第30期特別昇級リーグ最終節レポート
2021年08月06日
【第30期特別昇級リーグ最終節、開局から親の国士無双】
今期の特別昇級リーグは、Dリーグ昇級者の中での出場権利が与えられる人数が増えたことや、若獅子戦の決勝進出者にも出場権利が与えられ、大幅に増えた30名での開催になった。
最終節まで駒を進めたのは、次の5名。
蒼木翔子(C3)、渋谷菜瑠美(D2)、津村憲一(D2)、中村文哉(E)、白銀紗希(D2)
(写真の左から。カッコ内はプロリーグの所属リーグ)
また、7節までの成績は、以下の表の通りである。
優勝はB2リーグ、2位はC1リーグ、3位はC2リーグに特別昇級の権利が与えられる。
(※ ただし、プロリーグを5節終了時にプラスで終えること)
余談ではあるが、僕がレポートを書くにあたり、こういった試合展開になりそうだから、こういう構成で書こうか、と考えて臨むことが多い。
今回で言えば、津村が抜けてしまっているため、2位争いが焦点。
ただ蒼木以外は3位にも大きな価値があり、序盤で脱落しないように控えめになるのでは?(※蒼木はプロリーグでC2に昇級しそうだから)
攻めの強い蒼木が、その心理をついて初戦に大きめのトップを取るようなら…
ロン
『48,000。』
開局に中村の国士無双。放銃は白銀。
ついさっきまで考えていた構成は、まったくの白紙となってしまった。
いや、僕なんかより各選手のプランの方が大崩れだろう。
試合後のコメントで、蒼木はこの局を振り返り、語ってくれた。
「私は、2位以上の入賞が目標でした。2位スタートでしたが、1位とは104.7P離れており、3位、4位とも僅差で1回戦目が正念場だと思い対局に臨みました。1回戦目の東1局、親の中村プロは国士無双を狙ってるような捨て牌。私は、完全1シャンテンから役なしリャンメンをテンパイしリーチをかけました。親の国士無双を蹴るんだ、と強気のリーチを打ちました。もし、国士無双に放銃したら入賞争いから脱落するリスクもあります。それを承知でリーチを打ちました。その後、終盤に差し掛かり中村プロから、強い牌を押し返された時、私は何故かリーチを打った事を後悔しました。後悔してしまったんです。それが敗因だと思います自分のアガリを信じてリーチを打ったはずなのに、後悔している自分がいました。気持ちの弱さが出た1局でした。そこからは、気持ちで負けていたようにも感じます。」
参加30名の中で、蒼木が一番押しの強い攻めをすると僕は思うのだが、強気の中に色々な葛藤が隠されていることがうかがえ、非常に興味深い。
なお、放銃した白銀は「終わった」と思ったそうだ。
しかし、手牌に恵まれたのが幸いし、この半荘を3着まで回復して終える。
1回戦成績
中村+56.3P、渋谷+6.3P、白銀▲25.1P、蒼木▲37.5P、抜け番津村
1回戦終了時のトータル
津村+255.3P、中村+193.5P、白銀+113.6P、蒼木+113.1P、渋谷+99.7P
100ポイントのリードがあった津村だが、中村が60ポイントまで迫ってきた。
優位に変わりはないが、逆転も現実的なポイント差である。
抜け番中の心境はどうだっただろう。
その津村の入りは、この形から1枚目のはスルー。そして、を引き入れてリーチ。
(親は白銀、津村は北家)
ドラ
このリーチは実らなかったが、落ち着いているように見える。
東2局、1回戦の勢いのままに中村が4,000オールのツモアガリ。
リーチ ツモ ドラ
この時点の順位点を入れると、津村との差は30ポイントを切ってきた。
早くも逆転してしまうのか?
