第17期皇帝位決定戦 初日
2017年03月01日
皇帝位。
九州本部に所属している者ならば、誰しもが手にしたいタイトル。
Aリーガー16名で戦う1年間、10節、40半荘。
上位4名にだけ与えられる、決定戦への切符。
1年間を戦い抜いた、今回の4名の対局者を紹介させて頂きます。
1位通過 中尾多門プロ
リーグ戦が始まる春先に、彼は私にこう言った。
「俺、絶対決定戦残るから。今までとは比べ物にならないくらい、真面目に取り組むから。」
その言葉を1位通過で有言実行してくれた。
スピードのあるテンポの良い麻雀を打ち、勝負所での戦い方はずば抜けている選手。
彼が展開を握れば、他の三者は苦戦するだろう。
2位通過 浜上文吾プロ
九州本部の顔と言っても過言ではないこの方。
昨年よりも引き出しが増え、いろんな技を使い分けて戦い、決定戦進出の切符を手にした。
目先のことではなく二手先のことを常に考え、大局観を大切にする打ち手。
初戦の入りがキーポイントとなるだろう。
3位通過 塚本将之プロ
前半戦は我慢が続くも、後半持ち味を生かした戦い方で見事決定戦進出。
自分に厳しく、とてもストイック。
どっしりと腰を据えた彼の麻雀は、見ている者を魅了する。
昨年の悔しさを晴らし、初の皇帝位となるか?
4位通過 安東裕允プロ
8節まではマイナスポイントだったが、最後の2節で120ポイントを上乗せし、決定戦進出を決めた。
多くの技を繰り出し、その場面に応じた戦い方をする打ち手。
他の三者からすると、安東はとても厄介な相手になるだろう。
誰が勝ってもおかしくない、今回の対局者達。
私の大好きな、尊敬する先輩達。
この対局を記録に残したい…たくさんの人に伝えたい…そう思い、自ら観戦記者をさせてほしいと志願した。
会場へ選手が集まった。
いつも多忙なイメージのある対局者達だが、皆口をそろえて「よく寝た!」と言っていた。
睡眠不足は、麻雀を打つ上で一番の障害となる。
当たり前のようだが、試合の前日はなかなか寝付けないもの。
しかし4名の対局者達は、各々コンディションを整えて会場へとやってきた。
中村本部長の挨拶があり、牌チェック、諸注意と進んでいく。
長いようで短い2日間が幕を開けた。
1回戦(起家から塚本、安東、浜上、中尾)
東1局0本場 親塚本 ドラ
開局いきなりドラドラの好配牌の塚本。
この手を、開局したばかりの今、どう育てていくのだろう。
私は心を躍らせた。
塚本の今日の戦い方が、この1局で見えるのでは…と思ったからだ。
9巡目、塚本が動く。
塚本
ポン
タンヤオを確定させるを前巡に引き入れ、仕掛けやすい手格好となってすぐ浜上からが打ちだされる。
しかし、この仕掛けを見て戦いを挑む者がいた。
中尾は6巡目にタンヤオ七対子をテンパイし、ヤミテンに構えていたのだ。
中尾
待ちから待ちに変え、9巡目の塚本の仕掛けを見てツモ切りリーチ。
このリーチを見て、塚本はどうするのか?
(きっと真っ向勝負をしてくれるはず!)
私はそう思いながら見ていた。
12巡目に自力でを引き入れ、カン待ちの聴牌。
そこからは塚本、中尾のめくり合い。
塚本
ポン ツモ
17巡目、塚本が力強くをツモ。
2,000オールの和了となった。
続く、東1局1本場 ドラ
今度は安東に好配牌!
