特別昇級リーグ 決勝観戦記/第17期特別昇級リーグ 決勝レポート 土井悟
2015年01月06日
2014年12月23日、連盟四ツ谷道場にて第17期特昇リーグの決勝が行われた。
特昇リーグの参加資格は各リーグの昇級者やタイトル戦の成績優秀者に与えられる。
特昇リーグで優勝して、その期のリーグ戦でもプラスで終わればB2リーグに昇級できる。
強くなりたい、早く上で打ちたいと思っている人間にとっては参加して当然のリーグである。
特昇リーグが通常のリーグ戦と大きく異なるのは下記の点である。
・成績下位者は途中で失格
・残った上位で決勝が行われる
・決勝はそれまでのポイント持越し
数か月争った後に、ポイント持越しで決勝を行うというのは麻雀の大会ではかなり珍しいのではないか。
過去には優勝がほぼ確定している決勝もあった。
100ポイント近くあった差を追いついた決勝もあった。
今回の決勝進出メンバーの準決勝終了時の成績は以下の通りである。
(決勝は5半荘で上位から抜番となる)
ケネス 徳田(+200.4P D1)
吾妻 さおり(+194.2P C2)
越野 智紀(+101.7P C3)
福光 聖雄(+100.0P C1)
久山 浩司(+72.6P D1)
連盟のAルールで打つ場合、100ポイント差を4半荘でひっくり返すのは非常に厳しい。
ただ、100ポイント差の上位が2人いる場合どうなるのか。
上位のケネス、吾妻は共に前に出るタイプである。
福光は現在C1なので優勝以外意味がない。
越野と久山は3位でも意味がある。序盤は流石にトップを狙うだろうが、2位・3位狙いに切り替える局面はあるのか。
序盤からいつもと異なる選択を迫られる。
条件に合った打ち方をするのか。
普段の打ち方を貫くのか。
1回戦(起家から、福光・越野・吾妻・久山)抜番:ケネス
序盤は軽い探り合い、そして場が動く。
東3局、親の吾妻が7巡目リーチ。
リーチ ツモ ドラ
2,600オール。
東3局1本場、再び親の吾妻が13巡目リーチ。
リーチ ツモ ドラ
3,900は4,000オール。
抜番のケネスを焦らせ、100ポイント差を逆転すると息巻いていた同卓者3名の心をへし折るには十分なアガリ。
南4局、53,500点持ちの吾妻だが、まだまだ足りない。
2着目の越野が30,500点と30,000点を越えているのが気に入らない。
吾妻の9巡目。
ポン ドラ
しかしここまで手が入らなかった福光がそれを許さない。
ポン ドラ
吾妻がの周りを持ってきたらどうするのか見ていたが、ドラのを持ってきてオリ。
越野が2,000点をアガリ、吾妻の1人浮きは何とか阻止。
1回戦成績
吾妻+29.5P 越野+6.5P 久山▲14.9P 福光▲21.1P
1回戦終了時のトータル
吾妻+223.7P ケネス+200.4P 越野+108.2P 福光+78.9P 久山+57.7P
2回戦(起家から、福光・越野・久山・ケネス)抜番:吾妻
東1局
1回戦ラスだった起親の福光、ここで点数を稼がずにいつ稼ぐと仕掛ける。
ポン ドラ
テンパイ一番乗りは越野。
ドラ
そして久山が13巡目に追いつく。
リーチ ドラ
前に行くしかない福光がの放銃。久山が5,200をアガった。
東4局、ケネスがリーチ海底ツモで2,000オール。
東4局1本場、のみで500は600オールをアガる。
会心のアガリではないが大きなアガリのためには必要な連荘。
東4局2本場、北家久山の6巡目、
ドラ
上家から出たを久山は仕掛けた。
私も普段だったら仕掛ける手だが、現在のポイント差を考えると迷ってしまう局面だ。
そしてドラのが下家に流れた。久山の次巡ツモは。程なくして2,000は2,600のアガリ。
