分がしなければいけないことは、浜上にラスを押し付けること。
そうすることで、最終戦追いかける立場から追われる立場に変わる。
この違いは大きい。
塚本の狙い通り、7回戦は塚本がきっちりトップをとり、浜上は痛恨のラス。
あと1回というところで、塚本が浜上の上に立った。
7回戦成績
塚本 +15.0p 安東 +9.4p 中尾 ▲8.1p 浜上 ▲16.3p
7回戦終了時
塚本 +74.2p 浜上 +62.0p 中尾 ▲65.4p 安東 ▲70.8p
最終戦(起家から浜上、中尾、安東、塚本)
泣いても笑ってもあと一回。
対局者達の表情からも、もう余裕は感じられない。
会場にはたくさんの観戦者が集まっていた。
皆、麻雀の楽しさも苦しさもわかっている九州本部の仲間。
4人の戦いを最後まで見守ろうと、こんなにもたくさんの方が集まってくれた。
連盟の規定により、最終戦の座り順は暫定2位の浜上が起家、暫定1位の塚本が北家。
2人のポイント差は12.2p。
ポイント状況的に、塚本と浜上の一騎打ちとなりそうだ。
いよいよ最終戦が始まる。
開局からドラマがあった。
東1局0本場 親浜上 ドラ
先にテンパイを入れたのは塚本。
7巡目にとのシャンポン待ち、なら出アガり出来る。
そして次巡を引き入れ、打でリーチ。
塚本
塚本は自分で浜上の親をおとしにいったのだ。
字牌が簡単に出てくる場況でもなく、自分で戦うのならば、リャンメン待ちでのリーチが最善だと判断した。
しかし浜上も黙っていない。
9巡目、タンピン高めイーペーコーの形でテンパイ、そしてリーチ。
浜上
浜上にとっても、塚本から直接点棒を奪えるチャンス。
2人ともツモる手に力が入る。
塚本が自身で2枚使っているを掴み5,800放銃。
1局で順位が入れ替わった。
続く東1局1本場、13巡目に塚本がをポン、ドラの単騎のテンパイ。
塚本
ポン
しかしすぐ初牌のを掴まされてテンパイを崩す。
七対子のイーシャンテンだった浜上は最後のツモでテンパイ、を勝負してドラ単騎のテンパイ。
この局は浜上の1人テンパイとなる。
浜上
東2局、塚本が1,300/2,600をツモあがり、差を縮める。
そして迎えた東4局1本場 親塚本 ドラ
この時点での2人の点棒状況は浜上35,600塚本26,200。
塚本は7巡目七対子のイーシャンテン。
塚本
10巡目に安東が打ち出したをポン。
11巡目に浜上から打ち出されるをポン、とのシャンポン待ちテンパイ。
塚本
ポン ポン
浜上も13巡目にテンパイしヤミテンを選択。
浜上
同巡、安東からリーチ。
安東
ここでも三者がぶつかる。
見ている者も、固唾をのんで見守る。
ここでアガりをものにしたのは浜上。
を力強くツモり、500/1,000は600/1,100のアガりとなる。
南1局0本場 親浜上 ドラ
浜上が10巡目にリーチ、見事ツモアガり2,000オール。
持ち点を44,900まで伸ばし、塚本との点差は26.8P。
そして迎えた南1局1本場 親浜上 ドラ
浜上
ドラが対子のこの配牌を見て、これを決めれば浜上の優勝が決まるのではと思っていた。
12巡目、安東からリーチが入る。そのときの宣言牌は。
これを浜上が仕掛け、カンの聴牌。
ポン
しかし、この局面で安東がリーチをしてくるということは、高打点の可能性が高い。
実際安東はツモり四暗刻のリーチだった。
安東は二日を通して本当に苦しい展開だった。
耐えて耐えて、それでも浮上のきっかけは掴めず。
そんな安東の、渾身のリーチだった。
そして、浜上を追いかける塚本も三色のテンパイ、ここは勝負とリーチ。
