第18期特別昇級リーグ 決勝レポート 清原継光
2015年08月13日
梅雨も明け、灼熱の炎天下が続いた中での一日。
四谷の連盟道場の一室、冷房の効いた部屋で涼をとる麻雀プロたちがいた。
彼らは、この日までに特別昇級リーグを戦い、その最後の試合を残すだけであった。
1位と2位の差は約30ポイント差、3位との差は約60ポイント差、直接対決なら十分に逆転可能な数字だ。
対局前、これからはじまる熱い戦いに備えるかのように、個々人はそれぞれに静かに集中を高めている。
開始時間の5分前に東谷プロが入室、主役の4人が揃った。
決勝を戦うのは以下の4名(最終節開始時スコア)
ケネス 徳田 (+171.0P) D1リーグ所属
東谷 達矢 (+138.3P) C3リーグ所属
中村 慎吾 (+109.3P) C3リーグ所属
藤井 すみれ (+5.8P) C2リーグ所属
決勝戦は一発裏ドラなしの連盟Aルールによって行われる全4回戦の半荘勝負。
ポイント持ち越しのトータルスコアで勝敗が決する。
「今日は道場は貸切りだから」という藤原道場長の言葉が響き、卓の周りに4者が集まる。
張り詰めたような静かな空気の中、決勝戦は開始された。
——–1回戦 (起家から、中村・ケネス・東谷・藤井)——–
東1局、まずは東家,中村が主導権をとりにいく。
9巡目に以下の形で先制リーチ。
ドラ
これを受けて西家,東谷はすでにこの形
ドラ
10巡目に無筋のドラをツモ切りし、卓内に緊張が走る。
次巡、東谷がひいたのは、を切ってのヤミテンを選択。中村の捨て牌にあるでのアガリに期待する。
12巡目に無筋のをツモ切るも、14巡目にをひいて撤退の落とし。
結果は中村の1人テンパイとなったが、開局から、ギリギリまで踏み込んでアガリをものにする東谷らしい打ち筋を見せてくれる。
続く1本場は、ケネスが七対子で1,600は1,900を東谷からアガリ、その後も、小場ながら、東場で全員にアガリが出るところとなった。
南1局1本場、中村が積んだ親番で、11巡目に南家、ケネスが力強くツモる。
ツモ ドラ
700・1,300は800・1,400。
道中、中村、東谷に大きく叩かせないことを意識して打っていたケネスの門前ツモアガリ。
出来の良い中村に一時並びかけることとなった。しかし、この半荘を制したのは中村。
南4局
ロン ドラ
6巡目で、すでにテンパイを入れていた東谷よりを打ち取り、最大打点が2,600点の超小場を制する。
東谷はラスになり、優勝への道が少し遠ざかる結果となった。
1回戦成績
中村+16.9P ケネス+9.2P 藤井▲8.9P 東谷▲17.2P
1回戦終了時
ケネス+180.2P 中村+126.2P 東谷+121.1P 藤井▲3.1P
——–2回戦(起家から、東谷・藤井・ケネス・中村)——–
2回戦は1回戦とはうって変わり、超打撃戦となった。
東1局、まずは東家,東谷が6巡目に以下の形
ドラ
ここからを切ってのヤミテンを選択。
このに西家、ケネスが反応する。
ドラ
ここからをポンして打。
ドラが固まっていることを感じさせる仕掛けだ。
東谷、この仕掛けでをツモる。
ツモアガリの牌であり、ケネスにドラのが固まった良形が予想されるが、東谷は勝負に出る選択、切りと出た。
この選択が吉と出て、次巡にを持ってくる。
8巡目でこのテンパイ
ドラ
同巡にケネスがをツモ切る。ロンという声と共に開けられた手を見てケネスの表情がこわばる。
1回戦をうまく立ち回ってきたケネスにとっては、とても痛い18,000の放銃となった。
これを機に、同卓の3人がケネスに襲いかかる。
東1局1本場、まずは藤井。5巡目に
ドラ
ここからテンパイとらずの打ち。かわし手ではなくあくまで本手でぶつけるつもりだ。
すぐにを引いて、切りの6巡目リーチ。
全員がオリる中、11巡目にを暗カン、12巡目にをツモって、2,000・3,900は2,100・4,000のツモアガリ。
道中にはひいておらず、唯一のアガリ形であり、かつ、打点も十分。
トータル点差こそ離れているものの、あくまでも上を狙う藤井の強い意志が感じられるアガリであった。
東2局も東家、藤井は攻める。
苦しい配牌を育てて10巡目にドラドラの手から仕掛ける。