ダブル立直とまではいかずとも、高打点が見込める最高の配牌。
しかし、4巡目に引き入れたのは三色の崩れるだった。
だが巡目も早く好形のため、安東はリーチを選択する。
このリーチを受けた塚本の手牌。
5巡目、この手にを引き入れを勝負する。
次巡を引き入れリーチ。
入り目を打たれ、追いかけられた安東はどんな心境だっただろう。
そして、即をツモあがる塚本。
3,900は4,000オールの和了をものにする。
(恐い…塚本さん恐い…)
会場にいる皆がそう思ったことだろう。
東1局2本場 ドラ
塚本の配牌
三暗刻が…出来あがっている…
この親をどこまで続けるつもりなんだ…
大物手間違いなしのこの配牌、5巡目に4枚目のを持ってきて暗カン、リンシャンからを引き入れ、四暗刻イーシャンテンになる。
暗カン
ここに次巡を引き入れ打、タンヤオ三暗刻のテンパイ。
一手変わるとツモり四暗刻である。
5巡後、浜上からが打ち出され、11,600は12,200の出和がりとなった。
この時の浜上の手牌。
ツモ 打
12巡目と巡目も深く、が塚本の現物でもあることから、この放銃は浜上らしくないな…と思った。
続く3本場も、10巡目に安東から1,500は2,400を和了。
4本場、浜上が500/1,000は900/1,400をツモ。
ようやく塚本の親をここで終わらせる。
道中、先頭を走る塚本に食らいついていたのは安東。
南2局の親番では6本場まで積み、44,600まで点棒を増やす。
親番の猛追は素晴らしいものだった。
塚本は安東に捲くられる危機を覚えたに違いない。
安東と対局したことのある人にしかわからない、安東の粘り強さ。
これは安東の持ち味のひとつだ。
逆に苦しいのは浜上と中尾。
和了に絡めず、我慢の時を過ごす。
南3局、親番の浜上にチャンスが訪れる。
下家の中尾の仕掛けによってドラのが重なり、平和のみの手が平和ドラドラに。
浜上
リーチ ツモ
リーチを打ち、見事4,000オールをツモ。
中尾もオーラスの親番意地を見せるが、2,000は2,300の横移動にて1回戦目が終了。
1回戦成績
塚本 +39.5p 安東 +17.2p 浜上 ▲24.0p 中尾 ▲32.7p
2回戦(起家から塚本、中尾、浜上、安東)
東3局2本場 親浜上 ドラ
2巡目、ドラ対子の塚本が早々と自風のをポン。
続いて、仕掛けにより引き入れたをポン。
手は対子系に育ち13巡目、ハネ満のテンパイをいれる。
塚本
ポン ポン
しかし、前巡安東からリーチが入っている。
塚本の仕掛けを受けてのリーチだ、こちらも勝負手のはず!
安東
ハネ満vs高めツモでハネ満。
見ている者をワクワクさせる、高打点勝負。
塚本と安東のめくり合いの末、流局。
お互い、この手は決めさせてくれと願っただろう。
麻雀の神様は、とても気まぐれである。
話はいきなりそれるが、人にはイメージ、印象というものがある。
それは麻雀にもいえること。
「この打ち手がこの仕掛けをするということは、打点が伴っているはずだ。」
など、対局をするうえで人読みも入ってくる。
塚本に対する皆のイメージは、どっしりとした、打点のある手をつくる打ち手。
そして、とっても繊細な麻雀を打つ。
ざっとではあるが、こんな感じではないだろうか。
今回の皇帝位戦に向けて、塚本はそれ以外の武器をたくさん調達してきた。
いや、今まであまり出していなかっただけで、ここぞという時に最強の武器になるよう、いつでも出せるように懐で温めていたのかも知れない。
そんな彼の意外な一面をみた1局があった。
南3局1本場 親浜上 ドラ
前局、親の浜上が2,000オールをツモあがりし、持ち点を49,700にまでのばしていた。
もう親番のない塚本は、南3局の現時点で18,000持ちのラス目。
その塚本の配牌。
決していいとは言えない。
だが、安東が第1打に切ったをポンするのだ。
私はこのとき浜上の後ろで観戦していたので、塚本の手は見ていない。
しかし勝手に「ん?ドラ対子かな?染め手かな?」と想像していた。
4巡目にカンをチー。
8巡目にをポン。打で手牌が4枚になる。
そして、10巡目に浜上が打ち出すにロンの声がかかる。
塚本が開いた手牌は。
衝撃を受けた。
18,000のラス目の塚本が、この仕掛けをするイメージがまったくなかったからだ。
後に本人に聞いてみた。
「もうラスは受け入れていた。でも戦わないと、浜上さんに加点され続けるかもしれないからね。もらった手材料で、やれることをやっただけだよ。」
