第13期九州皇帝位決勝戦二日目レポート
2013年03月25日
■7回戦(起家から、東谷・西原・浜上・藤原)
初日を終え、選手はどのような気持ちで眠りについたのだろう。
ひょっとしたら、眠ることすら困難だったのかもしれない。
それぞれの1年間の想いが濃縮された日の朝、初日を全力で闘ったという意味ではベストとは言えぬ身体を太陽の光が優しく包み込む。今日で皇帝位が決まるのだ。
2日目初戦の7回戦は東2局、最終日も東谷(西家)の華麗な1,300・2,600ツモアガリからスタートする。
ポン ツモ ドラ
東谷は3巡目にをツモってきた場面、
ツモ 打
ここで打とする。やを抱えているのは、構想にホンイツを入れているからである。の孤立牌よりターツの方が部分だけみれば優れてるわけだが、東谷の打点も踏まえた構成では後にターツを打ち出していくのを理想としていた。よってここでソーズや孤立字牌に手をかけず、更にはカンチャンの受けが残る打でもない打としたのは、私としては素晴らしいの一言。このように、アガリの完成形だけでは解らぬところに打ち手の意志が垣間見える。
東3局、今度は初日トップで終えた藤原にアガリが出る。
リーチ ロン ドラ
東場を終えて、ポイント下位の浜上と西原が共に沈んだ状態で南場入り。2人にとっては苦しい展開となるが果たして・・・・
南1局、浜上(西家)がアッサリ2,000・3,900をツモる。
ツモ ドラ
浜上はピンズをとしか切っておらず、もしこれがリャンメンに振り替わっていたらリーチをしていただろう。しかし初日とは違い、あっさりアガリ牌を引き当てるあたり、本人は小さな変化、もしくは風のようなものを感じただろうか?
南3局、これに呼応するように西原が連続でアガリを決める。まずは以下、
リーチ ツモ ドラ
次のアガリはオーラス、各者の持ち点は、
東家:藤原 29,700
南家:東谷 26,600
西家:西原 25,500
北家:浜上 38,200
こうなっている場面。
藤原がドラ色のソーズホンイツに走る中、東谷と西原がぶつかった。まずは西原が11巡目にテンパイを入れ、続いて東谷が15巡目に意を決しリーチ。
西原 ドラ
東谷 リーチ
西原は、親の藤原がを持ってきたら出ると読んでいる。また、巡目が深くなったこともあり、ソーズをどこまで打ち出すのかも相談しながら、必死に気配を殺してヤミにしている。東谷は捌くだけなら違う手組みやヤミの選択も出来た訳だが、本人にそんな気は更々なかった。ラスを覚悟した上での、ハイリスク・ハイリターンを狙う。そして、東谷がリーチをした巡目に、西原のところにが舞い降りた。これによりトータルポイント下位2人のワンツーで2日目がスタートする。
晴天のまぶしさの中、商売っ気に溢れた街の一角で、
密かに上位2名には暗雲が立ち込めた・・・・。
7回戦成績
浜上+14.2P 西原+8.4P 藤原▲8.2P 東谷▲14.4P
7回戦終了時
藤原+58.7P 東谷+24.2P 西原▲41.4P 浜上▲41.5P
■8回戦(起家から、浜上・西原・藤原・東谷)
まずは東2局、藤原(南家)と西原(西家)の本手がぶつかる。
藤原 ポン ドラ
西原 ポン
両者ともトイトイでドラ無し。そして河にドラは放たれていない。
リーグ戦1位通過の西原と、2位通過の藤原が(相手の手牌にドラがトイツ以上であるかもしれないという不安なぞ入り込む余地もなく)自分の育てた手を信じ、ただただ真っ直ぐ不要牌を打ち出し、遂に最終巡目に藤原が西原からでロンアガリした。
続く東3局は、西原(北家)が土俵際の踏ん張りで3,900をアガリ、東4局も果敢にリーチ。
リーチ ドラ
このリーチに気配殺して水面下で藤原を引きずり下ろさんとする東谷(東家)がヤミテンを入れる。
ツモ
打とする。東谷はまだのターツがある4巡目に、2枚切れのと1枚切れのでをリリースしている。はっきりとタンピンが見える手牌なだけに、先にを処理する打ち手も少なくないが、次巡、を重ね、迷わずのターツに手をかけた。大きく成長した東谷を、私は何度見たことだろう。そして西原が持ってきた牌は息をひそめた東谷のアタリ牌であるであった。
ロン
東4局1本場、藤原(北家、39,100持ち)が何食わぬ顔でリーチと発声。手牌を見ると、
リーチ ドラ
なんと七対子である。私はトータルトップの者なら、この持ち点で七対子のテンパイがくれば、ドラを持ってきた時のことや、局を1局でも低リスクで進めることを考えてヤミが普通であると考えている。しかもは生牌である。それを藤原はいとも簡単にリーチと言ったのだ。他の3人が私と同じような考えなら、一体このリーチはどう映るだろう?
