第21期特別昇級リーグ 決勝レポート 清原継光
2017年02月08日
1月21日、日本プロ麻雀連盟の頂上を決める戦い、鳳凰位決定戦の初日が行われる。
同日、誰もが注目するその華やかな戦いの裏で、別の戦いの終幕が開けようとしていた。
特別昇級リーグ決勝戦、8節の長いリーグ戦の結末を決める最後の戦いである。
優勝者はB2リーグへ、準優勝はC1、3位はC2への昇級権利を得ることができる。
優勝にしか価値がないタイトル戦とは違い、1つでも上のジャンプアップを勝ち取るべくそれぞれが目的を軌道修正しながらの戦い。その戦いも大詰めを迎えていた。
その戦いを担う主役の紹介をしたい
・田代 航太郎 24期生 D2リーグ所属
連盟10年目。3年の休会時期を経てD3リーグから再スタートすること3年。一気にジャンプする機会を得た。
試合前の一言には「頑張ります」と応えてくれた。
・蒼山 秀佑 28期生 C2リーグ所属
広島出身。東京に出て上位リーガーとのセットによく参加していると耳にする。
蒼山はリーグ戦をマイナス成績で終えたため特昇権利はない。2位を守ることに価値がなく、優勝を目指した戦いになるだろう。
「次も特昇に出られるよう、優勝を狙います」
・犬見 武史 26期生 C3リーグ所属
中村慎吾、吉野敦志らと同じ世代で、よく一緒にいた印象。同期では中村慎吾が出世頭だが、ここを勝って中村に追いつきたいところか。
「いつも通り頑張ります」
・新谷 翔平 24期生 D1リーグ所属
九州から上京して3年、半年前の最強戦プロ予選でベスト8に残り、映像媒体での活躍もしている。同じ九州出身の樋口徹と仲が良く一緒にいた印象だが、その樋口が王位を獲った現在、内心は燃えるものがありそうだ。
「優勝は狙いますが、どこかで着狙いにシフトチェンジする必要もある。そこを見極めたい。全力を尽くしたいです。」
7節終了時成績
田代+193.4P
蒼山+147.8P
犬見+128.0P
新谷+107.9P
それぞれが思いと数字と目標を抱え、最後の4半壮に臨む。
その激闘の幕が上がった。
★1回戦(起家から、田代・蒼山・犬見・新谷)
・東2局
親の蒼山が11巡目にポンテン
ポン ドラ
高め11,600のドラドラの3面待ち。場にマンズも安くアガリは容易そうだが、そこに北家、田代が押し返す。
田代の手は単騎待ちのホンイツ七対子、田代の押しを見てを切った犬見は後退。
開始早々、局面が大きく動くと思われた。
しかし、ここは新谷がアガる。
ツモ
場の異常さに、役なしテンパイをヤミテンにした新谷が500・1,000をツモる。
東場は小場のまま局が進む。
・南1局
南入して局面が動く。
西家、犬見が9巡目に先制リーチ
リーチ ドラ
ここに親の田代がのワンチャンスでを切って7,700点の放銃。
田代は後に振り返る
「あのの放銃は中途半端でした。リーチを受けて、手が進んだのにまっすぐ攻めないで手を曲げての放銃。だけど、あの放銃で逆に気合が入った。」
・南3局
持ち点が40,000点を超え、気分のいい親の犬見が5巡目に先制リーチ
リーチ ドラ
すでにをポンしていた田代だったが、ここから負けじと迎え撃つ。
とリーチに無スジを叩き切ると、犬見が切ったをポンして跳満をツモ。
ポン ポン ツモ ドラ
2役ホンイツトイトイの3,000・6,000。田代の気合が実る。
オーラスは蒼山が新谷から3,900をアガるも原点に届かず。
好調の犬見がトップ、1回しかアガってない田代が浮きの2着をとった。
1回戦結果
犬見+14.5P 田代+8.6P 蒼山▲4.4P 新谷▲18.7P
1回戦終了時
田代+202.0P 蒼山+143.4P 犬見+142.5P 新谷+89.2P
★2回戦(起家から田代・新谷・蒼山・犬見)
・東1局
1回戦で上位と離された新谷にとってはこの2回戦は落とせない、積極的に攻めていく。
ドラ
9巡目にここからをポンすると、すぐにもポン。とツモり、仕掛けから無駄ツモなしにアガる。
ポン ポン ツモ ドラ
ホンイツドラ3の3,000・6,000のツモアガリ。反撃の狼煙を上げる。
