インターネット麻雀日本選手権2016観戦記 櫻井 秀樹
2016年08月18日
2016年7月23日
夏目坂スタジオに入ると、和やかな雰囲気で生放送のリハーサルが行われていた。
ん?見慣れぬ出演者がお二人ほど。
そう、本日はインターネット麻雀日本選手権2016の決勝戦。
一般のユーザーさんからも2名、決勝にコマを進めている。
Kaz-kunさん (以下kazさん)
ロン2から勝ち上がってきたユーザーさんで、メンゼンリーチを中心に手を進める王道の麻雀。
親番でのリーチ構成で厳しいユーザー予選を勝ち抜く。
Z512007さん (以下Zさん)
ハンゲーム麻雀4から勝ち上がり。4人の中では一番年輩だが、麻雀は若く現代風。
型に囚われない鋭い鳴きで主導権を掴み、対戦相手に自由に打たせない。
圧倒的な手数の多さで同じく予選、トーナメントと勝ち進む。
そしてプロからも2名が勝ち抜いた。
山井弘
ご存じ「世界の山井」こと、第1回リーチ麻雀世界選手権(WRC)優勝という輝かしい実績を持つ。
テレビ対局でも活躍著しく、間違いなくプロ連盟を背負ってたつ選手の1人である。
しかし、連盟内での公式戦はここ数年やや不調か。なんとかこのチャンスをものにしたい。
白鳥翔
春にマスターズを連覇したのは記憶に新しい。同じくテレビ対局でも活躍著しく、今最もノッている選手と言える。
奇しくもプロ2名対ユーザー2名の図式になったが、ここまで勝ち残っている以上、ユーザーの2人もプロ並みの技量、そして勝ち残りの困難さから考えると白鳥以上の勢いもありそうだ。
さあ、今年のネット麻雀最強を決める戦いが始まる。
【1回戦】 起家から 山井 白鳥 Z kaz
5回勝負のワンデーマッチなので、1回戦の入りは非常に重要。
この辺りは決勝や映像対局経験豊富なプロ2名が有利か?
東1局、7巡目の白鳥の手牌
ツモ ドラ
絶好の手変わりで確定の三色、人それぞれ、初っ端の入り方はあると思うが、白鳥は丁寧にヤミテンを選択。結果ツモアガリとなったが、上出来な入りと感じたのではないだろうか。
kazさんは4巡目にのポンテンをとらず。ゆったり打つ構えであったのか、それとも声が出なかった(クリックできなかった)のか。
東3局、を暗カンしていた西家・山井が迷わない入り目でリーチ。
暗カン リーチ ドラ
しかし勝負手で追いついた、北家・白鳥の追いかけリーチに一発で飛び込み満貫の放銃。
リーチ 一発ロン ドラ 裏
やはり勢いは白鳥か?ところが次局、山井が妙手を打つ。
東4局、南家・山井が5巡目にしてドラのペンを引き込みピンフテンパイ。
ツモ ドラ
リーチかと思いきや、固くヤミテン。見事、三色へ手変わりしたところで、高目をkazさんから出アガリ。
ロン
このルール(一発、裏ドラあり)ではピンフドラ1は余程の局面でない限りリーチがセオリー。
ましてや入り目が、前巡8,000を放銃しているところなら喜んでリーチを打ってしまいそうだ。
だが、山井はネット麻雀というフィールドでも自信の信条を貫く。
自分の不調を感じ、ここは1回しっかりとアガることに重きを置いたのである。
おそらく満貫は偶然とういか望外の結果であったはずだ。
即リーチを打っていたら結果は分からないが、もし再度空ぶっていたら、山井はこの半荘浮上は無かったように思える。
そして残り4回戦で、果たして立て直せていただろうか?1回戦ながら、ここが勝負の分岐だったかもしれない。
南2局も、好調な白鳥の親を警戒してヤミテンで満貫をアガった山井は、独壇場の白鳥についていきしっかり2着でこの半荘を終えた。
そして気になったのはユーザーの2名。Kazさんは東1局のポンテンとらず、そしてZさんも南1局でチンイツのポンテンをスルーし、結果的にはアガリを逃した可能性が高い。
2人ともに何もできず1回戦が過ぎてしまった感じだ。
元来じっくり構えるタイプの打ち手ならば問題は無いのだろうが、緊張からの事であれば相当なビハインドである。
早く対局に入り込み、各々の個性を存分に出しきってもらいたい。
1回戦終了時
白鳥 +37.9P
山井 +9.0P
kazu ▲17.4P
Z ▲29.5P
【2回戦】起家から kaz 山井 白鳥 Z
1回戦3、4着2人は経験豊富なプロ側に走られると厳しい。
2回戦、緊張が解けたのかようやくZさんが「らしさ」を発揮しだす。
東1局、北家・Zさん
チー ツモ ドラ
東の後付けで500・1,000を引きアガると、
東2局、西家・Zさん
リーチ ロン ドラ 裏
東3局、南家・Zさん
チー ポン ロン ドラ
東4局、東家・Zさん
リーチ ロン ドラ 裏
なんと4局連続でアガリをものにする。打点に拘らず手数で勝負し、自分のペースに持ち込む、Zさんの本来の雀風である。
このままでは一人置いていかれてしまう、と南場はkaz さんも奮起。
南2局、1回戦ではうてなかったピンフドラ1のリーチをうつ。
ロン ドラ 裏
こちらも緊張が解け、勝負に入り込めてきたか?