(凄くいい待ちなのか?打点は高いのだろう。)
色んな思考が頭をよぎり、そして次の瞬間からは対応を強いられることになる。藤原は初日から、ただただ自分の手牌に真っ直ぐであり、手役を追い、形になった時には純粋にアガリに向かう、という麻雀を打っている。だがその影に、ひょっとしたらこう打てば、こういう仕掛けをすれば、相手がどう対応するか?まで計算されていたのかもしれない。私は無表情でNをツモる藤原を見ながら、恐怖にも似た底しれぬ不安を抱いた。
そして南3局、藤原(東家、46,600持ち)の羅針盤がある方向でピタッと止まる。
ドラ
上記の牌姿から7巡目に藤原はをポンする。次巡、ツモで藤原の手が止まった。
ポン ツモ
全体の河を見ても、さほどマンズの下が良いようには思えない。が藤原のアンテナはここからまさかの打とさせる。シャンテン数も落とし、ピンズのチンイツを捨てる打牌。この不可思議な打牌は数巡後に以下になる。
ポン ロン
西原のメンタンピンイーペーコーのリーチ宣言牌を捕えての7,700。
衝撃とも言えるこのアガリ。藤原という男には一体何が見えているのだろう?
4人の手牌を自由に見ることができる私でさえも、このはキャッチ出来ていない。しかし、これが偶然の打牌ではないことは、重なるかどうか分からないを抱え、ピンズのチンイツを消す打牌をする意味を考えたらわかっていただけると思う。観戦記者として説明が出来ない自分が歯がゆいが、確かに藤原にはこのが見えていた。
そしてその羅針盤は、決勝という荒波の大海原の中で優勝の方角を指している。
8回戦成績
藤原+32.3P 東谷+7.8P 浜上+2.4P 西原▲42.5P
8回戦終了時
藤原+91.0P 東谷+32.0P 浜上▲39.1P 西原▲83.9P
■9回戦(起家から、浜上・藤原・東谷・西原)
決勝も残り4半荘。トータルポイントで西原にもうマイナスは許されない。それは浜上もさほど変わらず、唯一東谷だけが、距離を計りつつ闘える位置にいる。その中で各自がどのような心境と共に展開を繰り広げるかが注目される。
東1局、浜上(東家)がテンパイ即リーチ。
リーチ ドラ
チャンタやイーぺーコー、ホンイツを付けたかった。それでもツモが効かずやっと入れたテンパイだから、といったところか。これに東谷(西家)がを1枚勝負して追いつく。
ポン
そして藤原が手牌に2人の共通安全牌を切らしたところに、仕方なく浜上の現物であるを打ち出し、東谷はようやく藤原から直撃することに成功した。
南1局、ここまで幾度となくアガリを阻まれてきた浜上(東家)にやっと風が吹く。
ポン ツモ ドラ
この6,000オール。次局、下記の配牌から、
ドラ
リーチ ツモ
こう仕上げて、4,100オールで一気に60,000到達。どこまで盛り返す?