塚本
リーチ
浜上がをツモり打で待ちかえ、次巡ツモは裏目のツモってくる。
このアガり逃しは浜上に危険を知らせてくれていたはずだった。
しかし、安東のロン牌であるをツモ切り、12,000は12,300の放銃となった。
本来、安東のツモであったを食い取り、放銃してしまう結果。
追いかける立場ならまだしも、この放銃は罪が重いと、後に浜上が語ってくれた。
7回戦まで我慢のきいた麻雀を打っていただけに、このは私もとめてほしかった。
しかし、翌日浜上のいう言葉を聞いて、やはり彼は素敵な打ち手だと感心した。
「あのを、九州本部を引っ張ってきた自分が打つなんて許されない。今まで競技麻雀を打ってきた中で、一番ひどい放銃をした。観戦してくれている皆に、こんな麻雀を見せたかったんじゃない。」
彼が背負うものは、私が想像しているものなんかより何倍も、何十倍も大きい。
十数年、彼は九州本部に身を捧げてきた。
だからこそ、こんなセリフが言えるのだろう。
私はやはり九州本部が、そして浜上が大好きだ。
最終戦が始まる前から、私はすでに泣きそうになっていた。
叶わないとわかっていながらも、皆に優勝してほしいと願ったりもした。
見ている私がこんなにも苦しいのだ。
対局者は想像をはるかに超える苦しみの中、戦い抜いたのだ。
そして迎えたオーラス1本場(R1) 親塚本 ドラ。
各自の持ち点は
浜上31,600 中尾21,200 安東41,100 塚本25,100
あんなにあった点差は、6,500点差にまで縮まっていた。
トータルポイントは、浜上が2.3p上をいく。
塚本はテンパイ必須、浜上はアガれば優勝が決まる。
塚本のリーチを受け三者はおりる。塚本1人テンパイ。
塚本
リーチ 流局
続く2本場、トータルポイントで塚本が浜上を捲くり、0.7p上に立つ。
しかしテンパイしてないと、浜上がテンパイしていたら負けてしまう。
ここも塚本が意地を見せ、1人テンパイ。
3本場、ここへきて浜上の条件が厳しくなる。
浜上29,600 中尾19,200 安東39,100 塚本30,100 供託2.0
ツモアガり、塚本からの出アガりは無条件優勝、中尾からは7,700以上、安東からは3,900以上の点数が必要。
そして、浜上1人テンパイでも塚本の優勝という条件。
浜上の上家に座る塚本も、苦しさのあまり顔を歪ませる。
塚本と浜上の「苦しい、勝ちたい」という心の声が会場いっぱいに広がる。
観戦者の「頑張れ」という心の声も会場いっぱいに広がる。
浜上はテンパイすることなく、全員ノーテンで第17期皇帝位決定戦は幕を閉じた。
最終成績
優勝 塚本 +78.3p
2位 浜上 +57.6p
3位 安東 ▲53.7p
4位 中尾 ▲84.2p
塚本が優勝者インタビューでこう語っていた。
「昨年、やるべきことをやれずに準優勝だった。今年は自分のやれることを全てやって、ようやく先輩方に追いつくことが出来ました。」
対局者をリスペクトしているからこそ、自分の全てを使って戦い抜き、見事優勝を勝ち取った塚本。
本当におめでとうございます。
そして、対局者の皆さん。
二日間お疲れ様でした。
一番近くでこの皇帝位決定戦を見届ける役目を私にさせてくれて、ありがとうございました。
皆さんの戦う姿は、とてもかっこよかった。
この二日間のことは、絶対に忘れません。
拙いこの観戦記を見て下さった皆さんにもお礼を言わせて下さい。
本当にありがとうございました。
日本プロ麻雀連盟 九州本部 吉田 彩乃
カテゴリ:九州プロリーグ レポート