続く南3局でも1,300・2,600をツモアガリ。
ポン ツモ ドラ
2着も見えてきた。
オーラス南4局、またもやZさんが「らしい」仕掛けで、とポンして牽制。
実際はの後付けの4,800点なのだが、これに手牌読みを入れてしまったkazさんが飛び込み再びラス目に。
南4局2本場、3人が2,400点差の大接戦。西家・山井の早いリーチに、12巡目、南家kazさんの手牌。
ツモ ドラ
は自身で通したのスジ。早いリーチだけに打ち易くもあったのだが、は既に3枚見えており打としテンパイを外した。
ところが、次巡のツモはなんと。2着浮上の細い道であった。
当然と言えば当然の選択で、責める事は出来ない。しかし、テンパイを組みなおしたとしてもが打てないので、難しいがテンパイを取っておくほうが若干有利であったか。
麻雀とはそういうものか。kazさんのアガリ逃しの同巡、山井が2,000・4,000をツモリあげ、またもや2着へ滑り込んだ。
2回戦結果
Z +21.4P
山井 +9.2P
白鳥 ▲10.1P
kaz ▲20.5P
2回戦終了時トータル
白鳥 +27.8P
山井 +18.2P
Z +4.0P
kaz ▲50.0P
【3回戦】起家から 山井 kaz Z 白鳥
東1局から各自が激しくぶつかる。東1局、親・山井。
まずは一人マイナスを背負い、あとの無いkazさんが9巡目にピンフのみをリーチ。
リーチ ドラ
手変わりが無いとはいえ、これまでの打ち方をみていると、普段のkuzさんはうたないリ―チかもしれない。
展開が悪い局数が減るにつれてドンドン選択肢は狭まれていく。ここに早々に仕掛けを入れていたZさん、
チー ツモ
ここにをツモると無筋の打、さらには出るもないて、無筋のと押していく。
お互いアガリのないまま15巡目にドラのをツモったZさんがフリテンのシャンポンに受けかえ。
受け気味に進めていた白鳥も次巡のをチーして形式テンパイ。山井を1人ノ―テンにさせたい狙いか。
ところが形を崩さず粘っていた親・山井に苦しいながらも残りツモ1回のところでテンパイが入る。
ツモ
は比較的通りやすそうな牌なのでテンパイをとって連荘狙いだろう。ところが山井の選択はなんとリーチ!一発とハイテイを狙った。
結果は、白鳥の食い変えで一発ハイテイは消えるが、を見事ツモリあげ2,600オール。
ついに白鳥を捕えた。
これでこの半荘は山井のものかと思ったが、ここからまたもZさんの自在な仕掛けが光る。
東3局、親・Zさん
ドラ
この牌姿からをポン。たしかに0メンツが1メンツにはなるが、なかなか声の出なさそうなポンだ。
しかし、とツモって
ポン
この11,600点を、ホンイツで形になっていたkazさんから出アガリ。
さらに、南2局では、9巡目にをでリャンメンチー。ドラは。すぐにオヤのkazさんからの出アガリ。
これがなんとからのチーで、7700点。
チー ロン ドラ
迎えたオヤ番では今度はドラ暗刻のリーチ。勝負形になったライバル山井から打ちとり、大トップ。
オーラスでもしっかり仕掛け、白鳥をラスに落とし、Zさんがトータルでもトップ目に立った。
3回戦結果
Z +46.7P
山井 +10.6P
白鳥 ▲23.3P
kaz ▲34.0P
3回戦終了時トータル
Z +50.7P
山井 +28.8P
白鳥 +4.5P
kaz ▲84.0 P
【4回戦】起家から 白鳥 kaz 山井 Z
東2局、親・kazさん、このままでは終われない!Kazさんがようやくオヤで連荘の得意パターンに持ち込む。
リーチ ツモ ドラ 裏
4,000オール。
チー ポン ツモ ドラ
2,000は2,100オール
リーチ ロン ドラ 裏
2,000は2,600(+1,000)
打点とのバランスで、しっかりアガれる手を作り攻める。