ドラ
をチーして打。
この時、すでに南家、ケネスは
テンパイ。この仕掛けでをツモって、ケネス小考、そしてのツモ切り。ツモ倍満の手を壊してあくまでも藤井への受けに徹する。
藤井の手の中にカンの受け入れは残っている・・・。
そして、13巡目にケネスがツモってきた牌は。すでに自分でを1枚切っているため、自身から見て3枚目の。小考後、・・切り。
単騎待ちのホンイツ七対子テンパイへと変化させる。
次巡にを暗刻にした藤井からが放たれる。ケネス、藤井より8,000点の出アガリ。
とても素晴らしいアガリでケネスが一矢報いる。
東3局は中村。8巡目にリーチ、11巡目にツモ。
ツモ ドラ
場況からも山に残っていそうに見えるソウズの下を読み通りにツモる。2,000・3,900のツモアガリ。
中村は山読みの精度がとても高く、ツモアガリの多い打ち手だなと度々感じさせられた。
会心のアガリの後に親かぶりをするケネスはあいかわらず苦しそうである。
東4局は藤井が8巡目
ドラ
ここから切りのリーチを敢行。
見事、をツモり、2,000・4,000のツモアガリ。
南1局、
6巡目に西家、ケネスがを仕掛け、7巡目にテンパイ
ポン ドラ
ケネスのテンパイ打牌のを北家、中村がポンして立ち向かう。
10巡目に東谷からをポンして以下のテンパイ。
ポン ポン ドラ
親の東谷も11巡目にリーチ。
リーチ
3人のツモる動作に力が入る・・・。
ケネスがをつかみ、長考後、を切って撤退。
中村と東谷の一騎打ちは、14巡目に中村がをツモって2,000・4,000のツモアガリ。
いつも冷静な中村にしては珍しく力強い動作であった。
南2局
前局に勝負を制した中村が8巡目に以下の牌姿。
ドラ
タンヤオ七対子ドラドラのテンパイ、中村は単騎のヤミテンを選択。
親の藤井のソウズ染め、南家、ケネスのマンズ染めを読んだ上での選択だと後に中村は語ったが・・・。
同巡、東家、藤井
ドラ
ここからをポンして打、その後をチーして打、そのを南家、ケネスがポン。
すぐに中村がをつかみ、藤井に5,800の放銃となった。
藤井
チー ポン ロン ドラ
南2局1本場
4巡目に北家、東谷が、以下の形から親の藤井のをポン、打。
ドラ
すぐにドラのをひいてくるが、東谷はここで打。
あえて役牌を場に打ち出さないことで主導権をとりにいく。
その後、も仕掛けることができた東谷に逆らう者はいないように見えたが、12巡目に藤井が切りリーチ。
リーチ
をツモれば6,000オールの本手である。
しかし、同巡に東谷も藤井のあたり牌のを引きいれる
ポン ポン ドラ
このヤマ越しのテンパイ。
お互いに12,000点の本手同士、東谷も一歩も退かない。
結果はこの半荘初の流局となった。
南2局2本場
7巡目に南家、ケネスがリーチ。
ドラ リーチ
西家、中村も
ドラ
この勝負手1シャンテンでぶつける気満点も、すでにテンパイを入れていた北家、東谷が藤井からをアガる。
東谷
チー 加カン ロン ドラ
6,400は7,000点のアガリ。
南3局、ケネスの親は700・1,300であっさり流れる。
南4局3本場
中村が本場を積んだところで、西家、藤井がリーチ。
ドラ
これに安牌に窮した東谷が飛び込み、2回戦はケネスの1人沈みの結果となった。
道中、トップ走者のケネスを苦しませることに終始した3人。
半荘終了後、ケネスが「長かった」と息を吐くようにつぶやいた。
2回戦成績
中村+21.8P 東谷+12.1P 藤井+5.5P ケネス▲39.4P
2回戦終了時
中村+148.0P ケネス+140.8P 東谷+133.2P 藤井+2.4P
2半荘連続1着の中村がついにケネスの尻尾をつかみ首位に躍り出る。ケネスは貯金を吐き出し追いかける立場となった。
——–3回戦(起家から東谷・中村・ケネス・藤井)———
東1局
東家、東谷が6巡目に以下の牌姿
ドラ
ここからのトイツ落としをして本手に向かう。
11巡目に
ドラ
このテンパイを果たしリーチ。
同巡、南家,中村に以下のテンパイ。
ドラ
打点こそ1,300であるが、河の情報からは待ちのはとても優秀に見える。
中村は追いかけリーチの判断に出た。が、中村の次のツモは。