温めていた武器、ここで出したのか…。
を打ち出した浜上の手は、十分形だった。
6,000オールまで見えるこの手を、塚本は隠していた武器で封じたのだ。
日頃から周りに与えているイメージがあるからこそ、この仕掛けが恐いものに見える。
それを彼はよくわかっていた。
2回戦成績
浜上 +24.8p 安東 +4.0p 中尾 ▲10.1p 塚本 ▲18.7p
2回戦終了時
安東 +21.2p 塚本 +20.8p 浜上 +0.8p 中尾 ▲42.8p
3回戦(起家から中尾、浜上、安東、塚本)
2回戦を終えて、中尾1人で負債を抱える形となった。
私の知る中尾は、いつも余裕があり、堂々としている。
しかし、休憩中の中尾の表情に余裕の文字はなかった。
決定戦を戦う彼らにしかわからないプレッシャーがあるのだろう。
声をかけたい衝動にかられたが、心の中で(頑張れ!!)と呟き、ぐっと我慢した。
東1局、塚本が技ありの2,600をアガる。
ドラのない三色のカン、これはAルールだとリーチ選択をすることが多い。
これをヤミテンに構え、浜上から見事打ち取るのだ。
親の中尾がダブをポン、カンをチーして待ちのテンパイをいれていた。
そして持ってきたを中尾がツモ切り、すぐ浜上からが打ち出される。
打で、高めハネマンテンパイの浜上。
このを放銃した浜上は、後に「堪えたよー」と話してくれた。
道中、浜上の繊細な打ちまわしに目がいった。
親の動向をしっかり観察し、親が仕掛けようものなら一切親の有益になることはしない。
彼がきつい牌を打ち出す時は、勝機のあるテンパイ打牌であることがほとんどだ。
北家の浜上の粘り強さを思い知らされる。
南2局0本場 親浜上 ドラ
ここまで苦しい展開の中尾にようやく先制リーチが入る。
中尾
リーチ ロン
を安東から出アガり、5,200。
中尾36,900 浜上34,700 安東17,700 塚本30,700
ここでトップ目にに浮上する。
オーラス、親の塚本が渾身の2,600オールをツモあがり局面を一歩リードする。
塚本
ポン ポン ツモ
しかしオーラス1本場、ドラ 浜上が31,600持ちからリーチ。
浜上
リーチ ツモ
2,000/4,000は2,100/4,100を見事ツモあがり2連勝。
攻守のバランスが良く、実に浜上らしい見事な1半荘だった。
3回戦成績
浜上 +17.9p 中尾 +7.2p 塚本 +4.9p 安東 ▲30.0p
3回戦終了時
塚本 +25.7p 浜上 +18.7p 安東 ▲8.8p 中尾 ▲35.6p
4回戦(起家から中尾、塚本、安東、浜上)
皇帝位決定戦初日も、残すところあと1半荘。
8半荘で優勝者が決まる今回のシステム。
通年のリーグ戦とは戦い方も変わってくる。
それを特に体現しているのが塚本だ。
浜上はいつもと変わらず終始落ち着いた様子。
安東も中尾も、私の知る2人だ。
しかし塚本に関しては、知らない一面が垣間見える。
観戦者が思わず覗き込みたくなるような戦いを見せてくれる。
そんなことを思いながら観戦していると、東3局に事件がおこる。
東3局0本場 親安東 ドラ
11巡目、中尾から打ち出されたに浜上からロンの声。
手牌をそっと倒し「32,000」の発声が会場内に響く。
浜上
ロン
このときの中尾の手牌はこちら。
三色ドラ1のテンパイ。
序盤からピンズが安くの場況がよく見え、実際山には4枚眠っていた。
中尾の態勢の悪さを物語っている。
しかし、中尾は表情には出さずはっきりと「はい」と答え、点棒を渡していた。
彼の潔い、プロとしての姿勢は素晴らしい。
南1局1本場 親塚本 ドラ
好配牌の塚本、カンをツモ、を重ね雀頭にしてのリーチ。
リーチ ツモ
力強くをツモ!3,900は4,000オールのあがり。
オーラス、ドラ
中尾
リーチ
待ちのリーチを打つも、をツモり、塚本に2600を放銃し、終局。
塚本
ロン
4回戦成績
浜上 +37.1p 塚本 +22.5p 安東 ▲8.5p 中尾 ▲51.1p
4回戦終了時
浜上 +55.8p 塚本 +48.2p 安東 ▲17.3p 中尾 ▲86.7p
前半戦が終わった。
私が予想していたより、大きなポイント差が生まれる結果となった。
残り4回戦で今期の皇帝位が決まる。
浜上と塚本の一騎打ちとなるのか。
安東、中尾が意地をみせるのか。
最後まで目が離せない。
カテゴリ:九州プロリーグ レポート