そんな空気に包まれた南1局2本場、浜上の連荘を阻止するべく東谷(西家)がリーチを打つ。
捨て牌 ←リーチ
リーチ ドラ
ドラ単騎の七対子だ。河も変則手模様を醸し出していて、なかなか他の3人も行きづらいリーチである。それでも浜上は(ここは全て行く)と腹を決め、生牌のを打ち出す。
すると、ここまでおとなしかった西原(北家)がこれをポンして打。西原は、更に次巡も打とする。全て行くつもりだった浜上だが、西原の仕掛けと打ち出された牌を見て、場の異様さに気付く。
西家である東谷のリーチは変則手模様である。それに対し、西原は打と1枚押すならわかるが、トイツ落としは何か解せないと読んだのだ。つまりのトイツ落としをしてまでも押す理由はそれ相当の絵が入っていることになり、この瞬間、浜上は(どうしても1人浮きが欲しい)という欲求を抑え、ここで我慢して引く決断をする。
【浜上の足を止める為】にリーチを打った東谷。【どうしても1人浮きが欲しくて】オリを決断した浜上。
西原の手牌が開かれた時、2人の思考から導き出された1つの展開(選択)が2人の明暗を分けた・・・・・。
ポン ロン
西原の大三元である。放銃したのは東谷だった。
浜上の手牌には今にも場に出そうかとしていたがあった。東谷がリーチと来た時、浜上は全てぶつける心算でいたはずだが、それ以上の覚悟を持って向かっていく西原の熱が、逆に浜上に冷静さを取り戻させた。
東谷にとっては、この結末は意識の外だったろう。浜上の連荘を止めたい。ただその一心で打ったリーチが、思わぬ結果を生んでしまったのだから。
その後、東谷はこの半荘の流局以外の全ての局で放銃することになる。ここまで積み上げてきた東谷の、技術が成し得たアガリも、会心のツモも全てが1つのリーチで無に戻った瞬間だった。
一生懸命平常を装おうとする東谷に、「去年の雪辱を果たすならここからが勝負だ。」と、私は観戦記者の立場でありながら、心の中で東谷にそう声をかけた。
麻雀は本当に孤独な競技である。誰も東谷の肩代わりは出来ないのだから、東谷は自分の足で再び卓上に上がるしかないのだ。最終的にその時に背中を押してくれるのは過去の自分しかいない。いくつもの敗戦の度、流した涙と汗の量だけが自身を再び闘いの舞台へといざなう。
9回戦成績
浜上+38.3P 西原+31.5P 藤原▲10.6P 東谷▲57.2P
9回戦終了時
藤原+80.4P 浜上▲0.8P 東谷▲27.2P 西原▲52.4P
■10回戦(起家から、藤原・東谷・浜上・西原)
残り3半荘。今まで2対2の並びが、今回から1対3の構図になった。1人抜けている藤原を捕えるには、追う3人が包囲網を引く必要がある。でなければ、ただでさえ心身ともに充実している藤原を、残り3半荘で捕えるのは難しく感じる。
東1局、東谷(南家)が意地を見せる。9巡目にテンパイし、14巡目に藤原(東家)がをツモ切った局面。
ツモ ドラ
まさに今、藤原が何食わぬ顔で切ったに待ちを変更。山越しだ。東谷は心の中で「もう1枚掴めっ!」と念じる。だがなんと直後の西原のツモがで、たった今、藤原が切ったなだけに西原は止める理由がなく、東谷に放銃してしまう。東谷は打ち取りたい相手ではなかったにしても、贅沢は言えない立場でこれをロンアガリする。私が東谷と同じ立場でもこれは同じ選択をしたと思う。
だが、現実問題、藤原とのポイント差は100Pを超えている。だとすれば、西原が切ったをスルーして、次巡ツモ切りリーチも面白かったかもしれない。そうすれば、ひょっとすれば。それぐらいの予想しか出来ないがあるいは、藤原にそのがきても藤原は打ち出していたかもしれない。
東2局、東谷(東場)が8巡目に以下の捨て牌と牌姿でリーチ。
捨て牌 ←リーチ
リーチ ドラ
ドラはないが、どうにも山にいそうな七対子の待ち。しかしこれも藤原(北家)からでなく浜上(南家)からの打ち取り。前の半荘の結果に精神が揺さぶられているはずの東谷。それを必死で抑え、諦めない姿勢が熱を帯びて会場の温度が高く感じる。
東2局1本場、観戦者の誰もが追う3者の熱に残りの半荘が接戦となることを期待する。そんな中で今度は浜上(南家)から9巡目のツモの声。
ツモ ドラ
「8000・16000は、8100・16100。」
浜上の手牌を観戦していなかったものは誰もが驚いたであろう。まるで300・500をツモったかのようなトーンの発声で、舞い降りた鳳凰を静かに見つめ手牌を倒す浜上。
今から遡ること数カ月前、浜上は王位戦の本戦でも絶望的な状況南3局から、倍満、役満と立て続けにアガリ、勝ち上がりを決めた一幕がある。しかも、その役満もラス牌を一発ツモであった。どうして?こんな事が?もはや観戦者も、対局者である本人達でさえも、目の前に起きた現象を冷静に受け止められるものは1人もいないように思えた。
ただただ浮かび上がる疑問と、(この男ならあるいは逆転も・・・・・)という期待と不安だけが、この場の空気を支配していった。唯一、浜上だけが冷静な面持ちでサイコロを振る。
東3局1本場、東谷(北家)が以下の牌姿でリーチといく。
リーチ ドラ
これを西原から安めのでロンアガリ。浜上の国士無双を親被りした東谷だが、早々に原点復帰を果たす。
東4局、またしても東谷(西家)がリーチ。
リーチ ドラ
これも浜上からロンアガリし3,200加点する。東谷は手を作り果敢にリーチにいくもトータルトップの藤原からは、当然アタリ牌は出てこない。
この時私は、トータルポイントと残りの半荘数を考慮して、既に執拗に直取りしていかないといけない局面に来ているのでは?と思ってみていたが、他の観戦者や皆さんはどう感じているだろうか?