東谷に11,600の放銃、結果は中村にとって最悪のものとなった。
一転、追いかける立場になった中村は攻めに転じる。
東1局1本場、9巡目に南家、中村
リーチ ドラ
しかし、リーチに対応した北家、藤井が素早く仕掛け
ポン ポン ツモ ドラ
1,300・2,600は1,400・2,700のアガリ。中村はまともにツモる機会すら与えてもらえない。
東2局、14巡目に南家、ケネス
ロン ドラ
見事な手牌変化のヤミテンで注文通り中村から3,900をアガる。
東4局、西家、中村がリーチ。
リーチ ドラ
しかし、すぐに中村の現物でテンパイを入れた親の藤井が東谷から5,800をアガる。
ロン
中村は苦しい状況が続く。
この後、3,900は4,500、1,300と2局連続でアガった中村、なんとか立て直そうと、この半荘、5本目のリーチ棒を出す。
南2局、東家、中村6巡目リーチ。
リーチ ドラ
しかし、同巡に北家、東谷
ドラ
ここからを引きいれ、中村の入り目筋のを切ってリーチ。
そして中村が次につかんだ牌は無情にも。東谷に7,700の放銃となった。
南3局、中村が意地を見せる。
リーチ ロン ドラ
すでに七対子のテンパイを果たしていた東家,ケネスから5,200のアガリをもぎとる。
ケネスはテンパイからのワンチャンスを追っての放銃。
この放銃で原点を割る26,700点となる。失った点棒以上に痛い放銃である。
南4局、今度はケネスが意地を見せる。12巡目。
ドラ
ドラ暗刻、ツモれば3,000・6,000のテンパイを入れる。
しかし、中村の仕掛けでテンパイを入れた東谷が14巡目にケネスからを打ち取り2,000点のアガリ。
ロン
ケネスにとっては2回戦に引き続き、沈みの手痛い3回戦となった。
3回戦成績
東谷+20.9P 藤井+12.6P ケネス▲9.3P 中村▲24.2P
3回戦終了時
東谷+154.1P ケネス+131.5P 中村+123.8P 藤井+15.0P
トップだった中村が沈み、最終半荘を残して東谷が逆転トップに立った。
しかし、2着との差は22.6P、3着との差は30.3P。
トップラスで16Pの差がつくことを考えれば、まったく気が抜けない点差である。
——–4回戦(起家からケネス・中村・藤井・東谷)——–
この半荘が最終半荘である。最終半荘はそれまでのトータルポイントで席順が決まる。
ケネス、中村はできるだけ早めに東谷をつかまえておきたいところだろうか。
東1局、最終戦の緊張の中、7巡目に北家、東谷。
ドラ
ここからをポンして打。
東谷のこの仕掛けが全員のツモをチグハグにする。
ケネスの手はまったく伸びず、七対子ドラドラ1シャンテンの中村も必死に戦うが牌が重ならない。
東谷の手も伸びなかったが、
ポン ドラ
このテンパイを終盤に入れ、大きい1人テンパイを得る。
次局も全員ノーテンの流局、その後1,600は2,200を中村がアガって迎えた東4局。
西家,中村にダブルリーチが入る。
リーチ ドラ
親は東谷、ツモっても出アガリでも、中村にとっては優勝へ大きく近づくアガリになる。
しかし、丁寧に丁寧に打ちまわしたケネスが10巡目に中村から1,300のアガリ。
ロン
南1局
まずは6巡目に親のケネスがテンパイし、ヤミテンに構える。
ドラ
10巡目に中村が仕掛けてすぐにテンパイ。
ポン
この仕掛けで藤井に手が入る。
11巡目
リーチ
同巡、ケネスもをひきこみ奇しくも同じ待ちでリーチ。
リーチ
勝負所、ケネスの牌を切る動作も自然と力が入る。
しかし、オリる東谷の手の中には吸収されていく。東谷の手の内に4枚、ケネスの手の内に3枚、あと1枚。
そして、ツモと発声したのは中村。ハイテイまぎわ、ヤマにいるを見事にツモりあげ300・500のツモアガリ。
南2局
親の中村がチャンタ三色を狙い一打逆転を狙うもツモが伸びない。
終盤にケネスのキー牌となるをつかみ、オリを選択。残り2局に賭けることになった。
残り2局、点数はケネス29,800点、中村32,0000点、東谷32,700点。
南3局
局を進めたい南家、東谷が積極的に役牌を仕掛ける。
この仕掛けで西家、ケネスが13巡目にテンパイ
ドラ