さらに犬見が2,000オール、蒼山1,000オールとツモり、田代の親も2人で仕掛けて積極的に蹴りに行く。
トップを走る田代を沈めることができれば、犬見、蒼山にチャンスが大きくまわってくる。
犬見、蒼山はここで田代との距離を少しでも縮めたい。
・南3局
このままでいられない田代が10巡目にリーチ
リーチ ドラ
同巡の親、蒼山
この14枚に田代の現物は1枚もなし。長考の末に切ったのは、田代に3,900放銃となる。
蒼山にとっては痛恨、田代にとっては安堵の、明暗の分かれる一打となった。
オーラスを迎えて持ち点が
犬見31,200 田代30,000 新谷33,700 蒼山25,100
犬見、蒼山にとっては是非とも浮きたい、最低でも田代の原点は割りたい。そのような思惑で迎えたオーラス。
・南4局
西家、新谷が2巡目リーチ。このリーチには誰も立ち向かえない。放銃して原点を割るわけにはいかない田代はもちろん、放銃して田代を浮きのまま終わらせるわけにいかない蒼山も戦えない。
そして8巡目に新谷がツモ
ツモ ドラ
なんとドラを4枚使いのリーチツモドラ4。3,000・6,000。
このアガリで新谷は1人浮きを確保したが、犬見は親被りで田代と着順が入れ替わる結果となる。
田代との差を詰めたい思いで2回戦を戦ってきた犬見、蒼山であったが、田代との差を逆に離される結果となった。
2回戦結果
新谷+27.7P 田代▲4.0P 犬見▲7.8P 蒼山▲15.9P
2回戦終了時
田代+198.0P 犬見+134.7P 蒼山+127.5P 新谷+116.9P
★3回戦(起家から蒼山・新谷・田代・犬見)
新谷が蒼山、犬見に追いつき、2着、3着、4着は接戦。
田代以外の3人はまずはこの混戦から抜け出したい。
・東3局
新谷が8巡目リーチ
リーチ ドラ
同巡、蒼山が追いかけリーチ
リーチ
蒼山は先制テンパイも、雀頭を落としてテンパイを壊してドラ単騎にする手組み。田代を追いかけようとする強い意志を感じる手順だった。
親の田代の手にはドラのがトイツ、めくり合いとしては圧倒的に新谷が有利であったが、蒼山の意思に呼応するかのように、新谷がをつかむ。
蒼山、リーチドラドラの5,200点のアガリ。まずは蒼山が一歩抜け出る。
犬見、新谷も追撃したいが、3回戦目から方法を変えたように捌きに徹する田代がアガリ続け、なかなか抜け出せない。
田代は振り返る。
「3回戦目だからあのような打ち方をしたわけではなくて、本当は1回戦目から捌きたかったです。だけど重い手しか入らなくて・・。3回戦目から軽い手が入りだしたので積極的に仕掛けました。」
積極的に仕掛け、積極的にアガリ、半荘の半分を田代が進める。
・南3局
田代の親番、ここでツモって田代との差を縮めたい犬見、11巡目リーチ。
リーチ ドラ
対して、蒼山も同巡追いかけリーチ
リーチ
双生児のような2人のテンパイは、犬見が4をつかんで蒼山が3,900点のアガリ。
・南4局
犬見の親番、ここも田代が積極的に仕掛けて捌こうとする。
しかし、犬見もこのままではいられない。8巡目に犬見がリーチ。
リーチ ドラ
リーチピンフ一通の確定11,600リーチ。これをツモればまだチャンスはある。
しかし、10巡目に蒼山が追いかけリーチ
リーチ
蒼山も優勝のため、田代に追いつくため、勝負に出る。
田代への挑戦権を賭けた戦いは、すぐに犬見が三をつかみ決着がついた。
リーチイーペーコードラドラで8,000点のアガリ。蒼山、優勝に向けて一縷の望みをつなぐ。
3回戦結果
蒼山+24.4P 田代+9.3P 新谷▲9.8P 犬見▲23.9P
3回戦終了時
田代+207.3P 蒼山+151.9P 犬見+110.8P 新谷+107.1P
★最終戦(規定により起家から蒼山・犬見・新谷・田代)
優勝しか見てない蒼山は、田代と56P差、田代とトップラスを決めて4万点の差をつければよいと考えると、けして不可能な数字ではない。
犬見、新谷は昇級権利もあるため、2着、3着を目指した戦いにシフトしてもおかしくない。犬見、新谷が場をまわしてくれれば田代としてはありがたいか。
・東1局
まずは蒼山が10巡目に先制リーチを打つと一発ツモ
