九州プロリーグ レポート

第17期皇帝位決定戦 初日

皇帝位。
九州本部に所属している者ならば、誰しもが手にしたいタイトル。
Aリーガー16名で戦う1年間、10節、40半荘。
上位4名にだけ与えられる、決定戦への切符。
1年間を戦い抜いた、今回の4名の対局者を紹介させて頂きます。
1位通過 中尾多門プロ

リーグ戦が始まる春先に、彼は私にこう言った。
「俺、絶対決定戦残るから。今までとは比べ物にならないくらい、真面目に取り組むから。」
その言葉を1位通過で有言実行してくれた。
スピードのあるテンポの良い麻雀を打ち、勝負所での戦い方はずば抜けている選手。
彼が展開を握れば、他の三者は苦戦するだろう。
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2位通過 浜上文吾プロ

九州本部の顔と言っても過言ではないこの方。
昨年よりも引き出しが増え、いろんな技を使い分けて戦い、決定戦進出の切符を手にした。
目先のことではなく二手先のことを常に考え、大局観を大切にする打ち手。
初戦の入りがキーポイントとなるだろう。
100

 

 

3位通過 塚本将之プロ

前半戦は我慢が続くも、後半持ち味を生かした戦い方で見事決定戦進出。
自分に厳しく、とてもストイック。
どっしりと腰を据えた彼の麻雀は、見ている者を魅了する。
昨年の悔しさを晴らし、初の皇帝位となるか?
100

 

 

4位通過 安東裕允プロ

8節まではマイナスポイントだったが、最後の2節で120ポイントを上乗せし、決定戦進出を決めた。
多くの技を繰り出し、その場面に応じた戦い方をする打ち手。
他の三者からすると、安東はとても厄介な相手になるだろう。
100

 

誰が勝ってもおかしくない、今回の対局者達。
私の大好きな、尊敬する先輩達。
この対局を記録に残したい…たくさんの人に伝えたい…そう思い、自ら観戦記者をさせてほしいと志願した。

会場へ選手が集まった。
いつも多忙なイメージのある対局者達だが、皆口をそろえて「よく寝た!」と言っていた。
睡眠不足は、麻雀を打つ上で一番の障害となる。
当たり前のようだが、試合の前日はなかなか寝付けないもの。
しかし4名の対局者達は、各々コンディションを整えて会場へとやってきた。

中村本部長の挨拶があり、牌チェック、諸注意と進んでいく。
長いようで短い2日間が幕を開けた。

 

100
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1回戦(起家から塚本、安東、浜上、中尾)

東1局0本場 親塚本 ドラ五筒
開局いきなりドラドラの好配牌の塚本。
四万五万五万八万一索九索二筒三筒三筒五筒五筒七筒八筒八筒
この手を、開局したばかりの今、どう育てていくのだろう。
私は心を躍らせた。
塚本の今日の戦い方が、この1局で見えるのでは…と思ったからだ。
9巡目、塚本が動く。
塚本
二万四万五万五万五筒五筒六筒七筒八筒発  ポン三筒 上向き三筒 左向き三筒 上向き
タンヤオを確定させる六筒を前巡に引き入れ、仕掛けやすい手格好となってすぐ浜上から三筒が打ちだされる。
しかし、この仕掛けを見て戦いを挑む者がいた。
中尾は6巡目にタンヤオ七対子をテンパイし、ヤミテンに構えていたのだ。
中尾
四万四万六万六万二索二索四索四索六索八索八索六筒六筒

六索待ちから七索待ちに変え、9巡目の塚本の仕掛けを見てツモ切りリーチ。
このリーチを見て、塚本はどうするのか?
(きっと真っ向勝負をしてくれるはず!)
私はそう思いながら見ていた。
12巡目に自力で五万を引き入れ、カン三万待ちの聴牌。
そこからは塚本、中尾のめくり合い。
塚本
二万四万五万五万五万五筒五筒六筒七筒八筒  ポン三筒 上向き三筒 左向き三筒 上向き  ツモ三万
17巡目、塚本が力強く三万をツモ。
2,000オールの和了となった。

続く、東1局1本場 ドラ九索
今度は安東に好配牌!
六万七万八万五索五索六索七索七索三筒四筒五筒六筒七筒
ダブル立直とまではいかずとも、高打点が見込める最高の配牌。
しかし、4巡目に引き入れたのは三色の崩れる五索だった。
だが巡目も早く好形のため、安東はリーチを選択する。
このリーチを受けた塚本の手牌。
一万二万三万四万一索三索四索四索四索五索八索二筒三筒
5巡目、この手に四万を引き入れ五索を勝負する。
次巡一筒を引き入れリーチ。
入り目を打たれ、追いかけられた安東はどんな心境だっただろう。
そして、即二索をツモあがる塚本。
3,900は4,000オールの和了をものにする。
(恐い…塚本さん恐い…)
会場にいる皆がそう思ったことだろう。