一瞬に手をかけるが、小考後を切り出す。狙いはタンピン三色、優勝しか見ていない。
このを北家、中村がチー。
ドラ
を切り出し、直前に東谷が切った単騎で3.900のアガリをとりにいく。
しかし、このが東家、藤井のメンホン12,000への放銃となった。
ロン ドラ
中村にとって優勝が厳しくなった瞬間であった。
南3局1本場
西家、ケネスに大きい手が入る。ケネスが2巡目に以下のテンパイ
ドラ
七対子ドラドラ6,400の単騎テンパイ、これを東谷からアガるかツモれば優勝が現実的に見えてくる。
東谷も黙っていない。6巡目、ケネスがツモ切ったを仕掛けて打。
ポン
そして、8巡目にドラ表示牌のをひきいれ待ちテンパイ。
10巡目、ケネスがをつかむ。ケネスの手が止まる。・・大長考。
東谷のテンパイ気配を感じているのだろうか。
しかし、七対子ならばはツモ切らねばならない。を使い切るならばトイトイへの変化を考えているのか・・・。
時計の針の音が聞こえるかのような空白の時間が経過した後、ケネスはをツモ切った。
東谷が手牌を倒す。瞬間、ケネスは天を仰いだ。
南4局
ケネスの条件は跳満ツモで優勝、中村の条件は跳満ツモで2着である。
中村の配牌
ドラ
いきなりの好配牌、しかし、跳満ツモ条件ではを暗刻にする必要がある。
だが、この手がまったく動きもしない。最後までテンパイせず。
一方、ケネスは苦しい配牌をノーミスで10巡目に七対子のテンパイ。
こちらも跳満ツモ条件のためドラを2回ひく必要がある。
それにしてもケネスは七対子が上手だ。
13巡目にケネスがをツモってくる、を切ってテンパイを壊すケネス。
15巡目のケネスのツモは待望の、四暗刻の1シャンテンとなった。
河から情報を得ようとするも難しい。ケネスの選択は切り。
17巡目、・・・有効牌をひかなかったケネスは静かに手を壊した。
・・・熱い戦いは幕を閉じた。
4回戦成績
藤井+15.8P 東谷+8.3P ケネス▲5.8P 中村▲18.3P
最終成績
東谷+162.4P ケネス+125.7P 中村+105.5P 藤井+30.8P
–
——-表彰式——–
特別昇級リーグは東谷達矢の優勝で幕を閉じた。
表彰式、喜びの東谷とは対照的な2人がいた。
後悔、反省、悔恨。雑多な感情の混ざった空気をまとった中にも、雪辱を期す決意のまなざしをもって東谷を祝福するケネス、中村の姿があった。
優勝した東谷はもちろん、肉薄したケネスと中村、最後まで貪欲に上を目指した藤井も含め、今後の活躍を予感させるには十分であった。
最後に、決勝を戦った4名からコメントをいただいた。
東谷「決勝が始まる前から紆余曲折ある4半荘になると思っていたけれど、実際にとても大変な4半荘になりました。優勝できたのはもちろん嬉しいですが、内容の濃い対局となり本当に良かったです。今後も精進し、また決勝の舞台に立てるようがんばります!!!」
ケネス「1回デカラスでも、まだ並び次第・・・と悠然に構えたことが敗因でした。決勝だけにもう少し危機感持てればよかったかも・・・。」
中村「2回戦終了時点で、一度トータル首位に立ったのですが、3回戦の東1局に東谷さんに打った11,600が痛かったです。勝負に行ったので後悔はしてないですが、その後、終始苦しい展開になってしまいました。来期も特昇権利を得ることができたので、今回の敗戦を糧にして頑張りたいと思います。」
藤井「3人に失礼のないように一生懸命に打とうと思って決勝に来ました。(もちろんひそかにキセキを願っておりました・・・)。次回はもっと優勝争いに参加できるようにがんばります!全員、本当に強かったです。」
最後に、この度、観戦記者として、特別昇級リーグ決勝戦に立ち会うこととなったが、記者の責務は決勝の熱い戦いを読者に届けることと考え、異例の長さの観戦記となったこと、主観的な解釈を多々加えたことを謝罪したい。
決勝を観戦し、強い意志をもって麻雀を打つ4者から麻雀の魅力を再確認させられることとなった。
決勝で素晴らしい闘牌を演出してくれた4名のプロ、このような機会を与えてくださった編集部、そして、愚筆につきあっていただいた読者に感謝の意を表して、締めくくらせていただく。
カテゴリ:特別昇級リーグ 決勝観戦記