この半荘を終えると、残る半荘は後2回。それで100Pを捲るのは、かなりハードルが高い。しかも、それほどまでに引き離された現実も含めると、ただリーチで打点を上げるだけの作戦を選んだのは正直、少々疑問を感じる。決勝の舞台にすら残っていないお前が何言っている?こんな言葉を浴びせられるかもしれないが、私は東谷の取ったこの作戦は九州本部全体の課題だと思っている。麻雀の性質上、結果としてポイントを大きく離された状態で終盤戦に入るのは今後、幾度となく出てくるだろう。そういった時に、対局者の目的がみな【優勝】という1点で一致しているならば、どのように闘うか?は非常に大きなテーマであり、みんなで真剣に考えるべき課題だ。
地方の中では、非常に大きな部類に入る九州であるからこそ、今後はこういう課題にみなで真剣に考え、取り組みながらひとつの大きなモノを作り上げていくというのが私たちの使命だと思う。
南3局、ついにここまで攻め続けた東谷(北家)と藤原(西家)がぶつかる。
東谷が10巡目に以下でリーチをすれば、
リーチ ドラ
藤原が以下の牌姿で押し返す。
チー 暗カン
正にがっぷり4つの形相。藤原はこの半荘1度もアガることはなく、1度も放銃することもなかったが、おかげで点棒は21,000まで落ち込んでいた。それでもこの手牌は見方によれば、白を暗カンしなくてもいいかもしれない。
道中、ソーズのターツ落としをせず、打点を作りにいかず、捌くだけの局、もしくは半荘にしてもよかっただろう。だが、藤原はこの2日間一貫して、自分が描くアガリ形を崩すことなく打ち続けた。そして絵になった時は、ただただ自分の打牌に対して素直に真っ直ぐ押した。結果は、藤原が力強くをツモアガリ。
チー 暗カン ツモ
もともと破壊力に定評があった藤原だが、こうして2日間観戦記者をさせて頂くと、藤原の強さが細分化され、私にもハッキリわかるようになった。自分の構想力を信頼しているからこそ、我慢する局面でジッと耐えることが出来る。反対に構想通りになった時はどこまでも押せる。その強さを改めて感じさせられた。そして藤原のアガリには半荘を決定づけるものが多く、そうした彼の打ち方そのものがこれだけのポイントをかき集めた1つの要因だと言えるだろう。
だが、10回戦はオーラスに西原(東家)が奮起して浜上の1人浮きに終わった。
藤原はあまりポイントを減らさずして残り2回を闘えるが、すぐ後ろには浜上が来た!