東1局2本場 ドラ二筒
塚本の配牌
二万三索五索六索六索六索三筒三筒三筒六筒六筒六筒西北
三暗刻が…出来あがっている…
この親をどこまで続けるつもりなんだ…
大物手間違いなしのこの配牌、5巡目に4枚目の六筒を持ってきて暗カン、リンシャンから三索を引き入れ、四暗刻イーシャンテンになる。
六万三索三索五索六索六索六索三筒三筒三筒  暗カン牌の背六筒 上向き六筒 上向き牌の背
ここに次巡七万を引き入れ打五索、タンヤオ三暗刻のテンパイ。
一手変わるとツモり四暗刻である。
5巡後、浜上から五万が打ち出され、11,600は12,200の出和がりとなった。
この時の浜上の手牌。
三万四万五万五万六万八万八万八索四筒五筒七筒八筒九筒  ツモ二万  打五万
12巡目と巡目も深く、二万が塚本の現物でもあることから、この放銃は浜上らしくないな…と思った。

続く3本場も、10巡目に安東から1,500は2,400を和了。

4本場、浜上が500/1,000は900/1,400をツモ。
ようやく塚本の親をここで終わらせる。

道中、先頭を走る塚本に食らいついていたのは安東。
南2局の親番では6本場まで積み、44,600まで点棒を増やす。

親番の猛追は素晴らしいものだった。
塚本は安東に捲くられる危機を覚えたに違いない。
安東と対局したことのある人にしかわからない、安東の粘り強さ。
これは安東の持ち味のひとつだ。

逆に苦しいのは浜上と中尾。
和了に絡めず、我慢の時を過ごす。

南3局、親番の浜上にチャンスが訪れる。
下家の中尾の仕掛けによってドラの三筒が重なり、平和のみの手が平和ドラドラに。
浜上
二万三万四万五万六万七万一索二索三索四索五索三筒三筒  リーチ  ツモ三索

リーチを打ち、見事4,000オールをツモ。

中尾もオーラスの親番意地を見せるが、2,000は2,300の横移動にて1回戦目が終了。

1回戦成績
塚本 +39.5p 安東 +17.2p 浜上 ▲24.0p 中尾 ▲32.7p

 

2回戦(起家から塚本、中尾、浜上、安東)

東3局2本場 親浜上 ドラ四索
2巡目、ドラ対子の塚本が早々と自風の西をポン。
続いて、仕掛けにより引き入れた中をポン。
手は対子系に育ち13巡目、ハネ満のテンパイをいれる。
塚本
四索四索三筒三筒六筒六筒六筒  ポン西西西  ポン中中中
しかし、前巡安東からリーチが入っている。
塚本の仕掛けを受けてのリーチだ、こちらも勝負手のはず!
安東
三万四万三索四索五索六索七索八索三筒四筒五筒八筒八筒
ハネ満vs高めツモでハネ満。
見ている者をワクワクさせる、高打点勝負。
塚本と安東のめくり合いの末、流局。
お互い、この手は決めさせてくれと願っただろう。
麻雀の神様は、とても気まぐれである。

話はいきなりそれるが、人にはイメージ、印象というものがある。
それは麻雀にもいえること。
「この打ち手がこの仕掛けをするということは、打点が伴っているはずだ。」
など、対局をするうえで人読みも入ってくる。

塚本に対する皆のイメージは、どっしりとした、打点のある手をつくる打ち手。
そして、とっても繊細な麻雀を打つ。
ざっとではあるが、こんな感じではないだろうか。

今回の皇帝位戦に向けて、塚本はそれ以外の武器をたくさん調達してきた。
いや、今まであまり出していなかっただけで、ここぞという時に最強の武器になるよう、いつでも出せるように懐で温めていたのかも知れない。

そんな彼の意外な一面をみた1局があった。

南3局1本場 親浜上 ドラ三万
前局、親の浜上が2,000オールをツモあがりし、持ち点を49,700にまでのばしていた。
もう親番のない塚本は、南3局の現時点で18,000持ちのラス目。
その塚本の配牌。
五万五万二索三索六索一筒三筒六筒九筒西白白中
決していいとは言えない。
だが、安東が第1打に切った白をポンするのだ。
私はこのとき浜上の後ろで観戦していたので、塚本の手は見ていない。
しかし勝手に「ん?ドラ対子かな?染め手かな?」と想像していた。
4巡目にカン二筒をチー。
8巡目に六筒をポン。打八筒で手牌が4枚になる。
そして、10巡目に浜上が打ち出す四索にロンの声がかかる。
塚本が開いた手牌は五万五万二索三索
衝撃を受けた。
18,000のラス目の塚本が、この仕掛けをするイメージがまったくなかったからだ。
後に本人に聞いてみた。
「もうラスは受け入れていた。でも戦わないと、浜上さんに加点され続けるかもしれないからね。もらった手材料で、やれることをやっただけだよ。」
温めていた武器、ここで出したのか…。
四索を打ち出した浜上の手は、十分形だった。
三万四万七万八万五索五索六索六索七索七索四筒五筒五筒
6,000オールまで見えるこの手を、塚本は隠していた武器で封じたのだ。

