特別昇級リーグ 決勝観戦記/第16期特別昇級リーグ 決勝レポート 小車祥
2014年08月29日
去る8月10日、連盟四ツ谷道場にて第16期特別昇級リーグの決勝が行われた。
鳳凰位。
それは我々日本プロ麻雀連盟のプロならば誰しもが憧れる頂点の座。
現在プロリーグは研修リーグを除いても10段階のリーグに分かれている。
D3リーグからA1リーグへ最短で昇級していったとしても、鳳凰位を獲得できるチャンスを得るのは6年目。
もちろん全てストレートに昇級などまず無理なので、それ以上の時間がかかってしまう。
そこで、力のある若手へのチャンスとして特別昇級リーグが設けられている。
各リーグの昇級者や、タイトル戦の決勝に残った者へ、特別昇級リーグへ出場する権利が与えられる。
リーグ戦が始まった時に立会人である藤原プロが言った。
「優秀なプロを助けるためのリーグであるが故に、昇級条件や失格となる条件も厳しい。
ここにいるというだけでチャンスなのだから、きっちりチャンスを活かして欲しい」
その言葉通り、チャンスをものにするべく決勝へと駒を進めたのは以下4名。
土井 悟(+152.5P、C2)
福光 聖雄(+127.3P、C2)
高宮 まり(+114.0P、C2)
本田 朋広(+105.3P、D1)
特別昇級リーグでの昇級の条件の1つに、その期のプロリーグをプラスで終えることというものがある。
そのため、特別昇級リーグの決勝では「昇級権利を持っているのは事実上1名のみ……」というようなことも少なくないのだが、今期の決勝はなんと全員に昇級権利が残っている。
しかも福光と本田に関しては、それぞれのリーグで自力昇級を決めていた。
この特別昇級リーグには、それだけ力のある選手ばかりが集まっているということなのである。
4者の譲れぬ戦いの幕が開けた。
1回戦(起家から、本田・土井・高宮・福光)
東3局、立ち上がりは小さな点数の動きしかなかったのだが、ここで最初に本手を決めたのが本田。
リーチ ツモ ドラ
ドラが2枚あるチャンス手だなと思って見ていたが、あっさりテンパイし、あっさりツモった。
こんな簡単に2,000・3,900をアガれていいのかと、見ているこちらが嫉妬するほどだった。
東4局、9巡目に土井がドラ単騎待ちの七対子をリーチ。
リーチ ドラ
これを受けて高宮の手牌。
この手をもらっては全面戦争の構えだったが、有効牌をツモることも仕掛けることもできないまま、土井がドラのをツモ。
3,000・6,000
南2局、高宮が1巡目にポン、5巡目にポンと、積極的に仕掛け以下の手牌。
ポン ポン ドラ
次にをツモりテンパイするも、打とテンパイを取らない。
2,600テンパイよりもトイトイや大三元を目指す。
を打ち出さないことで、周囲への牽制も兼ねていた。
強い意志を持って前に出た高宮だったが、ツモ切ったに土井からロンの声がかかる。
ロン
高宮は5,800の手痛い放銃となってしまう。
南3局2本場、ここまで展開に恵まれない高宮は、1回戦最後の親番の維持に全力を注ぐ。
5巡目にをポンして以下の手牌。
ポン ドラ
ドラドラだが、簡単には鳴かせてもらえそうもないどう見ても苦しい手牌。言ってしまえば泥臭い。
小柄で容姿端麗な高宮からは、想像もつかないような泥臭い必死の闘牌。
私は苦しい仕掛けのその声のトーンや、内に秘められた熱い思いに胸が苦しくなった。
しかし無情にも、この局を制したのは本田。
ツモ
2,000・3,900
南4局、福光の親番。
本田と800点差でトップの土井は、開局第1打からドラのを河に置く。
1回戦をトップで逃げ切りたいという意志のこもった打牌。
土井は役牌のを仕掛けて局を終わらせに行く。
ここで高宮がテンパイ、リーチ。
リーチ ドラ
高宮がをツモって1,300・2,600。
トータル首位だった土井がリードを広げる形で1回戦が終了する。
1回戦成績
土井+23.1P 本田+18.3P 福光▲17.3P 高宮▲24.1P
1回戦終了時
土井+175.6P 本田+124.2P 福光+110.0P 高宮+89.9P
2回戦(起家から、本田・福光・土井・高宮)
東3局、高宮が5巡目にをポン。