おそらくトーナメントでも大きなトップを取る事で、試合を有利に進め勝ち続けてきたのだろう。
序戦からこのリズムに乗れていれば、の感はあるが、順位点がそこまで大きく無いルールの為、まだまだ可能性はある。
しかし3人も崩れることなくしっかり最善の手を打ち続けた。
オーラス、またも山井が難しいマチ取りをしっかりとらえて、三度目となるオーラスでの2着浮上。
北家・山井
ツモ ドラ
最終戦、着順勝負に持ち込んだ。
4回戦結果
kaz +28.3P
山井 +3.4P
Z ▲9.6P
白鳥 ▲22.1P
【5回戦】起家から 白鳥 kaz 山井 Z
最終戦開始時トータル
Z +41.1P
山井 +32.2P
白鳥 ▲28.3P
kaz ▲45.0P
1着順の順位点が10,000点の為、Zさん、山井は着順が上の方が優勝。白鳥、kazさんは自身の大きなトップに加え、並びも必要となる。もちろん、可能性が無くなるまで諦めるわけにはいかない。
起家の白鳥、粘って連荘。持ち点を37,600点とし、小さいながらトップ目に立つ。
まだまだ余裕のあるZさん、山井は焦らずお互いの着順を気にするだけでよかったのだが、手数を多くし自ら局を進める選択をしたZさんが東家・kazさんへ 5,800点放銃。
ポン チー ポン ロン ドラ
そして北家・白鳥へ7,700点と連続放銃。
ポン ロン ドラ
持ち点を15,900点とし南入。山井との差は▲7,500点。
ところが、南2局わずか5巡のテンパイ。
ロン ドラ
ここはしっかりとヤミテンを選択。3者の心を折る、大きな大きなアガリ。
不幸な放銃は白鳥。ここでわずかな逆転の可能性も潰える。
マスターズ連覇前後から、白鳥の麻雀は大きな変動を見せた。持ち前の的確な状況判断、読みの精度に加えて、勝負所を見極める大局感が素晴らしく全くスキの無い打ち手になっていった。
本決勝でも、その実力を見せつつも、最後一つ牌運に恵めれなかった局面が多かった。勝負事にタラレバはタブーだが、あそこでアガっていれば、白鳥の圧勝もありえただろう、そのような局が幾つかあった。
オーラス南4局、東家・Zさん 北家・山井
持ち点
Zさん26,200点 山井22,400点
親・Zさんと山井の差は3,800点差。
山井は700・1,300のツモアガリか、3,900点出アガリ(Zさんからなら2,000点)
若しくは山井の1人テンパイ、Zさんの1人ノーテンか。
運命のオーラス、15巡目、山井必死の形式テンパイ。
チー
ポン 打
この決勝の為に、全員の牌譜を何度も見返し、優勝ボーダーを予測し、1人イメージトレーニングを行ってきた。
決勝当日も、その気迫、集中は、周りに伝わるほど物凄いものだった。
昨年は、決勝に連盟員がいないという不甲斐ない結果。普段から、事務局に勤め、ロン2への愛情も大きい山井だけに昨年のはがゆさをどうしても自身の手で晴らしたかったのかもしれない。
「プロは結果も重要だが、魅せる麻雀、自分らしくいい麻雀を打っていきたい」
そう話す山井の気持ちの伝わる素晴らしい決勝戦であった。
山井が河に置いた最後の牌に声は掛からず、山井1人テンパイで終局。
インターナショナルの山井が、インターネットも制した瞬間であった。
オフェンスマスター山井弘
それは、どんな状況でも前に出て、無茶な勝負をし続ける事では決してない。
麻雀における闘いとは、耐えるべき局面では欲に駆られずしっかり耐え、闘う局面で臆病に負けずしっかり打ち抜く事。
そのような強靭な精神力が、山井の最大の武器であると思う。
来年のインターネット麻雀日本選手権2017、そしてディフェンディングで迎えるWRC。
きっとまた素晴らしい麻雀を見せてくれるに違いない。
カテゴリ:プロ雀士コラム