日頃から周りに与えているイメージがあるからこそ、この仕掛けが恐いものに見える。
それを彼はよくわかっていた。

2回戦成績
浜上 +24.8p 安東 +4.0p 中尾 ▲10.1p 塚本 ▲18.7p

2回戦終了時
安東 +21.2p 塚本 +20.8p 浜上 +0.8p 中尾 ▲42.8p

 

3回戦(起家から中尾、浜上、安東、塚本)

2回戦を終えて、中尾1人で負債を抱える形となった。
私の知る中尾は、いつも余裕があり、堂々としている。
しかし、休憩中の中尾の表情に余裕の文字はなかった。
決定戦を戦う彼らにしかわからないプレッシャーがあるのだろう。
声をかけたい衝動にかられたが、心の中で(頑張れ!!)と呟き、ぐっと我慢した。

東1局、塚本が技ありの2,600をアガる。
ドラのない三色のカン三万、これはAルールだとリーチ選択をすることが多い。
これをヤミテンに構え、浜上から見事打ち取るのだ。
親の中尾がダブ東をポン、カン二索をチーして六筒九筒待ちのテンパイをいれていた。
そして持ってきた六万を中尾がツモ切り、すぐ浜上から三万が打ち出される。
三万で、高めハネマンテンパイの浜上。
この三万を放銃した浜上は、後に「堪えたよー」と話してくれた。

道中、浜上の繊細な打ちまわしに目がいった。
親の動向をしっかり観察し、親が仕掛けようものなら一切親の有益になることはしない。
彼がきつい牌を打ち出す時は、勝機のあるテンパイ打牌であることがほとんどだ。
北家の浜上の粘り強さを思い知らされる。

南2局0本場 親浜上 ドラ七索
ここまで苦しい展開の中尾にようやく先制リーチが入る。
中尾
四万四万四万六万六万六万七万八万九万七索七索二筒二筒  リーチ  ロン二筒
二筒を安東から出アガり、5,200。

中尾36,900 浜上34,700 安東17,700 塚本30,700
ここでトップ目にに浮上する。

オーラス、親の塚本が渾身の2,600オールをツモあがり局面を一歩リードする。
塚本
一筒三筒五筒六筒七筒八筒八筒  ポン中中中  ポン西西西  ツモ二筒

しかしオーラス1本場、ドラ四万 浜上が31,600持ちからリーチ。
浜上
二万三万四万四万五万七万八万九万一索二索三索六索六索  リーチ  ツモ三万

2,000/4,000は2,100/4,100を見事ツモあがり2連勝。
攻守のバランスが良く、実に浜上らしい見事な1半荘だった。

3回戦成績
浜上 +17.9p 中尾 +7.2p 塚本 +4.9p 安東 ▲30.0p

3回戦終了時
塚本 +25.7p 浜上 +18.7p 安東 ▲8.8p 中尾 ▲35.6p

 

4回戦(起家から中尾、塚本、安東、浜上)

皇帝位決定戦初日も、残すところあと1半荘。
8半荘で優勝者が決まる今回のシステム。
通年のリーグ戦とは戦い方も変わってくる。
それを特に体現しているのが塚本だ。

浜上はいつもと変わらず終始落ち着いた様子。
安東も中尾も、私の知る2人だ。

しかし塚本に関しては、知らない一面が垣間見える。
観戦者が思わず覗き込みたくなるような戦いを見せてくれる。

そんなことを思いながら観戦していると、東3局に事件がおこる。

東3局0本場 親安東 ドラ六筒
11巡目、中尾から打ち出された東に浜上からロンの声。
手牌をそっと倒し「32,000」の発声が会場内に響く。
浜上
一万九万一索九索九索一筒九筒東西北白発中  ロン東

このときの中尾の手牌はこちら。
二万三万四万四万五万六万四索五索六索四筒六筒白白
三色ドラ1のテンパイ。
序盤からピンズが安く五筒の場況がよく見え、実際山には4枚眠っていた。
中尾の態勢の悪さを物語っている。
しかし、中尾は表情には出さずはっきりと「はい」と答え、点棒を渡していた。
彼の潔い、プロとしての姿勢は素晴らしい。

南1局1本場 親塚本 ドラ二万
好配牌の塚本、カン二万をツモ、四索を重ね雀頭にしてのリーチ。
一万二万三万五万六万七万四索四索六索六索七索八索八索  リーチ  ツモ七索
力強く七索をツモ!3,900は4,000オールのあがり。

オーラス、ドラ四筒
中尾
七万八万九万四索五索八索八索八索六筒七筒八筒東東  リーチ

三索六索待ちのリーチを打つも、四万をツモり、塚本に2600を放銃し、終局。

塚本
四万四万六万六万七万八万九万七索八索九索七筒八筒九筒  ロン四万

4回戦成績
浜上 +37.1p 塚本 +22.5p 安東 ▲8.5p 中尾 ▲51.1p

4回戦終了時
浜上 +55.8p 塚本 +48.2p 安東 ▲17.3p 中尾 ▲86.7p

 

前半戦が終わった。
私が予想していたより、大きなポイント差が生まれる結果となった。
残り4回戦で今期の皇帝位が決まる。

浜上と塚本の一騎打ちとなるのか。
安東、中尾が意地をみせるのか。
最後まで目が離せない。