仕掛けなかった場合にどうなったかは分からないが、このアガリで一番得をしたのは抜番の吾妻だと思った。
などと分かったフリをしている間に、久山は南1局6,400、南4局8,000とアガってこの半荘トップに。
2回戦成績
久山+33.6P ケネス+10.7P 越野▲12.6P 福光▲31.7P
2回戦終了時のトータル
吾妻+223.7P ケネス+211.1P 越野+95.6P 久山+91.3P 福光+47.2P
3回戦(起家から、吾妻・久山・ケネス・福光)抜番:越野
東3局
配牌の時点で親のケネスは中が暗刻のピンズのホンイツ、福光はドラ含みのマンズのホンイツが見えた。
そこに吾妻がポン、ポンときたのでソーズに染めているのかと思っていた7巡目、
ポン ポン ロン ドラ
1,000点のアガリ。
吾妻は1回戦、字牌を1鳴きすれば簡単にアガれる所を何度かスルーしていた。
今回の仕掛けを見て3回戦でギアを変えてきたのだと思った。
しかし決勝終了後に吾妻に聞いたら、理由は「ケネスさんの親だから」だった。
当面の敵は決まっているのだから、決勝の打ち方としては当然なのかもしれない。
当然な打ち方かもしれないが、恐らく対局前から決めていて、現役タイトルホルダーだからこそ実行できたのだと思った。
少なくとも他家にとって今後の吾妻の仕掛けへの対応を難しくさせるアガリだった。
南2局7本場
もう後がない久山が意地の連荘。
しびれを切らしたのか、6巡目にケネスがらしくないチー。
チー ドラ
12巡目に自力でをツモってなんとか1人テンパイ。
流石に場が重たくなってきた。
南3局8本場
ポイントがいくらあっても足りない福光の5巡目。
ツモ ドラ
ここから打。これは流石に無理だろうと思ってみていたが自力でとをツモって9巡目にリーチ。
一方こちらも点棒募集中の久山。
ツモ ドラ
かが現物なら振り替えてリーチの選択もあったが、どちらも危険。
結果は福光のアガリ。
リーチ ロン ドラ
12,000は14,400。追い込まれているからこそ生まれた手順だった。
南4局、ここから福光の時代到来かと思ったが、吾妻がケネスから上がってラス抜け。
3回戦成績
福光+30.4P 久山▲4.9P 吾妻▲7.0P ケネス▲18.5P
3回戦終了時のトータル
吾妻+216.7 ケネス+192.6 越野+95.6 久山+86.4 福光+77.6
4回戦(起家から、ケネス・越野・吾妻・久山)抜番:福光
小さなアガリが続いて東場は終了。
南2局1本場
親の越野が終盤にリーチ。
リーチ ツモ ドラ
6,000は6,100オールをツモ。
南2局2本場
親の越野が7巡目に再びリーチ。
リーチ ドラ
安全牌のないケネスがこのリーチにを打ってしまう。
オーラスを迎えた時点の点棒は
越野62,200 久山25,200 吾妻20,300 ケネス11,300
南4局1本場
吾妻が8巡目にリーチ。
リーチ ドラ
リーチ棒が出て満貫出アガリでもラス抜けになるケネスだったが、を掴んでしまい放銃。
1半荘を残して決着はついたように思えた。
4回戦の最終結果は
越野+44.2P 吾妻▲4.2P 久山▲7.8P ケネス▲32.2P
4回戦までのトータル
吾妻+212.5P ケネス+160.4P 越野+139.8P 久山+78.6P 福光77.6P
ケネスは優勝が遠くなっただけでなく、2着も危なくなってきた。
5回戦(起家から、ケネス・越野・福光・吾妻)抜番:久山
最終戦は連盟の決めに従いここまでトータルトップ目の吾妻はラス親。
トータル2着目のケネスは起親となる。
東3局
親で連荘するしかない福光がリーチをかけるも、ケネスが一歩も引かずに跳満ツモ。
ツモ ドラ
南1局1本場