その後、、、とツモって以下のテンパイ。
ポン ドラ
苦しい待ちだが、跳満確定の勝負手。
ここにをツモって来て少考の後、をツモ切り。
と六のシャンポンに受け変えはできるが、場にが2枚出ていたので待ちは変えない方がいいだろう。
同じ待ちのままでもを加カンすることができた。
リンシャン牌でツモれば倍満となる手だけに、カンもありだったかと思いながら見ていた。
次のツモが、カンに受け変えることもできるが待ちを変えずツモ切り。
そして次のツモが裏目の。
高宮はここでを加カンし、とのシャンポン待ちへと受け変える。
リンシャンから持ってきたをツモ切ると、親の土井からロンの声がかかる。
ロン
12,000の放銃。最初のツモの時にカンをしていれば、このは土井のテンパイよりも先に切ることができていた。
そしてを残していると、ツモで待ちに変えることができ、五をツモっていた。
もちろんこれは結果論かもしれない。自分の目からが4枚見えている待ちにしたくなる気持ちもわかる。
しかし、そのそれぞれの選択によって待っている結果が両極端過ぎる高宮にとってはきつい局であった。
南2局、南家の土井が早々に南をポン。7巡目に以下の手牌。
ツモ ポン ドラ
トップ目なのでドライにドラをリリースするかとも思ったが、ここはテンパイ取らずの打とした。
その巡目で福光がテンパイし、以下のリーチを打つ。
リーチ
これは土井の手の中にあるもう1枚のが捕まってしまったかと思いながら見ていた。
しかし、土井はこのリーチを受けてのトイツ落とし。
結局、ギリギリのところで逃げ切り流局となった。
南3局、親の土井が2巡目にをポンして以下の手牌。
ポン ドラ
かなりリスキーな仕掛けである。
親番とはいえトータルトップでこの2回戦目もトップ目。
しかし7巡目には以下の形に整う。
ポン
13巡目にはついにツモでテンパイしてしまった。
ここで福光から声があがる。
ツモ リーチ 打
単騎の思い切りの良いリーチである。
同巡、本田からもリーチ。
リーチ
こちらもドラドラの本手。
3者の内、誰に軍配が上がるかと見ていると、高宮が長考の末を暗カン。
暗カン
リンシャンから持ってきたのはで、打とする。
全員が前に出るという、競技Aルールでは珍しい局となったが、この局アガリ切ったのは土井。
高宮がツモ切ったで、2,900のアガリとなった。
このように、一見リスキーな仕掛けを見せる土井だが、ギリギリのところで逃げ切り誰も捕まえられない。
このまま2回戦も土井が逃げ切り、一気に土井の優勝ムードが高まるかに思えたオーラス。
親の高宮がドラドラの手牌をもらう。
ここまで良い手が入っているものの競り負けて放銃となってしまう局面が多い高宮。
積極的な攻めの姿勢を見せる。
5巡目に土井から切られたをチー。
チー ドラ
その後、なんとか以下のテンパイまで漕ぎ付ける。
チー チー
土井はを仕掛けて以下のテンパイを入れていた。
ポン
残りツモ2回というところで、ツモってきた四を高宮に切りきれず、場に1枚出ていたのトイツ落とし。
次巡、をツモってしまいアガリ逃し。しかし単騎のテンパイ。
ハイテイ牌が回ってきた土井。ハイテイのツモはで高宮のロン牌。
をやめているので、当然テンパイ崩すかなと思いきや、このを勝負。
タンヤオ・ハイテイ・ドラ2の11,600を放銃してしまう。
オーラス1本場にも、土井は高宮に2,900は3,200を放銃。
オーラス2本場には、福光に700・1,300をツモられ、土井はついには配給原点を割り2回戦を終えてしまった。
2回戦成績
福光+15.3P 本田+6.9P 土井▲4.5P 高宮▲17.7P
2回戦終了時
土井+171.1P 本田+130.5P 福光+125.3P 高宮+72.2P
3回戦(起家から、福光・本田・土井・高宮)
東2局、本田は親番で積極的に仕掛けていく。
ポン ポン ドラ
親がここまで派手な仕掛けを入れれば、もうこの先は自力でツモるしかない。
、とツモり1シャンテンとなる。
ここで福光が以下の手牌。
を切ればタンヤオのテンパイ。
本田の河はソウズのホンイツが濃厚なのだが、ドラそばのでの放銃となると11,600を覚悟しなければならない。