それでも津村は動じなかった。
津村「焦りはなかったですね。正直よほどの事がない限りはあのポイント差は捲られないと思っていたので。」
東4局の親番、ドラ2の手牌だけに、リーチをする打ち手も多いが、落ち着いたテンパイ外し。
打 ドラ
リーチ ロン ドラ
逆に慌ててしまったのは、中村の方かもしれない。
直撃が取れるチャンスと押し返すも、11,600点の放銃になってしまった。
中村は対局後、こうコメントしてくれた。
「1回戦で国士無双をアガったため、1位通過を目指して2回戦で前のめりに打ちすぎてしまったのが敗因でした。無難に打っていれば2位は堅かったと思います。反省しつつ、C2リーグへの特昇権利はいただけたので、リーグ戦をプラスして終えたいです。」
中村の麻雀を見たのは、先日の若獅子戦と、今期の特別昇級リーグの数回ではあるが、回を重ねるごとに成長が見られ、楽しみな選手の1人だった。
リーグ戦を5段階スキップできればとても大きい。最終節に期待したい。
この2回戦に話を戻すと、白銀が南場の親番で11,600点を連発。(両方とも中村から)
大きなトップを取り、国士無双の負債を完済。
渋谷もオーラスにこのアガリを決め、2位&3位争いに踏みとどまる。
リーチ ツモ ドラ
2回戦成績
白銀+26.3P、渋谷+11.1P、津村▲4.6P、中村▲32.8P、抜け番蒼木
2回戦終了時のトータル
津村+250.7P、中村+160.7P、白銀+139.9P、蒼木+113.1P、渋谷+110.8P
3回戦は、南場に入って2万点持ちのラス目だった蒼木に見せ場。
南2局、親津村のリーチに押し切って、チンイツの8,000。
南3局、親渋谷のリーチに押し切って、ダブ南、發、ホンイツ、トイトイの12,000。
南4局、終盤にシャンポン待ちのドラをツモって、3,900オール。
と3局連続の高打点。
蒼木のトップで2位から4位が横並びに。
3回戦成績
蒼木+31.4P、渋谷+7.1P、中村▲13.8P、津村▲24.7P、抜け番白銀
3回戦終了時のトータル
津村+226.0P、中村+146.9P、蒼木+144.5P、白銀+139.9P、渋谷+117.9P
4回戦、先行したのはイーペーコー、ドラ2をアガった渋谷。
最終戦が抜け番のため、この半荘のトップをとって、トータル3位以内には入っておきたいところだった。
しかし、東4局、先制でリーチを打つも、親の白銀に追いつかれ、追い越される。
(リーチ、ツモ、中の2,600オール)
リーチ ツモ ドラ
渋谷「今回は残念な結果となってしまいましたが、上位リーグの方々と対戦できたことはいい経験になりました。この約半年間で、自分の麻雀が随分変わったと思います。そして上位リーグの人もいる中で自分が決勝まで残れたことは自信にも繋がりましたし、改善すべき点も見えてきました。また来期以降に出場できるよう頑張りたいと思います。」
今日はオール2着。
派手に点棒が飛び交う中、大きな放銃を避ける丁寧さが見て取れる。
7節目までも大きな負けはなく、着実にスコアを積み上げられたのは自信となっただろう。
この戦いをキッカケにして、トントン拍子に昇級していくと思う。
4回戦成績
白銀+14.1P、渋谷+5.2P、津村▲4.9P、蒼木▲14.4P、抜け番中村
4回戦終了時のトータル
津村+221.1P、白銀+154.0P、中村+146.9P、蒼木+130.1P、渋谷+123.1P
国士無双を放銃するも、その後2連勝でトータル2着になった白銀と、一時は3位を90ポイント以上離すリードを得るも、ラス、3着でアドバンテージがなくなった中村、最終戦、ほぼ着順勝負のポイント差しかないが、勢いの差はやはり歴然だったようだ。
白銀「親の中村くんに国士無双を放銃という最悪のスタートでしたが、手が入っていたこともあって、引きずることなくしっかり戦えました。プロ9年目で初めての特昇リーグで2位になることができて本当に嬉しいです。48,000点失って、吹っ切れたようです…笑 親役満打っても何とかなることもある!ということも学べて、ポジティブになれました!この特昇権利を無駄にしないように頑張ります!」
東4局、ドラを重ねてテンパイした白銀が中村を直撃。
ロン ドラ
タンヤオ、ドラ2、5,200。これで大勢は決した。
優勝 津村憲一
2位 白銀紗希
3位 中村文哉
津村「2位以下と100ポイント以上離れていたので、正直来週のリーグ戦で約60ポイント叩くことで(頭が)いっぱいでしたが、(今日は)弱気な麻雀はせずにある程度攻めた麻雀を打とうとはしていました。もうすぐプロになってから3年目に入りますが、2年でここまで戦えたのでとりあえずは順調かなとは思っています。この後、鸞和戦、新人王戦、最強戦本戦と続いて行くのでこれを活かして勝ち上がって行きたいと思います。まずは来週のリーグ戦、目指せ60ポイントです。正直、特昇8節で国士無双2発、四暗刻単騎1発アガっていて勝てないようじゃ俺は持ってないなと思って、今後の進退考えるところでした。(笑)」
役満の恩恵はあったにせよ、7節までで250ポイント。自力は十分にある。
2年目とは思えない落ち着きと、どっしりと打点をみた手組み、リーチの判断も理に適っていることが多い。
公式ルールの60ポイントは簡単な数字ではなく、多少は手牌に恵まれないと難しいと思うが、可能性は大いにあると思う。達成に期待したい。
(文:福光聖雄)
カテゴリ:特別昇級リーグ 決勝観戦記