既に射程圏内だ。
10回戦成績
浜上+37.7P 藤原▲6.0P 東谷▲12.5P 西原▲19.2P
10回戦終了時
藤原+74.4P 浜上+36.9P 東谷▲39.7P 西原▲71.6P
■11回戦(起家から、東谷・西原・浜上・藤原)
東1局、初日から苦しい闘いの末、遂に藤原の背中が見えた浜上(西家)が8巡目に早くもリーチ。
リーチ ドラ
これに東谷(東家)が次巡、待望のを引き入れて、渾身のリーチ。
リーチ
ツモれば2,000・3,900の浜上。ならロンアガリでも親満の東谷。観戦者の方々はどちらにもアガって欲しい、もしくは結果が見たくない、そんな気持ちに自然となっただろう。
結果、軍配は東谷がで浜上からロンアガリ。その顔からはまだ諦めてはいない表情が見てとれる。悔しい想いをした去年、あれからたった1年であるかもしれない。だが東谷の中では大きな1年であり長い長い1年だったろう。今、全身全霊で持っている力を全てぶつける。その瞳が追う浜上と逃げる藤原を見つめた。
東2局、西原(東家)の10巡目、
ポン ポン ポン ドラ
これに遅れること4巡、浜上(南家)が追いつき、リーチを打つ。
リーチ
だが、これは親の本手を警戒してヤミにしていた東谷(北家)に捌かれる。
東3局、親は浜上。今回が勝負と言っていた浜上は、この半荘でマイナス終了すれば条件はかなり厳しくなる。東1局にリーチを打った本手も思わぬ形で破られ、前局も捌かれた。追い上げる浜上に期待をしている観戦者とは裏腹に、本人には重い重圧がのしかかっていると思う。
それを象徴するかのように、浜上は4巡目に早くも以下の牌姿から
ドラ
をポンする。いつもはメンホンやメンホン七対子になれば良しの構えでこのはスルーする浜上もこの親番だけは絶対落とせない、という気持ちの表れだろう。そのポンに東谷(西家)のツモが効き、本手に成就させぶつける。
リーチ ツモ
高目ツモの3,000・6,000。10回戦のリーチ構成の賛否は置いておき、この終盤に来ての東谷の手作りとぶつけ方はすさまじいものがあった。中には道中安いテンパイを拒否した牌姿もあり、その中でこれほどの足が使えるのは気迫のなせる技なのか?と思ってしまう。
だが、トータルトップの藤原は3着目の東谷が走る分には構わないと思っているだろう。だからこそ10回戦同様、我慢する局面はジッと我慢する。
東4局1本場、藤原は7巡目にドラのリーチ。
リーチ ドラ
10巡目に西原(西家)が追い掛けリーチを打つも、
リーチ
西原のは、藤原だけで5枚持たれていて非常に苦しい。結果は、やはりというべきかを持ってきて12,000の放銃になってしまった。ひと叩きで40,000点を超えた藤原、
つづく2本場はなんと3巡目にリーチ。
リーチ ドラ
今度は、浜上がで放銃し、藤原は更に加点する。
押せ押せムードとなった3本場だが、今度はこの手をヤミに構え、
ドラ
浜上からロンアガリする。
そして4本場、7巡目テンパイ。ヤミに受け、放銃者は東谷。
ドラ
この時点で、藤原は持ち点53,000を超えた。12,000を放銃した西原。
藤原に安全圏に行かれ優勝が遠のいた東谷。持ち点が4,300しかない浜上。
対局者は、麻雀とは思うように行かない競技だというのをわかっているからこそ、どこかで負けを意識するだろう。どうしても欲しいものが手に入らない時、たいていの人はどこかで諦める。だが、ここに座っている4人は『麻雀だけは』という気持ちでプロとして歩んできた。心のどこかで押し寄せる負けの意識に対し、それでも尚、最後まで闘うとは一体どういうことなのだろう?と、私は筆を走らせながら、自分で考えてみると同時にとある先輩の一言を思い出していた。
「俺達は、アスリートであり表現者でなければいけない。普段やっているトレーニングや訓練を卓上で表現するこということは、ある意味勝ち負けより重要じゃないか?」
プロであるから結果が全てであり、勝つことが絶対であるのが勝負の世界。私たちはこれを誰もが目を背けてはいけないことだと捉え、自問自答しながら闘っている。それでも私は、上記の先輩の言葉に響くものがあった。
そのような先輩の言葉をお借りするなら、負けを意識しても尚、闘うことは何かを表現することであり、ある意味、その意志や気持ちは勝負の外側に存在するのでは?と。