7巡目に吾妻がをポン、9巡目の手牌。
ポン ドラ
吾妻の上家である福光は、この仕掛けに対して何も切れなくなり、比較的通りそうなを打つ。
吾妻はこの手を1,300で終わらせる気はなくスルー。
を鳴けば簡単にケネスの親を終わらせることができた。
ラス親でアガリ止めができないことによる難しい選択。
ただ、ケネスに連荘されて困るのは吾妻だけでなかった。
越野のアガリによって、ケネスの最後の親番は流れた。
南3局1本場
ケネスがオーラスに希望を繋ぐリーチ。
リーチ ドラ
吾妻もこれに追いつく。
ドラ
吾妻はヤミだが、ここが勝負所と危ない牌も止める気はない。
さらにテンパイしていた越野が
リーチ ドラ
ここからをツモ、切リーチ。
ここで吾妻はをツモってオリ。2人テンパイで流局。
オーラスを迎えた時点での点棒状況は
ケネス38,300 福光37,400 吾妻21,400、越野20.900 供託2,000
ケネスの逆転条件は、吾妻から満貫直撃か跳満ツモ。7,700直撃では足りない。
南4局2本場
吾妻は配牌からオリ。ケネスは条件へと手を進める。越野、福光は国士狙い。
河が非常に分かりにくい。
終盤、吾妻は安全牌が無くなる。
国士狙いがいて、ヤオチュウ牌が打てない。
数巡前に通ったを頼りにを打つ。
そして次のケネスのツモ。
ツモ ドラ
は既に4枚切れていて、吾妻が直前に切ったも4枚目だった。
もし1巡早くテンパイしてもリーチが必要なので吾妻から出ることはなかったと思う。
傍から見る分には終始盤石な展開を続けてきた吾妻だったが、かなり追い詰められていた。
そしてケネスにしてみれば追い詰めていたが捕まえることができなかっただった。
これで終了と思っていたが、越野がテンパイ。
ドラ
ツモだと2着、吾妻から直撃なら優勝だったがこちらもアガリに届かず。
5回戦の最終結果は
ケネス+17.8 福光+9.9 越野▲11.6 吾妻▲18.1 供託+2.0P
トータル
吾妻+194.4 ケネス+178.2 越野+128.2 福光+87.5 久山+78.6P
久山「決勝は初めてだったが、(ポイント差があったため)選択肢が少なく厳しかった。色々な戦い方があるのだと勉強になった。」
福光「7節までにもっと差を詰めないといけなかった。」
越野「最後の国士はアガリたかった。第7節で頑張って決勝に残ったが遅かった。次に特昇に参加することがあったら逆の立場で決勝に挑みたい。」
ケネス「力負け。経験不足だった。勝てるチャンスはあった。」
吾妻「嬉しい。5節に役満をアガると6節にケネスさんが役満をアガるなど、なかなか突き放せなくて苦しかった。特に6節に同卓した藤原プロ(8人打ち、12人打ちで1人欠場になると立会の藤原プロが打つ)が強くて厳しかった。」
「藤原プロと同卓して苦しむ。」というのは特昇リーグあるあるなので、今後特昇リーグに参加する人は覚えておいてほしい。
第17期特別昇級リーグが終わった。
しかし、特昇で結果を残しても、プロリーグでマイナスだったら意味がない。
優勝した吾妻をはじめ、2位のケネス、3位の越野はプロリーグ4節終了時点で成績がマイナスである。
特昇リーグの決勝が勝たなくてはいけない時なら、今期の最終節も勝たなくてはいけない時である。
ハードルは少しずつ高くなっていく。
そしてそれは自ら望んで挑んでいることだ。
観戦記者として対局を見ることで麻雀の面白さ、難しさを普段とは異なる視点から考えることになった。
対局者は決勝の経験を今後に活かすと思うが、私も今回感じた事を今後の打ち方に活かしていきたいと思う。
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