そして、本田の手出しが気になっているのだ。
福光はを切りきれず、打とする。そして上家から切られたをチー。
これはを切っていればアガリとなっていた牌である。
結果的には、このチーが最悪となってしまう。
本田に流れた牌は、そして。
ポン ポン ツモ
本田の8,000オールが炸裂する。
南3局にも2,000・3,900をアガった本田が、3回戦を制しトータルトップに躍り出る。
3回戦成績
本田+29.0P 高宮+14.4P 福光▲17.0P 土井▲26.4P
3回戦終了時
本田+159.5P 土井+144.7P 福光+108.3P 高宮+86.6P
4回戦(起家から、土井・福光・高宮・本田)
東2局、親の福光にドラのが暗刻で入るがなかなかテンパイできない。
そうしている内に土井がリーチを打つ。
リーチ ドラ
本田もすぐに追いつき、追いかけリーチ。
リーチ
福光もオリる気はなくぶつかり合うことが予想された。
土井のアガリ牌であるは、河に1枚切られていて、本田が雀頭にしている。
そんなことを知る由もない土井は、あっさりとラス牌のをツモった。
見えている本田は「まじか……」と思ったのではないだろうか。
見ている私ですらそう思ったのだから。
東4局、土井が積極的に仕掛ける。
ポン ポン ドラ
これはまたリスキーな仕掛けだと思った。
しかし土井は、そのリスクを承知で前に出ている。
これまでにこういう局面を何度も見てきたし、その度にギリギリのところで競り勝ってきているからだ。
土井の手牌が整わない内に、福光がテンパイした。
リーチ
リーチしたその巡目で土井がを掴む。
福光は、土井と本田の2人を追わねばならぬ立場。
やはりここはリーチが定石となってしまう。
福光がヤミテンなら止まらない牌だが、リーチならば土井は打たないのだ。
こういう局面になると簡単にオリを選択する。1枚でも現物があればそれを切る。
そうやって、ギリギリの押し引きで凌いで今の位置にいるのだ。
結局、もう1枚重ねたを土井は河へ切ることはなく、流局となる。
やはり土井の強さは、この絶妙な押し引きバランスにあるのだと確信した。
南3局、残すところ高宮の親番と、オーラスの本田の親番のみ。
親番のなくなった福光は、かなり苦しい状況に立たされていた。
配牌8種から国士へ向かう。
8巡目、最後の親を落としてしまうと負けが確定する高宮は、以下の手でリーチを打つ。
リーチ ドラ
ドラも手役もなく待ちも悪いリーチ。
しかし、このリーチを打つしかない立場の高宮と、最後まで諦めない姿勢に胸が熱くなる。
そして、このリーチを受けた巡目に、なんと福光が国士をテンパイしていた。
福光の雀頭は失念してしまったが待ち。
そしてリーチを打っている親の高宮の河にはが1枚。
今にもアガれそうな待ちだった。
冒頭にも書いた通り、福光はC1リーグへの昇級を決めている。
つまり福光にとって、この特別昇級リーグは優勝でのB2リーグ格付けにしか意味のないものとなっている。
2人を追う立場の福光は、高宮から国士をアガってもあまり意味はなく、できればツモりたいと考えていたはず。
もし河にが出てしまった場合どうしようか、福光のそんな心配も杞憂に終わってしまう。
福光がを切ったことで、スジとなってしまったを本田が切り、高宮の2,000のアガリとなる。
南3局1本場。
高宮の粘りも虚しく、本田のアガリ。
リーチ ツモ ドラ
1,000・2,000は1,100・2,100。
南4局。
本田28,000点持ち。土井43,200点持ち。
本田は、原点復帰は最低条件。
土井はアガれば何でもいい状況。
本田の配牌。
ドラ
土井の配牌。
土井は本田の下家。
これはもうさすがに決まったかなと、この時点で思わされていた。
本田、重ねたをポン、をポン。
ツモにも助けられなんとかテンパイ。
ポン ポン
土井も果敢に仕掛け、テンパイ。
チー チー
土井はアガれば優勝。自分のアガリ牌以外は全てツモ切るのかと思っていたが、ドラのをツモって長考する。
確かに、親の仕掛けに対してドラでは放銃したくない。
しかし、アガリやめはないので、放銃してももう1局はある。