11回戦は、東場に点棒を集めた藤原と東谷の2人浮きで終わる。各自のポイントから考えても、トータルトップの藤原を逆転するのは、条件としては簡単とは言えない。それでも4人は次が最後の闘いであるのを理解した上で、乾いた喉に水を流し込んだ。
11回戦成績
東谷+57.4P 藤原+14.8P 西原▲18.9P 浜上▲53.3P
11回戦終了時
藤原+89.2P 東谷+17.7P 浜上▲16.4P 西原▲90.5P
■最終12回戦(起家から、東谷・浜上・西原・藤原)
これが最後の半荘。現実的に厳しい西原を除けば、東谷も浜上も、もう前に出続けるしかない。
東1局は東谷の親番。3巡目に1シャンテンで以下。
ドラ
親でこの手牌ならどこがどう来てもリーチであろう。頭の中は、どれでもいい早くテンパイしたいと思っていることだと思う。しかし、なんとここから東谷は無情にも、ソーズをに変化させただけで、残りツモ15回を12回ただただ河に並べただけでノーテンに終わってしまった。本人のこれまでの闘い方を見れば、まだ南場の親があるなどとは1ミリも思ってないだろう。辛く悲しい気持ちがよくわかる。
東2局1本場 浜上(東家)が14巡目、やっとテンパイ。
ツモ ドラ
テンパイ打牌のドラのは4巡目に持ってきてから、ずっと抱えていた牌である。
これがまだ中盤戦なら、どこかでリリースしていたかもしれないが、最後まで引っ張ったのは放銃するリスクが高くなってでも、雀頭の振り替わりに重きを置いていた証拠である。
18巡目の最後のツモでをツモり1,300は1,400オール。
これが早い巡目なら浜上は、切りのフリテンリーチを打っていただろう。
東2局2本場、浜上はなんとしても親を落とすわけにはいかない。
8巡目に以下でテンパイし、
ドラ
を持ってくればタンヤオに、を持ってくれば高目三色に変化するのでヤミ。
2巡後、を引き入れて、タンピンになったところでリーチを打つが、これは1人テンパイの流局。
東2局3本場、今度はテンパイ即リーチを打つ。
リーチ ドラ
変則的な捨て牌模様で、ヤミでもツモれば親倍だが、リーチを選択したのは、対局者を自由に打たせたくなかったのが一番の理由か?いや、ひょっとしたらそんな損得勘定とは別の、ある種の意志として打ったリーチかもしれない。これを西原からでロンアガリし、18,000は18,900の加点。
東2局4本場、逆転が現実的になってきた浜上の配牌。
ドラ
決して軽いとは言えないものの、ドラがトイツのチャンス手。なんとしても決めたい。
この手が形になってきた11巡目、
ツモ 打
目いっぱい構えるというならかが最もマジョリティだろうか?
それでも浜上は字牌を抱え、他者の捨て牌からそろそろテンパイを入れるものがいるだろうと踏んで、ここで手牌をスリムのする為にを先に処理する。
すると、このが藤原になんと1巡だけ間に合わず、放銃となってしまった。
ロン
東3局も藤原が2,000のチーテンを入れ捌く。優勝に向けて、確実に一歩一歩階段を上る姿勢、今まであれだけ放銃を恐れず真っ直ぐな打ち筋をしてきた藤原が、石橋を叩くほどの慎重さがここにある。
東4局、その慎重な藤原からロンアガリしたのが浜上。
ドラ ロン
タンヤオドラ2の5,200である。トータルトップの藤原からなので上下差10,400点縮めたことになる。浜上の最初のテンパイは8巡目と早く、がでありタンヤオが付いてない形であった。ドラが2枚あることを考えれば、リーチの選択もおかしくはない場面だが、よもやのツモやツモり三暗刻の変化などを考慮しロンアガリの効かないヤミを選択していた。そして13巡目にやっとツモでタンヤオが付いてのアガリである。
南場入りした時点で各自の持ち点は、
東谷:26,600
浜上:57,100
西原:5,700
藤原:30,600
となっている。
南1局、最後の東谷の親は浜上がピンフで捌く。