リーチ ツモ ドラ
リーチタンヤオツモドラの3,900オールと、いきなり条件の3分の1をクリアする。
このまま突き抜けたい蒼山だったが、次に飛び出たのは少しでも上の昇級を狙う新谷。
・東1局1本場
犬見
チー ポン ドラ
新谷
ポン ポン
犬見と2人で仕掛けて2人とも5,200点のテンパイ。このめくり合いを犬見からを打ちとりトータル3着に浮上する。
・東2局
しかし、4着に落ちた犬見はここから意地を見せる。
ポン ツモ ドラ
12巡目に4,000オールをツモると、粘って5本場まで積み38,000点持ちのトップ目におどり出る。
・東4局
田代は17,100点持ちのラス目、追いかける蒼山は33,000点持ちの2着目。
現時点でまだ40ポイントの差はあるが、並びができているのが田代にはやや不安材料か。
親番の田代も必死に粘り、2本場を積んで2巡目先制リーチ。
リーチ ドラ
打点は安いものの、この親番でラスは抜けたいのが田代の心情か、浮きまでとれればほぼ安泰だろう。
しかし、蒼山がひたすら粘って13巡目
このテンパイで田代からを打ちとる。1,300は1,900。
蒼山にとってはとても大きいアガリ。追撃の手を上げる。
・南1局
蒼山は言う。
「東4局で田代さんのリーチを蹴れた感触はとても良かった。そして親番で次の配牌を見たらドラがトイツ。ここだと思った。」
その蒼山の親番、4巡目
ドラ
蒼山はここからを切る
「できるだけ早くリーチを打ちたかった。ツモで切りリーチ、ツモでもカンでリーチを打つつもりだった。」
マンズの場況はけして悪くない、むしろ良いと言えるだろう。
しかし、蒼山の序盤のツモにはマンズがなく、河にはピンズが並ぶ結果に。
7巡目新谷がリーチ
リーチ
新谷も場況の良いマンズに合わせてリーチを打つ。退くことに意味がない蒼山も激しく立ち向かう。
13巡目、田代
この1シャンテンにをひいてきた田代は静かにを河に置く。
蒼山は言う「田代さんのでテンパイは分かりました。でも、自分も退くわけにはいかないので。」
同巡に蒼山がツモってきたのは
退く選択肢を消去した蒼山にとって切る牌はかしかない。そして蒼山が選んだのは田代への高め放銃となる。
ピンフ三色ドラで7,700。田代と蒼山の空気が弛緩する。これで勝負あり。
トータル3着には新谷を抑えて犬見がすべりこんだ。
最終戦結果
犬見+19.6P 新谷▲1.8P 田代▲4.0P 蒼山▲14.8P
最終戦終了時
田代+203.3P 蒼山+137.1P 犬見+130.4P 新谷+105.3P
特別昇級リーグは田代の優勝で幕を閉じた。
終わってみればあまり点差は変わってないが、その内容は二転三転ある激しいものであった。
新谷
「最終戦の東2局、犬見さんにドラ暗刻をツモられた局に自分にアガリ逃しがあったので、そこが悔やまれます。仲の良い樋口徹とずっと一緒に昇級してきて、その樋口が王位を獲ってC1に上がるので、自分もC1に上がりたかった。途中から2位を意識した戦いにチェンジしたけど・・・。WRCなどが残ってるので、そこで活躍して、次また特昇権利を得てこの舞台に帰ってきます。」
犬見
「C2昇級できたんで頑張ります。」
蒼山
「最初なかなかアガれなくて・・最終戦の南場の親番はここだと思ったんですけど・・。田代さんが強かったです。勝ちたかったです。」
田代
「優勝させていただいたので、皆のためにもB2を戦って上に行き、特昇の価値を高めていきたいです。」
優勝した田代は、プロになった1年目にチャンピオンズリーグの決勝に残り、それ以来の特別昇級リーグ参戦だという。その後は、内川、増田らと共に連盟道場で勤務して腕を磨いていたそうだ。そして3年の休会、紆余曲折を経て、またこの舞台に舞い戻った。
連盟に入会した当時は21歳であり、現在は31歳になったと言う。
コメントを求めた時にまっさきに漏らした「長かった」という言葉は、田代にとって嘘偽らざるものであるだろう。
甘美と辛苦の双方を経て、人生の年月と共に麻雀の年月を刻み込んだ打ち手が、華やかな舞台の裏で、登竜門を駆け上がった。
カテゴリ:特別昇級リーグ 決勝観戦記