ドラでだけは打ちたくないのなら、間を取って打という選択肢もある。
しかし土井は、一番確実な中の暗刻落としを選択。
親がノーテンでない限りは、必ず次の局以降の決着となる選択をする。
次の土井のツモはで、シャンポンにすればアガっていた。
このアガリ形に行き着いた人ももしかしたらいるかもしれない。
まもなく本田がをツモ。1,000オールで原点復帰となる。
南4局1本場。
本田31,000点持ち。土井42,200点持ち。
2人ともノーテンで終わればトータルポイントが同点で終了するが、現実的には本田があと1回アガリ、次の局にノーテンで終わらせるか、土井がアガるかというものになるだろう。
本田の配牌。
ドラ
ここにきて本田はかなり苦しい手牌。
土井の配牌。
役牌のあるまずまずの手で、なおかつそのは本田の手の中にある。
ここもかなり土井が有利な配牌となった。
土井はポンして1シャンテン。
本田、ここもツモに助けられテンパイ。リーチ。
リーチ
本田のリーチ宣言牌はで、土井はこれをチーしてテンパイ。
チー ポン
土井の河にはが切られており、福光と高宮からの出アガリは期待できない状況。
本田は、土井に仕掛けさせないためにカン待ちにしてリーチを打つべきだったのかもしれない。
しかし、確かにカンはかなり良い待ちに見えたのも事実。
–待ちは牌山にかなり残っており、土井の優勝は目前かと思った。
しかし土井はをツモると、打とテンパイを崩してしまう。
さすがにここは、たとえそれが親のロン牌であっても切るべきではないのかと思った。
これは本田にチャンスが生まれたかと思えたが、土井が、とツモりテンパイ復活し、一度は止めたを勝負。
チー ポン
本田がをツモ切り、土井のアガリとなった。
4回戦成績
土井+26.5P 本田▲2.3P 高宮▲7.7P 福光▲16.5P
最終成績
土井+171.2P 本田+157.2P 福光+91.8P 高宮+78.9P
優勝は土井悟プロ。
見事、B2リーグへの昇級を勝ち取った。
準優勝だった本田朋広プロも、C1リーグへの昇級となる。
こうして、第16期特別昇級リーグは幕を閉じた。
高宮「今日は一生懸命頑張りました。また頑張ってこのステージに戻ってきます」
福光「土井さんは途中で何度かあたって、やりづらいなーと感じていた。対局が始まると、やはりやりづらかったです。今期自力昇級してるんで、来期もまた出れます。来期の特別昇級リーグこそは優勝したいと思います」
本田「悔しいの一言しかないです。泣きそう……。ターゲットはずっと土井さんだったんですが、最後まで逃げ切られてしまいました。でも来期はC1なんで、気合い入れてがんばります!」
土井「2回戦オーラスのカンはやっちゃいました……反省です。今期のC2リーグでギリギリのところで昇級を逃した経験は大きかったです。その悔しさをバネに今日頑張れたと思います。来期B2は気合い入っているんで、リーグ戦前日までしっかりと体調を整えて挑みたいと思います!」
最近では、様々なタイトル戦の決勝やベスト8、16などが連盟チャンネルにて放送されている。
今回、特別昇級リーグの決勝戦に観戦記者として立ち会った私が、なぜこの対局がニコ生じゃないんだと悔しい気持ちになるくらい内容の濃い良い対局だった。
今回は私も1選手としての独自の見解を入れつつ、起こったことを正直に書かせて頂いた。
これを読んでくださった方にも様々な考え方や価値観があり、選手の選択をいろんな風に思うだろう。
それでいいと思っている。
間違いなく言えることは、そこに座って戦っている選手が一番苦しく、誰より勝ちたいと望んでいる。
その思いがプレッシャーになり、冷静さを欠く原因になり、手の震えを生む。
そんな中で得た勝利は、何物にも替え難い財産となるのである。
私もC1リーグを自力で昇級し、来期からはB2リーグ。
この勝利でさらに手強くなった土井とも牌を交えるだろう。
特別昇級リーグでの借りも返さねばならない。
全員に共通する思いは、鳳凰位という頂を目指すこと。
よき仲間であり、よきライバル。
理想の自分に近づくために、この日の4者の戦いを私の脳に刻んでおこう。
カテゴリ:特別昇級リーグ 決勝観戦記