思えば、東谷は手役を作ることに重点を置き、常に踏み込むことを恐れず闘ってきた。そういった側面では藤原と似たような戦術であったが、道中のちょっとした選択があの大三元放銃を生んでしまった。私はその布石として5回戦東2局の連荘中の藤原にいずれも生牌のダブ東とをぶつけた時の心境を挙げた。あの時、ポイントではまだまだ優勢だった東谷だが、内情は展開の怪しさに焦りを感じていたのだろう。それが大三元放銃の局面にも浜上の連荘を止めたい一心で打った七対子ドラ待ちのリーチにも同じように感じられた。ドラだからヤミに構えても出てくることはあまり期待出来ない。自分の河が変則手だからリーチを打てば対応するだろう。色々なメリットと思える思考が、三元牌が場に顔を見せていないというわずかな危険察知を霞めさせ、大局観としてリーチで蓋をする選択をした。
その他の局面では素晴らしい闘牌を見せていただけに、たった1つの選択が致命傷となったケースとしては非常に無念でもあるだろう。東谷は2年連続で優勝に手が届かなかったが、この経験を彼は必ず活かしてくると私は思っている。競技麻雀のわびさびとも言えるべき深い構想力も、ちょっとした選択で生まれた大三元放銃も、今の東谷を象徴する出来事だった。
南2局、東谷が親落ちした今、ポイントから考えて逆転の可能性はほぼ浜上しかいない。それでも東場の浜上の親を自らの手で落とした藤原が、息の根を止めにきた。
リーチ ドラ
7巡目の早いリーチであり、ドラは無いが待ちとしては充分だ。
この時1シャンテンだった浜上。無筋を2枚押し、10巡目にテンパイを入れ追いかける。
リーチ
なら藤原に放銃で終了。なら続行だ。そしてリーチ一発目に持ってきたのはだった。
同2本場、5巡目に藤原がリャンメンのチーから入る。
チー ドラ
仕掛けた方が早そうではあるが、上家の西原(南家)は自身の優勝がなくとも有効牌をそう簡単に下ろしたりはしないだろう。それでもこの仕掛けを入れたのは、やはり追われる側の不安ということなのだろうか?ましてや前局は浜上に待ち牌であるをツモられているから嫌な感触もあるだろう。このリャンメンチーの仕掛けを見て浜上も遠いところから仕掛けるが、結果は2人テンパイの流局。
同3本場、4巡目の浜上の手牌。
ツモ ドラ
少し前ではあるが「ポンよし。チーよし。ポンチーよし。」という言葉があったと思う。
要するに、チー出来る部分、ポン出来る部分、ポンもチーも出来る部分で手組みをしていたら効率的には大丈夫だ、というようなことだったと記憶しているが、このをツモってくる前から浜上の手牌にあるは、当然234の三色を意識してのものだろう。ツモときたら落とせない親だけに打としたくなるが、浜上は打とした。
14巡目、浜上がツモ切ったに藤原がポンテンを入れる。
打とし、こので今度は浜上がポンしてテンパイ。
ポン
打とするが、またしても2人テンパイの流局。浜上はあの時打としていたら少なくともこのテンパイはできていなかった。
同4本場、13巡目と決して早くないが浜上がリーチをする。
リーチ ドラ
そして2巡後にをツモアガリ。これで持ち点が79,300になった。
同5本場、親の第1打のを藤原がポン。
ドラ
これも良い形とは言えなかったものの、遂には9巡目に、
ポン ツモ
これで決着がついた。
その後、南4局は藤原の400・700ツモアガリ。
最終戦オーラスはノーテンとし、これにて全対局は終了した。
12回戦成績
浜上+59.9P 藤原▲3.7P 東谷▲14.0P 西原▲42.2P
第13期皇帝位戦決勝結果
優勝:藤原+85.5P 準優勝:浜上+43.5P 3位:東谷+3.7P 4位:西原▲132.7P
藤原は下馬評を覆し、見事な闘いっぷりで栄冠を掴んだ。
藤原の雄姿を一目見ようと、故郷である山口県から藤原の多くの友人が応援に駆けつけていたのがとても印象的だった。これにより皇帝位は初めて関門海峡を渡ることとなる。
対局者のみなさん、2日間の長き闘いお疲れ様でした。
また決勝に残れなかった身でありながら、みなさんの麻雀をほとんどの部分主観で表現しましたことどうかお許し下さい。
そしてお付き合い下さった読者の方、九州本部は今、プレイヤーの年齢が非常に若くまだまだこれからの組織です。個々の麻雀の技術の向上や雀風の確立とは別に、文中でも申し上げました通り、プロ団体として九州本部全体で考える課題も数多くあります。
しかしながら、私達はこれに臆することなく一歩一歩前進していきたいと思っております。
どうか今後とも暖かい目で見守って下さいますようよろしくお願いします。
最後まで読んで下さりありがとうございました。
カテゴリ:九州プロリーグ レポート